一章二話「新たな生活」(5)
結果から言えば、二人はかなりの報酬を手にすることになった。
ボスの目撃情報は度々報告されていたようで、二人が説明するまでもなくボスの首を見た途端、町長は二人に感謝し、これで被害は大きく減るだろうと喜んでいた。
リアが交渉するまでもなく高額の懸賞金が二人の手に渡され、それを持って二人は町長の自宅を後にした。
さすがにくたくたで、その日は宿屋に戻って休もうということになった二人。
そして翌日……
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「刀弥。似合ってるよ」
「……そうか?」
剣の代わりに刀をさし、ウエストバッグを腰に着けた刀弥の姿を見て、リアが嬉しそうに褒めてきた。
それがこそばゆくて、刀弥はつい視線を逸らしてしまう。
「そうだ。記念にオーシャルで撮ろうか」
「べ、別に、そこまでしなくてもいいだろ!?」
さすがにそれは恥ずかしい。
刀弥は遠慮しようとするが、リアはそんな彼を無視して首元からオーシャルを取り出す。
「それじゃあ、撮るよ」
「だから、いいって」
「どうして? せっかくのスタートなんだから記念に撮ろうよ」
「スタート……」
その言葉を聞いて刀弥は考え込んだ。
無限世界に来たのは一昨日。
だが、旅の本当の意味でのスタートとなると、まさしく彼女の告げたとおり今日と言えるのかもしれない。
それはつまり……
――ようやく俺の新しい生活が始まるということだ。
これから先、何が起こるのかわからないが、良い事も悪い事も待っているのは確かだろう。
それでも自分が選んだ以上後悔はないし、これからも後悔のない選択をしていくつもりだ。
そんな風に彼は心の中で決心する。
「隙あり」
と、そのとき、思考に没頭していた刀弥の顔を見てリアがオーシャルを使用した。
「え?」
オーシャルが一瞬、点灯する。それが撮られた証だった。
「リア……」
「いいじゃん。記念、記念。中々いい顔してたし」
恨めし気に見る刀弥に、リアが笑顔を返す。
「それじゃあ、撮り終えたしゲートに行こっか?」
「……そうだな」
まだ、何か言い足りなさそうな刀弥だったが、結局何も言わずゲートのほうへと向かうことにするのだった。
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「…………」
刀弥は呆然とした面持ちでそれを見つめていた。
行き交う人、路上で物を売る行商。そして武器を持ち周辺を警戒する二種類の兵士。
それら人々の先に刀弥が見ているものがあった。
それは光の球体だった。
大きさとしては刀弥の身長の二倍ぐらいだろうか。それが一定の間隔で僅かに大きさを変えて脈動していた。
人々がその球体に触れると、その途端、人が光に分解され球体の中へ吸い込まれていく。
逆に球体から光が溢れ出たかと思うと、それが集まり人の形となる。
それは人だけに留まらず、馬車や魔具の乗り物でも同様だ。
「……あれが……ゲートか」
「うん、そう。あれで次の世界に行くの」
「……そういえば、次の世界ってどんなところなんだ? というか、どこに行こうとしているんだ?」
ここに来てようやく刀弥はリアがどこを目指しているのか、教えてもらっていないことに気が付いた。
「次の世界はファルセンっていう極寒の雪と山がほとんどを占めている世界。そこを通ってリアフォーネに行こうとしているの」
「極寒の雪と山がほとんどって……そんなところにも人が住んでるのか?」
そんな厳しい環境に人が暮らしているという事実に、刀弥は驚く。
「元々は無人の世界だったんだけど、鉱物資源が豊富に採掘されることがわかって、それ目当てに人が集まったの。今じゃ国が出来るまでの規模になってるよ」
「そういう歴史なのか」
「寒さを凌ぐために採掘で掘った穴を広げて、そこに町を作ってるって話だよ。掘った坑道が町と町を繋ぐ道にもなってるみたいだし……」
「へぇ……」
彼女の解説を聴いて、刀弥の好奇心が刺激される。自然と、どんなところなのか見てみたいという気持ちが芽生えてきた。
「あ、ちょっと待ってて」
と、説明している途中で何かに気が付いたのか、リアがそう言って路上で店を開いている行商のもとへと駆けていく。
しばらくして、彼女が戻ってきた。その手には二つのフード付きの外套が抱えられている。
「これ、さっきも言ったけど、この先は寒いからね。何も着ていないよりはマシでしょ?」
「ああ、悪い」
刀弥はそれを受け取り、自分の分のお金を彼女に渡す。
リアは遠慮する様子もなく、それを受け取った。
「それで、ゲートを渡るためには、まずはあそこで何かしらの検査を受ける必要があるってことか?」
彼が見つめる先、そこでは自分たちと同じくゲートを利用しようとする人たちが、兵士達から荷物検査やいくつかの質問を受けているところだった。
「そうだね。あっちの国だって入ってこられたら困る人や物もあるからね。そういうのをここで止めちゃうの」
なるほどと刀弥は納得する。
来て欲しくない物がある場合、一番いいのは入る前にそれを止めてしまうことだ。そうすれば実質的な被害が起こる前に確実に防ぐことができる。
――空港みたいなものだな。
一人そう考えて刀弥は頷いた。
「それじゃあ、俺たちもさっさと検査を済ませるか」
そうして二人は検査を受ける。
荷物はスペーサーも含めて検査するということなので、全て兵士たちに預けた。
身体検査を終え、荷物検査を待っている間に今度は別の兵士が二人に質問をしてくる。何の目的で渡るのか。どこを目指しているのか。
リアがリアフォーネに向かっている旨を伝えると、親切にもそこに向かうのに比較的安全なルートを教えてくれた。
それが終わるとタイミング良く荷物の検査も終わり、二人は荷物を受け取るとすぐさまその場を後にした。
荷物を確認して、なくし物がないのを確かめると二人は奥にあるゲートに向かって歩いて行く。
間近で見るとゲートは自分よりも遥かに大きく、光の鼓動を肌で感じることができた。
無意識に刀弥の足が止まってしまう。
周りの人々は何の躊躇いもなくゲートに触れるが、何分、刀弥にとっては始めてのことだ。
安全なのだろうか。事故は起こらないだろうか、何となしにそんな不安が込み上げてきてしまう。
と、そんなことを考えていると、不意に隣のほうから忍び笑いが聴こえてきた。
「……リア」
「いや、だってね。刀弥ったらゲートを見て不安そうな顔をしてるんだもん。それが可笑しくって……」
非難するような刀弥の視線にリアは笑い声を堪えたまま言い訳を返してくる。
しかし、そんな彼女を見て刀弥の中にあった不安はどこか彼方へと吹き飛んでしまった。
おかげで決心がついた。
「……よし、いいぞ。行こう」
「うん」
そうして二人はゲートに触れる。
触れた瞬間、刀弥は目の前が真っ白になったかと思うのと同時に体に浮遊感を感じた。それは以前、この世界に来たときに体感したものと同じ感じのものだ。
――やはり、あれもゲートだったということか。
そんなことを考えながら刀弥は次の世界へと渡るのだった……
二話終了
ようやく二話が完成しましたので投稿致しました。
一話一話をこんな感じの量で書いていきたいと思ってますので時間が掛かるとは思いますが、読んでくだされば幸いです。
がんばっていきますのでどうぞお楽しみください。
07/25
できる限り同一表現を修正。
14/10/04
一部の語句の勘違いがあったので修正。