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無限の世界  作者: 蒼風
短章四章~五章「立ち向かう心」
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短章四~五「立ち向かう心」(8)

 自分に向かって落ちてくる尾を刀弥は後ろへと飛ぶことでなんとか回避する。

 叩きつけられた衝撃で生まれた風が彼の身を吹き飛ばすが、彼はバランスをとって着地。すぐさま正面のグーバラを見据えた。

 そんなグーバラへルーゼスが射撃を見舞う。

 赤の銃弾の行先はグーバラの頭部。複数の爆発が起こり、それがグーバラにダメージを与えた。だがグーバラは怯む様子なくルーゼスへと迫る。

 が、それをウォードが許さない。

 彼はもたげた頭部と尾を支えている体の部分に走り寄ると、そのまま速度をのせパイルバンカーを打ち放った。

 衝撃音とと共にグーバラの体がピクリと反応する。

 そうしてからグーバラの頭がゆっくりとウォードの方へと向き直った。

 ウォードはグーバラの部位を足場に体の上へと登ろうとしている。そんなウォードへグーバラは口を開き喰らいつこうとした。

 けれども、そこへ刀弥の斬波が飛んでくる。

 斬波は正確に開いた口の中へと入り込むと今度はグーバラの口内を傷付けた。

 その痛みにグーバラは頭部を跳ねあげてしまう。

 一方、その間にもウォードはグーバラの上を疾走。ゴールである頭部の頂上を目指して走っていた。

 しかし、グーバラがエビ反りをし、そのまま背中から砂の上へと倒れようとしたことでその目論見は脆くも崩れ去る。

 急いでグーバラから飛び降りるウォード。だが、気のせいか落下速度が微妙に遅いことに刀弥は気が付いた。

 ウォードはというとそのまま難なく着地。まるで何事もなかったかのように再び走り始めるのであった。

 そんな彼を見てどういうことだという疑問を抱く刀弥。が事態はそれどころではなかった。

 背中を打ちつけたグーバラがその姿勢のまま頭から砂の中へと潜行しその姿を砂の中へと消してしまったのだ。


「ちっ、まずいな」


 舌打ちするウォード。その気持ちは刀弥も同じだった。

 砂の中に逃げられてしまったら彼らには手も足も出ない。つまり、これからグーバラが何をしようが彼らにはそれを妨害する手段がないのだ。


「文句を言ったところでどうしようもない。相手が出てきた所狙う。それしかないだろう」


 そんな二人にルーゼスが声を掛ける。起伏のない声。それは冷静というよりも感情がないような感じだった。

 彼の言う通り、今刀弥達にできることは待ちという行動だけだ。

 要は何もできないという事だだが、逆に言えば会話に意識を回せるチャンスでもある。

 そのため、刀弥はウォードに歩み寄り先程の事について聞いてみることにした。


「そういえばウォードさん。さっきグーバラから飛び降りる時、何かしました? 気のせいか落下の速度が遅かったように感じたんですが……」

「ああ、あれか。なあに、ちょっとした斬波の応用だ」


 刀弥の問いにウォードは笑みで応じる。


「なあに足の先から打撃系の斬波を拡散気味に出して射出直後に反転させただけだ。威力弱めで定期的にな。そうすれば落下を軽減してくれる力になってくれるという訳だ」

「……そんな動作してましたか?」


 記憶を遡っても特に何かをしていた記憶はない。

 すると、ウォードは声を上げて笑った後こう答えた。


「全身の力を筋肉と骨を使って伝わせ、それを足首を僅かに動かすことで放っていたからな」

「……それ神業じゃないですか?」


 少なくても並の技量の者にできるような芸当ではない。

 しかもその技は使いようによっては


「しかも、その理屈で行くとそれなりの威力があれば反転した斬波を足場にすることもできそうですよね」


 という用法も可能であることも意味していた。

 呆れ半分のジト目でウォードを見つめる刀弥。

 以前、刀弥は自分が放った斬波を足場にしたことがあった。あの時はそこまで斬波を制御できなかったので自分の進行方向先に斬波は先回りさせるという形をとったが、ウォードの言う領域まで制御ができるようになるといろいろと便利そうではある。


「まあな。でも、それなら反転と言わずその場に留めて置くほうがいいだろうな。知っている者の間じゃ『空地』と呼ばれている技だ」

「奥が深いですね」


 どうやら斬波は極めればいろいろな事ができるらしい。

 まだまだ自分は未熟だなとそんな事を刀弥は自覚してしまうのであった。


 と、そんな時だ。

 突然、足元が揺れ始めた。それに伴い地面の砂も僅かに動き出している。


「真下だ!! 走れ!!」


 叫ぶウォード。それを合図に刀弥達は走りだした。

 その直後、彼らの下の砂が盛り上がる。

 下り坂となった砂上を滑り落ちるように駆け下りる三人。

 そうしてその盛り上がった砂山の中からグーバラが飛び出してきた。


「危なかったな」


 そう言いながら冷や汗を拭うウォード。それに刀弥は無言で頷きを返す。

 飛び出してきたグーバラは再び砂の中に潜ったのか、既に周囲に姿はない。


「潜行からの襲撃を繰り返すつもりか?」


 もしそうだったらまずいなと刀弥は内心で焦る。

 先程も言ったように砂の中にいる限り、刀弥達はグーバラに手を出すことができないのだ。

 そうなると狙えるのは攻撃の瞬間、砂中から飛び出した体を狙うしかない。


「ウォードさん!!」

「わかっとる!! ルーゼス。散るぞ!!」

「……わかった」


 刀弥の叫び。その内容をすぐさま理解したウォードはルーゼスに声を掛け、三人は三方に散った。

 彼らが狙っているのは三人の内誰かを狙った瞬間、他の二人が攻撃を仕掛けるという手法だ。故に彼らは互いの距離を離すために三方に散ったのだ。

 そうして三人の距離が十分開いたところで動きがあった。グーバラの最初の狙いはウォード。グーバラは真下ではなく真正面から飛び出し、開いた下顎でウォードをすくい上げようとする。

 それに対してウォードは回避を選択。砂上にパイルバンカーを叩きつけるとその反動と同時にジャンプをし一気に上へと逃れた。

 一方、それに合わせて刀弥とルーゼスはそれぞれの攻撃を放つ。

 斬波とガトリング。双方の狙う先はグーバラの横ビレだ。

 長い体の横から生えるよう付いたそれは見た目からして体よりも脆そうだった。そのためそこなら十分なダメージを与えられると判断しのだ。

 けれども、その予想は外れていた。

 攻撃は当たったものの横ビレは傷付くことなくいつもの状態を見せていたのだ。


「駄目だったか」


 悔しさこぼす刀弥。しかし、攻撃を受けたことでグーバラは停止していた。

 そうしてグーバラは攻撃を放った二人の方へと向き直るために旋回を開始する。

 と、その時だ。グーバラの頭上よりウォードが落ちてきた。

 構えは既にとられている。頭から足という縦の軸を地面と平行にし、その上で右腕を大きく引いた構え。恐らく反時計回りに体を回して腕を振り下ろすことで強大な一撃を狙っているのだろう。狙う先はグーバラの頭部。落下エネルギーも相まって強烈な攻撃になりそうだ。

 気になるのはその際の反動だが、ウォードぐらいの実力者ならそれを逃がす術も心得ているのだろう。

 そうこうしているうちにウォードの身がグーバラに接近する。

 両者の交差は一瞬、それをもってウォードはグーバラの頭部に己の必殺を叩き込んだ。

 轟音が響き巨体が砂上に叩き伏せられる。その衝撃で砂埃が舞い上がり、それが隠すように両者を飲み込んだ。

 それを見て刀弥は新たなフォローのために走りだす。行く先は砂埃の向こう側。

 視界が悪ければ援護のしようがない。それ故の選択だ。

 しかし、その必要性は突然砂煙が晴れたことでなくなってしまった。

 原因はグーバラだ。奴が尾を鞭のように振り回すことで風を発生させ砂埃を吹き飛ばしたのだ。


「!? ウォードは?」


 気がつけばグーバラの傍にいるはずのウォードの姿はない。

 どこだと刀弥が周囲を見回していた、その時だ。右後方よりドサリというなにか大きなものが落ちたような音が聞こえてきた。

 音に反応して刀弥は振り返る。

 すると、そこには仰向けに倒れたウォードの姿があった。

 どうやら尾の攻撃を受けて吹き飛ばされたらしい。生きているようなので直撃はもらっていないのだろうが、起き上がる様子がない。恐らく攻撃を受けた直後に気を失ったのだろう。

 とりあえず無事であることに安堵する刀弥。だがしかし、その安堵は後ろから聞こえてくる砂をかき分ける音によって打ち消されてしまった。

 再び前へと向き直るとそこには砂の海を泳ぐグーバラの姿がある。狙いは恐らく気絶したウォード。

 まずい。そう焦る刀弥。

 ウォードは現在気を失った状態だ。当然、グーバラの体当たりを避けることなどできるはずもない。

 そうなれば自然と結果はグーバラがウォードを吹き飛ばすという絶望的な光景だけだ。


 自然と体がグーバラへと向けて動いていた。

 恐怖はある。けれども、それ以上にグーバラの注意を自分の方に向けなければという切迫した思いのほうが強かった。

 策はまだない。しかし、やってみせるという強い意志は確かに心の中にあった。

 前方にはこちらへと近づいてくるグーバラの姿。

 刀を握り直す。握りの位置が悪かったわけではなく、どちらかといえば気持ちを引き締め直すために行った行動だ。だが。おかげで焦りは収まり落ち着くことができた。

 深呼吸をする。息を吐くと同時に体の緊張がほぐれていき、それが己の冷静さを取り戻す切っ掛けとなった。

 目の前にいるのは巨大な存在だ。それを自覚し、けれどもそれに対して不安を抱くなと己を叱咤する。

 必要なのは過信でもなければ謙虚でもない。正確な己と相手の情報だ。それが今後の結果を左右するのを刀弥は確信していた。

 気が付くとルーゼスがガトリングを放っている。恐らくグーバラの意識を自分に向けようとしているのだろう。

 しかし、グーバラにとって気にするほどのダメージがないせいか彼の方へと見向きすることすらしなかった。

 それでも構わず刀弥は正面、巨大な敵へと向かって駆けていく。

 既にグーバラは目前まで迫っている。

 そうして刀弥とグーバラの戦いが幕をきったのだった。

思いの外、短章が長丁場になりましたね……


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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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