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無限の世界  作者: 蒼風
短章四章~五章「立ち向かう心」
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短章四~五「立ち向かう心」(7)

「わしが言うのもなんだが、よくあんな事を口にしたな。少年」


 ウォード達と合流し新たに現れたグーバラへと向かう途中。ふと、そんな事をウォードが言ってきた。

 それに苦笑で応じつつ刀弥は正面の彼方を見据える。

 グーバラは未だ遠くにおり、その姿をしっかりと確認することはできない。けれども、先程戦っていたこともあってその大きさはありありと思い出すことができた。

 あの巨体にたった三人で戦うことになるのだ。倒す必要がない分、無理する必要はないがそれでも一歩間違えればあの巨体に飲み込まれることになる。

 一瞬、頭に浮かぶそんな想像。それが刀弥の心の中にあった恐怖を増大させた。恐怖はそのまま彼の精神を蝕み体に影響を与え始める。

 その影響の一つが体が鈍くなったような錯覚だった。

 体が麻痺したかのような痺れと重りを付けられたかのような重さ。その二つを感じたのだ。

 念のため体を見てみるが、そんな要因になるものなどどこにもない。それで彼はこれが恐怖による竦みだということに気が付いた。

 それを解こうと刀弥はいろいろと試みる。

 深呼吸をしたり、別の方角の景色を眺めてみたり、左手の甲をつねってみたり。だが、体の鈍さが解けることはなかった。

 グーバラと接敵するまでもう幾許もない。

 どうする。そう自問していたその時だった。


「そういえば何故、手伝いを申し出たんだ?」


 突然、ウォードがそんな問い掛けを投げてきた。


「え?」


 自分の事に無我夢中だった刀弥はこの問い掛けで一瞬、頭が真っ白になる。


「だから、何故手伝おうと思ったんだと聞いとるんだ」


 そんな彼の反応を見て再度ウォードが問い掛け直してきた。それでようやく問いの内容が頭の中に入る。


「……こんな俺でも頭数に入れば少しは二人が死ぬ可能性は減るかと思ったからです」


 少し恥ずかしながらもそう答える刀弥。実際、そう思ったからこそあんな申し出をしたのだ。

 無論、己が加わったところで微々たるものだという自覚はある。しかし、知り合ったばかりとはいえ見知った顔がひょっとしたら死ぬかもしれない事実は彼にとって簡単に見過ごせる事ではなかった。

 気のいい連中だ。恐らく他の人達にも自分達と同じような感じで交流を交わしているのだろう。

 刀弥も彼らのことは気に入っている。そんな彼らが危険な事に挑もうとしているのだ。放っておける訳がない。

 気がつけば体の鈍さは消えていた。

 恐怖はまだ残ってる。実際、心の中では幾度となく不安という恐怖が体を縛ろうとしている。

 けれども、見知った顔を死なせたくないという思いはそれ以上にあった。その思いが体を縛っている恐怖という鎖を打ち砕いたのだ。


「少年。体は動くようになったか?」


 そこへ口の端を緩めたウォードがそんな風に聞いてくる。

 それで刀弥は先程の問い掛けが自分の恐怖を打ち払うためのものだということに気が付いた。


「ありがとうございます」

「一体何を言ってるのやら……」


 そう言ってとぼけるウォード。

 それに苦笑しつつ刀弥は前を見据えた。


 既にグーバラとはかなり距離が詰まっている。

 グーバラは相変わらずこちら側に向けて進行中だ。砂の大地をかき分けて進む姿はさながら巨大な船のようにも見えた。


「それじゃあ、仕掛けるとするか。刀弥はとりあえず距離をとって斬波で攻撃しといてくれ。距離を離していればグーバラの体当たりでも逃れることはできるだろう」

「わかりました」


 ウォードの言葉に素直に頷く刀弥。

 実際、刀弥としても思いつく手段はそれぐらいしかない。

 巨体を持つグーバラ。そんな相手に真正面から挑んだところで体重差で負けるのは目に見えている。加えて向こうの方が遥かに体格が大きい。

 つまり、真正面からの接近戦などどう考えても無理だということだ。

 そうなると後は先の戦いのように止まったところを狙うか、もしくは安全と思われる距離から攻撃を放つのどちらかしかない。

 幸い斬波を取得しているおかげで後者の選択を選ぶことができる。ならばとりあえずはそちらを選ぶのが堅実だろう。


 ふと、背後を振り返る刀弥。

 後方ではグーバラと退治の班達が戦闘を継続していた。ここからでは見えないがグーバラから少し離れたところにリアもいるはずだ。

 ふと、以前に交わした約束の事をを思い出す。

 絶対に死なないこと。あの時のやり取りは今でも鮮明に覚えている。覚えすぎて余計なところまで思い出してしまうくらいだ。

 あの時の約束を刀弥は違えるつもりはない。まだいろんな世界を十分に見て回っていないし叶えたいこともある。そんな状態で死んでは悔いが残るだけだ。故に死ぬなんて真っ平御免だった。


「では、行くぞ。援護は任せたぞ」


 そう言ってウォードが身を翻し先行する。あれだけの巨体と巨大な武器を持ってるにも関わらずその速度は中々の速さだ。

 真っ直ぐ直進する彼の先にいるのは巨大な敵。まさかとは思うが真正面から挑むつもりなのだろうか。そんな思考を頭の中で過ぎらせながら刀弥はウォードを見守る。

 と、その時だ。

 ルーゼスが足を止め左右のガトリングをグーバラの方へと向けて引き金を引いた。

 そうして放たれるのは赤熱の弾丸。弾丸はそのまま飛翔しグーバラに着弾する。

 先程のグーバラはこの攻撃に驚いて動きを止めた。しかし、今度のグーバラは咆哮をあげはしたものの動きそのものを止めることはない。


 互いに迫り合うウォードとグーバラ。だが、体格と体重に圧倒的な差がある以上、グーバラが勝つのは明らかだ。

 どうするつもりなんだと疑問する刀弥。直後、その答えが行われた。

 彼は急に立ち止まり指輪型のスペーサーから何かを取り出したのだ。

 何もない空間から出現したのは巨大な杭。長さは彼の前腕と同じぐらいの長さで太さはというとパイルバンカーの杭部分より一回り程大きい。

 ウォードはそんな杭を左手でひょいと掴み上げるとそれを宙へと放り投げる。

 軽い放物線を描く杭。しかし、向きはしっかり安定しており、そのため先端は絶えずグーバラの方へと向けられていた。当然、尻側はウォードの方だ。

 一方、放り投げたウォードはというと右腕を引き、振りかぶりの姿勢を作っていた。

 腰、首、肩、腕。全身を回すようにして構えられた姿勢はその巨漢も相まってなかなかの迫力だ。その迫力に刀弥も見入ってしまう。

 そうして放り投げられた杭が腕の高さ程まで落ちてきた時、彼はその構えから一気に全身を振り抜いた。

 凄まじい音をたてて響き渡ったのは金属同士がぶつかった衝突音。その直後には杭が音を鳴らして飛翔していく。

 杭は大気を貫きながら目標へと疾走。そしてついにはその頭部に一撃を与えたのであった。


 杭が突き刺さり、その痛みでグーバラが首をもたげ静止する。だが、生きているところを見ると杭は脳までには達していないようであった。

 しかし、構わない。ウォードの狙いは最初からグーバラの動きを止めることにあったからだ。

 既に杭を放つと同時に彼は疾走している。

 そうしてグーバラに近づいた彼は挨拶代わりとばかりに浮き上がった体の腹目掛けてパイルバンカーを繰り出した。

 パイルバンカーの杭が穴を開けるようにグーバラの腹の肉を抉り取る。

 穴からは血が滴り、たちまち乾いた砂漠に赤の水溜まりを作り上げた。

 一撃を放ったウォードは攻撃が終わると同時に後退している。グーバラの反撃に巻き込まれないようにするためだ。

 その推測通り、グーバラが口を広げウォードに襲いかかろうとする。

 ウォードを一飲みにしようとするグーバラ。だがその時、グーバラの舌に赤の一線が生まれた。

 線を描いたのは刀弥。彼は離れた場所から斬波を放ちグーバラの舌を傷付けたのだ。

 体を狙ったところで傷は浅くグーバラの注意を引かすことはできない。ならば、攻撃が十分に届く箇所はどこか。刀弥が考えた末に思いついた箇所の一つ。それがグーバラの口内だった。

 相手が巨体であることも功を奏した。おかげで楽に舌を狙うことができたのだ。

 血を飛び散らせながら首を大きく横に振るグーバラ。どうやらかなり痛がっているようだ。


「助かったぞ!! 少年!!」


 退避したウォードが感謝の言葉を述べる。

 それに頷きを返しながら刀弥はグーバラへと向き直った。

 グーバラは既に首を振るのをやめている。もう痛みは収まったようだ。


「さて、ここからが本番だな」


 そう一人呟きながら刀を構え直す刀弥。

 そうして彼はグーバラに向かって走りだしたのであった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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