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無限の世界  作者: 蒼風
短章四章~五章「立ち向かう心」
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短章四~五「立ち向かう心」(6)

 高威力の攻撃が遠くにいるグーバラへと向かって飛んでいく。

 炎や風、雷や実弾と様々な色を持った攻撃。

 それを見送りながらリアはふとグーバラの方へと視線を向けた。

 グーバラは前衛達の攻撃を受け怯んでいる最中だ。そんなグーバラの元へ先程の攻撃が直撃する。

 攻撃を受け傾くグーバラ。そこへ別の前衛が殺到した。


 現在、リアがいる場所はグーバラから見て左側の方角。属している班は後衛二班である。


 村長から提案された作戦は後衛が仕掛け、グーバラの意識が後衛に向きかけると同時に前衛が注意を引きグーバラを足止めする。それが今回の基本戦術だった。実際、このパターンを何度も繰返してグーバラに攻撃している。

 だが、それでもグーバラは疲労した様子を見せることなく戦い続けていた。恐るべき体力だとリアは驚くしかない。

 これは間違いなく長期戦になる。これまでの戦いを見てリアはそう確信した。

 後衛全員による一斉攻撃ではなく班分けをしたのもそれを想定していたためだろう。後衛を攻撃の要にしている以上、後衛が力尽きれば攻撃がなくなり後は殲滅されるだけだ。そのため、交替制にしその間に他の後衛を休ませるという手段にしたのだと推測できる。

 と、そうこうしているうちにリア達の攻撃の番になった。すぐさまリアは炎の砲撃をグーバラに向けて放つ。

 既に他のメンバーも各々の攻撃を繰り出していた。大体、彼らの攻撃手段は魔具による攻撃かリアと同じように魔術による攻撃の二種類に分けられる。そしてセリーヌは後者のほうであった。


「へえ。さっきから思ってたんだけど、いい腕じゃない」


 彼女はそう褒めながら風の砲撃を撃つ。気のせいか少し辛そうだ。


「大丈夫ですか? セリーヌさん」

「ん、平気平気。ちょっと攻撃系の魔術は苦手っていうだけの話だから」


 手を横に振りながら軽い口調で答える彼女。それでリアは納得した。


「攻撃系が苦手ってことはセリーヌさんは基本的にはどういう役割をしてるんですか?」

「基本は治癒とかの相手を癒す魔術が得意なの……意外?」


 どこか余裕を伺わせる大人の女性特有の魅惑ある笑み。それを浮かべてセリーヌは問い掛ける。


「いえ、そんなことはありません」


 そんな彼女にリアは陰り一つない笑みで応じた。その反応にセリーヌは少しつまらなさそうな顔をする。


「残念。少しは慌てるかと思ってたんだけどね」

「やっぱり、そうだったんですか」

「ってことは見抜かれてた訳ね」

「ええ、まあ」


 確かに先程の笑みでなんとなくそんな狙いがあるのではという予想があったのは間違いない。しかし、それでも先の答えが本心なのは本当の事である。


「でも、さっきの答えが本心なのは本当ですよ」

「……はあ、まいったわね~。これじゃああたしが悪役じゃないか」


 ため息を吐き言葉を漏らすセリーヌ。リアはというと笑みを見せたままだ。


「……まあ、そんな訳で基本的に攻撃担当はウォードとルーゼスの二人って訳。あたしは基本的に支援。攻撃頻度もそう多くないのが実情なの」

「そうなんですか」


 そう言いながらリアは先程のルーゼスとウォードの攻撃を思い出す。

 ガトリングをばら撒き弾幕を放つルーゼスと一撃の威力が高いパイルバンカーを使うウォード。恐らく戦闘はルーゼスが掃討や牽制を行い、その支援を受けてウォードが一撃必殺のパイルバンカーを叩きこむ。そういう流れなのだろう。

 基本的ではあるが堅実な戦術だ。その陣形の中でセリーヌは両者を支援するのだろう。


「それじゃあ、セリーヌさんの本当の出番は戦いが終わった後という事ですか」

「まあ、そういう事。ルーゼスはそうでもないんだけど、ウォードの馬鹿は平気だからってよく傷だらけになるのよね」


 その時の事を思い出したらしい。セリーノがジト目になって呆れの息をこぼした。


 そんな話をしている間にも戦いは続いている。現在は別の後衛の攻撃がグーバラにぶつかりその間に刀弥のいる前衛二班が接近しているところだった。

 彼らの狙いはやはり、先程叩き込んだ大剣の傷口。理由はそこが一番ダメージを与えやすい箇所だからだろう。

 彼らが攻撃を入れる毎に傷は深くなっていく。当然、グーバラはその度に苦悶の鳴き声をあげていた。


「型には入ってるわね。これなら時間は掛かっても確実に倒せるかしら……」


 横にいるセリーヌの口からそんな言葉が漏れる。

 確かにこのままいけば誰一人負傷することなくグーバラを仕留めることができる。そんな雰囲気だった。



 しかし、そういう時に限ってイレギュラーは起きるもの。それはこの時も例外ではなかった。


「ん? あれ?」


 最初にそれに気が付いたのはリアだった。彼女はグーバラとは別の方向、遠くの砂漠の方へと視線を向ける。


「どうしたの?」

「えっとね……あれは何かなって」


 それに気が付いたセリーヌが声を掛けると、彼女は先程まで眺めていた方角を人差し指で指差した。

 それにつられてセリーヌが目をそちらへと向ける。すると、そこには砂埃を上げる何かの姿があった。


「……なにかしら?」


 疑問を呟くセリーヌ。それはリアも同じ思いだ。

 この距離からでは正体まではわからない。ただ何かとてつもなく大きなものがこちらに近づいてきているのだけはわかった。

 そうして眺めていること数秒。彼女達はようやく近づいてきているものの正体に気が付く。


「……嘘でしょ?」


 絶句するセリーヌ。一方リアはというと皆に警告を飛ばそうと慌てた様子で納戸色の宝石を取り出している最中だった。


「皆、大変!! グーバラがもう一匹、こちらに接近してきているよ」



      ――――――――――――****―――――――――――



 リアの警告に攻撃を終えた刀弥達はようやく新たな脅威が接近してきていることに気が付いた。


「おいおい、マジかよ……」


 仲間の一人が呆れたような、けれども実際は震えた声で呟く。

 そうして撤退しながらリアの言う方角を見ると確かに別のグーバラが接近しているのが見えた。


「おい、こういうのって前例あるのか?」

『……ない。極めて稀なケースじゃ』


 絶句しているかのような静かで力のない返答。どうやら本当にこんな事態はなかったらしい。


「それでどうするの? 二体とも相手にするの?」

『さすがに二体同時に相手をするには今の戦力は心許ない。できれば一体倒しそれからもう一体を相手するのが理想じゃが……』

「つっても、今の奴でさえ倒すのにまだ時間が掛かるんじゃないか? このままじゃ間違いなく二体同時に相手をすることになるぞ」


 そしてそれを皮切りに納戸色の宝石や刀弥の周囲からはあれやこれやらと言った声が飛び交い始める。

 さすがに皆、あれを同時に相手をするのは厳しいらしい。イレギュラーな事態に誰もがどう対応すればいいのか戸惑っていた。


 そんな中、ウォードが信じられないような提案をしてくる。


『なら、わしが時間を稼ぐとするか。ルーゼス、お前も手伝え』

『……はあ。やれやれ、人使いの荒い奴だ』


 呆れたような息を吐く音が聞こえ、その後でルーゼスの返事が返ってきた。どうやら二人で新しく来たグーバラを相手にする気らしい。正直、囮とはいえ刀弥の感覚からしても無茶な行動だ。


「本気か!?」

『本気だ』


 叫ぶような刀弥の問い掛けに余裕を持った声で応じるウォード。それを聞いているとこの男なら本当にやってのけるのではと思ってしまう。

 他の者達を見るとウォードの提案に皆、驚きの沈黙を浮かべていた。恐らく他の場所の者達も同様だろう。


『……本当にやれるのじゃな?』

『当然だ』


 村長の再確認にウォードは自信満々に答える。それで方針は決まった。


『……わかった。任せるぞ』

『心得た』


 余裕のある笑みがありありと目に浮かんぶようなしっかりとした声。そんな声で彼は応答を返した。



 そうしてそれで話が終わり、ウォード達は新たに来るグーバラの方へと向かおうとする。

 その時だった。

 突然、新たな声が次のような言葉を飛ばす。


「待ってくれ。俺も二人の方を手伝う」


 手助けを申し出る声の主。それは刀弥だった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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