短章四~五「立ち向かう心」(5)
攻撃を始める前衛三班。
攻撃の流れはまずルーゼスの射撃から始まった。
彼の武器は腕の下にぶら下がるように持たれた六つの銃口を円状に配置した銃、すなわちガトリングである。
それを彼は左右の両手でそれぞれ一丁ずつ持って構えながら、正面の敵へと向けて放った。飛んでいくのは炎を小さく圧縮した炎弾だ。
炎弾は壁のように広がっていく砂嵐を突き抜け、その巨大なグーバラの体にヒット。爆発を起こしその箇所を爆発の炎で焼いた。
突然の攻撃に驚くグーバラ。一瞬、その身が跳ね上がり止まる。
そこに他の攻撃が殺到した。砂嵐を突破してきた者達による攻撃だ。
ランスによる突撃とその直後の爆発、炎を纏ったルセニアの短剣の一閃、腕の動きに連動して動く回転する球形状の物体による打撃、右足によるかかと落とし、さらには人型ゴーレムの群れによる一斉射撃。全てがグーバラの体に直撃する。
この一斉攻撃にグーバラは怒りの鳴き声をあげた。その上でグーバラは顔無き顔を敵へと向ける。
そうしてグーバラは攻撃を放った彼らへと突進をかまそうとした。
しかしその直後、遠くグーバラの左後方から彼らとは違う攻撃が飛んできた。
飛んできた攻撃は通常の弾や炎、雷、風が集まり砲撃として放たれたもの。全て後衛六班が撃ったものだ。
砲撃を受けグーバラの体が大きくぐらつく。
そこに右側から別の班が飛び込んできた。砲撃の間に指示受けて動いていた前衛四班だ。
既に前衛三班は後衛六班の攻撃に巻き込まれないように後退している最中、それと入れ替わるように前衛四班が接近し攻撃を仕掛けたのだ。グーバラの動きが止まっている今、砂嵐は巻き起こっていない。それ故に近づくのは容易であった。
拳銃による雷弾の射撃、炎と雷それぞれを纏った双剣の二連撃、四足の獣型のゴーレムに騎乗した状態での高所からの大斧による落下斬り、水でできた刃による鞭のような斬撃、そしてレンの片手で持った槍による貫きの一撃。
攻撃の中にはグーバラにとって大した事のない攻撃もあるが、それでも立て続けに攻撃を受ければ混乱はするだろう。そこに再び新手の攻撃を浴びせる。
今度の後衛からの攻撃は右後方と右側による二方向からの同時攻撃だった。
火、雷、鉄弾、風、冷気、様々な要素からなる長距離からの高威力の攻撃。それらがグーバラに襲いかかる。
怯むグーバラ。一方、前衛四班はというと攻撃が終了すると同時に後方へと下がっていた。先程同じように後衛の攻撃に巻き込まれないためだ。
当然、新手な攻撃手は既にグーバラに接近している。刀弥が入っている前衛二班がそれだった。
彼らの位置はグーバラから見て左側。集団で動いている彼らの先頭を走っているのは鎖使いの女性だ。
「それじゃあ、打ち合わせ通りあたしから行くよ」
振り返ることなくそう告げる鎖使いの女性。そうして彼女はグーバラに向け鎖を振り放った。
風を切って伸びていく鎖の狙う先は横ビレの突き出た部分。
そこに鎖が絡まる。と、次の瞬間、グーバラの姿勢が崩れ動きが止まった。
砂中へと沈んでいく体、上げようとしても抵抗を受ける上半身、そして苦悶の鳴き声、、まるで上から見えない力で押さえつけられたかのようだ。
そんなグーバラに他の者達が跳びかかる。
最初に仕掛けたのは指輪の魔具を付けた女性だった。彼女は指輪を付けた右腕を軽く振るう。すると、その直後その動きに沿うように風の塊が走った。
右腕の動きは振り下ろし。当然、風の塊も円周軌道で落ちていく。
そうして風の塊はグーバラの頭上に叩きつけられた。
強烈な衝撃にグーバラの頭部が一瞬、力なく跳ね上がる。だが、それもすぐに己の重さによって砂上へと戻っていった。
次の攻撃を仕掛けたのはハンマーを持った男性。彼はグーバラの体を足場に登っていく。
そうしてグーバラの頭上へと辿り着くと、彼は己の体躯ほどもある巨大なハンマーを振り上げ、そして眼下目掛けて振り下ろした。
振り上げた時は羽のようにスッと上がったハンマーは振り下ろした瞬間、まるで巨大な隕石のように轟音を上げて落下していく。
そうして見た目に不釣り合いな音を轟かせていたハンマーは寸分違わず先程風の塊が叩きつけたところを打ちつけた。
攻撃を受けて這いつくばるグーバラ。その衝撃で砂煙が僅かに巻き上がる。
そうして霧のように辺りに漂う砂煙。と、そんな中を一筋の光が突き抜けた。
光の正体は槍の形状をした雷。その雷が先の二連撃の場所へと突き刺さる。
突き刺さった槍は次の瞬間、電撃となってグーバラの体を焼いた。その痛みにグーバラは咆哮を響かせる。
そこに刀弥は走り込んだ。
ハンマー使いの男と同じ要領でグーバラの体を足場に上へと駆け上がると同じ場所に速度を乗せた斬撃を打ち放った。
風野流剣術『疾風』
狙う方向が下方向なので刀は後ろに引かれた状態から下向きに繰り出される。正面から見れば下側を経由した振り上げのような形だ。
手応えは一瞬。それでも確かにその皮膚に一太刀が入った。そのため、刀弥はすぐさま切り返しグーバラの体から降りていく。
軽やかにグーバラの部位に飛び移っていく刀弥。そんな彼の横を大剣を担いだ男がすれ違った。
男は頂上に辿り着くと同時に大ジャンプ。眼科を見下ろしほくそ笑むと担いでいた大剣をこれまで仲間達が攻撃を加えた箇所へとフルスイングで振り下ろした。
振り下ろされた大剣はそれに合わせて高音を響かせる。音の正体は刃の振動。刃を振動させてノコギリのように相手を斬るのがこの大剣の力なのだ。
そうして振り下ろされた大剣は見事、彼らが積み重ねた箇所にその刃を食い込ませることに成功した。
そのまま男はその箇所を叩き斬る。
えぐれる肉片。飛び散る泉のような鮮血。これらは前衛三班全員の手で成し得た結果だ。
いきなりの大激痛にグーバラが暴れまわる。余程の痛みなのだろう。その動きは今までで一番激しい動きだった。
その動きで鎖が外れる。
直後、グーバラの体が一気に上へと跳ね上がった。
慌てて男がグーバラの体から飛び降りるが、それでもかなり高い。このままでは砂上に墜落してその衝撃で死んでしまうだろう。
だが、そんな彼に仲間達がフォローに入った。
投擲槍の女性はいつの間にやら先程と同じ投擲槍を構え男に向かって投げ放ち、それにハンマー使いの男も続く。投擲槍は先程とは違い雷とはならないまま男へと向かって飛んでいった。
落下最中の大剣の男はそんな自分に迫るに武器に大剣を合わせ落下の威力を相殺していく。
ゆっくりと落ちていく男の体。そんな男に先程の女性が再び投擲槍を投げた。よく見ると指輪が光ると同時に投擲槍が腕の中に出現している。恐らくあの指輪が投擲槍を呼び戻しているか生成しているのだろう。
やがて、それを何度か繰り返して大剣の男が地面へと綺麗に着地した。着地の音と衝撃はまるで少し高いところから飛び降りた程度の痕跡しか残していない。まるであの高さから飛び降りたのが嘘だったのかのようだ。
「恐ろしいな……」
誰にも聞こえないくらい小さな声で感嘆の言葉を漏らす刀弥。そうして一同はすぐさまその場から退避を開始した。
既に次の後衛の攻撃は放たれている。方角はグーバラから見て左側で攻撃の大部分の行き先は大剣の男が傷付けた部分。どうやらしっかりと傷口を作っていたのを見ていたらしい。
再び傷口に攻撃を受けたことで痛みが再発したグーバラは再度咆哮をあげる。気のせいか先程よりも怒りの色が強いような気が刀弥にはした。
そこへ前衛一班がやってくる。位置はグーバラの背後。
グーバラは雄叫びに夢中で気付いていないのか反応がない。そのまま前衛は一班は楽々とグーバラの背後に接近した。
そうして彼らは一斉に攻撃を放つ。
縦回転からの巨大な棘付き棍棒による振り下ろし、宙に浮いたリングに弾を込めての射撃、持ち手の両方に刃の付いた剣による回転斬り、機械の鎧のようなものから放たれる光線群、さらには空飛ぶ剣群による一斉突き。そんな攻撃が次々と咲きほどと同じように傷口に向かって打ち込まれる。
そして一同の最後の攻撃を行ったのは見間違えようもなくウォードだった。
彼の右前腕には赤と銀の装飾を施されたパイルバンカー。大きさとしては腕の三倍くらいの太さがある。肝心の杭も腕と同じくらい。見るからにかなり威力がありそうだ。
彼はそれを携えグーバラへと向けて疾走していく。
腕を振りかぶり、足場代わりの部位を速度を落とすことなく駆け上がっていくウォード。
そうして傷口の傍までやってくると飛び上がり、その傷口向けてパイルバンカーを殴りつけるように打ち下ろした。
パイルバンカーは傷口に刺さると同時に射出。刺さった杭がさらに傷奥深くまで抉りこむ。
その攻撃の痛みにグーバラがもがくように仰け反った。
一瞬、ウォードの体がグーバラからはがれそうになったが、パイルバンカーが刺さっていたおかげでその事態は免れる。そうして彼は次の着地と同時にグーバラから降りていった。
直後、グーバラの前方左右二箇所から後衛の攻撃が飛んでくる。
大半は砲撃などの威力を重視した攻撃であったが、一発だけ命中重視の狙撃があったようだ。それが正確にグーバラの傷口へと弾丸をめり込ませた。
続く痛みにグーバラも我慢の限界だったらしい。
轟くような鳴き声を響かせるとのたうち回るように暴れまわった。
「まだまだ元気だな」
そんなグーバラの様子を刀弥は少し離れた場所で観察している。
各人があれだけ攻撃を与えたにも関わらず、グーバラは未だ健在だ。攻撃が効いているのはこれまでの反応からして間違いないので、恐らく相手がタフなのだろう。後、何回くらい攻撃を叩きこめばグーバラが沈むのかまるで想像できない。
「まあ、あれだけでかいんだ。当然だろう」
「むしろ、あれくらい元気でなくちゃやりがいがないじゃん」
「さしずめ、お楽しみはこれからってところかしら」
「そういうことだな」
「ってことだ。遅れたらお前の分の取り分がなくなるぞ」
そこへ先の呟きを聞いたのだろう。前衛二班の面々がそんな応答を返してきた。
どこか余裕のある台詞。きっとああいう敵と何度か戦ったことがあるのだろう。
そんな彼らの態度に刀弥はどこか安堵を感じてしまう。
『では次じゃ』
と、そこへ村長から新しい指示が飛んできた。
それを聞いて頷き合う一同。
そうして彼らは再び駆け出すのであった。