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無限の世界  作者: 蒼風
短章四章~五章「立ち向かう心」
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短章四~五「立ち向かう心」(4)

すいません。数分遅れましたorz

 それから三日後。

 刀弥達は村から少し離れた砂漠に立っていた。

 彼の周囲には武器を持った男達が五人ほどが固まっている。彼らが刀弥の班のメンバーだった。――ちなみにレンやルセニアは刀弥とは別の前衛班。リアは後衛班で別の場所にいる。――

 刀弥を含め彼らの首元には納戸色の宝石の付いた首飾りがぶら下がっている。これは村から配布された同機に声を飛ばしたりその声を受け取ったりする魔術式が仕込まれた魔具だ。

 今、その魔具から声が聞こえている。村長宅で出会った老人、つまり村長の声だ。


『各自が位置についたのを確認した。時期にグーバラも姿を現すじゃろう』


 そう言う村長の声には緊張の色がはらんでいる。やはり、慣れた者でも一度っきりの本番は緊張してしまうもののようだ。


『念のため手順を再確認するとしようかの。今回は後衛がかなり集まったので前衛班は基本的に囮に徹してもらうつもりじゃ。前衛がグーバラの気を引いている間に指示した後衛班が攻撃。これを基本に奴を攻める。以上じゃ』


 今、村長が口にしているのは昨日、広場に集めた時に口にしていた具体的な作戦内容だ。

 前衛班はグーバラを囲みその内の一班が気を引きそこへ後衛の一班が攻撃を加える。グーバラが後衛に迫ろうとすればその進路上にいる前衛班が攻撃を仕掛け再び注意を前衛に向ける。それを繰り返すのが基本戦術だった。


 と、その時だ。遠くの方で砂が水しぶきのように舞い上がった。


『来たようじゃな』


 宝石から聞こえるそんな言葉。それで刀弥はあれがグーバラによって起こされたものだということにようやく気付いた。

 そして、舞い落ちる砂埃の中からそれが姿を見せる。


 頭と尾しかない細長いが巨大な砂色の体、目はなく上顎よりも大きな出っ張った下顎が特徴的な外見。体の横側からは扇のような横ビレが生えている。

 情報通りの姿。間違いない、あれがグーバラだ。

 その姿に刀弥を始め皆が圧倒される。まだ場所が遠いので巨大だという実感はないが、それも近づけばすぐにわかることだろう。


『では、まずは前衛班。事前に指示したように取り囲むように配置についとくれ』


 そこに村長からの指示が飛んできた。


「二班了解した。これより配置につく。いくぞ」


 指示がきた以上、このまま眺めているという訳にはいかない。班のリーダーがそう返事を返すと、刀弥達の班は事前に指示された配置につくべく歩き出すのであった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 刀弥達の班が配置に着く頃、グーバラはというとかなり彼らの傍まで接近していた。おかげで刀弥達の班はその巨体を否が応にも実感してしまう。

 山のように並外れた巨体。人々の集団などまるごとたいらげてしまうくらい大きい巨大な口。そのどちらもがこれから戦う彼らを畏怖させるには十分な姿だった。

 実際、刀弥もその姿に圧倒され一瞬怯んでしまう。たが、他の者達が武器を構え直す音を聞いて意識を取り戻すとすぐさま深呼吸。そうして心を落ち着けると再びグーバラの姿を見上げた。

 恐れはまだ残っている。だが、もはや心の中に抱いているのはそれだけではない。

 これからこれを攻略するんだという高揚感とやってみせるという意気込み。その二つの感情が今や彼の心の内に宿っていた。


 既に刀弥達の班は配置に着いている。後は他の班が配置に着くのを待つだけだ。

 手隙となった彼ら。当然、暇つぶしなど持っておらず、自然と視線はこれから戦う巨体へと向いてしまう。

 巨体の敵は飛び跳ねて以降、砂上を泳ぐようにこちらへと進んでいる。体をくねらせ進む姿はまさしく蛇そのものだ。むしろ横ビレがなければ巨大な蛇にしか見えないだろう。

 刀弥達はそんなグーバラの泳ぐ仕草を遠くから観察している。皆の目が真剣なのはこれから戦う相手だからだろう。僅かな癖すら見逃さないというような鋭い目付き。中にはブツブツと独り言を漏らしたり、思索にふけっている者すらいる。


 そんな彼らを刀弥は驚きにも似た気持ちで眺めていた。

 この短い時間ですら情報を得ようとする姿勢。そんな状況で得られる情報など僅かでしかないはずだが、それでも彼らはそれを貪欲に欲している。その情報が己の運命を分けるかもしれないことを彼らは経験から学んでいるのだ。

 これが実戦経験をしっかり積んだ者の姿か。彼らの姿勢を見回しながらそんな感想を抱く刀弥。


 やがて、情報を集め終えた彼らは続いて情報交換を開始した。


「あの鱗、硬そうだな。あんたの大剣なら通るか?」

「なんともいえないが難しそうだな。同じ所を何度か狙うことができれば通る自信はあるが……」

「それじゃあ、あたしの魔具であいつの動きを封じてあげる」

「その程度の長さの鎖でか? どう見たって足らないだろ」

「大丈夫。絡んでしまえば重量を増大させて封じることができるから」


 そんな話し合いが刀弥の前で進行している。刀弥はただ呆然とそんな会話を眺めているだけだ。


 と、そんな時だ。


「坊主はどう思う?」

「え?」


 突然、刀弥は話し合いをしていた男の一人に声を掛けられた。声を掛けられるとは思ってもいなかったので、つい刀弥は間抜けな声を漏らしてしまう。


「俺達の班が攻める時、そこの女が動きを封じている間に俺達が同じポイントを連続で攻めるって話だ。お前はいけると思うか?」

「そうだな……」


 そう言いながら自分の班の仲間達を見回す刀弥。

 彼らの武器は大剣、鎖、ハンマー、指輪、投擲用の槍。恐らく大半の武器は魔具だろう。少なくても指輪はそうに違いない。

 と、なればその武器の能力も把握した上で考える必要がある。


「っというか、そもそも全員の武器を把握すらしていないんだが……」

「お、ちゃんと気が付いたか」


 そのため、刀弥は彼らの各々の武器について詳細を尋ねようとした。

 すると、彼の答えに問いを投げ掛けた男が満足そうな笑みを浮かべる。周囲を見てみると他の連中も同じような反応だ。

 それで刀弥は先程の問いかけが彼らの試しだということに気が付いた。


「……もしかして試したんですか?」

「悪いな。あまりにも反応が妙なんで緊張しているのかと思ってな」


 不機嫌な声で尋ねる刀弥に男がそう弁明する。


「でも、緊張してる訳じゃなさそうだな。どちらかというと手順を把握していないって方か」

「……そうですね。実を言えば実戦経験はまだそれ程数をこなしていないので……」


 ここは素直に認めるべきだろう。そう考えて刀弥は頷きを返すことにした。

 彼の応答に班のメンバー達は関心の声を漏らす。


「へえ、素直に認めたね~」

「関心、関心」

「こういう時、強がる奴の方が結構多いんだけどな」

「なんにしてもこう素直に認めたんだ。なら、実戦の先輩としては後輩にしっかりレクチャーしなくちゃな」

「おい、坊主。もっと近寄ってこい。そこじゃ話し合いに混ざれないだろ?」


 そうして刀弥を含め、彼らは再びグーバラに関する話し合いを始めた。



      ――――――――――――****―――――――――――



 しばらくして、そんな彼らの元に声が届く。声の主は村長だ。

 彼ははっきりとした声で次のように述べる。


『全班、配置に着いたようじゃな。では、これよりグーバラ退治を始めるとする』


 その瞬間、空気が変わった。

 カラッとした熱気を一瞬で奪うような張り詰めた空気。その正体は刀弥以外の者達が発する気配だ。

 その切り替えの早さに思わず刀弥は目を見張ってしまう。


『まずは正面にいる前衛三班がグーバラの注意を引いてくれ。そうして止まったところを後衛六班が攻撃を放つ』

『わかった』

『こっちも準備はいつでもいけるわ』


 指示の後に返ってくる返事。恐らく指示された二つの班のリーダーだろう。


『では、少ししたら合図を送る。それで開始じゃ』


 それで連絡は終わった。


「始まるぞ」

「さてさて、どうなることやら……」


 具体的な指示はまだ来ていないものの既にメンバーは臨戦態勢だ。

 皆、武器を構えてグーバラを見つめていた。

 そうして刻々と時を紡ぐ静寂。その間もグーバラの姿は段々と大きくなっていく。


 そして、グーバラが三班の傍を通りすぎようとした時だった。

 村長の合図が飛んでくる。


『今じゃ!!』


 直後、三班が攻撃を始めたのを刀弥は見た。

 こうしてグーバラとの戦いの幕が切って落とされたのであった。


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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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