短章四~五「立ち向かう心」(2)
そうして夕方。一同はようやく村に辿り着いた。
村の建物もコローネスと同じく白や砂色の建物が多い。地面はほとんど砂ばかりで、そのため、歩く度にシャリシャリと靴の裏から砂を踏み鳴らす音が鳴り響いていた。
そんな中を刀弥達は疲れた顔をしながら歩いている。二回連続の戦闘で少し疲れてしまったのだ。
「はあ、リ~~ア~~」
恨みがましい瞳でリアを睨むルセニア。
「うぅ……ごめんなさい」
一方、リアはそんなルセニアに対し低姿勢の状態だ。さすがに二度も同じミスをしてしまった事については本人も反省しているらしい。
「それでルセニア。俺達はこれからどこに向かえばいいんだ?」
そんなリアへの助け舟のつもりもあって、刀弥はルセニアに疑問を投げる。
彼が聞いているのはどこでグーバラ退治の登録をするのかという事だった。
彼の問いにルセニアは村の奥にある人の出入りの多い建物を指差す。
「あそこが村長の家になってるの。参加するならまずはあそこで申請ね」
そうして彼女は村長の家へと向かって歩き出した。それを見て刀弥達も後に続く。
村長の家に入ってみると、中は意外と質素な感じだった。外見は普通だったが、中はいいものを使っているのかと思っていた刀弥にしてみれば予想とは少し違った情景に少し驚いてしまう。
室内にも多くの人がいた。大きな鎧を身に着けている者。杖を持っている者。中には武器なのかどうかすら怪しい形状物を持っている者までいる。
そんな彼らを見渡しながら刀弥達はルセニアの後を追いかけていた。
やがて、彼らはとある部屋に続くドアの前に辿り着く。
「失礼します。ルセニアです。引き受けてくれる者を見つけましたので連れてきました」
「いいぞ。入ってくれ」
ドアをノックし告げるルセニア。すると、中から返事が返ってきた。
室内にはまだ人の影が残っているが、どうやら彼らは登録を終えた後だったらしい。話をしている者が多いことから恐らく情報交換や交流を行なっているのだろう。
そんな事を思っていると、ルセニアがドアを開けて中に入っていく。それに刀弥達も続いていった。
部屋は先程のところと同じ質素感漂う部屋だった。白い天井と白い壁。調度品はテーブルと本棚くらいしかなく、そのテーブルには窓から差し込む夕日が降り注いでいる。
テーブルには老人が座っていた。
部屋の雰囲気にマッチした白い髪と髭。衣服は白と言うよりも灰色の衣服をまとっていた。
「その子達がそうかね?」
「はい」
老人は刀弥達をチラリと一瞥すると、すぐさまルセニアに尋ねる。
そんな彼の問い掛けにルセニアは首肯を返した。
「こう見えてもこの子達は闘技場の出場者です。闘技場からの証明書もここにありますので、どうぞ確認ください」
そうしていつの間に用意したのか闘技場からの証明証だという用紙をスペーサーから取り出すとそれを老人に手渡す。
受け取った老人はすぐさまそれに目を通した。
「なるほど。確かにの……あい、わかった。参加を認めよう」
やがて、用紙を見終えると老人はそう呟きテーブルの中から三枚の用紙を取り出す。そしてそれをペンと共に刀弥達の方へと差し出した。
「すまぬが、これに必要事項を書いてもらえないかの」
「わかりました」
そう言って用紙を受け取る刀弥。
用紙には名前や出身地、希望配置の他に指紋を入れる項目があった。
この用紙を何に使うのか疑問に思いながらも、刀弥はリアやレンに受け取った用紙を渡していく。
そうして彼らは用紙に必要事項を書き込んでいった。
風が吹いたのか窓が僅かに揺れ、静かな一時が部屋の中に流れる。
やがて彼らは必要な項目を書き終え、用紙を老人に手渡した。
受け取った用紙を老人はその場で確認する。
「うむ。これで登録は完了じゃ。グーバラが来たら知らせるから、それまでは手配した場所で待っておいてくれ」
どうやら問題なかったようだ。確認を終えた老人はテーブルから鍵を取り出すとそれをルセニアに渡す。
「場所は村の端の方じゃ。ドアに番号が書かれておるから、その鍵の番号を使ってくれ」
「わかりました」
「他に何か聞きたいことはあるかの?」
そうして問い掛けを投げる老人。その視線はルセニアではなく刀弥達の方へと注がれていた。どうやら先の問いは刀弥達に向けて投げかけていたようだ。
折角なので刀弥はこの機会を利用して根本的な質問をすることにした。
「実はグーバラという生き物についてよく知らないのですが、それについて聞いてもよろしいでしょうか?」
「おお、無論構わんとも」
刀弥の質問に老人は笑顔で応じる。
そうしてから老人はグーバラについて刀弥達に語るのだった。
「グーバラはこの村から少し離れた辺りに生息するモンスターでな。最大の特徴はその巨体なのじゃよ。なんと全長だけでこの村をいくつも覆えるくらいの大きさでな」
そう説明しながら大きく手振りで示す老人。
「姿形は横ビレを持った蛇のような生き物じゃな。手足はなくヒレと体をくねらせることで砂の中を泳いどる。そのせいか下顎が上顎よりも出っ張っておってな。獲物を食らう時は砂中から飛び出し下顎ですくうようにして捕食するのじゃ。目はなく獲物や敵は地中から音や熱を感知して見つけておる」
「つまり、グーバラが姿を現す時は獲物や外敵に襲いかかる時ということですか」
だとしたら厄介だと刀弥は思った。相手の居場所が基本的に砂の中なのであれば刀弥には手も足も出せないからだ。リアならばそれでも攻撃は可能かもしれないが、少なくても現状刀弥にはそこに攻撃を届かす術はない。
だが、それは杞憂に終わった。老人が先の刀弥の言葉に首を横に振って応えたからだ。
「いえ、それ以外にも呼吸のために地表に体を出す時がありますので、ご安心を」
「そうですか」
どうやら相手は長い間砂中に隠れ続けることはできないらしい。少なくても攻撃しやすいタイミングがあることに刀弥は安心した。
そうしている間にも老人はグーバラについての話を続ける。
「後、地表に姿を現して進むときにその巨大さ故に砂を巻き上げ、それが砂嵐となるのが特徴ですな。おかげで付近を通る度に村に被害が来ます。家屋の一部が持っていかれるのは当たり前。場合によっては小さな家畜がそれに吹き飛ばされてしまったりもしてますな」
「それはそれで戦闘ではやっかいですね」
それは視界が悪くなるだけでなく接近しづらいということでもあった。近づいてからの攻撃が刀弥の本領である以上、その力は中々にやっかいなものである。
「全くですな。と、まあグーバラについての説明は大体以上じゃ」
「ありがとうございました」
グーバラについての説明が終わり、礼を言う刀弥。
と、そこへレンが新たな問い掛けを放った。
「そういえばかなり人集めをしているってことは当然集団で挑むってことだろうけど、具体的にはどう戦ってるの?」
これに刀弥とリアはそういえばと頷く。
確かに人数を集めているということは集団戦で間違いないだろう。だが、具体的にどう戦うかまでは全くといっていいほどわかっていない。
そんなレンの問いに老人はほうと呟く。
「それについては闘いの少し前、人が集まった時に詳細を説明しておりますわ。まあ、簡潔に言いますと前衛と後衛と分けてそれから人数毎で班を組むことになりますな。この班分けはこちらで決めさせてもらいますのでご了解を。戦闘時はこちらから指示を出しますのでそれに従ってグーバラに仕掛けてもらいます。基本的には一部の前衛班がグーバラの気を引き、残りの前衛班が側面から攻撃。それを各後衛班が支援します。場合によっては後衛の攻撃が本命で前衛はグーバラを後衛に行かせないために足止めに徹することもありますな」
「へ~。なるほど」
返された返答。それにレンは関心の声をあげた。
「これで質問は全部ですかな?」
他に疑問はないかという問い。その問いに刀弥達は全員視線を交わし、他に疑問がないことを確認する。
「ありません。ありがとうございました」
「それでは失礼致します」
そうしてルセニアに先導され刀弥達は部屋を後にしたのだった。