短章四~五「立ち向かう心」(1)
さて、今回からは短章です。
大体4~5回程の投稿の予定となっておりますがよろしくお願い致します。
砂色の大地が広がる世界があった。
灼熱によって命は干からび、僅かに残った命はこの過酷に適応するためにそれぞれが様々な方法を試みる。
得られる水分を貯めこむ機能を持ったり、かすかに存在する水場に巣穴を作ったり……中には別の生物の体に寄生しその上を生活の基盤とするものまでいた。
そうやって彼らはいろいろな方法で生き残る手法を模索している。
今、闘いを繰り広げているそれもまたその一種だ。
「全く……リア!! だから気をつけないとって言ったでしょ!! 以前と同じ轍を踏んでどうすんのよ!!」
短剣を身構えながら一人の女性が叱責の声をあげる。
真紅の短い髪に紅色の瞳。服装は胸元を強調させた布地の少ない浅紫の服装で下の茄子紺色の短いスカートは先の動きで裾が翻る。
「ごめん!! ルセニアさん」
そんな彼女の叱責に応えたのは赤銅色の長髪と瑠璃色の目をした少女だった。赤の上着の下に白のシャツを着ており、下は赤を基調としたチェックのスカート。両手には蒼い宝石の付いた金色の杖が握られている。
彼女が叱責を受けている理由は単純だ。誤って彼女が罠を張っているそれの頭上を通りすぎてしまった。それだけの話である。結果、それが砂上に姿を現し戦闘開始。現在はその直後に至るのであった。
「来るぞ。リア!!」
そんな彼女に少年が声を飛ばす。短い黒髪に青い瞳。上着とズボンは黒色で上着の下は白いシャツという構成だ。左の腰には鞘が両手には刀が握られている。
彼、刀弥の声にリアは反応。すぐさま己の身を右へと飛ばした。直後、彼女のいた場所を巨大な何かが通過する。
砂色の鱗に手足のない細長い体躯。獲物を見つめる眼球はリアを捉えて離さず、開かれた口は牙をみせつけながら閉じられていく。
なんとリアを襲ったのは砂色の巨大な蛇だったのだ。
「リア、大丈夫?」
そんな彼女に銀髪の少女が声を掛ける。
こちらの少女は髪が短く服装は紅桔梗色の軽鎧の下に白のシャツと短パン。その両手には槍が構えられており、青い双眸はリアを襲った巨大蛇に向けられている。
「うん、大丈夫」
そんな少女レンの問いにリアは元気な声で答えた。
「そんな事を言ってる間に次が来るぞ」
そこに刀弥が声を挟む。
彼の言葉にリア達は刀弥の視線の先へと目を向けると、確かに先程の巨大蛇が旋回してる姿が目に入った。どうやらもう一度、突撃を掛けてくるようだ。
狙う先にいるのはリア。どうやら他は目に入っていないらしい。
ならば、方針は簡単だ。
全員が目を合わせたのは一瞬、それで作戦は決まった。
まず行動を開始したのはリア。彼女は火球を複数生み出すとそれを巨大蛇へと向かって放つ。相手が巨体のため狙いを付けるのは簡単だった。
火球は砂地や巨大蛇にぶつかると爆発。たちまち巨大蛇の周囲には炎の華が咲き乱れた。
しかし、巨大蛇は構わず前進。止まる様子を見せずそのまま彼女の傍まで迫る。
リアはというと火球を放ち続けているが、やはり止まる気配はない。
そうして巨大蛇は彼女の傍までやってくると上から彼女のを飲み込もうと口を開いた。
けれどもその瞬間、巨大蛇の口内で激しい痛みが襲う。
痛みの正体は舌先を切り取られた痛み。刀弥が斬波で巨大蛇の舌を切り取ったのだ。
その痛みに巨大蛇は顔を頭上に向け痛みの叫びをあげる。
だが、そこへ氷の鎖が飛んできた。
鎖は巨大蛇を拘束すると、そのまま砂漠の上へと引きずり落とす。
響く地鳴。それと共に砂煙が舞い上がった。
やがて、砂煙が晴れるとそこには氷漬けにされ始めた巨大蛇の姿がある。巨大蛇は氷の拘束から流れようともがいているが、氷の鎖は壊れる様子を見せない。
そこへルセニアとレンが近づいてきた。
巨大蛇は近づいてきた彼らを新たな餌と見たのか、僅かに動く体で接近すると再び口を開き彼女達を一飲みにしようとする。
しかし、そんな巨大蛇にルセニアが短剣を投擲した。
短剣は炎を纏いながら飛翔。そうして口を開いた巨大蛇の舌にその刃を突き立てる。
その途端、炎が巨大蛇に燃え移った。
炎の熱さと突き刺さった痛み、二つの痛みに巨大蛇は動きを止め、のたうち回ろうとするが氷の鎖のせいでそれができない。
と、そこにレンが飛び上がった。彼女はそのまま巨大蛇の顔へと着地するとその眉間に向かって槍を繰り出す。
ここまで来ると巨大蛇に抗う術はもはや存在しない。当然のように槍の穂先は巨大蛇の頭部を貫き巨大蛇を絶命させたのだった。
貫かれた巨大蛇は一際大きな音をたててそのまま砂漠の上に崩れ落ちていく。後はいつも通りの静寂だけが辺りに漂うのだった。
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「うへえ、よだれが着いてる……」
巨大蛇の舌から短剣を引き抜き刃から滴るよだれを見て顔をしかめるルセニア。それから彼女は短剣を大きく振ってよだれを落とすとそれを鞘の中へと収めたのだった。
そんな彼女を刀弥は眺めていたのだったが、ふと巨大蛇の方へと視線を移す。
刀弥の知っているそれよりも遥かに巨大な体。一体、どういう餌を得られればこのような大きさになるのだろうか。それが気になったのだ。
「こいつ普段はなにを食ってるんだ?」
「基本、ずっと砂の中で何日も待ってるて話だけど」
「それでこの体を維持できるのか?」
これだけの大きさ、じっとしているだけでもかなりのエネルギーを食うだろう。にも関わらずその方法で餌をとっていたのではどう考えても効率が悪いはずだ。
「この辺の餌になりそうな生き物は大集団でオアシスの間を移動してるからね。一度飛び出したらしばらくはまかなえるんじゃないかな」
「そのためのあの巨体か」
イメージするのは広く塗りつぶされた色を太い消しゴムが消していくような感じの図。
そんな感じで普段は捕食しているのだろう。
「ほらほら、そんなこと言ってないでさっさとここから離れる。じゃないと、この死体目当てに別のがきちゃうんだから」
そんな事を考えていると、突然横からルセニアがそう言ってまくし立ててきた。
彼女の言葉に一同は確かにと同意する。
熾烈な環境である砂漠では死体ですら貴重な食料となる。そのため、ここで暮らす肉食の生き物達は死体の匂いを嗅ぎつけるとすぐさま飛んでくるのだ。
「確かに下手な戦闘は疲れるから避けたいところだな」
「ってことでほら行くわよ」
淡々と呟く刀弥。
一方、ルセニアはそれだけを告げると刀弥達に背を向け、一人先に歩みを進め始める。いつの間に回収したのか、既に彼女の体には戦闘前に放り投げたフードが羽織られていた。
それを見て刀弥達も慌てて投げ捨てたフードを拾い始める。そうしてそれらを拾い終えると、彼らはそれを羽織りながら急ぎ彼女の後を追いかけるのであった。
「で、その村まで後どのくらいなの?」
その途中、ふとレンがルセニアに村までの時間を尋ねる。
「ん~、あ、丁度見えてきた。あれなら夕方頃ぐらいかな」
彼女の問いに少し考え込んだルセニアだったが、目的地が見えてきている事に気が付くとそこからおおよその到着時間を計算。そうして時間を割り出すとそれを返答としてレンに返したのだった。
「どれどれ……あ、本当に見えてきた」
「思ったよりもでかいな」
彼女の言葉で刀弥達も村の影を見つける。しかし、刀弥には一つ不安なことがあった。
「あれ、蜃気楼じゃないだろうな?」
期待して違っていた場合、精神的なダメージはかなりでかい。体力はあり、ガイドのルセニアがいるとはいえぬか喜びは正直避けたい思いがあったのだ。
けれども、それは杞憂だった。刀弥の問い掛けにルセニアが首を横に振って応えたためだ。
「大丈夫。時間からしてもそろそろ見えてきてもいい頃だし、別の方向にある目印との位置関係から見てもあれは本物で間違いなし」
そこまで言うのなら大丈夫なのだろう。ようやく刀弥は安堵する。
「まあ、また砂漠の生物に襲われるかもしれないから、気は抜けないけどね。と・く・に!! リア!! 今度こそ気を付けてよね!!」
「わかってる、わかってるってば」
そう言いながらルセニアを追い抜くリア。
だがその直後、彼女の傍の砂が盛り上がったかと思うと次の瞬間、以前に見たことのあるサソリが姿を現した。
「「あ」」
それを見て思わず声を漏らす刀弥とレン。一方、リアは汗を垂らしルセニアはというと黙ってまま顔を伏せ腕を震わせている。
だがそれも短い間だけだった。すぐに彼女は顔を上げると周囲に響き渡るほどの怒号でリアに怒鳴りつける。
「この…………ばううううううううわかあああああああああああああ!!!!!」
そうして、本日二度目の戦闘が始まりを告げたのだった。