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無限の世界  作者: 蒼風
四章「強者を求める者」
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四章五話「全開の牙」(5)

「いや~。まいったまいった」


 右手で頭の後ろを掻きながらあははとレンが苦笑を浮かべる。


「刀弥。強いね~。おかげで負けちゃったよ」

「こっちだってなんとかっていう感じだ。強いってほどじゃない」


 そんな彼女に刀弥は遠慮気味な返事を返すのだった。



 現在、刀弥、リア、レンの三人は酒場に来ていた。

 理由はレンに誘われたためだ。内容としては『刀弥の勝利祝い』と『レンの敗北によるやけ酒の付き合い』。どちらかといえば後者が本当の目的のような気がしないでもない。


「お酒~、お酒~、お酒~」


 嬉しそうにリズムをとってお酒を連呼するレン。こうなるとやけ酒を口実に酒を飲みに来たようにしか見えない。

 と、そこまで考えた時、刀弥はある可能性に思い至った。

 心肺のしすぎかもしれないが、今の彼女ならやりかねない。とりあえず刀弥はその事については警戒するに留め、現状を楽しむことにした。


 そうして飲み物や食べ物が届く。

 それを受け取り並べ終えると三人の酒盛りは始まりを告げたのであった。


「ぷっはあ」


 始まりと同時にすぐさま届いた酒を飲み始めるレン。かなりのハイペースだ。


「いきなりそんなに飲んで大丈夫なのか? 早い内に酔っても知らないぞ」


 果物のジュースを飲みながら刀弥はそんな注意をする。けれども、レンは気にしない。


「いいの、いいの。やけ酒なんだから。ほら、リアも」


 そう言ってお酒に付き合っているリアのコップにお酒を注ぐと再び自分も飲み始めた。


「もうレンったら……」


 苦笑しながらも入れられたコップにリアは口をつける。こちらはスローペースだ。


「それにしても今日の試合はやられたな。まさか、思い切って攻めに転じてくるとは思わなかった。てっきりそのままチャンスを待って一気に反撃の流れかと思ってたよ」


 と、そこへレンが先の試合の話題を持ちだしてくる。

 他に語りたい話題もない。なので、二人はその話に付き合うことにした。


「いや、膠着状態だったしな。あの状態が延々と続くとなると基本後手になる俺のほうが不利だ。だから、思い切って攻め手に出た上で相手の大技を誘おうと思ってな」


 絶え間ない連続攻撃で反撃の機会を奪った状態からあえて隙を見せる。そうすれば相手はその隙を逃さないように一気に勝負を掛けてくるはずだ。

 となれば狙ってくるのは一瞬で終わる一撃の攻撃。さらにいえば刀弥が避けられない以上、相手が望むのは防御を抜くことのできる威力重視の一撃のはずだ。


「ああ、それを見越した上でのあの移動フェイントか。あ~やっぱりやられた~」


 相手の狙いを理解し突っ伏すレン。そうしてから彼女は再び顔を上げる。


「なんていうか策士というかずるいというか……普通、罠なんて張らずにそのまま攻めない?」


 確かに彼女の言う通り、普通に考えればその能力を活かして攻めに専念するだろう。しかし――


「いや、それだけで倒せるほどレンは甘い相手じゃないだろ。だから、もう一工夫入れてみたんだ」


 刀弥はそう考えたため、あのような行動をとったのだ。


「む~ん、そう言われるとなんか喜ぶべきなのか悔しがるべきなのかわからないな」


 彼の話を聞いてジト目になるレン。その顔は複雑な表情を見せている。

 と、そんな時だ。


「あ、こんなところにいたんだ」


 突然、刀弥の耳に聞き覚えのある声が届いた。

 その声に反応して刀弥とリアは声の方へと顔を向ける。すると、そこには見知った顔が立っていた。


「ルセニア」

「ルセニアさん」

「久しぶり~」


 なんと、そこにいたのはこの街まで二人を案内してくれたルセニアだったのだ。

 彼女を見つけて挨拶をする二人。

 一方ルセニアはそんな二人に手を振って応じると、そのまま三人の座る席へと向かって歩いてくる。


「はあ、ようやく見つけた」


 そして席につくと、やれやれといった感じでため息を吐いた。


「誰?」


 いきなりの登場に彼女のことを知らないレンが疑問の声をあげる。


「ルセニア・ガーネル。俺達をここまで連れてきてくれた人だ」


 すると、その疑問に刀弥は簡潔な説明で応じるのだった。


「へ~。そうなんだ。よろしく。あたしはレン・ソウルベッサー」

「知ってる。これでも闘技場は何度か見に行ってるから」


 そうしてレンとルセニアは握手を交わす。


「……それで俺達に何か用か?」


 やがて、挨拶が終わると刀弥はルセニアに質問を投げ掛ける。

 見つけたという言葉からして刀弥達を探していたのは間違いない。なので、どういう用件で探していたのか気になったのだ。

 そんな彼の問いにルセニアは自分の注文をとってから答える。


「ちょっと頼みごとがね。できればレンにも手伝ってもらいたいところかな」

「頼みごと……ですか?」


 随分といきなりだなと思いながらも二人は続きを促すことにした。


「実はここから少し離れた村がモンスター退治の人集めをしていてね。あたいもそのた手伝いをしているのよ」

「……ああ、あれか。そういえばそろそろそんな時期か」


 と、ルセニアの説明にレンがそんな言葉を漏らす。


「レンは知ってるのか?」

「うん。あたしは参加したことないけど、恒例みたいなもんだよ。毎回大変らしいけど……」

「まあ、その通り。具体的に言うとグーバラっていう巨大なモンスターの退治。定期的に現れてはその村に被害が行くんで毎回退治しているわけ」

「……その村、引っ越したほうがいいんじゃないか?」


 定期的に現れるということはその村はグーバラの進路上にある可能性が高い。

 ならば、そんな危険な場所に住むくらいなら安全な場所に村を立て直した方が危険もなくなる上に退治のための金を使う必要もないんじゃないかとつい刀弥は思ってしまったのだ。

 この刀弥の疑問にルセニアはこう返事を返す。


「いや、村といってもその一帯じゃかなり大きなオアシスだからね。交通の拠点としてもかなり重要な場所だからそこが駄目になるとかなり遠回りのルートしかなくなるの。だから、国も重要視しててね。退治の報酬も実は村からじゃなくてお国からなのよ」


 つまり、なくなったらかなり困る場所らしい。


「それに被害って言ってもグーバラが付近を通過するだけの話で村が踏み潰されたりするって訳じゃないし……もっともその時発生する砂嵐で毎回、家屋とかが壊れちゃったり、家畜が吹き飛んだりするみたいだけど……」

「ってことは退治っていうよりも基本は撃退か?」


 要は村に被害がいかないようにしたいという事だろう。ならば、最低目的はグーバラの撃退ということになる。


「その通り。基本は撃退。でも、退治できれば報酬も増えるってわけ。グーバラって肉は美味な上に骨や皮とかもいろいろと使い道があるからね~」


 どうやら当たりだったらしい。ルセニアが笑みを浮かべて頷いた。


「で、どうする?」

「どうする……か」


 その問い掛けに刀弥とリアは顔を見合わせる。

 安全を考えるのならこの依頼受けないのが懸命だ。しかし、巨大モンスターと聞くと好奇心が刺激されてしまい、興味本意からつい依頼を受けたくなってしまうのは未知を求める旅人の悲しい性だろうか。

 それはリアもまた同じだったのだろう。彼女の瞳には好奇心の色が現れていた。恐らく自分も同じ目をしているのだろうなと刀弥はそれを見て思ってしまう。

 瞳による会話は一瞬で終わった。そうして二人は声を揃えて返事を返す。


「「受けます」」


 二人が返したのは了承の言葉。これにルセニアは喜んだ。


「やった~。これで儲かった」


 どうやら仲介料をもらえるらしい。

 包み隠さず、漏らすルセニアに二人は苦笑するしかない。


「……ん~じゃあ、あたしも受けようかな」


 と、二人に触発されたせいなのか、いきなりレンも名乗りを上げてきた。


「え、嘘!? 本当!!!」


 思い掛けない臨時収入。これにはルセニアも驚愕したようだ。彼女はレンに迫り先程の言葉が冗談や嘘でないことを確かめようとする。


「う、うん。本当」


 その確認にレンは肯定を返した。


「やったー!! 臨時収入!!」


 その一言でルセニアのテンションは最高潮になったらしい。彼女は両手を上げ席から飛び上がる。

 この行動に周囲の席の人達が驚き、結果刀弥達の席は注目を集めることになってしまった。


 ようやく視線に気が付いたルセニアが恥ずかしそうにそそくさと席に座り直す。けれども、視線から完全に開放されたのはそれからしばらく経ってからの事だった。


「ごめんごめん」

「それで、いつ出発するんだ」


 刀弥達は闘技場に参加している。そのため、この依頼を受けるのならその旨を伝え闘技場の出場を停止してもらわなければならないのだ。


「出発は四日後、大体二日くらい掛かるかな。商隊とかからの情報だと村にグーバラがやってくるのは今から十日後って話。誤差はあるだろうけど、それだけの日にちがあるなら、そっちとしても余裕で出場の停止の申請はできるでしょ?」

「いや、ついでだ。俺は闘技場の登録を解除の手続きをしようかと思ってる」


 けれども、刀弥はそちらではなく闘技場の離脱の方を申請しようと考えていた。


「どうして?」


 意外だったのだろう。ルセニアが瞳を見開いて尋ねてくる。


「いや、時期も時期だしな。そろそろ頃合いを見て闘技場から抜けようとは思っていたんだ」


 元々刀弥達は旅人だ。日が経てば次の街や世界へと移動する。

 今回は闘技場に参加したため長々と居着いてしまったが、時期が来れば旅立つのは最初から決まっていたことなのだ。


「ふ~ん。それじゃあ、あたしもそうしようかな。リリスに槍のお礼を言いに行きたいし」


 と、刀弥の話を聞いてレンもそんな事を呟く。


「レンもか?」

「あたしも来てから結構経ってるんだ。闘技場が楽しくて長居してたけど、そろそろ別の場所へ行くのもいいかなとは思ってたんだよね」


 それならば確かに丁度いいかもしれない。


「えーと、とりあえず確認なんだけど、出発の予定は四日後で構わないんだよね?」


 と、そこにルセニアが割って入ってくる。どうやら出発予定の最終確認をしたいらしい。


「ああ」

「うん」

「それでいいよ」


 それに三人は三者三様に返事を返す。


「はいっと。それじゃあ、四日後に出発するから遅れないように」

「わかってるさ」


 そう言いながら置いていたジュースを再び飲み始める刀弥。

 しかし次の瞬間、彼はその飲み物を吹き出した。


「え、ちょ、なに?」

「どうしたの!? 刀弥」


 いきなりの事態に驚くルセニアとリア。けれども、レンだけは悪戯の成功した子供のようにニヤニヤと笑っている。

 それで刀弥は確信した。レンは刀弥のジュースにお酒を混ぜたのだ。

 されないように警戒していたつもりだったのだが、ルセニアの話に夢中になっていた隙に仕込まれたらしい。


「レン……お前な~」


 むせながらも恨みの視線を刀弥は投げかけるが、レンは素知らぬ顔で酒を飲み続ける。


「え~? なんのこと?」

「…………」


 それにムカッと来て思わず力尽くで白状させようかとも考えてしまったが、やったところで状況が変わるわけでもないので仕方なく断念する。


「ああ、そういうこと」

「あははは……」


 ようやく二人にも状況がわかったらしい。それぞれがそれぞれの顔で納得していた。


「それじゃあ、今後の方針が決まったところで続きといきますか~」

「そうこなくっちゃ」


 こうして夕刻の酒盛りは再び盛り上がり始めるのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 そして四日後の朝……

 四人はコローネスの出入口に立っていた。


「それじゃあ、準備はいい?」

「いいぞ」

「うん。準備完了」

「忘れ物はないし、出発していいぞ」


 ルセニアの確認とそれぞれがそんな応答を返す。


 

 刀弥とレンは無事、闘技場から脱退することができた。

 さすがに既に決まっている翌日の試合には出場したが、それが終わるとすぐに離脱の申請をしたのだ。

 次の日ぐらいは試合があることも覚悟していたが、脱退はすんなりと完了した。話を聞くにどうもグーバラへの参加は例え脱退であってもそちらを優先できるように優遇してくれているという話になっていたらしい。



「それじゃあ、出発。お願いだからはぐれないでよ」

「この面子でそんな事をする馬鹿はいないと思うが……」


 と、言いつつレンの方へ流し目を送る刀弥。


「ちょっと、まるであたしがモンスターの群れでも見たらいてもたってもいられずに飛び込んでいくと言いたいの?」

「……どうしてそこまで具体的な例があがるのかな?」


 聞きたくない話がでてきそうなので、それについての追求はやめておく。


「……はあ、このまま話してても仕方ないし、いきますか」


 そんなやり取りを見てルセニアは呆れたような声を出した。そうして彼女は一人でさっさと街の外へと歩き出す。

 それを見て後を追いかけ始める刀弥達。


 こうして彼らはコローネスを後にしたのだった。



           五話終了

四章終了

これで四章は終わりです。

長らくありがとうございました。


なんか、戦闘の文章が変わってね?と思うかもしれませんが、現状まだまだ未熟と自認しているため試行錯誤の最中だったります。


 自分が思い描く戦闘を書ける文章まではまだまだ遠いです。


 動作を詳細に書こうとすれば文章量が多くなり、文章量が多くなりすぎると文字の多さにダレてくる。

 しかし、ただ簡潔に書いても迫力は伝わらない……

 バランスが難しいところですね。


 と、まあ、勉強しながらですが頑張って行きたいと思います。

 ありがとうございました。

09/03

 ルセニアの口調の変更。なんか統一性がないのが気になってました。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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