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無限の世界  作者: 蒼風
四章「強者を求める者」
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四章五話「全開の牙」(4)

 最初に攻撃を仕掛けたのは意外にも刀弥の方だった。

 間合いに入っての斬撃。この意外な結果にレンは驚いてしまう。

 しかし、それでも戦い慣れた者。すぐに意識を取り戻すと後ろへと飛んで間合いから退避する。

 空を切る刀弥の刃。けれども、構わず彼は再び接近を試みた。

 しかし今度はレンが迎撃してくる。右足を狙った一突き。それを刀弥は刀を使って左へと逸らした。そして返す刃で一閃を見舞う。

 左下から右上へと踊る刃の線。レンはそれを再び後方へと飛ぶことで逃れる。

 そうしてから放たれる必殺の一刺し。今度の狙いは刀弥の左肩だった。それを刀弥は反時計回りに身を半回転させることで逃れ、踏み込む。

 既に刀は身を半回転させた事で剣先を相手に向けた水平状態となっている。そのため、刀弥はその刀をレン目掛けて一気に突き込んだ。

 これをレンはまたも下がることで回避。けれども次の瞬間、突き込んだ剣先から力が放たれた。

 斬波だ。先のように後ろへ下がることを予期していた刀弥が斬波で追撃してきたのだ。

 この追撃にレンは槍でのガードを選択。両手で水平に構えた槍に斬撃の力が衝突する。

 衝突音を響かせて霧散していく斬波。けれど、刀弥の攻撃はまだ終わらない。

 防御の間にまたまた間合いを詰めると槍のガードのない箇所へと刀を走らせた。


 今までとは違う刀弥の動き。その中で一番の差異は刀弥の体の動作だった。

 体の各所を精密に動作、連動させることで無駄な動きや余計な力を排除。その結果体の動作速度が向上させているのだ。

 これまでも一応はやっていたのだが、やはり五感の方に集中していたせいもあって僅かに綻びが生じてしまっていた。それを刀弥は肉体制御に集中することによって無くしていったのだ。

 とはいえ、それらによって得られる速度は僅かなもの。劇的という程速くなったわけでもない。

 しかし、例え僅かな向上であっても従来の反応では対応しきれない状態になるのであればそれは両者にとって大きな差だった。


 対処しても対処してもすぐに次の行動を始めている刀弥にレンは苦しそうな表情を見せる。動きの速くなった刀弥に反応できないせいで攻撃に対処しきれないのだ。おかげで不完全な形の防御や回避をとることになり、そのせいで即座に次の行動に移れないでいた。

 徐々にレンを押し始めていく刀弥。けれども、その一方で悪くなっている面も確かに存在した。

 稀に来るレンの反撃に体が反応しきれず負傷してしまうのだ。理由は当然、体の制御に意識向けているせいである。五感への意識の割り振りが減ったせいで相手の攻撃への反応が鈍くなっているのだ。

 だが、これは事前に覚悟していたことでもある。そのため、刀弥は怯むことなく攻撃を続行するのであった。



 槍が右肩を掠める。肩に振れる鋭い風。その感触を感じながら刀弥はただ前を見る。

 今の一撃。後少しずれていたら食らっていただろう。

 そんな事実に少しヒヤリとさせさられてしまうが、同時にそんな攻防を楽しんでいる自分も存在する。

 判断を誤れば即敗北の戦い。けれどもその要因は互いの実力の高さからくるものでもあった。

 間違えられない緊張感と判断が正しかった時の達成感。そのどちらもが心地良い感覚だ。

 そんな感覚を楽しみながら彼は刀を振るう。

 滑るように走る刃は、しかし相手が後ろに退避したことによって躱されてしまう。

 だが、刀弥は気にしない。これまで何度もあったパターンだ。いちいち気にしても仕方ないだろう。

 むしろ、今はそれよりも先の斬撃が思い描いた通りの動きだったという事の方が重要だった。

 それはつまりイメージと実際の動きに差異がなくなったということだ。ならば、今以上に精密な動きをすることも可能だろう。

 一体、どこまでの事ができるだろうか。そう思うと気分が高ぶりついつい頬を緩めてしまう。


 最高潮のコンディションに調度良い緊迫感。まさに現状は満足いく状況だ。

 できる事ならもうしばらくこの状況に浸り続けたいが、負けるつもりがない以上出し惜しみをする訳にもいかない。相手はそれだけの力を持っているのだ。

 そのため、刀弥は一気に勝負をつけることにした。



 攻撃の速度をさらに上げる。

 振り下ろし、振り上げ、袈裟懸け、突き。

 響く風を切る音と衝突音。幾度となく刃が交差し幾度となく攻撃が空を切る。

 そんな激しい連撃にレンの守りが徐々に崩されていった。

 それを見て刀弥はさらに攻めかかる。

 疾風怒涛というべき攻撃にレンはどうにか防御や回避を試みるが、刀弥が速すぎるせいで対応が追いつかない。

 結果、不完全な体勢での対応が原因で姿勢が崩れ、それが次の対応をさらに遅らせるという状態を生んでいた。


 そうして繰り返される一方的な攻防の図。だが、それも遂に終わりを迎えた。

 刀弥の攻撃を防ぎれなかったレンが大きくよろめいたのだ。それを見て刀弥は勝負を決めるべく縮地で一気に詰め寄る。


 風をかき分けながら進む刀弥。視界の向こうでは右手一本で持った槍に振られたレンの姿がある。

 誰がどう見てもチャンスだと思える構図。しかし、刀弥は見た。レンの新たな動きを始めたのを。


 最初に見えたのは左足を堪える姿だった。その上で彼女は槍を持った右腕を振られた勢いそのままに後ろへと回し腰を引く。

 そうしてできたのは左足を前にした半身の姿勢。槍を変わらず右手一本で持ったままだが、そのおかげでかなり後ろまで引くことができている。


 一突とよく似た体勢。それ故に刀弥は相手の狙いが突きによるカウンターだということに気がついた。

 だが、縮地を使っている今気がついたところでもう遅い。もはや避けることはできないのだ。

 そしてレンの突きが放たれた。

 足首、股関節、腰。それらの関節が円を描くように回り、それにさらに肩や肘、手首の捻りも加わる。

 回転運動が創りあげるのは威力と速度、そして捻りが与えるのは貫きの力だ。

 結果、生み出されたのは始めて見た試合以上の破壊の力だった。


渦槍(かそう)


 片手で持った槍を足首、腰といった全身を用いた回転運動で放ち、そこに肩、肘に手首による捻りを加えることで高い威力と貫通力を持たせたレンの必殺技だ。


 縮地を用いている以上、進路の変更は不可能。だが、この技の威力の前では細身の刀の防御など紙切れにも等しいだろう。


 故に誰もが決まったと思った。縮地を用いた当の本人を除いて……


 それは突然の事だった。いきなり移動中だった刀弥が失速を始めたのだ。

 急激な減速。これには攻撃最中のレンも目を見開く。

 だが、そうしている間にも速度は落ちていき遂には静止。彼の身は辿り着くであろうポイントよりも手間の場所で着地してしまった。


 恐らくレンは既に悟っているだろう。先程の縮地がレンの攻撃を誘うためのものだったということを。

 攻撃を誘い、攻撃直後の相手に一撃を叩きこむ。それが刀弥の狙いだったのだ。

 速度のままに抑え込んだところで彼女の実力ならば僅かな隙から逆転を狙うことも十分に可能だろう。

 だからこそ、隙を見せかけることでその可能性が起こるタイミングを意図的に起こさせたのだ。

 そしてそれは成功した。今まさに刀弥の目前に誘い出された攻撃が迫ってきている。けれどもそれは本来、辿り着くであろう場所にくることを前提として放たれた一撃だ。予定よりも手前にいる彼は今の状態でもその攻撃に十分反応できる。


 結果、彼が選んだ選択肢は突きの軌道を逸らすというものだった。真正面からぶつからないように刀で穂先の真横を叩く。

 みね側を用いた左から右への一閃。それで彼女の必殺の一突きは右へと逸れてしまった。だが、刀弥の行動はそれだけでは終わらない。

 なんと彼は叩いた刀をそのまま槍に絡めるように引っ掛けると、突きの威力を利用して身を回し始めたのだ。

 大きく時計回りに円を描く刀弥の体。半回転時には左足で蹴ることでさらにその速度を上げている。

 後の流れはレンも刀弥も想定通りの流れだった。

 体を前に倒して距離を詰め、回した身の勢いで一撃を振るう。レンの必殺技によってさらに速度が上がっている今、その威力は以前見せたものの比ではない。


 風野流剣術『疾風(しっぷう) (まどか)


 みね打ちによる強力な一撃。それで全てが決着した。

次の話で四章五話は終了、それをもちまして四章は全て終了となります。


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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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