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無限の世界  作者: 蒼風
四章「強者を求める者」
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四章五話「全開の牙」(2)

 翌日、刀弥とレンは闘技場のバトルフィードの上に立っていた。

 既に周囲は観客でひしめいており、その中には当然リアの姿もある。

 時間は昼と夕方の間、温度が管理されているとはいえ時間的には暑すぎずけれども寒過ぎない時間帯だ。


 そんな中で刀弥は己の体の調子を確かめていた。

 体に疲れている様子はない。昨日は睡眠もばっちりとっている。先程確かめた体の動きも問題はなかった。そして何より、負けたくないという気持ちは相手よりも優っているつもりだ。

 故に刀弥は己の調子を万全だと判断した。


 一方レンはというと槍を両手に持ちながら目を閉じ静かに佇んでいた。呼吸のリズムが独特な事から瞑想あるいは己の集中を高めているのだと推測する。

 だが、それも終わったようだ。レンがゆっくりと目を開け、その顔を眼前に立つ刀弥へと向けてくる。


「準備万端って感じだな」

「まあね。今日は絶好調って感じだよ」


 そんな感じで軽いをやり取りを交わす二人。開始の時間はすぐそこまで迫っている。


「それじゃあ、そろそろ位置につこうか」

「そうだな」

「楽しみにしてるぞ」

「それはこっちの台詞だ」


 そうして二人はそれぞれの位置へと向かった。

 位置につくと刀弥は深呼吸をする。すると新鮮な空気が体に入り気分がスッキリした。

 そうした後で彼は戦いの始まりを待つ。

 既に右手は腰の刀の持ち手に添えていた。一方、レンの方は左足を前、右足を後ろにした半身の体勢。槍も左手を前、右手が後ろという持ち方だ。


 刻々と近づいてくる時間。その中で二人は静かに睨み合う。

 そうして訪れた始まりの音。それによって戦いの火蓋は切って落とされた。


 最初に動いたのは刀弥。彼は瞬歩で一気にレンとの距離を詰める。

 一瞬で縮まる両者の間。けれども、それを見てもレンは動かない。どうやら彼女は迎撃を選んだようだ。

 そのまま直線上に走っていこうかとも刀弥は思ったが、ここは念には念を入れ別の接近方法を選ぶことにした。

 槍の間合いへ入る直前に方向転換し瞬歩。向かうべき先はレンの背中だ。

 槍の死角に回りこみ抜刀を叩きこむ。それが刀弥の狙いだ。しかし、この程度の攻撃、レンに通じないだろう。

 そしてその予感は当たった。刀弥の移動直後、レンの迎撃が行われたからだ。

 彼女が選んだ迎撃方法は石付き側による突き。己の身を時計回りに回すとそのまま背後を見ることなく接近する刀弥に向けて石突きを突いてきたのだ。

 これに対し刀弥は抜刀。持ち手の底で石突きを右へと弾くとそのまま刀を引き抜いた。そうしてから彼はレンの背中に向けて刀を突き込む。

 それにレンが反応した。彼女は前、すなわち刀弥から離れる方向へと己を飛ばし攻撃を回避したのだ。


 一旦、離れる両者の距離。けれども、その距離はまだレンの間合いの内だった。

 反時計回りに回ったレンが槍を突き込む。刀の間合い外である以上、刀弥は反撃することができない。必然、彼は刀を使って槍を再び右へと逸らすことしかできなかった。

 しかし、刀が空を振る。理由は既に槍が戻っていたためだ。

 先程の攻撃は刀の防御を誘うためのフェイント。直後、本命が来た。

 体の中央やや右寄りに目掛けて真っ直ぐ伸びてくる穂先。もはや刀で逸らすことは叶わない。

 判断は一瞬、直後刀弥は回避を選択した。空振りに終わった刀はまだその勢いを衰えさせていない。彼はそれを利用することにしたのだ。

 左足を軸とした刀の勢いを利用しての身の回し。

 時計回りに回る体を穂先が追ってくる。一瞬、体にチクリとした感触を感じたが、結果はそれだけだった。


 身を回しながらレンの方へと身を倒していく刀弥。それで数歩ほど距離を稼ぐと、続く右足の一歩で一気に刀の間合いまで詰める。

 そうして放つ右から左への水平斬り。

 これをレンはまた下がることで逃れた。下がった直後に彼女は槍を放つ。

 それを刀弥は右へとステップすることで回避。回避した刀弥はすぐさま先程とは逆の水平斬りを見舞った。

 それをまたまた後退することで避けるレン。どうやら彼女は己が届き刀弥の届かない間合いで戦うつもりのようだ。

 そうして己だけの間合いまで後退すると、再びレンは槍の一点を繰り出す。

 今度のは力強さはなくどちらかというと軽い感じだった。けれど、それ故に切り返しの戻りも早い。

 回避した直後には既に二発目の一点が撃ち出されていた。回避直後のせいで今度のは避けることができない。そのまま貫きの一撃が刀弥に迫ってくる。

 響く音。しかし、それはレンの望んだ貫く音ではなく金属同士がぶつかり合う音だった。

 攻撃から戻した刀弥の刀が防御に間に合ったのだ。そうして刀弥は力任せに防いだ槍を刀で押し返すとその勢いのままに前へ出る。

 押し返されたレンはというとその勢いを利用して後ろへと飛んでいた。そうして着陸した彼女はまた刀弥に向けて槍を放とうと構えに入る。

 だが、それよりも先に刀弥が刀を振り下ろした。彼から見て右上から左下への振り。

 無論、そこは刀の間合いではないのでレンには届かない。けれども、彼女は攻撃を中断し右へと移動する。

 その直後、斬撃が宙を走った。斬波だ。

 斬撃はレンの左側通りすぎていく。もし彼女が右へと逃れていなければ斬撃は彼女を斬り刻んでいただろう。

 この間に刀弥は接近。再び己の間合いまで入り込むと今度は突きを放った。

 狙う先は左腕。腕を負傷させ槍の動きを制限しようという狙いだ。

 けれども、レンはこれを槍を使って内から外へと流すことで対処した。そうした上で彼女は刀弥に向けて穂先を戻す。

 穂先の先にあるのは刀弥は顔。すぐさま刀弥は膝を曲げてこれを潜った。そうして攻撃をやり過ごすと今度は膝を伸ばしつつレン目掛けて斬り上げる。


 これをレンは右へと強引に倒れる事でことでやり過ごした。その最中、彼女は戻した槍の勢いで時計回りに体を回す。そして刀が左側を通り過ぎると同時にレンは回転を利用した石突きの突きで反撃した。

 石突きの向かう先は刀弥の左脇。すぐに刀弥は右へと体を動かし石突きを躱した。しかし、直後に槍の穂先が襲い掛かる。石突きを躱されたと同時にレンが左手を手放し、右手一つで槍を振り回したためだ。時計回りに円を描く槍は回る身もあって急速に刀弥へと接近する。

 近づいてくる穂先の狙いは右脇腹。刀を振り上げたために左肩辺りにある。防御は間に合わない。

 そこで刀弥は前に出ることを選んだ。前に出ることで右脇腹に当たる部分を穂先ではなく柄にしようとしたのだ。

 体に響く打撃の衝撃。言うまでもなく柄を受けた衝撃だ。その痛みに一瞬、刀弥は苦悶の表情を浮かべるがそれもすぐに元へと戻った。

 突きからの中断による振りで十分な姿勢ではなかったこともあるのだろう。威力はそれ程高くなかった。

 そうして彼は振り上げていた刀の刃を反転させるとすぐさまレンの右肩目掛けて振り下ろす。

 瞬間、彼女は右手を開放した。今や完全に自由となった槍は重力に引かれるままに落ちていく。

 槍を手放したおかげでレンの体は再び倒れだした。それに加えて彼女は体を反らし刀弥の刀を避けようとする。

 結果、レンの右肩の左側を刀弥の刀が掠めていった。それを見送りながら彼女は新たな動きを始める。

 彼女の槍は右足のつま先部分に落ちて――否、落ちるように手放されていた。その槍を彼女は上へと跳ね上げさせる。

 回転しながら上昇する槍。それはレンから見て反時計回りにゆっくりと回っていた。その回転の中を振り下ろされた刀が通り抜ける。


 行き違う二つの武器。そうして次の瞬間、レンは槍を右手で回収し刀弥は彼女から見て右へと動いていた。その軌道は回りこむ動きだ。

 その動きに対しレンは右手だけで槍を動かすと石突きで突き込み彼の回り込みを遮ろうとする。けれども、それを刀弥は飛び越える事で対処した。レンが倒れていっている現状、石突き側は低い位置にある。それ故の対処だ。

 しかし、そこにレンが動きを追加した。彼女は突きをさらに深く入れたのだ。

 石突きの先にあるのはバトルフィールドの床。そのため、床に石突きがぶつかった。

 鳴り響く衝突音。床に石突きをぶつけた反動でレンの身が刀弥から離れ出す。

 それを見て彼女を追おうとする刀弥。けれども、既に迎撃の体勢が整いつつあるレンを見て刀弥は追うのを諦めた。

 刀を構えたまま彼はレンを見据える。


「ふう、危なかった~。やっぱり、間合いの内側に相手を入れていい事はなんてないね」


 やがて、冷や汗を右手で拭いながらレンが話し掛けてきた。

 軽い口調。けれども、それとは裏腹に僅かに漏れ出る気配は炎のように激しく揺らめいている。どうやら戦意は衰えていないようだ。


「こっちとしては入れてほしいところなんだけどな」


 そんな彼女に刀弥も答える。

 実際、入らなければ反撃もままならない。向こうは刀弥の間合い外から一方的に攻撃できるのだ。突きという出の早い攻撃手段も相まって間合い外で刀弥が勝つのは難しい。


「いやいや、刀弥がその気になったら間合いに入るなんて簡単でしょ。気がついたら目の前にいたとしてもあたし驚かないよ」

「それは買い被り過ぎだ」


 実際、それをやろうと思ったらまず相手の隙を突くことが条件となる。縮地は一気に移動できる分、軌道の変更が利かないのが欠点だ。レン程の実力ならば不意を打つ等をしなければまず成功しないだろう。


「なにか考えてる?」

「まさか」


 と、そんな彼の思考を目敏く嗅ぎつけたのかレンがそんな問いを投げ掛けてきた。が、刀弥はあえて惚けたふりをしてそれを受け流す。


「そう? まあ、休憩もできたしそれで十分か。それじゃあ今度はあたしから行くよ。だから……油断しないでよ」


 瞬間、レンが駆け出した。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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