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無限の世界  作者: 蒼風
四章「強者を求める者」
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四章三話「天馬の魔術師」(4)

 セレンはそんな光景を上空より眺めていた。

 現在、地上には砂煙が撒い視界が悪い状態となっている。そのためセレンは今刀弥がどうなっているのか確かめることができないでいた。

 バトルフィールド全域が範囲となる大規模魔術。それだけに回避は実質不可能だ。

 威力の方も高く、真正面から受ければまず動ける状態ではなくなる。

 けれども、セレンは己の力を過信していなかった。そのため、彼女は未だ空中に留まり続けている。この場所なら攻撃が来てもまず回避できるためだ。

 視界は未だ晴れない。トランプルエアが舞い上げた塵や砂煙が未だにバトルフィールドを覆っているためだ。

 威力を高いのも考えものかもねとそんな感想が頭に浮かぶ。


 その時だ。突然砂煙が縦に割れた。

 それが斬撃の斬波だと気付いたセレンは手綱を引き天馬を操る。

 彼が未だ斬波を撃てる状態であることは驚きだが、理由は考えるのは後だ。今は回避に集中する。

 現在、天馬は空中を斬波に向かって前進している状態だ。斬波の向かう先は天馬の右翼。

 故にセレンは迷わず天馬の高度を落とすことにした。その方が回避の距離が短く済むからだ。

 高度が落ち、天馬の身が沈み込む。

 斬波との交差は一瞬、それを持って成否が決定した。

 天馬がぐらつく。翼の先が少し傷ついたためだ。しかし、傷自体は深いものではない。ぐらついたのは傷の痛みによる怯みからだろう。


 ともかく斬波を回避した。攻撃位置は既に見当がついている。後はそこへ魔術を放つだけだ。そう思考し行動に移そうとするセレン。


 しかしその直後、今なお晴れない砂塵の向こうから鞘が飛んできた。

 先がこちらに向けられた鞘の行先は天馬の頭部、左目辺り。飛んでくる軌道といい狙ったかのようなタイミングだ。

 それでセレンは先程の攻撃がこの場所へと誘導するためのものだと気が付いた。

 鞘の速度は速い。もし、顔面にぶつかれば先程のぐらつきなど比ではないだろう。ひょっとしたら墜落するかもしれない。

 瞬間の判断で右へと体を傾ける。彼女の全体重が右へと掛かり、それに引かれて天馬の身も傾いた。それは頭部も同様だ。

 結果、鞘は天馬の頭部左を掠め過ぎ去ってしまった。けれども、セレンは気を抜かない。

 相手は先を見越して二撃目を放っていたのだ。恐らくこの流れを予想した三撃目の本命があるはずだと確信に近い予感があったためだ。


 その予想通り、彼女の目前にその本命が現れた。

 飛んできたのは刀弥が使っていた刀だ。斬波を放ち、続いて鞘も投げている。残る武器といえばこれしかない。だからこそ、確実に当たるようにと先の二つの攻撃で誘導したのだ。

 刀は刃を下にして真っ直ぐ天馬の乗り手目掛けて飛んでくる。方向は天馬の首と左翼との間。その軌道からセレンは相手が勝負を決めにきたのだと確信した。

 砂塵が舞い視界の悪いこの状況でこれまでもしっかり狙えたのは恐らく天馬の羽ばたきのせいだろう。そこから正確に位置を探り、姿勢、向き、果ては攻撃を受けた場合の動きと距離まで割り出したその感覚(さいのう)には脱帽するしかない。

 加えて言えば、そんな場所へと正確に飛ばせれる技量も賞賛に値する。どうやら彼はこの闘技場にいる武術使いの中でもなかなかの有望株らしい。つい、将来が楽しみになってしまう。

 だが、褒めるのはそこまでだ。今は戦いの最中である以上、これを打ち破るのは対戦相手としての義務でもある。


 その意思を持ってセレンは対処に動いた。彼女は風の矢を展開し、それを刀に向けて撃ち放ったのだ。

 この展開を予想していた以上、対処のための準備はとっくに済ませている。後は向こうの動きを待つばかりだったのだ。

 飛んでくる刀に風の矢が殺到する。風の矢の軌道は一発一発がそれぞれ別方向へと広がる散弾のような軌道だ。

 迎撃のための命中重視。それを持って彼女は刀弥の刀を迎撃した。

 風の矢の一発に当たり飛翔していた刀が回転しながら大きく弾かれる。


 これで相手は武器も何もない丸裸の状態となった。前回の試合で拳での斬波を用いているため完全に安全ではないが、向こうの戦力が落ちたのは確かだ。

 そう思い、先程刀が飛んできた場所へと視線を向ける。

 足音は聞こえない。ならば、相手は動いていないはずだ。そこに攻撃を仕掛ける。

 そうして彼女は己の意識内で魔術式の構築を始めた。

 けれども、それは途中で中断してしまう。突然天馬が墜落を始めたからだ。


「な!?」


 何故という疑問でセレンの頭は埋め尽くされる。

 刀は確かに迎撃した。それは彼女も直接この目確かめている。

 にも関わらず、天馬は墜落していた。

 どうしてこうなったのかがわからない。

 混乱する思考。そんな中でセレンの視線は右往左往し、そして左翼に刺さったある物を見つけた。


「これは……」


 彼女が見つけたある物。それは多くの旅人がスペーサーに入れて持ち歩いている多目的ナイフだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 風を切る音が近づいてくる。どうやら策は上手く行ったらしい。

 その事に内心満足を得つつ、刀弥はある場所へと向かって走りだした。

 彼の体には至る所に傷がある。切り傷、擦り傷、打撲傷。だが、いずれもそれ程深くはなくよく見ると傷は背中や首後ろなど背後のほうに集中していた。

 刀弥は一瞬、背後を振り返る。砂煙が舞っているせいで彼の視線の先に何があるのかは視えない。しかし、その視線の先には確かに先の危機を脱するのに利用したあるものがあった。



 トランプルエアの規模を悟った瞬間、刀弥は回避を諦めダメージを如何に軽減するかに思考を裂いていた。

 その結果、彼が目をつけたのは風の砲撃によって生まれた大穴だ。

 あそこに身を入れれば多少はダメージを抑えられるかもしれない。そう推測した彼はすぐさまその場所へと向かい穴の中に身を隠した。

 その直後、風の爆発が襲いかかる。

 吹き荒れる蹂躙の嵐。飛び散った破片が飛び回り、それによって晒していた背中部分が傷付く。

 だが、ダメージと呼べる負傷はそれだけで結果的にダメージの軽減には成功した。


 後は羽ばたきの音から相手の位置を推測して、斬波、鞘、刀、多目的ナイフを相手が意図通り動くよう精密にコントロールして投擲するだけ。

 多目的ナイフは砂煙が舞っている間にスペーサーから取り出したものだ。おかげでセレンに気付かれることはなく反撃の準備ができた。

 本命である多目的ナイフは他のとは違い投擲に工夫を入れている。ブーメランの要領で回転させ投げたのだ。

 これによって多目的ナイフはカーブを描きセレンの死角――左翼の下側――から接近。見事左翼に突き刺さり天馬を落とすのに成功したのだった。



 刀弥は視線を背後から正面へと戻す。と、砂煙の向こうから目的のものが姿を見せ始めていた。

 彼が目指していた物。それはもちろん彼の愛刀だった。落下音はしっかり聞いている。そのため、刀がどこに落ちたのかは既にわかっていたのだ。


 愛刀を拾い上げると刀弥はすぐさま方向転換。今度は天馬が落ちた方へと向かって駆け出した。

 その途中、蹴りの斬波を放つ。と、斬波が砂煙の向こうで迎撃された。相手の風魔術による迎撃だ。

 その反応から相手の位置を大まかに予測した刀弥はすぐさま右へと折れる。

 直後、彼の左側を風の矢群が通り抜けていった。残波が来た方向に相手がいると判断した相手が反撃を放ってきたのだ。

 それを横目に見送りながら足音を抑えて刀弥は回りこむ。

 そうして予定ではそろそろ天馬の姿が見えるかという直前だった。

 突如、目の前の砂煙が渦巻き始めていることに気づく。


 咄嗟の判断で刀弥は後退。見ると目前に巨大な竜巻の壁ができていた。リアも用いていた『ウォールストーム』という魔術だ。

 どうやらどの方向から襲われても迎撃できるようにと考えてこの魔術を用いたらしい。

 翼の負傷は直接見たわけではないが、簡単に飛べるものではないはずなのでこの間に上昇という可能性はないだろう。

 だが、ここで待ちに入っても相手の態勢を整わせるだけだ。

 刀弥は目前の竜巻を見据える。

 問題はこの竜巻をどう突破するかだ。破片を上から投げつけて相手を乱すのも手だが、できればもう少し積極的な手がほしいとも思っている。

 思案は数秒程。それで刀弥は妙案を思いついた。



      ――――――――――――****―――――――――――



 『ウォールストーム』の中でセレンは自分達の状態を確かめる。

 セレン本人は大丈夫だ。墜落の際に天馬から落馬し肩を打ったが、それ程痛みはない。

 むしろ、重傷なのは天馬の方だった。左翼には多目的ナイフが深々と刺さっている。

 触れるだけでも痛がるのだから、翼を動かすのは無理だろう。これで空を飛ぶことを封じれたという訳だ。


 それを頭に入れセレンは今後の戦い方を模索する。

 空が飛べない以上、戦いは地上での戦闘が主となるのは間違いない。

 天馬の地上速度は並の馬より少し遅い程度。速い訳ではないが、人の走る速度よりかは上だ。

 と、なれば基本的な戦い方は距離を取る戦法が考えられる。

 当然、相手はそれを避けるために場所取りを駆使してこちらを誘導してくるだろう。だが、それは読めれば相手の行き先がわかるということだ。後はそれを逆手に取って攻めればいい。

 そうやって勝つための戦法を脳内で組み上げていくセレン。

 と、その時だ。突然竜巻の外から観客達のどよめきが響いてきた。

 それに気づき、彼女は顔を上げる。


 すると、目の前で刀弥が竜巻に飛び込むのが視界に入った。当然、彼は竜巻に引き込まれ上昇していく。

 そのまま竜巻の中へと飲み込まれると誰もがそう思った。しかしその予想は覆される。何故なら彼の進行方向先から『あるもの』が迫ってきたためだ。


 彼に迫ったもの。それは蹴りの斬波だった。どうやら飛び込む直前に別方向に放っておいたものが曲がってそこへと飛んできたようだ。

 刀弥に向かってくる蹴りの斬波。その軌道は右へのカーブを描きつつ僅かに上へと昇っている。

 そうして蹴りの斬波が彼の傍までやってきた。その瞬間、刀弥は踵落としと後ろ回し蹴りの中間のような左蹴りを蹴りの斬波へと繰り出す。

 ぶつかり合う二つの力。その結果、刀弥はさらに高くへと舞い上がった。なんと、彼は斬波の力を足場にしてさらに上へと飛び上がったのだ。

 竜巻の上昇気流という援護もあって彼の身は本来以上の高さへと昇っていく。


 ここに至ってセレンは刀弥の狙いに気が付いた。

 彼の目的は竜巻を登り切りその真上に辿り着く事なのだ。


――待ち構えずに攻めにきますか。


 こちらに主導権を握らせないための策なのだろうが、なんとまあ思い切った事をするものだと感心してしまう。

 だが、勢いから考えても行ける高さは刀弥の身長の大体二.五倍。竜巻の高さは刀弥の身長の大体四倍なので、どう見てもまだ高さが足りない。

 このままでは風の壁を飛び越えることができず、飲み込まれてしまう。だが、そうなるのであれば最初からそのような愚行はしないはずだ。

 一体どうするのか。まるで見守るのように刀弥の行動を注視するセレン。


 その直後、彼は新たな動きを始めた。

 彼は身を回し己の背後へ蹴りを振り放ったのだ。

 動きは鈍くけれども重さを感じる大振り。恐らく威力を意識した一撃なのだろう。身の捻りと体重移動だけでよくあれだけの事ができると思わずセレンは感服してしまう。

 と、足先から力が放たれた。どうやら残波のようだ。

 威力を重視した蹴りの斬波は放たれた一撃と同じように遅い速度で渦を逆行し始める。

 本来であれば簡単に避けられるほどの速度。だが、そんな斬波に渦の流れに乗った刀弥が迫った。

 再び斬波を足場にしての上昇。おかげで彼の身は完全に竜巻から脱した。


 それを確認したセレンはすぐさまウォールストームを解除し、新たな魔術式を意識内に構築する。

 そうして放たれたのは風の矢だった。数は六本。それが群れをなして空にいる刀弥へと連続で襲いかかる。


 これに刀弥は刀で対応した。一発目を刀の振りで防ぎ、衝撃の反動で体を時計回りに回転。続く二発目は体重移動で体を傾けさせて避けると回転の勢いを用いて三発目を迎撃する。その際、迎撃の衝撃を利用して左へと移動。四発目をその移動で回避すると五発目を刀の柄頭で受け止め、六発目は反転した回転切りで斬り飛ばした。

 そうして攻撃を防いだ刀弥はそのままさらに一回転。勢いそのままに斬撃の斬波をセレンに見舞う。


 迫る斬波に対しセレンは天馬を走らせ対応。彼女の背後で斬撃が床を斬り裂いた。

 刀弥の方を見ると彼は身を回したまま、まだ空中にいる状態だ。それを見てセレンは急いで魔術式を構築。今度は風の砲撃『エアロブラスト』を刀弥に向けて撃ち放った。


 前回は上からの攻撃という状況を利用して対処されたが、今回は真正面からの砲撃だ。以前のような対応はできない。

 どうするのかとセレンは内心で相手に問い掛ける。

 すると、それに刀弥が答えを返した。


 彼が返した解答、それは斬波による迎撃だった。身を回し続けていた回転の力で再び蹴りの斬波を放ったのだ。

 蹴りの力を受けて風の砲撃が一瞬だけ止まる。けれども、止まったのはほんの一瞬のみ。次の瞬間には風の砲撃が勝り、蹴りの力は砲撃に貫かれ霧散してしまった。


 だが、相手はそれで問題なかったらしい。僅かとはいえ刀弥は稼いだ時間のおかげで地面に着地、すぐさま左へと飛び砲撃の範囲から逃れた。


 横を過ぎていく砲撃を尻目に刀弥は斬波で反撃。それをセレンは風の斬撃で迎撃する。

 ぶつかり合い散っていく力と風。そこを刀弥が駆け抜けていった。

 既にセレンは天馬を駆け彼から距離をとり始めている。

 追う刀弥と逃げるセレン。

 こうして戦いは新たな局面へと変わっていったのだった。

予定では戦闘は次回でラストの予定です。

その後は少し話を入れて終わるつもりとなっております。

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