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無限の世界  作者: 蒼風
四章「強者を求める者」
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四章三話「天馬の魔術師」(3)

戦闘開始です。

どうぞよろしくお願いします。

 そうして翌日……

 刀弥は闘技場にいた。向かい側にはセレンが彼を見下ろしている。


「それが昨日言っていた『待たせている子』ですか?」

「はい。私の翼でもあり、私の一部ともいえる子です。名前はペルセといいます」


 刀弥の問いにセレンは微笑みながらそう返し、己が跨っている生き物を紹介した。

 美しい白い毛並みと鳥のような翼。四本の足は大地をしっかりと踏みしめるように力強く、響くいななきは周囲に気高き姿をしらしめる。


 セレンが紹介するその子。それは刀弥から見て天馬(ペガサス)と呼ばれる生き物によく似た生物だった。


「長い付き合いという事ですか」

「この子とは家出を始めた時から一緒です」


 それ程長い付き合いらしい。セレンが天馬の頭を撫でると天馬は気持ちよさそうに目を緩める。


「それでは長話も何ですし、お互い身構えましょうか」

「わかりました」


 もう少し天馬を眺めていたい気持ちもあるが、今は試合前だ。そういう訳にもいかない。


 こうして両者は試合開始前の身構えに入ったのだった。

 セレンは鞍の上で天馬の手綱を握り、刀弥は腰に挿している刀の持ち手を右手で掴むという格好だ。

 構えが始まった瞬間、闘技場は静寂に包まれた。先程までと打って変わるほどの静けさ。両者はその中で指一つ微動だにせず、相手を見据えている。

 共に始まれば動き出さんという格好だ。そんな彼らを見逃さないようにと観客達は息を詰め見つめていた。


 やがて、始まりを告げる音が響き渡る。

 瞬間、両者はすぐさま行動を開始した。

 セレンは天馬を羽ばたかせ、刀弥はそんな彼女らに最短距離で突っ込む。

 迷いのない真っ直ぐな移動。そうする理由は簡単だ。向こうが飛び立つ前に仕掛けないとこちらが不利になるからだ。


 空も飛べる上に魔術で様々な遠距離攻撃ができるセレン。対し地上しか移動できず遠距離攻撃も斬波しかない刀弥。天馬が空を飛べばどちらが有利になるかは明白だ。

 故に刀弥は天馬が飛び立つ前に、どうしても飛行を封じなければならなかったのだ。


 だが、無論相手も黙って見ているだけではない。事実、セレンは風の矢を一つ生み出し、それを刀弥に目掛けて放ってきたのだ。

 短いタイムラグでの発動を意識した攻撃。それ故に数や威力こそないが、妨害として考えた場合なら、それだけで十分意味があるものだ。

 風の矢が狙うのは刀弥の腹部。絶妙な高さだけに伏せるのも飛び越えるのも不可能だ。

 そんな攻撃に対して刀弥が選んだ対処方法。それは身を回して避けるというものだった。

 攻撃は避けたい。けれども、回避のために回りこみすぎるとその分余計な時間を食ってしまう。一秒でも早く辿り着きたい現状でそれはかなり致命的な損失なのだ。

 そこで彼は最小の回避動作だけで今回の攻撃を対処することにした。

 右へ僅かに体の中心をずらし、風の矢が当たるかというタイミングで身を反時計回りに回す。

 結果、風の矢が生む余波を服越しに感じることになってしまったが、回避には成功した。そのまま風の矢は後方へと飛んでいく。

 風の矢を回避した刀弥はそのまま突き進み、やがて己の間合いへと入った。

 すぐさま彼は地面を強く蹴りその白い翼目掛けて斬撃を振り放つ。


 風野流剣術『疾風(しっぷう)


 速度を乗せて放った斬撃は、しかし天より舞い落ちる白い羽を斬るにとどまった。


「くっ」


 妨害は紙一重で間に合わなかったのだ。

 悔しさを漏らしながら、彼は天を睨む。


「ギリギリでした。予想以上に足はお速いようで」


 一方、相手の方もかなりヒヤヒヤしていたらしい。引き締めていた表情を少し緩めそんな称賛を送ってきた。


 そんな言葉を受け取りながら刀弥は思案する。

 相手が飛んだ以上、状況はセレンの優勢だ。これを打開するには間合いに入った瞬間に倒すか、そもそも相手を地に降ろすかのいずれしかない。

 無論相手はその辺りは警戒しているだろう。そのため簡単に事は運ばない。

 遠距離攻撃手段はあるにはあるが、相手もそれを想定しているのは間違いない。加えて撃てるのが単発のみとなれば、闇雲に撃ったところで避けられるのが関の山だ。せめて後二,三手程攻撃が欲しい。


 と、そこへ風の矢が八発、刀弥へと向けて飛んできた。配置は円状で、正面、上と左右から包み込むような軌道だ。

 これに刀弥は後退で対応。一度の跳躍で彼は矢の範囲から逃れた。


 そこに今度は風の砲撃が迫る。どうやら先の攻撃はこの流れを想定して放ったようだ。上手い繋ぎだと内心で賞賛する。

 刀弥は現在跳躍中。回避は当然不可能だ。しかし、防御したくても刀で防げるようなものでもない。


 砲撃が刀弥へと接近する。だが、刀弥はまだ動かない。彼が動いたのは砲撃が己の刀の間合いに入ろうかという時だった。

 体重移動と腰の捻りによる時計回りの振り抜き。地に足を付けている時よりかは遅いが、それでも刀は振れている。

 だが、この程度の剣戟で風の砲撃など斬れるわけもない。無論それは刀弥もわかっている。だからこそ、彼の狙いは最初から風の砲撃の先端を横から叩くことにあった。

 そして刀が風の砲撃を横側から叩く。

 返ってくる手応えは軽いものだった。叩いた反動で彼の身が左へと動く。けれども、反動は予想よりも小さなものだった。

 予想していたよりも小さな反動だったせいもあって移動距離は伸びず、さらに砲撃が彼の刀を飲み込む。

 結果、刀弥は刀を通じて前からの圧力を受けた。


――思ったよりも反動がなかった。


 このままでは風の砲撃に喰われそのまま地面に激突するのは想像に難くない。

 思案は一瞬。それを持って刀弥は決断した。

 衝撃で痛む右腕を堪えて彼はさらに身を回したのだ。

 回転によって前からの力は横へと逃がされていく。だが、全ての力を逃がすことは現在の刀弥の技量では不可能。現状、軽減できるのは良くて三割だ。

 その軽減できなかった力を受けて彼の身は下後方へと落ちていく。当然、この後に待っているのは地面への接地だ。


 地に足が付いた。しかし、風の砲撃は最早すぐ傍にある。現在、刀弥の向きは回転によって砲撃に対し背中を見せている状態だ。これでは防御姿勢をとることもできない。

 だが、この状態は刀弥の予定のうちだった。即座の動作で彼は左足の力を抜き、身を前へと倒していく。

 重力と背後の風の圧力で倒れていく体は加速。それと共に右足を前へと滑らせた。

 後は前へと滑らせた右足を蹴りだすだけだ。限界まで右足を滑らせた後、彼はそれをすぐさま実行した。

 後ろで風の爆発を巻き起こる。風の砲撃が床にぶつかり力をまき散らし始めたのだ。それを援護に彼はさらに速度を上げていく。

 そうして距離をとった後、刀弥は即座に体の状態を確かめた。

 右腕と右足に痛みがあるが、まだ充分動かせる範囲だ。ならば、問題ないと言っていいだろう。


 そんな彼に今度は風の斬撃が襲いかかってくる。


『エアスラッシュ』


 風を刃状まで圧縮させて放つことで対象を切断する魔術だ。

 走る斬撃は三つ。形状は三日月型だ。いずれも透明で視認が難しい。だが、それでも僅かに生まれる歪みのおかげでどこにあるのかは確認できる。

 正面から三つ。即座の判断で刀弥は斬撃の間に体を滑り込ませる。

 床を斬り裂く風の斬撃。並列に三つ並んでいるせいか、その跡はまるで獣の爪で切り裂かれたかのようだった。


 と、その時、斬撃が突如として方向を変える。

 一瞬、上空をチラッと見ると、セレンが刀弥の方を凝視しているのが見えた。どうやらこの魔術は発動後も操作ができるタイプだったらしい。

 避けたところで軌道を変えてまた追いかけてくるだけだ。ならば迎撃するしかない。

 右へ、と見せかけて左へと縮地で抜けた刀弥は背後、三つの斬撃の方へと振り返る。今のところ、セレンが新たな攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 それを確かめると刀弥はすぐさま構えを作り、斬波を風の斬撃へ向けて振り放った。

 風の斬撃は刀弥を追い掛けようと右へとカーブを描いている最中だ。そこに刀弥の斬波が襲いかかる。

 一直線、直線上に並んだ風の斬撃を力の斬撃が裂いていった。裂かれた風の斬撃は形状を維持できず、ただの風となって周囲に溶けていく。


 だが、刀弥のそれを眺めている暇はない。

 頭上、振り仰げばセレンの頭上で風が渦巻き集まっているのが見えたからだ。どうやら小出しは無意味だと悟り時間は掛かるが威力と範囲の大きい大型で一気に終わらせるつもりのようだ。


 それをさせまいと斬波を放つ刀弥。だが、天馬はその攻撃を悠々と回避する。

 出す前からこの対処は予想していただけに刀弥としても落胆はない。ただあるのはこの事態を如何にして対処するかという思案だけだ。


 術者が騎乗しているだけに移動と攻撃はそれぞれが独立して行動可能となっている。先程の回避も天馬の判断で行われたものだろう。

 つまり、大規模な魔術式構築の際に起こる集中による無防備はこの場合存在しないのだ。加えて言えば相手は宙に浮いているので、必然刀弥の攻撃手段は限定される。

 一方の相手が放つ攻撃は恐らくバトルフィールド全体を範囲としたもののはずだ。本来は時間が掛かり無防備を晒す故に危険なものだが、刀弥の攻撃手段が限定的であることとその攻撃も対処可能であることからその手段を選択したのだろう。要するに逃れる場所はないということだ。


 質が悪いなと内心ぼやく刀弥。

 安全な場所へと退避した後、そこから確実に相手を倒せるだけの攻撃を見舞う。

 刀弥の立場からすればズルイと言いたいところだが、相性といってしまえばそれまでだし、刀弥からしても叶えられるのならまず使う戦術だ。文句を言っても仕方がない。

 むしろ、今はそれをどうにかした上で天馬を空から引きずり下ろす手段を見つけなければならないのだ。文句を言う暇すらないのが現状だった。


 幸い、落とす手段に関しては腹案がある。と、なれば残る問題はこの攻撃を如何に対処するかだ。

 だが、それも時間切れになってしまった。

 集まっていた風が新たな動きを見せ始めたためだ。頭上に集まった風は天馬の正面を経由して下へと回る。


「これで……終わらせます!!」


 響く叫び。それと同時に集まった風がバトルフィールドへと落下する。刺さるように落ちた風はそこを中心に爆発。広がる大気がバトルフィールドの床を蹂躙していった。


『トランプルエア』


 集めた風を爆発させ、周囲を蹂躙する範囲系の魔術だ。

 たちまち砕け散った床の破片が風の力によって周囲へと吹き散らされていった。そのまま風は周囲へと広がっていく。

 迫りくる大気の爆発はまるで視えない壁のようだった。

 どこかへ退避したいが、逃げたところでいずれ風の爆発がバトルフィールドを全て埋め尽くすのはそう遠くない。つまり、どこへ逃げても無駄だということだ。


 けれども、それがわかっているはずなのに刀弥は走りだした。動きに迷いはない。脇目もふらず、ただ彼はある場所を目指して走り続ける。

 そんな彼に不可視の壁が迫ってきた。床の表面がひび割れ、掛けた破片が凶器のように刀弥へと飛んでくるが彼は気にしない。

 徐々に距離が狭まる刀弥と大気の壁。横から轟音が聞こえてくるが、そちらを見ている余裕もない。足の動きに全神経を集中させて、振り回すようにして彼はフィールドを駆け抜ける。

 だが、風の爆発は確実に近づき、そして――



 不可視の力が全てを飲み込んだ。



地上しか移動できない近接VS空も飛べる遠距離


ぱっと見ても相性が悪いのがまるわかりですね。

なればこそ、どうこの最悪の相性相手に立ち回るのかお楽しみください。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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