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無限の世界  作者: 蒼風
四章「強者を求める者」
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四章三話「天馬の魔術師」(1)

お待たせしました。

新しい話です。

既に対戦相手が何者かタイトルに乗ってますが気にしない方向で(ぇ

「……と、あった」


 目的の名前を見つけて刀弥が呟く。その声にリアが反応して彼の見ている方向へと視線を向けた。


「相手は……セレン・ペガスか。どんな人だろうね?」

「残念だが、今日の試合にこの名前の人はいないみたいだな」


 興味津々な声で疑問を口にするリアとそれに少し残念そうな声で答える刀弥。



 二人は今闘技場の掲示板で刀弥の次の試合を確認をしているところだった。

 レンはまだ寝ている。今日も試合があるらしくそれまでは寝ていたいそうだ。

 そんな状況にも関わらず昨日の戦勝パーティではかなり酒を飲んでいた記憶がある。もしかしたら酔いを覚ます意味もあるのかもしれない。



 そんな訳で刀弥達は珍しく二人っきりで出かけていた。

 闘技場への用件が終わると、二人は自然と市場へと歩みを進ませる。

 途中で買った軽食を口に運びながらふと、刀弥は市場を見渡した。


「それにしても……なんて言うか……皆いい加減だな」


 そう独白する刀弥の視線の先にあるのは店員のいない露店だ。

 こういう店舗はこれだけではなく他にも数店、同じような状態の所があった。よく物が盗まれないものだと刀弥は感心する。


 と、その時だ。

 見慣れない衣服を着た男性が店員のいない露店にやってきた。

 彼は周りをキョロキョロと見回し人の目がないのを確かめると、商品の置かれた台の前で屈み込む。そうして彼は置かれた商品のを一つを摘み袖の中に隠そうとした。

 それを見て、刀弥は反射的にその男を捕まえるために駆け出そうとする。けれども、彼が実際にやったのはそこまでだった。


「泥棒だ!!」


 なんと、他の露店の店員がその現場を発見して叫び声を上げたからだ。

 男はその叫びに反応して慌てて走りだす。けれども、数歩もいかないうちに他の露店の店員が次々と男に跳びかかり、あれよあれよという間に男は捕まってしまったのだった。


 そんな様子を刀弥とリアは呆然と眺めている。


 そうこうしているうちに、誰かが連絡したのか街に在中する治安維持軍がやってきた。

 彼らは店員の折り重なった山の中から男を引っ張りだし、縄のような物で両手を縛ると男を連れ去ってしまう。

 やがて、治安維持軍の姿が見えなくなると、それを皮切りに皆それぞれの場所へと戻っていった。

 だが、先程のようなことがあったのに、一部の店員は店をほっぽり出してまた広場に向かっている。


「よくまあ、懲りないものだな」


 そんな彼らを見て思わず刀弥はそんな愚痴をこぼしてしまった。


「ひょっとしたら、その辺他の店の人達との連帯感があるんじゃない?」

「……なるほどな」


 自分達にはわからない地元ならではの暗黙の了解という奴だ。意外と店同士仲間意識があるのかもしれない。


「この間も試合が終了したらその結果を触れ回っていたしね」

「ああ、確かに……」


 一昨日の出来事だ。ひょっとしたら観戦と見張りを交代交代でやっているのかもしれない。


「なんていうか……楽しいところだね」

「そうだな」


 騒がしくて、けれども、だからこそ人との繋がりが確かにそこにある。ここはそんな場所なのだ。


 砂漠の大陸。それは人が生きるには厳しい場所だ。元々はオアシス毎に自治をしていたのが、水が減少したことにより争いが勃発。最終的には大陸を統一した一つの国家が誕生したというのを道中話で聞いた。

 けれど、そうなった後でも各街の独立性は高いそうだ。恐らく、移動の不便さがそうなった原因の一つなのだろう。

 故にそこに住む人達は皆が協力して生きていくしかなく結果、住人同士の交流が活発に行われた。

 それが今の状況を作り上げているという訳だ。


「所変われば文明だけじゃなく、人同士の有様も変わってくるわけか」

「基本、環境が生活を作ってその生活が文明を生み出すって訳だしね」


 そうしてそれらの積み重なりが歴史という過去を残していく。


「なるほどな」


 自然と漏れたそんな言葉。それと共に刀弥は空を見上げた。

 空には雲一つなく、現れたばかりの太陽はまだ低い。けれども、時が経てば全てを見下ろす天上へと登るだろう。

 そうなれば灼熱の光が大地へと降り注ぐ。

 今でこそ、そんな環境を文明によって克服しているが、元々はそれはそれは大変だっただろう。

 自分の世界では過酷な大地を恵みある大地にするために今日(こんにち)様々な努力をしているが、ここではどうなのだろうか。

 様々な思考や疑問が刀弥の中で生まれては消える。考え事をしていたせいか自然と手が顎の下に運ばれていた。

 そんな刀弥の様子をリアは目を細めて眺めている。


「……ほら、刀弥。こんな所でじっとしてないで歩こう」

「あ、おい」


 やがて、そんな彼の顔に見飽きたのかリアは自身の左腕を刀弥の右腕に絡めると、そのまま彼を引っ張って歩き出した。

 突然、腕を絡まれて驚く刀弥だが、リアはそんな事知らないとばかりに無視。そのまま二人は闘技市場までやってきた。


「相変わらず物騒なところだな」


 やってきてそうそうそんな感想を刀弥が呟く。

 視界の何処かしこにも映る武器、武器、武器。大きい物から小さい物、流線型のデザインから鋭角的なデザインの物、様々な形状の武器がここにはある。だが、どんな形であれ武器は武器だ。物騒なことこの上ない。

 そんな物が台の上に鞘などに収めずに並べられているのだ。

 試しに持った武器で襲われたら店員はどうするつもりなのだろうかと刀弥は疑問を抱いたが、店員も並んでいる武器で応対する図が頭に浮かび、結局それを結論とすることにした。


 そんな風に闘技市場を巡る二人。

 すると、隣のリアがふと次のような問いを発してきた。


「そういえば刀弥は武器を新調とかするつもりはないの?」

「ん~。ないな」


 それに答えながら刀弥は辺りを見回す。

 見える範囲で刀はいくつかあるが、どれも今使っている刀と比べると太かったり重そうだったりと刀弥的に扱いづらそうな物ばかりだ。

 今使っている刀も状態的にはまだまだ大丈夫。ならば、新しく刀を買う必要は全くないと言っていい。


「そうなんだ」


 刀弥の返答にリアは頷き、再度前を向き直す。どうやら純粋に浮かんだ疑問だっただけで深い意味はないようだ。


「リアの杖はどうなんだ?」

「これは大丈夫。武器と違って術具はそうそう消耗する物じゃないから」

「そうなのか?」


 魔術師についてよくわからない刀弥としてはそう聞き返すしかない。

 不思議そうな顔を浮かべる刀弥。それを見てリアは思わず頬を緩めた。


「魔術を使えば磨耗するようなものじゃないからね。あるとしても、杖が近接での攻防に用いられる時ぐらいかな。でも、その摩耗で破損するよりも前に調整が入る事の方が多いから、その時に直しちゃえば問題なかったりするの」

「そういうものなのか。後、調整って言葉がでてきたけど、それは術者の成長毎にその杖を調整しているって意味なのか?」


 その問い返しに満点の回答が返ってきた教師のようにリアが満足そうな笑顔を浮かべる。


「うん、そうだよ。大体私の世界の年数で一年ごとにやってるの。術者の意識との同期、補助する内容の変更、大体するのはそんな感じの内容かな」


 それに刀弥は相槌を返した。そんな時だ。


 突然、店の影にあった細道から女性が姿を現した。

 露店の天幕の裏側という死角だったこともあって、刀弥は気づくのに遅れてぶつかってしまう。


「うおっ!?」

「あ!?」


 その衝撃で女性が抱えていた荷物が腕からこぼれ落ち、直後派手な破砕音が周囲に響き渡った。

 響く割れ音に周囲にいた人達が反射的に音の源へと視線を向ける。当然、いるのは刀弥とリアとぶつかってしまった女性だ。


「すみません」


 事態に気が付いた刀弥はすぐさま謝った。頭を下げ、それからすぐに落ちた荷物を確認するために屈み込む。

 荷物は布に包まれているが、先程の音とその布が平らになっていることで結末は容易に想像できていた。ただ、どんな物かを確認するために彼は一応、包みを解く。

 包みの中身は透明なコップだった。ガラスに似た素材だったのだろう。粉々に砕けてしまったせいで原型がほとんどわからない状態になっていた。


「本当、すみません。買えるものであれば弁償はしますので……」

「いえ、こちらもよそ見していたのがいけませんでした。お気持ちだけで十分です。それより、そちらこそお怪我はございませんか?」


 再度謝罪する刀弥に相手も問い返し刀弥の様子を伺ってくる。この時、ようやく刀弥は相手の姿をしっかり視認することができた。

 蒼色のショートボブの髪と瞳。どこか真面目でしっかりしたようなイメージを見た瞬間に刀弥は抱いた。

 服装は白いワンピースでスカート部分はひざ上のタイトスカート。首元にはスペーサーのペンダントが下げられており、手は先程まで荷物を抱えていたせいで今はフリーだ。


「あ、はい。大丈夫です。ご心配おかけしました」

「いえ、お怪我がないのであればよかったです」


 刀弥のその返答に相手はほっと息を吐く。どうやら本当にこちらの身を案じていたらしい。親切な人だなと刀弥は思った。


「ですが、そちらの荷物を壊してしまいました」


 だからこそ、そんな彼女の物を壊してしまったのが申し訳ない。

 相手はああ言っているが、ここはやはり弁償すべきだろう。さすがに買えない物まではどうしようもないが、その時はそれ相応の金額を渡そうと刀弥は考える。


「やっぱり弁償します。どこで手に入れたんでしょうか?」


 周囲にはそれらしい物は見当たらない。闘技市場なので当然と当然なのだが、やはりここで買った物ではないようだ。

 相手が遠慮する事はこれまでの会話から容易に想像がついたので、刀弥としては多少強引にでも購入して渡したい思いがあった。だが、見つからない以上どうしようもない。


「いえ、私側にも非がありますので、そこまでしてもらう必要はございません」


 やはりというべきか、相手は遠慮をしてきた。それを聞きながらどうしたものかと刀弥は考える。

 こちらとしてはどうにかして償いたいという思いがあり、一方相手はそこまでしてもらう必要はないという思いがあるのだ。

 刀弥にしてみれば何もしないまま終わるというのは、なんというか謝ったという気になれない。だからこそ、失った物を用意することで先程の件をお詫びしたいと思っているのだ。

 しかし、相手はそれを拒んでる。自らにも非があったので、そこまでするほどの事でもないというのがその理由だ。


――どうしたものか……


 このまま行ったところで平行線だろう。と、なれば互いの案の妥協点をとる必要がある。

 この場合、その妥協点は何が妥当となるのか……

 思考は数秒。それを持って刀弥はこの場に適切な妥協点を見出した。


「……それじゃあ、代わりに何か飲み物を一杯、奢らせてもらえないでしょうか。もちろん、そちらの時間に都合があればですけど……」 


 彼は同等の物でお詫びするのを諦め、別の形でお詫びすることを選んだのだ。品の値段はわからないが、飲み物一杯であればそれよりも安いはずだ。自然、相手の遠慮も低くなる。

 相手もこの辺りが妥協点だと考えたのだろう。少し考え込んだ後


「わかりました。それではそのお言葉に甘えさせて頂きます」


 表情を緩めてそう答えた。

 その返答に刀弥は内心安堵を浮かべる。


「品はそちらにお任せします」

「わかりました。あ、では、その前に自己紹介と参りましょうか」


 まだ名前を名乗っていないことに女性は気付いたようだ。

 そうして彼女は綺麗に一礼すると、己の名前を口にする。


「はじめまして。セレン・ペガスと申します」


 それは次の闘技場で彼が戦うべき相手の名前だった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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