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無限の世界  作者: 蒼風
一章「渡人」
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一章二話「新たな生活」(2)

 晴れやかな空の下、人々がせわしなく行き交っている。

 荷物を運んでいる人、買い物に出ている人、自分たちと同じように町を巡っている人、皆思い思いの目的を持って歩いていた。


「人が多いな」


 辺りを見渡していた刀弥が、驚嘆の声をあげる。


「まあ、ゲートが近いからね。渡る人、来る人、それ目当てに商売をする人とかが集まってここまで大きくなったんじゃないかな」

「……なるほど」


 二人は今、町を歩いていた。

 目的はもちろん刀弥の分の道具を買い揃えることと町を散策することだ。


 この世界にやってきて始めて人のいるところに来た刀弥としては無論、どんなところなのか気になるところではある。

 朝食を済ませると、すぐに二人は出掛けることにした。


 まず二人が向かったのは市場。

 市場には見たことのない食べ物やものが溢れていた。当然、刀弥は興味を持つ。

 結果、刀弥が『これは何か?』とリアに尋ね、それにリアが応えるという構図が何度も繰り返された。


 そうこうしているうちに二人はある露店に辿り着く。

 そこは紫色の丸い宝石がいくつも並んでいるお店だった。


「それはスペーサー。ものを格納するための魔具。巨大なものや重いものを空間圧縮して持ち運べるようにするの。私も持ってるよ」


 そう言って、リアはウエストバッグからそれを取り出すと刀弥のほうへと見せてくる。


「値段が違うけど、入れれる容量でも違うのか?」


 彼の言葉通り、各スペーサーに貼られている値札はものによってそれぞれ異なっていた。一番安いものと一番高いものを比べたら、なんと一〇倍も差がある。


「刀弥の言うとおり、圧縮できる質量に限界があるの。圧縮できる質量が高いほど値段が高くなる傾向だね。私の場合、テントや食料、食器みたいな急いで出す必要のないものをそこに入れてるかな」

「逆に武器や薬とか、何かあったときにすぐに必要なものはスペーサーに入れずに持っているわけか」

「うん、展開や格納に時間が掛かるからね。とりあえず一番安いので十分だから、それにしとこうか」


 そう言ってリアは一番安いスペーサーを手に取ると店の人にお金を支払った。


「はい。なくさないでね」


 そうしてリアは刀弥に買ったスペーサーを手渡す。


 刀弥は手渡されたスペーサーをしげしげと見つめた。スペーサー事態は指で摘める程小さな物こんな小さな物にいろんな物が入ると言う。刀弥からすれば、空想みたいな話だ。

 そんな感想を心の中で抱きながら、彼はそれを上着のポケットの中に入れる。


「後は薬とか保存食とかとそれを入れれる鞄とかか?」

「そうだね。じゃあ、行こうか」


 その問いに頷くリア。

 そうして彼女に促され、刀弥は次の場所に向かって歩き始めるのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 あらかた必要な道具を買い揃えたその帰りだった。

 武器屋の前を通り過ぎたときにふとそれが目に入り、刀弥は思わず歩みを止めてしまう。


「刀弥?」


 隣を歩いていたリアが不思議に思い呼びかけてくる。

 だが、刀弥は気付かない。そのまま彼は誘われるように店の中へと入っていく。


 武器屋の棚にはいろいろな武器が置かれていた。

 剣や弓、銃に恐らく攻撃系の力を持った魔具。それらが綺麗に棚の上に並べられている。


 刀弥の目的物はその棚の上に置かれていた。

 彼が店の外から見つけた物。それは刀だった。

 日本刀を彷彿とさせる細身で僅かに剃りのある刀身。取手や柄は全く違う形状だが、それでも刀弥にしてみれば十分日本刀と呼んで差し支えない物である。


 試しにと刀弥は刀を持ってみた。

 多少違いはあるが、重さは殆ど同じだ。


 次に刀を振ってみる。

 若干、違和感はあるものどこか懐かしい感触を感じることが出来た。


 現在、刀弥が使っている武器は盗賊たちから奪った剣。


 剣と刀。両者にそれほど大きな違いはない。だが、これから先、何が起こるかわからない以上、できるなら使い慣れた武器を持っておきたい。それが刀弥の本音だった。


 とりあず刀を元の場所に戻す刀弥。丁度その時、店に入ってきたリアが彼に声を掛けてきた。


「刀弥、どうしたの?」 


 声を掛けられた刀弥は彼女の方へと振り返る。その時、武器に付いていた値札がちらりと刀弥の視界に入った。かなりの高額だ。


――高いな……


 それが値札を見た刀弥の感想だった。


 宿屋代に薬や魔具などの必要な道具は、全てリアが払ってくれている。これ以上彼女の負担を掛けるのも気が引ける上に、そもそも買えるだけのお金があるかもわからない。


――しばらくはこれで我慢して、貯まったときにどこかで買うか。


「いや、なんでもない」


 そう結論してなんでもないという風を装って出て行こうとする刀弥。しかし、名残り惜しげにその刀に視線を向けたのが失敗だった。


「……もしかして、それが欲しくてここに入ったの?」


 目敏く視線に気が付いたリアが、刀弥に尋ねてくる。


 ずばりと言われ、刀弥は返答に詰まってしまった。

 だが、それは肯定と言っているようなものだ。

 しかし、こんな値段のものを彼女に頼るのは如何なものかという思いもまた、彼の中にはある。


 どうするか悩む刀弥。やがて彼はある結論に達し、それをリアに相談してみることにした。


「リア、金を稼ぐために少しここに留まってもいいか?」

「え?」


 その内容に、リアは驚きの表情を浮かべる。


「さすがにこれは他のものと違って俺個人のわがままだし、値段が値段だ。だから、自分でどうにかしたいと思うんだけど……無論、急ぎなら、今回は諦める」


 そう懇願しながら彼女の顔を伺う刀弥。

 それが彼の結論だった。欲しいものを相手に買わせたくないのなら、自分の手で買うしかない。簡単な話だ。そのためには自分の手で金を稼ぐしかない。

 問題は期間だ。何か時間的な制約があるのであれば、さすがにどうしようもない。

 故にその時は先程考えていた通り潔く諦める。そう彼は決めていた。


 一方のリアは彼の話を聞いて、少し考え込む。だが、やがて顔をほころばせると彼に向かって次のような言葉を返した。


「それじゃあ、何か稼げるところがないか探そうか」


 それはつまり彼の頼みを聞き入れたということだ。


「悪いな」

「気にしない気にしない。ほら、行こ」


 そう言って刀弥を励ますリア。

 そうして二人は武器屋から出ていくのであった。


「頼んだ俺が言うのも何だけと、本当によかったのか?」


 武器屋を出てすぐに、刀弥はそんなことを訊ねる。

 自分のわがままでリアに迷惑を掛けているのではと考えると、心が痛んだからだ。


「うん。むしろ、丁度良かったぐらい。実を言えば残金、割と危なかったし……」

「……本当にすまない」


 そんな状況を生んだのは、間違いなく自分が原因だ。

 思わず刀弥は目を伏せて謝ってしまう。


彼の言葉にようやくリアは自分の失言を悟った。

 慌てて彼女は先の言葉をなんとか誤魔化そうとする。


「そ、そんなに気にしないで。そ、それより、ほら何かお金が稼げるところがないか、いろいろ探してみよ?」


 そうしてリアは刀弥の手を掴むと、そのまま彼は引っ張り走りだした。


「お、おい、行くってどこかあてがあるのか?」


 柔らかい彼女の手の感触に当惑しつつ、刀弥は己の疑問を口にする。


「そんなの総当りに決まってるじゃない。飲食店、薬屋、酒場いろいろ回ってみるの」

「うぉっと!? わかった、わかったから引っ張るな。バランスが崩れる」


 そんな叫びが通りに反響(こだま)したのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 そうして二人はどこかに仕事がないか探すため、いろんな店を総当りで探すことになった。


 だが、どこの店も人手が十分か、やってもらいたいことがないという残念な返事ばかりでお金の稼げそうなところは見つからない。


「次はあの酒場だね」


 しかし、彼女は諦めることなく、次へ次へと店をまわる。


「あれだけ断られているのに、よく続くな」


 そのことに感心する刀弥に、彼女は当たり前のようにこう答える。


「実際、どこもこんな感じだよ? 働き手を探してるなんてほとんどないに等しいかな?」

「……そんな状況で探してるのか?」


 そんな話を聞いて、刀弥はますます彼女に対して後ろめたい思いを感じてしまった。


「でも、諦めずに探し続けてたら、どこかの店が善意で適当な仕事を見繕ってくれたりもするんだよ? だから、気にしないで」

「と、言われても現実、リアに余計な負担をかけてるのは事実だからな……」


 気にしないというほうが無理なのだ。

 その返事に、リアは少し困ったような表情を浮かべてしまう。


 そうこうしているうちに、二人は酒場に辿り着いた。

 酒場の中もまた宿屋の部屋と同じように、天井も壁も床も白い。席はカウンター席とテーブル席の二種類があり、テーブル席は一階と二階の二箇所があった。


 客は昼頃なのもあってか多く、店員たちが忙しく行き交っている。


 中に入るとアルコール特有の匂いが部屋中に充満しており、その匂いに刀弥は思わず顔をしかめてしまう。


 マスターと思わしき人物は、カウンターでコップを洗っているところだった。


 リアはマスターに仕事がないかを尋ねるため、彼のいるカウンターまで歩いて行こうとする。しかしどうしたのか、その歩みが途中で止まってしまった。


「どうしたんだ?」


 足を止めたことを、不審に思い刀弥は彼女に近づいていく。


 すると、リアは刀弥の方に顔を向け、壁のある一点を指差すのだった。


 刀弥がそちらに視線を向けてみると、そこには絵と数字の書かれた張り紙が貼られてあった。

 内容は町長からのお知らせらしい。


「何々、最近、街道でフォレストウルフの被害が増えていることを受け、町をあげて被害を抑えるための活動を開始します。つきましてはその一環としてフォレストウルフに懸賞金を掛けることにしました」


 さらに張り紙にはフォレストウルフと思わしき絵と懸賞金の額、懸賞金を受け取るための条件が書かれていた。それによると懸賞金はフォレストウルフの首と交換するらしい。


 首ということで刀弥は少し嫌悪感を感じてしまったが、よく考えると昔の自分の国も似たようなことをしていたことを思い出す。もっとも、そのときは同じ人間に対して行っていたが……


「どうするんだ?」


 リアのほうへ首を戻し刀弥は問い掛ける。

 すると、リアは笑みを浮かべてこう返してきた。


「もちろん、これに決定」


 こうして、二人のお金稼ぎの手段が決まったのだった。


「とりあえずは昼食を済ませて出発だな」

「じゃあ、ここで済ませちゃおう」


 折角、酒場にいるのだそれでいいだろう。


 そうしてそのまま二人はカウンター席に座り、料理を注文していった。名前を聞いてもよくわからないので刀弥は料理も飲み物もリアと同じものを頼んだ。


 やがて、マスターが注文した料理を運んでくる。


「なあ、少し聞きたいことがあるんだが……」


 少し聞きたいこともあったので、刀弥は料理が届いたのに合わせてマスターに質問をしてみることにした。


「なんだい?」

「あの張り紙に書いてあるフォレストウルフだけど、どんな奴なんだ?」


 彼が聞きたかったこと。それはフォレストウルフに関する情報だった。


「お客さん。あれ、やるつもりなんだ。そうだな……強さ自体はそれほど強いわけじゃないよ。ただ、最近は群れで襲ってくるようになっているから厄介なんだ」

「最近ってことは、今まではそうじゃなかったってことか?」

「ああ、それまではせいぜい二~三匹が関の山。だから、あいつらの変化に町中が驚いているのさ」

「へぇ」


 マスターの話す情報に、リアが感嘆の声を漏らす。


「おまけに連中、賢くなっているっていう話も聞くからお客さんたちも気をつけなよ」

「助かった」

「ありがと」


 二人はそれぞれそう礼を言って料理を食べ始めた。

 料理の味は思いの外美味しく、自然と食べることに夢中になっていく。

 そして、口の中を洗い流すように一緒に届いた飲み物を口に含み――



 突然、刀弥が吹き出した。



 これにはマスターも隣で食べていたリアも驚く。


「ど、どうしたの?」


 咳き込む刀弥を眺めながらリアが尋ねてくる。

 そんな彼女に刀弥はこう訊ね返した。


「これ……もしかして酒か?」


 そうとわかったのは、一度だけ飲んだことがあるからだ。


 あれは源治の知り合いのところにいったときだ。

 晩御飯を一緒に食べたときに、水と思って差し出されてそれを飲んだ。

 最初に飲んだときは変な味の水だなと思って飲み続けていたのだが、次第に体中が熱くなって気が付いたら布団の中で寝ていた。

 後で聞いた話では、知り合いのちょっとしたお茶目だったらしい。源治が知り合いを叱ったのは当然の結末だ。


「うん。そうだけど……」


 リアのその応答の様子から、元々知って頼んだらしい。


――油断した……


 普通に一八歳未満はお酒は禁じられていると刀弥は考えていたので、何も言わない以上普通のジュースか何かだと思っていた。


 どうしてそう考えたのかと彼は自分を叱りつけたい気分だ。


「もしかして、お酒駄目だった?」


 これまでのやりとりから、そう推測したのだろう。心配そうな顔で聞いてくる。


「別に駄目という訳じゃない。ただ、俺の世界じゃこの年齢だと禁止されてるから、単純に驚いただけだ」

「そうなんだ。じゃあ……どうする? お酒じゃないのを頼む?」

「……頼む」


 新しく頼むのは彼女に悪い気がしたが、無理して飲んで酔ってしまうのも困りものだ。


 ここはおとなしくリアの厚意に甘えることにした。


 程なくして、お酒ではない飲み物が刀弥のもとに届けられる。


「じゃあ、これは私が飲むね」


 そう言ってリアは、彼が飲んでいた飲み物に遠慮なく口をつける。


 間接キスを意識してしまう刀弥だが、そんなことを気にせず飲む彼女を見ていて、ひょっとして自分が気にしすぎてるだけなんじゃないかという思いが頭の中に浮かんだ。


 そんなことがありながら、二人の昼食の時間は過ぎていくのであった。

07/25

 できる限り同一表現を修正。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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