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無限の世界  作者: 蒼風
四章「強者を求める者」
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四章一話「闘技都市コローネス」(4)

「勝ったな」

「だね」


 それが試合を見終わった刀弥の最初に告げた言葉だった。

 彼の言葉にリアが頷く。


「しかし、かなりの攻撃を受けていたとはいえ、見た目の割に大剣が脆くなかった?」

「魔具の場合、中に術式回路を収めたり、攻撃部に効果を浸透させたり、術式回路の効果を増幅させるために素材の限定や内部の加工が必要なったりするから。そのせいで同型の通常武器と比べると脆かったり、重かったりするの」

「なるほどな。じゃあ、武器としての性能は基本的に通常武器のほうが勝ってるのか」

「代わりに魔術で行うような現象を扱えるようになってるんだけどね」


 それが魔具と通常武器との違いなのだろう。

 純粋に武器としての性能を高めた通常の武器に対して、魔具の武器は代わりに通常では起こせない現象を用いることで通常の武器ではできないような戦い方を可能にする。

 双方に優劣はない。そういう違いがあるというだけの話だ。


「さて、試合も終わったし、早速会いに行こうか」

「そうだな」


 リアの言葉に刀弥が頷くと二人は席から立ち上がる。

 先程の試合のお陰で相手の姿も確認できた。後は直接会うだけ。

 恐らく、今彼女は選手用の控え室にいるはずだ。そのため、二人はそこに向かおうとしていた。


「選手控室ってどこにあるんだろう?」

「どこかに案内板があるだろ。まずはそれを見つけるか」


 そんな言い合いをしながら歩き出す二人。

 闘技場は次の試合の準備のために休息時間になっている。

 そのため、大半の観客達は席から離れ、他の観客達と話をしていた。

 耳に偶然入ってくる内容によると、大半は次の試合、誰に賭けたのかや情報の交換などといった内容だ。


「本当に賭けで盛り上がってるんだな」

「娯楽、そう多くないみたいだし仕方ないよ」


 呆れの混じった感想を吐露する刀弥にリアがそう言ってフォローする。

 確かに彼女の言う通り、ここで彼らの娯楽になりそうなものは闘技場かカードを用いたゲームくらいだ――ここに来るまでの道中、ルセニアから教わった。そのゲーム自体はサグルト中に伝わっているらしい――。

 そして、片方が派手なら人々が熱中するものは自然と決まってくる。


「なら、眺めて満足すればいいのに……」


 なんとなく刀弥はそんな愚痴を呟いてしまう。

 正直な所、刀弥は賭け事が苦手だった。

 父親の影響か、あまりそういう事にいい気分がしないのだ。

 元の世界でも父親の友人達に麻雀とか教えられたが、基本的にやるのは何も賭けないゲームだけで何か賭け始めるとすぐさまゲームから抜けていた――ちなみに父親もそのような場合、抜けようとするのだが、友人達によってあの手この手で留められ、結局、賭けのゲームに参加させられていた――。


「刀弥は賭け事をする人が嫌い?」

「嫌いというかいい気分にならないっていう感じだな」

「そういうのを嫌いって言うんじゃないの?」


 その一言にそうかもしれないと思ってしまい、刀弥は言葉に詰まってしまう。


「まあ、それが原因で人生を破滅させてしまう人もいるから、理解はできなくはないかな。私はその辺は人次第だと思って許容しているけど」


 やはり、この世界でもそういう人達はいるらしい。

 思わず刀弥は溜息を漏らしてしまう。


「まあまあ、そんなことより早く行こ。急がないと彼女帰っちゃうかもしれないし」


「……そうだな」


 確かにこんな所で雑談なんてしている場合ではない。今回の目的はレンに会うことであって、闘技場の戦いを見に来たのはそのついででしかない。


 そうして歩く速度を速める二人。

 やがて、二人は観客席を後にしたのであった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 選手控室は思ったよりも簡単に見つかった。

 ただ、問題は自分達ではそこまで行けないという事。と、いうのも選手控室は出場者でないと入れない区域にあるからだ。

 その話を警備をしている人間から聞いた二人は顔を見合わせる。


「どうしようか?」

「入れない以上、来るのを待つしかないだろ……」


 それが結論だ。そのため、二人はレンが来るまでそこで待つことにした。

 一応、警備の人間に聞いてみると、レンは試合が終わるとすぐにここを後にするらしい。ならば、すぐに来るだろう。


 程なくして、目的の人物がそこにやってきた。

 それを見て、二人はその人物、すなわちレン・ソウルベッサーのもとへと掛けていく。


「悪い、レン・ソウルベッサーで合ってるか?」

「え? あ、うん。そうだけど」


 彼女はというと、突然やってきた二人の訪問者に驚いて目を丸くしていた。


「俺は風野刀弥、こっちはリア・リンスレット。リリス・カナルームの依頼で槍を届けに来たんだが……」

「リリス・カナルーム?」


 その名前にレンは反応を示し、少し思い出すようなそぶりを見せる。

 やがて、思い出したのか彼女は頭を大きく縦に振り――


「ああ、あれか。できたんだ?」


 両手を叩いてそんな事を尋ねてきた。


「……っと、これがそうだ」


 そう言いながら刀弥はスペーサーからその槍を取り出し、彼女に見せる。


「へ~。綺麗な槍じゃん。結構、使い心地も良さそうだね」


 槍を一目見て、レンはそんな感想を呟いた。


「試し振りもせずにわかるのか?」

「ん~。大体は。でも、確かにあんたの言う通りだね。ちょっと、貸してもらってもいい?」

「届けに来たんだから、貸すも何もないと思うんだが」


 そう言いながら刀弥は槍を彼女に手渡す。

 それを受け取ったレンは少しだけ刀弥から離れ――



 踊るような身のこなしで槍を振り回した。



 槍舞という言葉が自然と頭の中に浮かんでくる。それくらいその舞は美しかった。

 己の体を中心に身を回し、その中で彼女は槍を突いたり、回転させたりしている。稀に槍を(くぐ)るときもあった。

 槍はしなって曲線を作ると、視えぬ空間にいくつもの線を描いていく。

 風を切る音が周囲に響いた。

 それを背景音に彼女の舞はさらに加速していく。それと共に舞の種類が変わっていった。

 それまで身を回していた身が徐々に速度を緩めていったのだ。それと共に今まで振り回しの多かった槍が突きへと動作の中心を変えていく。

 突きへと変わった舞は苛烈という言葉がよく似合っていた。それ程までに激しい突きがいくつも放たれていたのだ。

 その光景に刀弥達はもちろんその場にいた警備員も見惚れていた。


 やがて、舞は終わりを迎え、終了と同時にレンは大きく息を吐く。


「うん、いいじゃん。今のよりは少し重いけど、その分、しっかりした手応えがあるし、何より重量バランスがあたしの感覚に合ってる」


 そうして彼女は満足そうな表情で槍を振った感触を述べてきた。どうやら気に入ってくれたらしい。


「ありがとね。届けてくれて」

「気にするな。手が空いていたから運んできただけだしな……」


 レンからの礼に刀弥はそう答える。

 と、ここでレンが刀弥の腰に挿している刀に気がついた。


「ねぇ、あんたも武術使い?」

「武術使い?」


 言葉の意味が理解できず、どう答えればいいのかわからない刀弥はその言葉を反芻(はんすう)するしかない。

 と、そこに救いの手が差し伸べられる。


「刀弥、武術使いってのは魔具や魔術を使わず、純粋な身体能力と身体技術で戦う人の事を指すの」

「ああ、なるほど。なら、その通りだな」


 救いの主はリア。

 彼女の説明に刀弥は納得すると、彼はレンの問いに首肯を返す。

 すると、その返答にレンは嬉しそうな顔を見せた。


「へぇ、あんたもなんだ」

「で、それがどうかしたのか?」

「いや、同じ武術使いならどんな修行をしているのかとか、旅の話とか聞きたいなって思ってね」

「なるほどな」


 確かに刀弥としても、使う武器や戦い方が違えど、同じように身体能力と身体技術で戦う人がどのような就業をしているのかは気になる。

 ひょっとしたら、そこから強くなるためのコツがわかるかもしれない。


「よかったら話聞かせてくれる?」

「リア、構わないか?」

「私も興味あるし、そうしよ」


 反対する様子もなく笑顔でリアが返事を返してくる。

 それで二人の方針は決まった。


「じゃあ、決まりだね。あ、そういえば二人はコローネスには来たばかり?」

「ああ、その通りだが」

「それじゃあ、ついでにコローネスも案内してあげる」

「あ、それはちょっと助かるかも」


 元々、槍を届け終えたら留まるつもりだった二人にしてみれば、丁度いい提案だ。断る理由はない。


「よし。それじゃあ、コローネス案内ツアー。出発だ!!」

「おー!!」


 レンの掛け声にリアが合わせて叫ぶ。

 そうして三人はコローネスを巡るべく、歩き出すのであった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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