四章一話「闘技都市コローネス」(1)
と、言う訳で新章です。
今回はバトル多めの予定です。
どうぞ、お楽しみください。
灼熱が砂色の大地に降り注ぐ。
その熱は生きとし生けるものを死へと誘うほどに強く、それ故に大地の上には僅かな存在しか生き残れなかった。
大地は砂色一色でそれ以外に色は殆ど無い。あるとすればそれは僅かな植物が作り出す緑色と水が写す空色だけだ。
けれども、そんな砂漠と呼ばれる大地の上を三つの影が歩いていた。
影は三つともフードを纏っており、その姿は顔部分しか見えない。けれど、それでもわかることがあった。三人の顔立ちだ。
先頭の人物は女性で真紅の短い髪がフードから僅かに出てきている。瞳の色は紅色だ。
「もうすぐ、コローネスに着くよ」
その女性が後ろを振り返ってそんな言葉を後に続く二人に告げる。
「ルセニア。もうすぐってどれくらいで付くんだ?」
それに二番目の人物が反応した。
こちらは少年で、短い黒髪と青い瞳の容姿がフードから漏れている。
「あの砂山を超えたら見えてくるんじゃないかな」
彼の問いにルセニアと呼ばれた女性は行く先にある砂山を指差した。
砂山はそれ程高くは見えない。だが、それは坂がなだらかなせいだ。実際は自分達が歩いている場所も僅かに傾いており、本当は砂山を登っていると言っていいだろう。
「え、本当?」
彼女の言葉に三番目の人物が顔をあげた。こちらは少女だ。
瑠璃色の瞳と赤銅色の髪。髪は長いのか背中の後ろまで伸びており、そこから先は体を覆うフードに隠れて見えない。フードから出ている腕には蒼い宝石の付いた金色の杖が握られている。
「本当だって」
それに返事を返すルセニア。
すると、それを聞いて少女がいきなり走り出した。
「おい、リア。気を付けないとモンスターに襲われるぞ」
そんな彼女の反応に少年が注意をいれるが、リアと呼ばれた少女は聞いていないのか足を止める様子はない。そのまま彼女は砂山の頂上まで辿り着いた。
頂上に辿り着いたリアは早速、砂山の向こうの景色を見渡す。
「うわぁ」
そうして砂山の向こう側を眺めたリアは感嘆の声を漏らした。
瞳は一際大きくなり、姿勢はもっとよく見ようとしているのか前のめりになっていく。
そんな彼女の様子を後ろから眺めながら、少年も砂山を登っていった。
「ほら、刀弥。早く早く」
一頻り見終えたのか、視線を少年の方に向けてリアが急かす。
刀弥と呼ばれた少年はそれに苦笑しながら、丁度今、砂山を登り終え眼下の景色を一望するのだった。
「あれがコローネスか」
刀弥の視線の先、そこには二人の目的地の姿があった。
オアシスを中心に広がる街並み。オアシスの五方には円状の大きな建物がある。屋根のない建物で中には四角い何かが置かれているのが見えた。
建物は砂色か白色のみでそれ以外の色はない。他にあるとすれば木々が生み出す緑色のみ。
街並みの所々には広場があり、そこには人々が集まって視線を広場の中央にある柱に向けていた。
「あの円状の大きな建物は何だ?」
「それは着いてからのお楽しみってことで」
刀弥の疑問にルセニアが答えながら、彼の隣を通り過ぎていく。
どうやら彼女はあの建物の事を知っているらしい。さすがはガイドだと刀弥は内心感心した。
ルセニアは刀弥達がサグルトに辿り着いて雇ったガイドだ。
この世界について早速、ガイド探しを始めようとした刀弥達。そこに彼女が最初に話しかけてきた。
『砂漠を渡るつもりならガイドを雇ったほうがいいよ。だから、あたいを雇わない?』
恥ずかしげもなく己を売り込むその姿に刀弥は少し呆けてしまっていたが、リアは二三質問をして、それに彼女が即答すると、すぐさま値段の交渉を始めた。
どのガイドがいいのかわからない刀弥としては、交渉ごとはリアは任せるべきだろうと判断して黙ってそのやり取りを眺める。
やがて、値段が決まったのか握手を交わす二人。
ルセニアの話だと出発は涼しい夜の方がいいらしい。
そのため、三人はそれまでは荷物の確認をすることにして、夜になると直ちに出発した。
そうして現在に至るのである……
リアがコローネスに向かって駆け出す。下り坂なのでその速度は速くなる一方だ。
そんな彼女を遠目に刀弥とルセニアは歩きで彼女の後を追いかけていた。
だがリアが砂山の中腹まで駆け降りた時、突然、彼女の右前側にある砂が盛り上がる。
「リア!!」
それに気付いた刀弥は叫ぶと、同時に体を走らせた。一歩一歩、砂をしっかり踏みしめながら、彼はフードを脱ぎ捨てる。
そうして彼は自由に動かせるようになった右手を左腰に差した刀へと伸ばした。
そのまま彼はリアのもとへと急ぐ。
一方、リアの方も刀弥の声にしっかりと反応していた。止まるのは逆に危険だと判断した彼女は体を左側へと倒していく。
直後、盛り上がった砂の中から槍のようなものが飛び出た。槍のようなものは倒れていくリアの右腕を掠めるように通り過ぎていく。
あのまま走っていたら、その槍のようなものが彼女の体を貫いていただろう。
想像するだけでも、嫌な映像だ。刀弥は奥歯を強く噛み締める。
「起きろ。出てくるぞ!!」
その言葉の通り、砂中から槍の持ち主が姿を現した。
槍の正体は長く鋭い尻尾。甲殻の体は堅牢そうなイメージを作り、四対の足はカサカサとそれぞれが蠢く。砂色の体はこの大地に潜むにはピッタリとの色合いで、これならこの巨体でも上から見つけるのは難しいだろう。
砂の中より姿のを見せたのはサソリの見た目をしたモンスターだった。
「デザートスコーピオン!! 気をつけて!! そいつの尻尾には麻痺毒があるんだから」
刀弥の後方からルセニアの注意が飛んでくる。
それを頭の片隅に収めながら刀弥は現場に辿り着くべく全速力で駆けていた。
巨大な体躯を刀弥たちの前に晒したデザートスコーピオンは体を震わせてこびり付いた砂を振り落とすと、獲物、即ちリアの方へと己の体を向ける。
対し、リアはすぐさま体を起こして魔術を使おうとした。
けれども、上手く立ち上がれず、すぐに倒れてしまう。
どうやら掠めた右腕から麻痺毒が僅かに入っていたらしい。
動けないリア。そんな彼女をデザートスコーピオンは捕食すべく尾を引き狙いをつける。
このままではリアが尾に貫かれてしまう。
刀弥とデザートスコーピオンの距離は空いており、刃はまだ届かない。
斬波を使って攻撃をするかどうかを刀弥が考えていたその時だ。
「伏せて!!」
背後からルセニアの叫びが反響した。
反射的に刀弥は前へと倒れるように身を屈める。
するとその直後、刀弥の上を何かが通り過ぎていった。
彼の頭上を通過した物、それは炎を纏った短剣だ。
短剣の形状に刀弥は見覚えがあった。道中、モンスターに襲われて戦った時にルセニアが使っていた短剣だ。
短剣はそのまま真っ直ぐ飛翔していきデザートスコーピオンに迫ると、そのままデザートスコーピオンの尾の付け根辺りに突き刺さった。
炎が刃を伝ってデザートスコーピオンに燃え移り、体中に燃え広がった炎の熱にデザートスコーピオンがもがき苦しむ。
そこに刀弥は飛び込むと、その鋭い尻尾目掛けて抜刀の一撃を見舞った。
尾が宙を舞い、斬られた付け根からは体液が溢れ出す。
尾を斬られたデザートスコーピオンは痛みを感じたのか、体の前面を大きく上へと逸らし痛がっているような反応を見せた。
それをチャンスとばかりに刀弥は追撃を放つ。デザートスコーピオンの右後ろ足へ刀を振り下ろしたのだ。
足を失い、バランスを崩すデザートスコーピオン。
一方の刀弥は正面側に回りこむついでにデザートスコーピオンの右ハサミを斬り落とすと、その無防備な頭部に向かって突きを放っていた。
貫くようにデザートスコーピオンの頭部に深く刺さる刀弥の刀。
頭部を刺されたデザートスコーピオンは大きな鳴き声をあげると、そのまま力を失い砂地の上に横たわるのだった。
それを見届けながら刀を鞘へと戻す刀弥。
「ほら、大丈夫かい? これ飲みな」
それからリアの方を見ると、ルセニアが駆け寄り彼女に何かを飲ませていた。察するに麻痺毒を治すための薬か何かだろう。
それを口に含み飲み込むリア。しばらくして、彼女はゆっくりとだが安定した動作で立ち上がった。
「大丈夫なのか?」
「うん。平気。ごめんね。心配掛けて」
「足元不注意。気を付けないと駄目じゃないか」
やれやれという様子でルセニアが溜息を吐く。
「あははは……ごめんなさい」
それにリアは頭を下げることで応えた。
「前にも言ったでしょ? この辺のモンスターは砂の下に隠れて獲物を待つタイプが多いって……」
「見つけ方は確か、呼吸で砂が僅かに動くのを見つけるんだったか?」
「その通り!! 忘れたら今度はこんなんじゃ済まないかもしれないんだから」
そうしてルセニアは刀弥に脱ぎ捨てたフードを渡すと、一人先へと歩き出す。
「ほら、行くわよ。もうすぐ目的地なのにここで死んじゃったらこれまで努力が水の泡じゃない」
「まあ、確かにな」
リアと顔を見合わせ同意する刀弥。
彼は受け取ったフードを羽織り直し、リアと共に彼女の後を追い掛ける。
やがて、彼らは闘技都市コローネスへと到着したのだった。
09/03
ルセニアの口調を変更。