表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の世界  作者: 蒼風
短章三章~四章「花と式とプレゼント」
51/240

短章三章~四章「花と式とプレゼント」(5)

 教会の鐘が鳴り響いた。

 その音共に色とりどりの花びらが風に乗って舞い上がり、雪のように降り落ちる。

 青い空と舞い落ちる花の雪。その中を花嫁と花婿が歩いていた。


 腕を組み歩く二人。二人を囲む人々はそんな二人に祝福の拍手を送る。

 その中には当然、刀弥とリアの姿もあった。


「結局、エストはリネルのプレゼントを選ぶために刀弥を誘ったの?」

「そういう事だな」


 拍手をしたまま、刀弥はそう相槌を打つ。


「ふーん。でも、何でまた赤い宝石のついたブローチなの?」

「エストの世界じゃ、赤い物と一緒に決まり文句を送ることで求婚になるんだってさ」


 元々は命の源である血を杯に入れ、「私の血を受け入れてくれるか」と言って相手の女性に飲ますのが風習だったそうだ。

 ただ、近年はその方法自体が敬遠されるようになってきて、代わりに赤い物を送るようになったらしい。


 リネルトは違う世界の人間だったため、通じないとわかっていたエスハルトは普通に言葉で求婚を伝えたそうだ。

 そこで刀弥はエスハルトの求婚の風習について尋ね、物を渡す風習があることを確認すると、あえてそれで送ったらどうだと提案してみた。無論、それがどういう意味を持つのかも相手に伝えるようにと言ってある。


「じゃあ、プレゼントした時にいきなり言った言葉がそれなんだ」


 このプレゼントを渡す時、エストがリネルトに「私の血を受け入れてくれるか」と尋ねていた。

 その言葉に呆然とするリネルトとリア。ただその直後にリネルトは何か悟ったようで「はい」と答え、送られたブローチを受け取った。


 現在、そのブローチはリネルトの胸元に取り付けられている。

 白いドレスの上に付けられた真っ赤なブローチは否応なく目立っているが、花嫁の美しさっを損なうことなく、むしろ逆に引き立たせる効果を生み出していた。


「それにしても似合ってるね」

「そうだな」

「ちょっと、羨ましいかも」


 羨望の眼差しでブローチに見入るリア。

 すると、そんな彼女を見て刀弥はポケットから何かを取り出すと、それを直接、彼女の手に手渡した。


「え?」


 驚きの声をあげるリア。彼女はすぐさま渡された物の正体を確かめるために己の手元に視線を落とす。

 彼女の手に渡された物の正体。それはペンダントだった。先端部分には桜色の花の形状をした装飾が付いている。


「店の人の話だと、その花はこの世界じゃお守りの効果があると言われているものらしいぞ。いろいろと世話になってるからな。せめて、これくらいはさせてくれ」


 少し恥ずかしそうな顔を浮かべながら、ペンダントについて説明する刀弥。

 そんな説明にリアは一度だけ手元にあるペンダントに視線を向けると、再び刀弥の方へと戻す。


 余り反応が良くない。気に入ってもらえなかったのだろうか。


「……何を送ったらいいか、よくわからなかったからな。手堅くお守りになりそうな物を選んだんだが……駄目だったか?」


 少し不安そうな表情をしながら刀弥はリアの様子を伺う。

 すると、そんな彼の仕草がおかしかったのか、突然リアが吹き出した。

 そんな彼女の突然の反応に刀弥は呆けるしかない。


「ごめんごめん。全然駄目じゃないよ。むしろ、嬉しいくらい。だって、こんなプレゼントをしてくれるなんて思ってもいなかったから……」


 そう言ってリアは頬を緩ませる。

 ようやく出てきた喜びの反応。それに刀弥は安堵した。


「そうか。よかった」

「ありがとう、刀弥」


 お礼を述べるリア。

 早速、彼女はペンダントを首にかける。


「どうかな?」

「似合ってる」


 感想を求めるリアに刀弥は素直な感想を口にする。

 そんな彼の感想にリアは気を良くしたようで、その顔は満面の笑顔に変わっていた。


「刀弥、リア」


 そこに二人を呼ぶ声が聞こえる。

 声の方へと振り向くと、そこにはエスハルトとリネルトの二人が歩み寄ってくる姿が見えた。


「おめでとう」

「二人共、おめでとう」


 二人を見て刀弥とリアは祝福の言葉を送る。

 すると、それに二人は笑顔で応えた。


「悪いな。用事がある中、参加してもらって」

「気にしない。気にしない」

「リアの言う通りだな。こっちの事情だし、エスハルト達が悪いわけじゃないから気にする必要はないさ」


 エスハルトの謝罪に二人がフォローに入る。


 今回はたまたまタイミングが悪かっただけの話だ。それに依頼があった上で参加することに決めたのは刀弥達。エスハルト達は悪くない。


「けれど……」

「えっと……とりあえずあちらに行きませんか?」


 それでも、納得しきれないエスハルト。

 と、そこにリネルトが割り込み、立食パーティーの開かれている広場を指差した。


「そうだな」


 立食パーティーには軽くは参加するつもりだったので、刀弥は頷く。

 そうして四人は広場の方へと歩いていった。


 主役が広場にやってきたのを認めた人々は、すぐさまエスハルトとリネルトを取り囲んだ。その上で彼らは改めて二人に祝福の言葉と拍手を送る。

 中にはエストをからかったり、リネルトに馴れ初めを尋ねたりする人もおり、いつの間にか和気あいあいとした雰囲気ができていた。

 どうやら街の人達は外からの人の式に慣れているらしく、それ故に明るく積極的に話しかけてきているようだ。


 考えてみればこんな場所だ。ここで式を挙げたいと思う人はエスハルト達だけではないだろう。


 やがて、エスハルト達が戻ってきた。心なしか、少しぐったりとしている。


「大丈夫か?」

「まあな。まさか、あそこまで親しげに接してくるとは思っていなかったからな」

「私も意外でした」


 そんな二人の返答に刀弥とリアは苦笑を返すしかない。


「まあ、折角祝ってもらうんだ。楽しい方がいいに決まってるからな。向こうもそれがわかってるから、親しげに話しかけてくるんだろう」

「ああ、それは言えてるかもしれません」


 得心がいったのか、リネルトが手をポンと叩いた。


「……それでリア達は今から出発するのか?」


 と、そこにエスハルトが別れの話を切り出す。


「うん。そのつもり」


 それにリアが肯定を返した。


 式はしっかりと見届けたし、後に残っているのは立食パーティーのみ。もうこれ以上ここに留まる理由はないのだ。


「もうお別れですか」

「リネル。向こうも忙しい中で参加してくれたんだから、これ以上は我儘になるぞ」


 名残惜しそうに告げるリネルトにエスハルトが苦言を呈する。

 それで彼女はその事に気が付いたようだ。


「あ、すみません。エストの言う通りですね」

「気にしないで。私達も本当なら二人の結婚をゆっくり祝福したいところなんだけど……」

「先約があるなら、仕方ないさ。ほら、急いだほうがいいだろう。こういう時はきっちりと締めたほうがお互いのためだし」


 その言葉にリアとリネルトは共に頷く。


「それじゃあ、リア。またどこかで」

「二人共、道中は気を付けて」

「エスト達も元気でな」

「二人共、お幸せに~」


 別れの言葉をそれぞれ全員が口にし、それが終わると刀弥達は歩き出した。


 風が吹き、下に落ちていた花びらが舞い上がる。

 再び舞い落ちる花の雪。けれども、その中を歩くのは新しい夫婦ではなく、一組旅人だ。


 朱の髪の少女と黒の髪の少年は降りしきる花びらを眺めながら歩を進ませ、やがてその姿は花びらの向こうへと消えてしまったのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



「結婚か~」


 ゲートのある方へと歩きながら、リアがそんな呟きを漏らす。


「やっぱり、リアも興味はあるのか」

「当たり前じゃない。結婚に興味のない女性なんていないと思うよ」


 声を弾ませリアが刀弥の方へと顔を向けた。


「なるほどな。ちなみにどういう相手がいいとか、そういうのはあるのか?」


 彼女の答えを聞いて刀弥の頭にそんな疑問が浮かぶ。

 どういう人が好みなのか少し気になってしまったのだ。

 彼の問いにリアは腕を組んで考え込む。


「う~ん。いい結婚をしたいなとは思うけど……どんな相手がいいとかは実際の所決まってないかな。今はそれよりも旅の方が興味あるし」

「ああ、なるほどな」


 確かに今までの話を聞いていると、それは十分に有り得た。

 今は色恋よりも旅の方に熱意が向いていて、そんな事を考えている暇もないという事なのだろう。

 リアらしいといえばリアらしい。


「そういう刀弥は?」

「全く興味なし。この世界に来るまでは、ほとんど剣術の修行に明け暮れていたな」


 おかげで人付き合いが少なくなり、それ故に恋愛とかに関わることがなかった。

 異性の知り合いがいないわけではないが、どちらかと言えば妹みたいな感覚やライバルといった認識の方が強く、そのせいでそういう意識は全くない。


「そうなんだ」

「それより、向こうについたらどうするんだ?」


 ゲートをくぐればサグルトだ。そのため、刀弥は向こうの世界に行った後の行動についてリアに尋ねてみることにした。


「遅れた分を取り戻したいから、ガイドを見つけてすぐに出発したいところだけど、ガイドを見つけるのにどのくらい掛かるかによるかな」

「それもそうか」


 なにせ、初めての砂漠渡りだ。慎重に行動したほうがいいだろう。


「ねえ、刀弥はどんなガイドが希望? やっぱり、女性のほうがいい?」

「……どうしてそんな質問になるんだ?」


 顔を赤くして尋ねる刀弥。

 そんな彼の様子を見てリアは意地悪そうな笑みを浮かべる。


「だってね~」

「……先に行くぞ」


 このままではまずい。そう考えた刀弥は事態から逃れるため、そう言って先へ急ぐことにした。


「あ、ごめんごめん。待ってよ~」


 そんな彼の後をリアが謝りながら追いかける。


 天上より見下ろす輝く花はそんな二人のやり取りを見守るかのようにに高々と昇り照らしているのであった。


短章終了

短編ようやく終了しました。


仕事とACVで結構、今週はギリギリです。orz


4章は目的地に到着したところから開始の予定です。


現在、大まかな流れは構想できているのですが、それをまとめるためにまずはプロットを作らねばなりません。

 できれば一週間で投稿まで持っていきたいのですが、難しいかもしれません。

 一応、2週間後には投稿まで持って行こうと思いますので、とりあえずそれで宜しくお願いします。


02/05

 気になる文章を修正。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手もらえたらやっぱり嬉しいです。
ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ