短章三章~四章「花と式とプレゼント」(4)
予定では次のラストの予定です。
最近、疲れているせいか、ペースが遅め……
ACやゲームとか買ったので気を引き締めねば……
「ねえ、リア。刀弥とは付き合ってるんですか?」
刀弥とエスハルトが去ってからしばらくして……
突然、リネルトがリアにそんな問いを投げかけてきた。
「今は違うよ」
その問いに意外にも焦ることなく答えるリア。
その態度にリネルトは少し口を尖らせる。
「もう少し問いにふさわしい反応があってもいいと思うんですけど」
「あはは、焦ったらリネルの思うつぼになるような気がしたからね」
そう言ってリアはウインクを返す。
そんな彼女の反応にリネルトは吐息を漏らした。
「まあ、リネルの冗談は置いといて。単純に旅のパートナーという意味でなら、お互い信頼しあえるようにはなってきたのかな。最も、リネル達と比べるとまだまだと思うけどね」
「そうですか」
それを聞いてリネルトは嬉しそうな顔を浮かべる。
「簡単に接した感じですけど、二人は相性がいいと思いますよ」
「それに関しては私も同じ感想かな。けど、刀弥ったら一人で無茶するところあるから……」
それがリアの心配の種だった。
止めることは既に諦めている。けれども、だからといって不安が無くなるというわけではないのだ。
いつものように無茶をして怪我をするだけなら、まだいい。しかし、それ以上の状態になってしまったら……
そう考えると、怖くなってしまうのだ。
リアは視線を落とす。
それを見て、リネルトが目を細めた。
「男性なんてそんなものだと思いますよ。エストも昔はそんなところがありましたし」
「……そうなの?」
意外という顔を浮かべるリア。
それはリアの知っているエスハルトとは随分とかけ離れているような気がしたからだ。
そんな彼女の問いにリネルトが首をゆっくりと縦に振って応える。
「真面目なせいか、昔は誰かに頼るという選択肢が頭になかった人でしたから」
目を閉じ、過去を思い出そうとするリネルト。リアはそんな彼女に興味津々の瞳を向けていた。
「相談もなしに、盗賊退治に出かける。叫び声を聞いたら、一人で駆け出す。私をあてにはしない。そんな人でした」
「へー。そうなんだ。あれ? でも、私と出会った時は違ったよね?」
リアは当時の事を思い返す。
背中を預けるように背中合わせに立っているリネルトとエスハルト。そんな図が簡単に思い出せた。
互いに言葉も視線も交わさない。けれども、それは相方がどうでもいいという事ではなく、互いに見る必要がなかったというだけだ。
そんな事をしなくても相方が勝つことを両者は何も言わずともわかっている。だからこそ、心配の視線も励ます言葉も送らない。
ただ、己が生きて勝てばいい。そうすれば相方も勝つ。
そんな信頼関係で結ばれているのをその時、リアは感じたのだった。
だからこそ、リネルの言葉にリアは少なからず驚いた。彼にかつて、そんな欠点があったなんて思いもしなかったのだ。
「その辺はまあ、いろいろあったという事です」
具体的に何があったのかを言わずに曖昧に答えるリネルト。もしかしたら、リネルトとエスハルトだけの秘密にしておきたいのかもしれない。
「そっか」
なら、それを無理に聞き出すのも野暮だと思い、リアは追求を控えた。
その上で彼女は新たな話題を口にする。
「そういえばさ。リネルはエストのどこを好きになったの?」
それが今、一番聞きたい彼女の純粋な疑問だった。
エスハルトがいい人であることはリアもわかっている。けれども、その中でリネルトは彼のどの部分に惹かれたのか、それが気になったのだ。
リアも女性であるので、恋愛ごとにはやはり興味がある。
アレンとシェナの時は初対面でしかもシェナが風変わりだったこともあり、その辺の話に突っ込めなかったが、昔の知り合いなら話は別だ。遠慮なく尋ねることが出来る。
彼女の疑問にリネルトは少しばかり考え込むそぶりを見せた。
「そうですね……いろいろありますけど、一番は優しく真面目なところです。なんというか、かわいらしくて」
「かわいらしくて ってエストが聞いたら怒りそうだね」
リアのその言葉にリネルトは笑みを漏らす。
恐らく、その様相を想像してしまったのだろう。
「そうですね。後、それ以外に放っておけなかったというのも理由としてはあります」
「放っておけなかった?」
首を傾げるリア。
一体何を放っておけなかったのかがわからなかったたからだ。
疑問の答えはすぐに返ってくる。
「なんというか、真面目な性格のせいで損な生き方をしているんです。悪い人を捕まえることに協力したり、誰かが悪い事をしようとしているのを止めようとしたり。そんな彼を見ているとなんだか放っておけなくて……」
「それで一緒にいたわけ?」
「直接彼にそう言ったことはありません。ですが、それが彼と一緒に旅をしようと思った理由でもあります。で、そうして一緒にいる内に彼に惹かれていって、今の関係になりました」
そう言ってリネルトは幸せそうな表情を見せる。
それをリアは笑って見ているしかない。
けれども、途中でふと気が付く。
「でも、私と一緒に旅をしていた時はそういう姿はあまり見なかった気がするけど」
記憶を遡って思い出したエスハルトが原因の事件は確かにリネルトが言う通り、困っている人を助けるために動いていた。
だが、そういう感情で動くなら、もっといろいろな事件に首を突っ込んでもおかしくないはずだ。
この疑問もリネルトの返答ですぐに解決した。
「あ、それはたぶん、エストが首を突っ込む前に私が首を突っ込んでるからだと思います」
「…………」
何でもないような感じで軽く答えるリネルト。
それを聞いてリアは合点がいく。
見なかったのではない。リネルトの性格のせいで、その一面を見る機会が少なかっただけの話だったのだ。
「あははは……」
全てを理解したリアは笑うしかない。
そんな彼女を気にすることなくリネルトは話を続けていた。
「まあ、そうすることで私が主導権を握るという狙いもあるのですが。エストじゃ、結構損な選択をしてしまいますし」
どうやらそこにも彼女のエストに対する思いやりがあったようだ。
エストも幸せ者だなと、そんな思いがリアの心の中で生まれる。
「……さて、私が話せるのは以上です。今度はリアの番ですよ。刀弥とどんな風に出会ったのか教えて下さい」
ニンマリと頬を緩めてリアに顔を近づけるリネルト。
「うん、いいよ」
ここまでいろいろと教えてもらったのだ。その分は返すべきだろう。それに別に隠すことでもない。
適当な椅子に腰を下ろすリア。
そうして彼女はリネルトに刀弥との出会った時の話を始めるのだった。
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「……中々難しいな」
「同感だ」
広場のベンチに座る刀弥とエスハルト。二人の顔には疲労が色が浮かんでいた。
あれから、二人はいろいろな店を回った。
けれども、エスハルトがこれだと思うプレゼントが中々、見つからない。
そのうち、歩き続けたせいなのか、はたまたプレゼント探しに精神的に参ったのか、二人共疲れを見せ始めた。
現在はその疲れをとるために市場の近くにあった広場のベンチで休息をとっているところなのだ。
買った飲み物を口にしながら、息をつく刀弥。
広場は色鮮やかな花壇に囲まれていた。
円状に囲む花壇。ふと、リネルトがしていた花のティアラの事を思い出す。
「う~ん。どれを選んだらあいつは喜んでくれるかな」
そんな事を考えていると、隣でエスハルトがそんな事を呟いていた。
「時計、宝石、縫いぐるみ、絵、道具……いろいろ見てみたけど、どれも駄目なのか?」
「なんというか、ただ高価な物をプレゼントしたいわけじゃないんだ。気持ちが篭っていると言えばいいのか、ともかくそういうプレゼントを送りたいんだ」
「……そうなると、自分の手で作るとかが定番だろうけど、今からじゃ時間がないしな」
渡すとしたら一番ベストなタイミングは式の始まる前後だろう。だが、式が始まるまで残り僅か。どう考えても時間がない。
「すまない。思いついたのが、つい最近だったもので……」
「別に謝れることじゃない。俺に謝っても仕方ないしな」
それができていれば、刀弥にこんな頼みごとをすることもなかっただろう。
つまり、刀弥に謝る事自体が間違っているのだ。
「あ、そうだな」
その事に気が付きエスハルトは困ったような笑みを見せる。
そんな顔を眺めていた刀弥。と、唐突にある疑問が頭に浮かび上がった。
「なあ、エスト。そこまで真剣に考えるほどリネルの事が好きなのか?」
「当然だ」
当然のように胸張って答えるエスハルト。
それ自体は刀弥もわかっていた。彼が本当に聞きたいのはここからだ。
彼は己の疑問を躊躇うことなくエスハルトにぶつける。
「それじゃあ、人を好きになるっていうのはどんな感覚なんだ?」
迷いと好奇心の混じった声。それが彼、風野刀弥が抱いた純粋な疑問だった。
刀弥は恋愛というものがまだよくわかっていない。
元の世界の中学校。人との交友は苦手だが、そういう話は何度か小耳に挟んだことはある。読んでいた本でもそういうシーンは何度も見た。
けれども、刀弥にしてみればそれは自分とは関係のない、まるで遠い世界の話のように聞こえていた。
別にそれがいらないものだとは思わない。けれども、欲しいと思うものでもない。それが刀弥の恋愛に対する感想だ。
それよりも彼は剣術の腕をあげることに熱意を傾けていた。
ただ、やはりどんな風に思っていても、いろんな事に興味を持つ年頃だ。
周囲の恋話などに無意識に耳を傾けてしまったり、中の良さそうな男女二人組に目が吸い込まれたりしてしまう。
そうして、やがて、彼は人を好きになるというのはどういう感覚なのだろうかとそんな疑問をもつようになった。
「う~ん。人によると思うが俺の場合、一緒にいることが心地良いという感覚だな」
「心地良い?」
その問いにエスハルトは頷きを返す。
「ああ、ああいう性格のせいでほっとさせされるんだ。それがとても心地良くて、いつしか一緒にいるのが当然と思っていたな」
「そうなのか」
相槌を打ちつ刀弥。よくわかっていないのか、顔をしかめ首を少し捻っていた。
そんな彼の様子を視界に入れつつ、エスハルトは話を続ける。
「慣れというのか、長い間、一緒に旅をしているとそれが日常というのか当たり前の感覚になってくる。刀弥も時期にわかるさ。リアと一緒に旅をしているんだからな」
「それはなんとなくわかるけど、俺達がエストみたいな関係になるとは限らないだろう」
現在、刀弥にとってリアとは恩人であると同時に大切な旅のパートナーだ。彼女にはいろいろと助けられている。
右も左もわからない自分にいろいろな事を教えてくれた。人を殺し、恐怖に震えていた自分を励ましてくれた。強くなることに焦っていた自分を諭し、お互いに助けあおうと言ってくれた。
その事に感謝と恩義を感じているが、それ以上の感情はないはずだ。
彼の言葉にエスハルトは苦笑を返してくる。
「それはどうだろな。まあ、俺達も最初に出会った時は今のような状態になるとは思ってもみなかったしな」
「そういえば、二人はどんな風に出会ったんだ?」
エスハルトの台詞の中に興味のある言葉を見つけた刀弥は、すぐさま彼に問い掛ける。
二人がどのように出会って今の関係になったのか、それに少し興味があったからだ。
「ん? ああ。ある村がモンスターの被害を受けて困っている話を聞いてやってきたら、彼女も同じような目的でやってきてたんだ。で、二人で協力して倒したんだけど、どういう訳か彼女が一緒にいかないかと言ってきてね」
「で、それを了承したわけか」
「まあ、断る理由もなかったからな。ただ、当時はその選択を少し後悔したな。騒がしい上にいろいろと厄介ごとを持ってくるから。このまま黙って別れようかと思ったのも一度や二度じゃない。まあ、真面目な性格がたたって、それはできずじまいだったが」
苦笑ととれる笑い声を漏らして、彼は言葉を紡ぐ。
「だけど、そのうち、そんな明るい性格の彼女に精神的に癒されている自分に気が付いた。そこから先、彼女に惹かれるのに時間はそう掛からなかったな」
そう言って空を見上げるエスハルト。
刀弥はただその仕草を眺めているだけだった。
やがて、エスハルトは視線を空から刀弥へと戻す。
「まあ、刀弥の世界の恋愛とは違うかもしれないけど、俺の場合はこんな感じだったな」
「なるほどな」
やはり、恋愛というのを理解するのは難しいなとそんな感想が頭に浮かんだ。
そうして刀弥は空を見上げる。
青い空と白い雲。二つの色が刀弥の視界を染めていた。
その流れを目で追いながら、彼はふと、両親から聞いた身の上話を思い出す。
刀弥の両親が出会ったのは父、源治が友人である高峰家の家へと招かれた時だったそうだ。
高峰の家は大企業と同時に高峰流の剣術を伝えている家。つまり武術関係の友人だ。
家を訪れた際に、友人の妹である母、智子が彼を出迎えた。父曰く、その時に一目惚れしたそうだ。
互いに名乗りあい、彼女に案内され友人の待つ部屋へと訪れる。その日はそれで終わりだった。
以来、友人宅に訪れる度に彼女のことを探していたらしい。本人は隠しているつもりだったようだが、友人にはバレバレだったようだ。これは母の口から聞いた。
そうして友人の仲介もあって二人は交際するようになったそうだ。
理解はあるが堅物の父と落ち着いた感じだがしっかりとした母。案外相性が良かったようでその一年後に結婚した。
その時の写真を見せてもらった記憶もある。
神前式の式を上げたようで、紋乃が『珍しいですね』と言っていた。
どうやらその形式の式を望んだのは母方の親戚だったらしい。
笑顔でその辺りの事を母親が説明する母親に紋乃が『私の時は絶対、ウエディングドレスを着てみたいです』と意気込んでいたのを覚えている。
――と、いけない。余計な思い出まで思い出してしまった。
記憶を振り払うように首を振る刀弥。だが、途中でその動きが止まった。
「……そうだ」
「ん? どうした刀弥」
彼の漏らした小声にエスハルトが反応を示す。
「なあ、エスハルト。少し聞きたい事があるんだけど……」
そうして刀弥はその問いを聞いて己のアイデアを口にするのであった。
02/05
気になる文章を少し修正。