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無限の世界  作者: 蒼風
短章三章~四章「花と式とプレゼント」
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短章三章~四章「花と式とプレゼント」(2)

「へ~。ここで式を挙げるんだ……」


 式を開く建物を見上げながらリアが口を開く。

 現在、刀弥とリアの二人はリネルトとエスハルトが式を開く場所を見学していた。




 エスハルトから式の話を聞いた刀弥とリアはすぐさま二人に祝福の言葉を送った。

 それを笑顔で受け取るエスハルトとリネルトの二人。


 それから二人は刀弥達もよかったら式に参加してくれないかと頼んできた。式は明日の昼過ぎらしい。

そんなにすぐならリリスのお遣いにも支障はでないだろう。

 そのため、刀弥とリアはすぐに参加することに決めた。

 それから後はリネルトの提案もあって式が行われる場所を案内してもらい、そうして現在に至るのである。




「これは……教会か?」


 リアと同じ建物を眺める刀弥。彼の目には驚きの色があった。


 純白の壁と黒い屋根。相反する二つの色は清潔さと質素さを作り出し、どこか静かな雰囲気を周囲に与える。屋根の上には金色に光る鐘。鐘は風に揺られており、金色の楽器からは小さな音が漏れていた。

 入り口の壁には『ファートゥム』と読める文字のオブジェ。

 どう見ても教会にしか見えない。


「ファートゥム教の教会だね」

「ファートゥム教? 宗教か?」


 初めて聞く名前に首を捻る刀弥。そんな彼の疑問に頬の端を緩めながらリアが答える。


「うん。無限世界で一番大きい宗教で『出会いという運命』を信仰しているの」

「……なんだそりゃ?」


 リアの答えに思わず刀弥は呆れた声を返してしまった。

 てっきり、無限世界を作った神様とか、何かを成した英雄などを予想していただけにその内容は刀弥にとって予想外のものだったのだ。


「元々は世界と世界が出会った運命に感謝し敬おうという考えから始まったんですけど、そこから転じて人や出来事との出会いの運命という身近なものに変わったんです」

「まあ、無限世界内にある宗教の中でも特殊なのは確かだ。最もその分、身近に信仰されてたりするんだけどな」

「はぁ、なるほど」


 刀弥としてはまだよくわかっていなかったが、とりあえず、そういう宗教だということで納得するしかないのだろう。


 ふと、教会の周囲を見渡すと、街の人々が飾り付けをしたり荷物を運んだりしている姿が目に入った。どうやら式の準備をやっているようだ。


「式の準備とかは街の人達がやるんだな。俺の世界の結婚式はそれを仕事にしている人に準備とかは頼むんだけど」


 そんな彼らを見て、自分の世界の結婚式を思い出しながら感心する刀弥。

 そんな彼にリネルトが反応を返す。


「あ、私のところに似てますね。私のところもそれを生業としている人達に頼みます。ただ、外から来た人の場合、祝う人達は周囲に住んでいる人達に頼むことになりますけど」

「無限世界の旅人とかじゃあ、知り合いが遠すぎて呼ぶにもかなり時間が掛かるからな。だから、代わりに街の人達が見届け、祝う役をするのさ」

「ああ、なるほど」


 これは刀弥もすぐに理解できた。

 確かにエスハルトの言う通り、知り合いを呼ぶのはかなり大変だ。

 かなり遠くの世界なら、呼んで移動するだけでも多くの日数が掛かってしまう。それは招待された側だけでなく、した側にとっても大変だろう。

 さらにアレンとシェナのような旅人を招待したいのなら、その難易度はさらに跳ね上がる。

 で、あるなら必然的に見届け役と祝福者は近場の者に頼むしかない訳だ。


 そういう意味では二人の知り合いであるリアが偶然とはいえ、通りがかったのは二人にとっては嬉しいことだろう。式の参加を進めてくる気持ちもよくわかる。


「それにしても皆、明日のために頑張ってるな~」


 そんな事を考えていると、準備をしている街の人達を眺めていたリアが不意にそんな言葉を口にした。


「本当にありがたい思いで一杯です」

「と、同時に申し訳なくって『何か手伝いましょうか?』って言ってみたんだけど――」

「『主役は手伝ったら駄目』とか言われたんでしょ?」


 エスハルトの言葉を引き継ぐように、リアが相手の言ってきた内容を口にする。

 リアのその言葉にリネルトとエスハルトの二人は共に頷いた。


「まあ、そういうことだな」


 苦笑を浮かべるエスハルト。

 その会話に刀弥も混ざる。


「なんかそういうジンクスというか、決まりでもあるのか?」

「別にそういう訳じゃないよ。ただ、祝われる側が祝う準備を手伝うのもおかしな話だろっていうこと」


 言いたい事はわからないでもない。だが、刀弥としてはエスハルト達側の感情も理解できた。


「まあ、リネル達の気持ちはわかるけどね。旅に出る前に一回だけ知り合いの式の準備を手伝ったことがあるんだけど、やっぱり、お二人ともそんな感じだったし……」


 ウインクを見せ、リアが微笑する。

 そんな彼女の話を聞いてリネルトとエスハルトは苦笑を浮かべるのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 その後、リネルト達と別れた刀弥達は宿屋で部屋をとった後、買い物に出かけた。

 サグルトに向かうための準備のためだ。

 店の人に砂漠に必要そうな物を尋ねながら、買い物を進める二人。


 店の人によると、慣れない人はガイドというその場所に関するしっかりした知識を持つ案内人を雇って移動してるらしい。

 何分、二人共砂漠は初めてのため、その選択肢は考慮したほうがいいだろう。


 宿屋までの帰り道はその点についての相談だった。結局、二人はガイドを雇ってコローネスへと向かうことにした。


 これで自分達に関する用事は終わり、後は明日の結婚式を参加すれば出発できる状態だ。

 式が終わると軽い立食パーティーが行われる。それに軽く参加した後、二人は発つつもりだった。お使いを頼まれた手前、あまり長居するわけにはいかないからだ。


 既にリネルトとエスハルトにはその旨は伝えてある。二人共、忙しいのに参加してありがとうとお礼を返してきた。


 しかし、よく考えるとは式は昼過ぎ、つまり午前中は暇だということになってしまう。

 さすがに明日はリネルトもエスハルトもいろいろあるらしい。


 さて、どうやって時間を潰そうかと刀弥がそんなことを考えていた時だった。


「あの二人が結婚か~」


 ふと、リアがそんな台詞を口から漏らした。


「どうしたんだ?」


 それを聞いて刀弥は足を止めて振り返る。

 二人が今いるのは宿屋の前。実際、刀弥は中に入ろうと扉に手を伸ばしかけていたタイミングだった。


「ん? 前からお似合いだな~って思ってたんだけど、ようやくなんだな~って思ってね」

「前からって……リアが二人と出会った時の話か」


 そういえばその辺りの話を全く聞いていないことに今更ながら刀弥は気付く。

 せっかくなのでその辺りの話をリアに聞いてみることにした。


「どういう縁で出会ったんだ?」

「え~とね、一人で旅をしていた時に男の人達に絡まれてね。それを二人に助けてもらったの。で、しばらく間、一緒に旅してたって訳」


 なんとなく情景はイメージできる。下心のあった男達がリアに近づき、それを二人が撃退したのだろう。


「俺は会ってそれ程時間が経ってないからわからないけど、二人はどんな人なんだ?」


 服装などから二人がシェナやアレンのような同郷の間柄でないのはなんとなくわかっていた。だが、性格などまではまだこの程度の付き合いでは計り切れない。


「え~とね。エストは見ての通り剣士。性格は真面目でしっかりしてるんだけど、ちょっと真面目すぎる所があったかな。当時は不意打ちとかは卑怯みたいな考え方持ってたし……リネルは普段は明るくて素敵な女性なんだけど、興味があることには刀弥も知ってる通り、かなり積極的になるのが難点かな」

「だな」


 苦笑いを浮かべて返事を返す刀弥。

 今、彼の頭の中では矢継ぎ早に質問をしてくるリネルトの姿が思い出されていた。

 興味津々な顔で尋ね、答えると嬉しそうな表情を浮かべる。

 悪い人ではないのだが、あの状態の彼女は刀弥としては少し苦手だった。


「あ、後、魔具じゃない銃を使うの。電気が動力で引き金を引くと光弾が飛び出すんだよ」

「……どこの未来系アニメだ」


 リアに聞こえないよう小さな声で刀弥は呟く。

 こんなところでそんな道具にお目にかかれるとは思ってもみなかった。


 しかし、よくよく考えてみると、剣に、魔術に、魔法系道具に、思考するロボット、そして果ては未来系銃まであるときた。本当に、なんでも有りである。


――とんでもない世界だな。


 そんな思考が頭をよぎった。

 これは有り得ないのを探すほうが大変かもしれない。

 いっその事、それを楽しみにするのもありかもなとそんな考えが浮かんだ所で、刀弥はリアの話へと集中し直す。


 幸い、リアはそんな刀弥に気付かないまま話を続けていた。


「でね、一緒に旅をしてたんだけど、リネルが首を突っ込んで、それをエストがフォローするってパターンが多かったなぁ」


 懐かしむように過去へと意識を向けるリア。


「シェナとアレンのような関係ってことか」

「そうそう、それそれ。あ~、どうしてあの二人と出会った時に思い出さなかったんだろう」


 どこか悔しそうな声色で彼女は声を上げた。

 そんな彼女の様子に刀弥は肩をすくめる。


「まあ、たまに真面目なエストがトラブルを生むってパターンもあったんたけど、その時はリネルがアイデアを出したりしてフォローとかしてたかな。最も、大半の事件はリネルがきっかけだったけどね」

「なるほどな」


 どうやらアレンとシェナの様な片方がもう片方をフォローする関係ではなく、双方が双方をフォローし合う関係だったようだ。


 リアに借りを作りっぱなしの自分もいつかそんな関係になれるのはだろうかと、ふと、そんな思いが刀弥の脳裏をかすめる。


「大体、そんな感じかな。他に聞きたいことはある?」

「二人に関しては特にないかな。それ以外なら当時のリアの事とか聞いてみたいな。何か失敗とかあるのか?」

「もう、刀弥ったら……」


 からかい半分の口調でそう言ってみると、少し顔を赤くしてリアが抗議の声を返してきた。

 その反応から、何か失敗があるのは容易に想像できる。


「まあ、その話は明日の午前中にでもするか。どうせ暇だしな。それよりも、そろそろ宿屋に入ろう。時間も時間だしな」


 上を見ると既に空は星と夜色に染まっていた。話し込むのに夢中になったせいで、結構な時間が経過していたのだ。


「うわぁ、本当だ」


 刀弥と同じく空を見て、時間の経過に気付くリア。

 刀弥はというと宿屋の扉に手を伸ばし、扉を開いていた。


「ほら、入れ」

「あ、ありがとう」


 そうお礼を言ってリアは宿屋の中へと入っていく。

 彼女が宿屋の中に入っていくと、その後に刀弥が続き扉を閉めた。


「それじゃあ、刀弥。おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 そうして各々の部屋に辿り着くと、互いにおやすみの挨拶を交わし部屋へと入る。

 部屋は白い壁と赤色の床といういたって普通の部屋だった。

 家具もタンスとベッド、机など、どこにでもありそうな物だけ。色とりどりの花の存在はどこにもない。

 唯一ある花は窓辺に置かれた花壇のみで、それも暗色系の色の花があるだけだ。


 カラフルな花が部屋になかった事は意外だったが、実のところ刀弥は少しほっとしていた。

 もし色とりどりの花が部屋のそこら中に飾られていたら、さすがに目が痛くて堪らなかっただろう。下手したら落ち着いて眠ることもできなかったはずだ。

 その辺の気遣いはできていたらしい。


 ともかく、寝る前に刀弥は風呂に入る。

 浴室に入ると、黄色の花が刀弥を出迎えた。


 どこにでも花があることに頬を緩めつつ、彼は風呂の時間を楽しむ。


 そうして、風呂から上がり服を着ると、彼はそのままベッドに倒れるようにダイブした。


 フカフカのシーツと暖かな布団、そして僅かに香る花の匂い。それに満足しつつ刀弥は目を閉じる。

 やがて、暖かな気分に包まれた彼の意識は緩やかな眠りの中へと落ちていくのであった。


02/05

 気になった部分を修正。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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