短章三章~四章「花と式とプレゼント」(1)
はい。そういう訳で修正地獄を抜けて、ようやく新しい話を始めることができました。
今回は短編です。
大体、量としては一話分を予定しております。
それではどうぞお楽しみください。
その街に辿り着いた時、思わず刀弥とリアは感嘆の声を上げてしまった。
今、二人の目の前には様々な色が咲き誇っていたのだ。
白、黄色、紫に赤、青に黒。それ以外にもいろいろな色があり、中には刀弥も目にしたことのない色まである。
二人の目の前に広がっていたもの。それは花だった。
なんと、色とりどりの花が街中に咲き乱れていたのだ。
二人は今、リアフォーネのサルネスという街にいた。
リリスの頼みでサグルトという世界のコローネスという街を目指す二人。その世界に行くにはここにあるゲートを通る必要があったためだ。
「すごい!! そこら中にお花があるね」
街の光景を見て感激したのか、テンションの高い声でリアが語りかけてくる。
「そうだな」
その声に刀弥は辺りを見回しながら首肯した。
道路だけではない。建物の壁や屋上。目に映る殆どの場所に花が咲いている。中には花を使って絵や看板を作っているところまである始末だ。
「さすがは花の街というところか」
来る前に聞いた話を思い返しながら、刀弥がそんな呟きを漏らす。
『花の街サルネス』
リアーフォーネ内では有名な花の名産地でリアフォーネの各地や隣の世界に花を出荷しているそうだ。
そのせいか、花の育てるだけでなく花を用いたアートも行なっているらしい。
街の光景もその一環だという話だ。
「だね。本当に驚いちゃった」
彼の言葉にリアが振り返り頷いた。
「とりあえずここで昼食をとるか」
「そうだね」
時間としてはお昼時。当然、この街に辿り着いたばかりの二人はまだ昼食をとっていない。
ならば、思考がそこに辿り着くのは当然の結果だと言えるだろう。
「で、どこにするんだ?」
「え~と……あ、あそこにしよ。丁度、街の光景が見渡せるし」
辺りを見回していたリアが指差したのは三階にテラスのあるお店だった。テラスには食事をするためのテーブルと席がある。
確かに彼女の言う通り、あそこからならいい景色が見渡せるだろう。
「確かにな。じゃあ、あそこにするか」
そうして二人はそのお店に向かうことにした。
店は店頭で注文した食事を受け取り、好きなところで食べる方式だった。刀弥の世界ではファーストフードなどで用いられているありきたりな方式だ。
注文した食事をお盆に乗せ、三階に上がる二人。
予想通り、三階から見下ろした街の光景は絶景だった。
三階のテラスからは色とりどりの花で飾られた街並みが広がっていたのだ。
大半の建物が二階までのおかげで視界を遮るものはほとんどない。おかげで街中の花を眺めることが出来た。
ふと、街の中央のほうを見ると、そこには花で作られた大きな時計があった。花時計だ。
花時計は時計の円の部分を赤い花で、針の部分を白花で飾っていた。ちなみに円の縁の部分は黄色の花だ。
花時計の白い針は半分程回っている。
ここの世界の一日は三三〇ティム(約二〇時間四〇分程)――花時計にもその数字が黒い花で書かれている――なので現在の時間は大体一六五ティムぐらいだという事だ。
そんな花時計を見て、話し合う通行人の姿が幾人か見える。恐らく、昼になったがどこかで食べるかとそんな類の話をしているのだろう。
ともかく刀弥達も適当な席を確保しようとテラスを歩き回る。その時だった。
「あら? リア!! リアじゃないですか!!」
突然、リアを呼ぶ声が二人の耳に届いた。
その声に二人は声の聞こえた方へと視線を向ける。
すると、そこには一人の女性が席から立ち上がり、こちらを見ているのが目に入った。
女性は驚きの顔を見せており、その視線をまっすぐリアの方へと注がれている。
年齢は刀弥よりも一回りくらい上だろうか。淡紅藤の長い髪と紫水晶の色をした柔らかそうな瞳が特徴的で、服装は白菫色を基調としたピッチリとしたスーツのような服と月白色のタイトスカートというこの世界では珍しいものだった。
「……リネル? もしかしてリネル!!」
彼女の声を聞いて少しの間考え込んでいたリア。だが、すぐに思い出したのか、大きな声を出して大急ぎで彼女のもとへと駆けていった。
「わぁ、こんなところで会うなんて。偶然ですね」
「リネル。久しぶり~」
そうして抱き合う女性たち。二人共かなりハイテンションだ。
「リネル。落ち着きなって……ほら、リアも」
そんな二人を新たな人物が諌めた。
こちらは男性で年齢は先程の女性と同じくらい。
金髪の髪と青い瞳をしており、服装は青いマントに黒いシャツとズボン、そしてその服の上に着た銀色の鎧というまんまファンタジーの住人という服装だ。
男性の声に二人は我に返り慌てて周囲を見渡す。
すると、当然の如く、ほとんどのお客達が彼女達を見ていた。
「あ……す、すみません」
「ごめんなさい」
皆の注目に気が付いた二人はすぐに頭を下げ始める。
そんな二人の謝罪に人々は笑みを浮かべると、すぐに彼らは食事と観賞へと戻っていった。
やがて、二人は一通り謝り終えると、顔を上げ話を再開する。
「でも、本当偶然だね。リネル。エスト。二人共元気だった?」
「ああ、見ての通り元気だ」
「はい。そういうリアは?」
そう答え、リアに問い返すリネルと呼ばれた女性。
その問いにリアはようやく自分の相棒の存在を思い出した。
「え? あ!? あれ?」
慌ててリアはその相棒を探し始める。
その相棒はというと、丁度、彼女の傍までやってきたところだった。
それに気が付いたリアは刀弥に謝り始める。
「あ、御免。知り合いに再会しちゃって、つい……」
「いや、別に気にしてないから」
友人に再会したのだ。驚き、はしゃぐのも無理はないだろう。
まあ、できれば場所に気を配るべきだったが、刀弥が抱いた感想はその程度だ。放って置かれた事については全く怒っていない。
そんな二人のやり取りを、リネルとエストと呼ばれた二人は興味津々といった様子で眺めていた。
「ねえ、リア。その人は?」
どこかワクワクした面持ちでリアに尋ねるリネルと呼ばれた女性。
「えっと、今、一緒に旅をしている風野刀弥って人なの。刀弥。こっちはリネルト・トリキニアとエスハルト・ライエントっていうの。愛称はリネルとエスト」
「よろしくね。刀弥」
「よろしく」
そう言ってリネルトとエスハルトは挨拶をしてくる。
「よろしく」
それに刀弥は応えた。
「とりあえず席に着かないか? 丁度、椅子は二つ分あるし……」
エスハルトの提案を聞いて刀弥が彼らが座っていた席を見る。
確かに彼らのテーブルには二人分椅子が空いていた。
「じゃあ、そうしよっか?」
「ああ、そうだな」
折角のリア達の再会だ。断る理由もない。
そうして刀弥とリアはエスハルトに促されるまま、二人の座っていたテーブルに席を着く。
「それにしてもリアが男の人と旅をしてるなんて……」
席を着いて早々、リネルトが意味深な笑みを浮かべリアの方を見た。
明らかにその事でからかう気満々な様子だ。
彼女の言葉にリアは困った顔を浮かべながらこう返す。
「えっと、彼、渡人だから、この世界の事を全く知らなくてね。それで出会った縁もあって一緒に旅をしてるの」
その返答にリネルトもエスハルトも目を丸くした。彼らは反射的に刀弥の方へと視線を向ける。
突然向けられた視線。その反応に思わず刀弥は肩をピクッと跳ね上げてしまった。
「そうなんですか?」
「えっと……まあ、その通りです」
見開いた瞳を刀弥に向けながらリネルトは質問する
そんな彼女に刀弥はたじろいでしまうが、それでも何とか質問には答えた。
すると先程までの驚きはどこへやら、それを聞いたリネルトは目を光らせ、今度は刀弥を上から下へと眺め回す。
「へ~。渡人なんて初めて見ました。あ、もしかしてその服とかもその世界の物なんですか?」
「え~と、まあ、そうです。下の奴はいろいろあって捨てましたが……」
「そうなんですか。あ、そうだ。名前の字体を見せてもらってもいいですか? どんな風に書くか興味がありますので……」
「いいですけど……」
そうして矢継ぎ早に質問をしてくるリネルト。それに刀弥はタジタジだ。
リアとの知り合いだからだろうか。向こうには遠慮がない。興味のあること、気になったことを次々と訊いてくる。
一方、刀弥の方はというと、相手の事を全く知らないのでどう対応していったらいいのかわからず困惑していた。
興味を持たれるのは仕方がないとしても、その質問が次から次へと飛んでくるものだから正直、たまったものではない。
どこかで間が欲しいのだが、遠慮気味に言って通じるのか、強気に出て大丈夫なのか、その辺りがわからないので言い出しづらい。
それ故に彼は困っていたのだ。
そんな彼にエスハルトが助け舟を出す。
「リネル。少し落ち着け。彼も困ってるようだし」
「え? あ……」
彼の言葉でようやくリネルトは刀弥の困惑に気が付いたようだ。ようやく質問のラッシュが止まる。
「あ、えーと、ごめんなさい」
「い、いえ……」
別に謝られることではないが、間ができた事に関しては正直助かった。
刀弥は視線でエスハルトに礼をする。
彼の視線に気が付いたのかエスハルトの顔に笑みがこぼれた。
「リネル。リアと違って彼は初対面なんだから、もうちょっと遠慮したほうがよかったな」
「だね」
エスハルトの意見にリアが同意する。
しかし、刀弥の記憶が正しければ、彼女は困惑していた自分を楽しそうに眺めていたはずだ。
そんな彼女が同意してもなと刀弥は思った。だが、あえて口には出さない。
「そういえば、お二人はここにはどういった理由で? やはり、サグルトへ?」
ともかく刀弥は新たな話題を出すことで、彼女達の意識を自分から別のところへ向けさせることにした。
彼の新たな話題にリアも便乗する。
「あ、それは私も気になるかな」
恐らく同じ方角であるなら、一緒に行かないかと誘うつもりなのだろう。
刀弥の問いに答えたのはエスハルトだった。
彼は少し頬を赤く染めながら口を開く。
「えっと……実はここで式をあげるんだ」
恥ずかしそうな声で彼は刀弥達にそう告げたのだった。
02/05
違和感を感じた文章を少し修正。