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無限の世界  作者: 蒼風
三章「遺跡世界リアフォーネ」
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三章三話「盗人」(5)


「ふぅ」


 ため息を吐きながら、刀弥は宝玉を拾った。


 一応、あちこち見回してみるが、傷が付いている様子はない。どうやら大丈夫なようだ。

 拾ったそれをとりあえず刀弥は上着のポケットにしまいこむ。

 重みで上着がずれるが気にしない。


 そのまま彼は傍に倒れるゴーレムのほうに視線を向けた。


「どうにかうまく言ったな」


 斬波が成功して、ほっとする刀弥。

 もし、失敗していたら森の中に倒れていたのは刀弥の方だったかもしれない。そう考えると、少しだけ体が震えだしてしまう。


――そういえばリアたちの方は無事だろうか?


 ゴーレムを彼女たちに任せて追いかけたので、あの後どうなったのかはわからない。

 リアなら大丈夫だと思う一方、やはり不安もある。

 ともかく早く戻ろうと刀弥が歩き出そうとする。


「あれ~~? もう帰っちゃうの?」



 陽気な声が森の中に反響したのはそんな時だった。



 その声に刀弥は声の聞こえた方、即ち上を見上げる。

 彼の視線の向ける先は木の頂上、そこには一人の少年が立っていた。

 山鳩色の短い髪と青緑系の瞳。衣服は葡萄色と黒を基調としたタキシードのような衣服を着ている。

 外見は10歳ぐらいだろうか。無邪気そうな笑みを浮かべており、ただ見ているだけならどこにでもいるような少年に見える。

 だが、身に纏う雰囲気はどこか歪で、どういう訳かズレのような違和感を刀弥は感じてしまっていた。


「誰だ?」


 身を低く構えながら尋ねる刀弥。

 その問いに少年は笑みを見せる。


「初めまして。僕はルード・ネリマオット。そこのゴーレムの飼い主だよ」

「……は?」


 堂々と宣言する少年ルードに刀弥は呆けてしまった。

 言葉の意味は理解している。彼は己こそがこの盗難騒ぎの犯人だと告白したのだ。

 だが、問題は何故、このタイミングでその事実をこちらに告げたのかという理由。それがわからず刀弥は呆けてしまったのだ。


 そんな彼の顔を見て、ルードの表情がさらに満面の笑みに変わる。


「いいね。その顔。とてもいいよ」

「ふざけてるのか?」


 陽気そうな声に刀弥は少し苛立ち、怒気を含んだ声で言葉を返す。

 しかし、ルードはそんな刀弥の態度を何処吹く風とばかりに気にしない。


「相手が驚いたり、目を丸くした瞬間って楽しいよね。それが自分の狙った通りだったらなおさらだよ。うんうん」


 そう何度も頷きながら、彼は刀弥のことを見下ろしていた。


 そんな彼の態度に刀弥は気が立つが、その一方、内心では冷静に状況を分析していた。

 現在、ダメージを負っている自分に対しては相手は一〇歳代の少年。だが、武器や戦闘能力は未知数だ。

 そして先程の言葉を信じるなら、昨今の研究情報盗難の犯人は彼ということになる。と、なると目的は刀弥が回収した宝玉に違いない。


 刀弥の下した判断は逃走だった。とりあえず逃げて宝玉を安全な場所まで運ぶ。わざわざ不安定な体で戦う必要はない。そう判断してのことだった。


 すぐさま逃走のために彼は動き出そうする。しかし――


「おっと、逃さないよ」


 その言葉と同時、ルードの周囲から何かが姿を現した。


「な!?」


 それを見て刀弥は驚く。

 何故なら、彼の眼前に大小様々なゴーレムの大軍が突如として現れたからだ。


 冷たい汗が刀弥の頬を伝う。

 さすがにこの数を一人で、しかもダメージを受けている状態で相手にするのは無理だ。


――どうにかして逃げないと……


 だが、彼の考えを読んだのか、ゴーレムたちは姿を現すと同時に散開。刀弥を逃がさないように取り囲んだ。これでは逃げることができない。


「くっ……」


 周囲を警戒しながら、刀弥はどうやってこの状況を脱するかを考えようとする。だが、妙案は出てこない。

 それでも諦めずに考えようとする。だが、表情は時間に比例して厳しいものに変わっていった。


「早速、ピンチだね? どうする? どうする?」


 そんな彼の状況をルードは楽しそうに眺める。

 彼は器用に頂上に腰掛け、足を組んでいた。


 余裕のあるルード。それに対して刀弥は余裕がない。


 絶体絶命のピンチ。死への想像が幾度も頭の中を過るが、それを彼は何度も否定する。

 まだやりたいことがある。まだ見てみたい景色がある。そして、何より死なないと誓った約束がある。


 故に、彼は生きるために覚悟を決めた。

 狙うのは大軍を突き抜けての脱出。相手の攻撃を全て見極め避けて、邪魔な敵を倒す。

 そのための一歩を彼が踏み出そうとする――その時だった。


「やけではなく、生きるために覚悟を決める……か。この追い込まれた状況でそう思って戦う姿勢は見事だな」


 突然、見知った声が刀弥の耳に届いた。


 これには刀弥だけでなくルードも驚く。

 すぐさま声の聞こえた方を振り向く二人。するとそこには予想通りの人物が歩いてくるのが見えた。


「なんだ。来ちゃったのか。カイエル・ブラット」


 驚きを隠すように笑みを浮かべ、新たな登場人物を歓迎するルード。だが、気のせいか声に余裕がないように聴こえる。


「少し前から様子を見させてもらっていたけど、さすがにこれ以上はマズイだろうから代わりに私が相手をさせてもらうよ」


 そう言いながらカイエルは刀弥の傍までやってきた。


「ご苦労だったね」

「……以前もそうでしたけど、覗き見が趣味なんですか?」


 以前の街中でのゴーレム戦を思い出しながら、刀弥は一応文句を言ってみる。


「ははは……まあ、そう言われても仕方がないな。ただ、折角頑張ってるんだ。一人でやれるなら、やったほうが君の経験になるからな。だから、隠れていた」


 笑顔でそう答えるカイエル。そんな彼を見て刀弥は溜息と同時に肩を落とした。


「そう言うと思いました」

「まあ、後は任せてくれ。この程度私なら余裕だ。君はそこでじっと見学していてくれ。いろいろと参考になるだろうしな」


 どこか余裕を感じさせる声色でカイエルはそう言うと、腰からレイピアを抜き構える。

 その瞬間、空気が変わるのを刀弥は感じた。


「では、こちらから行かせてもらうよ」


 そう告げるカイエル。



 次の瞬間、彼の右腕が一瞬消失した。



 その直後、カイエルの眼前にいたゴーレムの大軍が吹き飛ぶ。

 ほとんどのゴーレムがボディに穴が開いたり、手足を離された残骸状態で落ちてきた。


 あっという間の出来事に刀弥は驚く事しかできない。


 一方のカイエルはそれを見送ることなく、次の攻撃に入っていた。

 今度はカイエルの右側の集団が攻撃を受ける。状況は先程と同じだ。


 ここでようやく敵のゴーレムたちが動き出した。一斉にカイエルを囲んで襲いかかる。


 対して、カイエルはそれらの攻撃を楽々といなして反撃していった。

 拳を避け腕を斬り、相手の体を足場にして反対側のゴーレムを飛び越え、すれ違いざまに首を斬り飛ばす。


 着地間際、左右から光弾のような攻撃を見舞われるが、それらは斬波で迎撃、と同時に反撃。攻撃を放ったゴーレム二体は斬波による突きのラッシュによって全身穴だらけとなった。


 さらに斬撃の斬波を放つカイエル。斬撃は一体のゴーレムを縦に両断。しかし、それだけでは終わらず、なんと斬撃が軌道を曲げたかと思うと別のゴーレムまで斬り裂いた。


 その後も次々とゴーレムたちが襲ってくるが、カイエルは見事に対処、破壊を繰り返していく。


「…………」


 そんな光景を刀弥はただ呆然と眺めていた。


――強い。


 そんな感想しか思い浮かばない。

 一度に複数の斬波を放つだけでなく、その軌道すら自在に変える。斬波の種類も様々だ。斬撃、突き、旋回切り、場合によっては蹴りや拳すら飛ばしている。


 完全に斬波を使いこなしている者の使い方だった。


 無論、斬波だけに頼っている訳でなく、通常の斬撃もまたかなり凄かった。

 一瞬の交差の間に装甲と装甲の隙間に刃を突き入れる精確さと素早さ。

 短い間に幾度となく放たれる突きの連続攻撃速度。

 どれをとっても見事な技量だ。


 そんな彼の戦う様をしっかり記憶に刻もうと刀弥は見学に集中していく。

 戦いの主導権は常時カイエルが握っていた。

 彼は積極的に自分から動くことで、場をコントロールしているのだ。

 位置取り、攻撃タイミング、倒す順番、対処の手法。それらの動きを持って敵軍の動きを完全に制御する。


 刀弥では、まだすることのできない領域の戦い方だ。

 こんな強い人物が存在する。そのことに自然と刀弥は感動を覚えた。


――これが……世界の広さか。


 この世界に来てよかったとそんな思いが浮かび上がってくる。


 やがて、カイエルは敵ゴーレムの大軍を殲滅し終えた。

 彼の体に傷は一つもない。完全に圧勝だと言える状況だった。


「やっぱりやるね。さすがは『千針(せんしん)剣手(つるぎて)』。リアフォーネ軍の司令の実力は伊達じゃないね」


 感心した声でルードが感想を漏らす。


 そんな彼の言葉に刀弥は驚いた。

 軍人だという話は聞いていたが、まさか司令とまでは思わなかったからだ。


「さて、どうするかね? 『遊滅(ゆうめつ)の人形遣い』」


 そう尋ねながらレイピアの剣先をルードに向けるカイエル。


「……はぁ、しょうがないな。今日は帰ることにするよ」


 肩をすくめてそう言うルード。

 直後、彼の傍に巨大な鳥型のゴーレムが出現した。ルードはそのゴーレムの背に飛び乗る。


「それじゃあね。また~」


 そう言い残すと鳥型ゴーレムは翼を大きく羽ばたかせ空高く舞い上がった。

 鳥の影はどんどん小さくなっていき、やがて消えていく。


 カイエルと刀弥はそんな空をただじっと見上げているのだった。


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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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