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無限の世界  作者: 蒼風
三章「遺跡世界リアフォーネ」
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三章三話「盗人」(4)

 先に動いたのは刀弥の方だった。彼は前へ前へと一気に駆け抜ける。

 理由は簡単、己の攻撃方法が近接しか手段がないからだ。

 相手のことはわからないが、遠距離攻撃の手段もあると見たほうがいいだろう。


 それに対する対処はできる。だが、どのみち、刀弥が攻撃を仕掛けるには相手に近づかなければならない。

 ならば、先に動いたほうが有利だ。その判断で彼は動いた。


 対し、相手は後ろへ身を引く。距離を詰められる時間を引き伸ばすためだ。

 ならば、刀弥には相手がとる次の行動について見当がついていた。そして次の瞬間、予想通りのことが起こった。

 風の矢が群れとなったゴーレムの周囲に展開し、ゴーレムの着地と同時に放たれたのだ。

 襲いかかる風の矢群。間を通り抜けることも考えたが、ここは慎重に行動すべきだと刀弥は考える。

 その判断に従い、彼は右へと方向転換した。

 するとその直後、矢群が彼の曲がった方向へ向きを変えたのだ。


 一瞬、動きを読まれたのかと刀弥は考えた。だが、彼の感がそれを否定する。

 この感が正しいと仮定した場合、考えられる可能性は一つ。


 そこでそれが正しいか確かめるため、刀弥は自分の背中に矢群が回ったのを見計らって、右――と見せかけて左へと曲がった。

 すると、彼の動きに矢群がつられる。それを見て優也は確信した。


――発動後も操作できるタイプか。


 ゴーレムの方を見ると、相手は動きを止めて優也のほうを見ていた。まず間違いないだろう。


 それならばと、刀弥は走りながら手近な小石を拾っていく。そしてある程度数が揃うと、彼はそれを左手でゴーレムに向けて弾くように放った。


 それに対してゴーレムは動かない。効かないと判断したのだろう。回避もせず攻撃を受ける。

 そして、やはりというべきか、小さなを音を立て小石は装甲に弾かれてしまった。


 だが、それで構わない。そもそも避けないことも、装甲に弾かれることも想定済みだ。

 こうなればいくら小石を撃ったところで相手は動かないだろう。


 そうやって動きを止めたところで、優也は今度は小さな小石をゴーレムの頭部目掛けて連射した。

 狙うのは頭部にある隙間。その奥にある目の機能だ。


 破壊は難しいかもしれないが、いきなり眼前に何かが入ればゴーレムも事態把握のために急いで正体を見極めようとするだろう。そうなれば思考の大半を割かなければならなくなり、後方の風の矢群も乱れるはずだ。


 ただ何分、狙いが小さい上に動きながらだ。絶対に入る保証はない。そこでその部分は数でフォローすることにした。


 幸い、小石の一つが入ったようで、ゴーレムが驚いたような挙動を見せる。

 それに合わせて刀弥は走るを方向を変えた。


 制御を失った風の矢群が彼を追いかけずに背後を過ぎ去っていく。そのうち乱れた矢群は地面に落ちたり矢同士がぶつかり合ったりして消滅していった。


 それを確認することなく刀弥はそのまま相手へと接近する。

 すぐさまゴーレムは隙間から入った小石を外に出すと、迎撃のために氷の剣を右腕から伸ばすように創りだした。



 甲高い音。



 刀弥の刀とゴーレムの氷の剣がぶつかり合った音だ。


 ぶつかり合った反動で両者は後ろに下がる。けれども、すぐに体勢を立て直すと両者は再接近。再び刃と刃を結び合う。

 繰り返される刃の応酬。時に刃を盾に、木を障害物に、足を武器にしながら両者は森の中を走り抜けていった。


 著しく入れ替わる攻撃と防御。攻めを崩しての反撃、反撃を避けての攻撃、それを防ぎ押し返しての攻め。互いに持てる限りの手を尽くした攻防が繰り広げられる。


 ゴーレムの氷の剣はかなり硬い。さすが魔術の系統の力だ。形状を維持する力も働いているのだろう。

 そんな戦いが少しばかり続いた。


 だが突然、ゴーレムが刀弥から距離をとり右腕から氷の刃を消したかと思うと、今度は氷の塊を生み出し、それを刀弥に目掛けて次々と撃ち放ってきた。

 さながら氷のマシンガンだ。


 いきなりの射撃に刀弥は右へと身を倒して回避。続く攻撃は縮めた右足で地面を蹴ることで避けた。

 そのまま、刀弥は相手の射撃を避け続ける。


 どうやら攻撃は真っ直ぐ飛ぶ直線軌道でしか撃てないようだ。

 しかし、代わりに恐ろしく攻撃間隔が短い。息をつく暇もなく氷の射撃が飛んでくる。


 次々に飛んでくる氷の弾丸。刀弥はその射線に乗らないように気をつけながら走り続けるしかない。


 時折、両者の間に木々が挟まれるが、氷の弾丸はそれらを軽々と撃ち貫いていった。

 貫かれた木々は己を支えきれず、次々と軋みを上げながら倒れていく。


 そんな森の悲鳴を耳にしながら、刀弥は対抗策を考えていた。

 今までのやり取りで、敵が見せた攻撃手段は三種類。

 一つ目は風の矢群。二つ目は氷の剣。三つ目は氷の射撃。


 だが、この三つでは遺跡情報統合管理局の入り口を粉々に吹き飛ばすことなどできるはずもない。

 つまり、まだ見ぬ四つ目の攻撃があるということだ。


 どういう攻撃かはわからないが、威力が高いのは間違いない。

 ともかく気を付けろと己に注意を促しながら、彼は森の中を走り抜ける。

 既に近づく算段は思いついていた。後は実行に移すだけだ。


 そして、大きな木が刀弥とゴーレムの視界を遮った瞬間――刀弥はその算段を実行に移した。


 彼は木の影で足を止めるとすぐさま身を伏せる。

 直後、彼の頭上を氷の弾線が通り抜けた。それが通り過ぎたのを見計らって彼は立ち上がると倒れようとしている木に蹴りを入れる。


 蹴りを受けて木は蹴られた方向とは反対――すなわちゴーレムのいる方――に倒れていった。


 ゴーレムがいる場所は木が落ちる範囲。すぐさまゴーレムは範囲から逃れるために範囲外までの距離が短い左へと動く。


 だが、そこに刀弥が先回していた。彼は地を強く蹴り、一気にゴーレムとの距離を詰める。


 風野流剣術『一突』


 速度を乗せた突きの狙う先はゴーレム左腕。肩と胴との間にある隙間だ。


 だが、この一撃は避けられてしまった。

 刀弥の攻撃に気付いたゴーレムが身を反時計周りに回して避けたのだ。


――マズイ。


 そう思うが、既に身を飛ばしている刀弥はどうすることもできない。


 そのままゴーレムは身を回した勢いに乗って右腕を振ってきた。拳の行き着く先は刀弥は左脇。


 咄嗟に刀弥が空いていた左肘を動かしたのは、ほとんど反射的な行動だった。けれども、それが功を奏す。

 動かした左肘がゴーレムの右腕とぶつかったのだ。ぶつかった反動で拳の軌道が変わり、刀弥はさらに前へと進む。結果、ゴーレムの右腕の攻撃は彼の背後を掠めるに留まった。


 紙一重で重症を避けた刀弥。だが、その本人は顔を(しか)めていた。


 刀弥は軽く左肘を動かしてみる。すると、その途端、左肘に痛みが走った。

 先程、ゴーレムの拳とぶつけた時にできたものだ。


 動かせないほどではないが、これではいつも通りの振りをすることはできない。おかげで攻撃の面で若干状況が悪くなってしまった。


 そこへゴーレムが再び氷の射撃を放ってくる。

 痛みに気が向いていた刀弥は気が付くのに一瞬遅れ、氷の弾丸が彼の頬を掠めた。


 そのまま彼を追う射線から逃げる刀弥。彼は逃げながらゴーレムから距離をとる。態勢を整えるためだ。


 と、その時ゴーレムの攻撃が突然止んだ。

 いきなり攻撃が止んだことに刀弥は疑問を覚える。よく見るとゴーレムの眼前の空間に風が集まり始めているのがわかった。


 この現象に刀弥は見覚えがある。

 すぐさま彼は全速力でゴーレムから離れだした。もしこれが予想通りの攻撃であるなら、じっとしている訳にはいかないからだ。


 彼の予想は当たっていた。直後、集まった風が収縮されていき――



 そうして砲撃として放たれた。



 風の砲撃が刀弥の傍を通り抜ける。

 間一髪のところで直撃は避けたが、それでも砲撃の余波で体が宙を漂うことになってしまった。

 吹き飛んだ刀弥の体は、しばらくして大きな木にぶつかる。


「ぐっ!!」


 ぶつかった拍子に刀弥はうめき声を漏らした。そのまま彼の体は地面へと落ちていく。


 だが、ゆっくりとしている訳にはいかない。

 痛む体を叱咤して彼は倒れるようにその場から動く。直後、彼が居た場所を氷の弾幕が襲いかかった。


 危ないところで攻撃を避けた刀弥はそのまま一気に走りだす。

 彼を追いかけてくる氷の射線。それを目で確認しながら、刀弥は己の状態を確認していく。


 体中が痛む。おかげで動きがかなり悪くなっていた。

 左肘の怪我もあり、長期戦は刀弥の方が不利だ。そうなると、一気に決着をつけにいくしかない。


 先程と同じ手は通じないと考えておくべきだろう。これまでの戦いからして、かなり賢いのは間違いない。


 しかし、そうなると現在刀弥の頭の中にある手段は一つ。それもかなりのリスクの高い手段しかなかった。

 何故なら、その手段を行使するためには未完成の斬波を成功させなければならないからだ。


――どうする?


 迷う刀弥。だが、そんな彼の元に向かって氷の弾丸が飛んできた。思考に集中して注意を怠ったせいだ。


 咄嗟の動きで頭を動かす。氷の弾丸が彼の頭スレスレを掠めて通り抜けていった。

 すぐに射線から離れる刀弥。その最中、彼は自分の頭から血が垂れていることに気が付いた。どうやら掠めた時に出来たものらしい。


 下手をすれば先の攻撃で死んでいたかもしれない。

 そう考えた時、ふと、リアの顔が頭に浮かんだ。


――ここで死ぬ訳にはいかない。


 あの時の約束が思い出される。



 絶対に死なない。



 そう彼女と約束した。大事な相棒との約束だ。破る訳にいかない。


 おかげで刀弥の腹は決まった。

 まずは斬波を撃つための時間を作る必要がある。


 そのため、刀弥の反撃のための最初の行動として移動を開始した。

 それを逃さないとばかりに射線が彼の後を追いかける。


 追いかけてくる射線から逃げるようにして刀弥はゴーレムの周り一周回った。おかげで多くの木々が氷の弾丸を受け倒れていく。


 散らばる木ノ葉(このは)。それがゴーレムの周りを漂うように舞い落ちる。

 そのタイミングを持って彼は倒れた木々の影に隠れた。


 ゴーレムが一瞬、刀弥を見失う。

 そのタイミングを持って、刀弥は斬波の構えに入った。


 彼は思い出す。カイエルから教わった技の原理を、体の動きを、力の流れを。

 今、彼は己の体を動かすことに全神経を集中させていた。筋肉の動き、各部の連動とタイミング、教わった知識を元に彼は体を動かしていく。



 そして彼は刀を振り抜いた。



 瞬間、彼の眼前の空間から力が走った。力の形は斬撃。それが木々を断って真っ直ぐゴーレムの方へと向かう。斬波は成功したのだ。


 走る斬撃は止まらない。木ノ葉であれ石であれ、進路上に存在する全てを切り裂いて進んでいく。


 そうして、遂に斬撃がゴーレムの眼前まで迫った。だが、その攻撃をゴーレムはあっさりと右へと飛んで避けてしまう。


 真っ直ぐに飛んできた攻撃だ。故にゴーレムとしては反応できた時点で避けるのは簡単な事だった。

 避けたゴーレムは刀弥を狙い撃とうと、右腕を攻撃を飛んできた方向へと向ける。相手に止めを刺すためだ。

 だが、その最中、ゴーレムは認識した。攻撃が飛んできた方向、そこに狙うべき目標の姿がなかった事に。


 刀弥は斬波を撃った直後、すぐさま動き出し、ゴーレムに回り込んで接近していたのだ。既に縮地を使えば斬りかかれるだけの間合いにまで迫っている。


 ここで刀弥は一気に勝負をかけた。


 風野流剣術『疾風』


 強い踏み込みで彼は一気に近づく。


 ゴーレムは足音から刀弥の位置を認識したようだ。己の向きを迫る彼の方へと変えていく。

 だが、ゴーレムにできたのはそこまでだ。

 既に刀弥は目前に迫り、攻撃の態勢に入っている。彼は引いた刀を大きく振り――



 そのまま、速度を乗せた一撃を敵のゴーレムの胴に目掛けて放ったのだった。



 確かな手応えと共に上下真っ二つとなったゴーレムが地面に倒れていく。

 地面を鳴らす二つの音。その(あと)に小さな音が周囲に響く。小さな音は研究情報の入った紺色の宝石のような球体が落ちた音だ。


 上下に真っ二つにされた相手は足掻くように動いていたがそれも暫くの間だけ。

 やがて、動力が止まったのか、ゴーレムは物言わぬ瓦礫と化したのだった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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