三章一話「観光」(4)
首都フォーネス。リアフォーネに一番最初に建てられた街で、全てのリアフォーネの情報が集約された遺跡調査の中心部といえる場所だ。
街並みはエルゲスと同じで遺跡と人工物の混合だが、人の数や規模でいえばやはり首都だけあってこちらのほうが大きい。
そんな首都の街並みの中を刀弥とリアは歩いていた。
オーシャルで街並みを撮影するリア。刀弥はそんな彼女の後ろ姿を眺めている。
「しかし、首都だけあっていろいろあるな」
「そうだね。ゴーレムの姿も結構見るし」
そう言いながら見渡す刀弥と彼の言葉に反応を返すリア。
確かにリアの言う通り、周囲には人々だけでなく様々なゴーレムの姿もあった。
エルゲスで見たような小さいものから自分たち以上の大きなもの、中には人型でないものまである始末だ。
それぞれ、荷物を持ったり荷台を引いたりしている。基本的に人の仕事を手伝うのが主な目的らしい。
元々は守護者だったことを考えると、戦闘用のゴーレムも当然いるのだろう。ひょっとしたら今手伝っているゴーレムの中に混じっているのかもしれない。
リアの態度からタイプは違うが、ゴーレムの存在そのものは珍しい存在という訳でもないらしい。
その辺のことについて刀弥が聞こうとした時だ。
突然、遠くのほうから騒ぎ声が反響した。
「なんだ?」
突然聞こえたその声に二人は驚き、声の聞こえた方を目を向ける。
すると、騒ぎの音と共に何か巨大なものがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
人を吹き飛ばしながら走るそれを見て人々は驚き恐れ、それの進路上から逃げ出していく。おかげで、刀弥達はその正体をじっくりと眺めることができた。
身長は刀弥の大体二倍くらいだろうか。結構大柄な体格で、手足も人の体並みの太さを持っている。頭の部分は鎧の甲冑みたいなデザインで目の機能は恐らくその向こう側に隠されているのだろう。
ゴーレムだ。巨大なゴーレムが刀弥たちのほうに向かって走ってきているのだ。
人々は暴走だ、逃げろなどと叫びながら走っている。
そのため刀弥達もそれに習って脇に退こうとした。
だが、ゴーレムは刀弥たちの付近で止まったかと思うと、巨大な腕を振り回して周囲を薙ぎ払った。
すぐさま刀弥はリアの頭を抑え伏せる。
薙ぎ払ったおかげで周囲にあった屋台や露店の商品や破片が舞い散り吹き飛び、それが人々を傷つけることになった。
幸い、刀弥達は怪我を負うことはなかったが、こんなものを放っておけば周囲の人々にさらなる被害をもたらすに違いない。
刀弥は壊すことを決心する。
「リア。壊すぞ」
それだけ告げて刀弥は暴走ゴーレムに向かって走りだした。
まずはゴーレムの装甲の硬度を確かめるために体に刀を斬りつける。
しかし、予想通りだったというべきか、刀は甲高い音をたてて弾かれてしまった。手応えからしてどうやら硬さはロックスネークよりも上らしい。
暴走ゴーレムは攻撃をしてきた刀弥を敵と定めたようだ。
顔をまっすぐ彼に向け、大ぶりの右拳を放ってきた。
当然そんな攻撃、刀弥に当たるはずもない。すぐさま懐へと飛んで避ける。
と、その時、暴走ゴーレムの胴部分が開き、そこから大量のレンズのような物が現れた。
直感からの警告に従い間髪を入れず右へと飛ぶ刀弥。直後、彼がいた場所を光弾の群れが通り過ぎた。
標的を逃した光弾はそのまま奥の紺色の建物に着弾。着弾音が周囲に反響した。
「射撃か」
胴を動かし刀弥を追うゴーレム。刀弥はただ走って逃げるだけだ。
面のような範囲で連射される光弾。発射の予兆を見抜ききれてない現状、かいくぐるのは難しいし、そもそも突破する理由もない。射線にのらないように逃げるだけで十分だ。
攻撃は彼女に任せればいいのだから……
その直後、暴走ゴーレムに襲いかかるものがあった。それは氷の鎖だ。
氷の鎖が暴走ゴーレムを縛り上げ、縛った箇所を起点にそのボディを凍らせていく。
『アイスチェーン』
氷の鎖で相手を束縛する魔術だ。
暴走ゴーレムは巻き付いた氷の鎖を力尽くで破ろうとする。
たちまち氷の鎖は引き千切られ砕けた。だが、それでも十分な時間、相手を止めることには成功した。
既に刀弥は暴走ゴーレムの傍、死角となる背後に回っている。
相手の装甲が硬いは先程の攻撃でわかっている。だが、それでも攻撃が通る部分はある。
装甲と装甲の隙間だ。刀弥はそこを狙う。
狙う箇所はその巨体を支える足。相手の動きを封じるためだ。そこに刀弥は水平の一撃を放つ。
刀は振り抜かれ、見事暴走ゴーレムの巨体と左足を分けることに成功した。
左半分を支えるものを失い、暴走ゴーレムは左へと傾いていく。
なんとか暴走ゴーレムは左腕で己を支えるが、再び接近した刀弥によってそれも断たれてしまう。
今度こそ支えを失った暴走ゴーレムは為す術なく地面に倒れた。
巨体が倒れたことで大きな音が辺りに響く。
しかし、巨体が倒れたにも関わらず、地面に穴が空くことはなかった。そのことに刀弥は戦闘中であるにも関わらず驚いてしまう。
倒れた暴走ゴーレムはそれでも敵を排除しようと胸部の発射口を刀弥に向けようとするが、リアのアイスチェーンが再び暴走ゴーレムの体を拘束。暴走ゴーレムを地面に抑えつけて凍りつかせていった。
「これで大丈夫かな?」
「たぶんな」
呟くリアに歩み寄る刀弥。
この時、二人は戦いが終わったとばかり思って気を抜いていた。だが、それが油断となってしまう。
突如、暴走ゴーレムがまだ凍りきっていない右腕を二人の方へなんとか向けると、なんとその右腕を飛ばし放ってきたのだ。
リアは視界で刀弥は音に反応して、これを回避する。しかし回避するのに精一杯で自分達の後ろがどうなっているのか確認するのを怠ってしまっていた。
「な!?」
右腕の行く先に驚く刀弥。あろうことか右腕の進行方向には一人の小さな女の子が立っていたのだ。
女の子は事態を理解してないのか、呆然とした表情で迫る右腕を見ている。
刀弥は急ぎ追おうとするが、間に合わないのは本人が一番わかっていた。それでも彼は全速力で走ろうとする。だが、その時だ。
突然、何かが右腕を横から貫いた。
攻撃は複数。それがほぼ同時に右腕に穴を空ける。その攻撃で右腕は進路を変え、女の子の横を通り過ぎていった。
結果、右腕は遺跡の家に衝突。凄まじい打撃音と共に停止したのだった。
すぐさま、刀弥は暴走ゴーレムのほうへと振り返る。
暴走ゴーレムは完全に氷漬けになっており、さすがにこれ以上なにかができるとは思えない。
続いて刀弥は攻撃が飛んできたと思わしき方向を見る。すると、そこには一人の男性が立っていた。
柿茶色の髪の毛と常盤色の瞳、ナイスミドルという言葉がぴったりと似合うような顔立ちだ。
服装は茶色と深緑の色をした革の上着と白のシャツに栗梅色のズボン。
男の右手には細身の剣レイピアが握られていた。先程の攻撃から考えると、魔具の可能性が高いだろう。
男は右腕にレイピアを持ったまま、二人のもとに近付いてくる。
「二人共大丈夫かい?」
そうして男は二人に声を掛けてきた。
「は、はい」
「見ての通り、大丈夫です」
リアが頷き刀弥が答える。
二人の返事に男は笑みを浮かべて頷いた。
「それよりもこちらのミスをフォローしてもらってすみません」
「ん? ああ、なに気にするな。本来であれば君たちがしていたことは私たちの仕事だ」
男の返答に二人は首を傾げた。
「仕事ですか?」
リアの呟きとも言える言葉に、男は自分が何者か名乗っていないことに気が付いた。
「ああ、失礼。私はカイエル・ブラット。リアフォーネの軍に所属している人間だ。よろしく」
そう言って、カイエルと名乗った男は笑みを浮かべるのだった。
一話終了
これでようやく三章一話の終了です。
ご覧くださってありがとうございました。
三章二話まで少々お時間を頂きますのでしばらくお待ちください。