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無限の世界  作者: 蒼風
三章「遺跡世界リアフォーネ」
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三章一話「観光」(3)

「それで、これに乗るのか?」


 目の前にある乗り物を眺めながら、刀弥はリアにそう尋ねる。

 二人がいるのは湖だった。目前の乗り物はその湖の上に浮かんでいる。


「うん。リアクスはこの湖の底にあるの。だから、これに乗ってそこまで行くんだって」

「なるほどな」


 刀弥は頷きつつ改めてその乗り物を見上げた。

 かなり大きく上から見れば角を丸くした二等辺三角形みたいな形状をそれはしていた。真ん中辺りが楕円状に盛り上がっており、そこが人の乗るスペースとなっている。刀弥からすれば船のように見えるデザインだ。

 色は青色。人の入るところはガラスのようなドーム状になっており、恐らく水中の様子を一望できるようにしているのだろう。


「ほら、早く乗ろ」


 外から眺めるのに熱中しすぎたようだ。

 いい加減焦れたリアがそう言って刀弥の手を引く。腕を引かれた刀弥はそのまま彼女と乗り物の中へと入っていった。


 中に入ってみると思ったよりも中は広々だった。席は二列の席が右、中央、左の三つに列をなして分けられている。

 刀弥達はそのうちの左側の列の席に座った。リアが外側で刀弥が内側だ。


 周囲を見渡してみると、自分達以外にも大勢のお客が席に座っていた。皆、乗り物が出発するのを今か今かと首を長くして待っている状態だ。


 やがて出発時間が訪れ、乗り物がゆっくりと動き始めた。

 動き始めた乗り物はゆっくりと己を湖の中へと沈めていく。徐々に上がっていく水面の境界。その様子を刀弥たちは静かに眺めていた。


 そうして乗り物全体が遂に湖の中へと沈んだ。沈み終えた乗り物はそのまま目的地へと向かっていく。


 乗り物が湖に潜れば、当然外に映るのは湖の景色だ。

 水の中から見上げる太陽。そして湖の中を泳ぐ魚や生き物たち。まるで彼らが空を泳いでいるかのようだ。


「わあ、綺麗~」


 そんな光景にリアも刀弥も思わず見惚れていた。


しばらくの間、乗り物はそんな湖の空を泳いでいた。しかし、それも時期に終わりを迎える。乗り物の進行方向の先に目的地が見えてきたからだ。


「あれが……」


 刀弥の見つめる先、そこには確かに建造物の姿があった。

 色はやはり紺色。遠目から見える形状は菱形に近い。

 見えてきた目的地に乗客たちは皆、感嘆の声をあげる。


 そうして、乗り物はその建物の中へと入っていくと空気のある場所へと浮かび上がった。

 案内に従い、乗り物から降りる刀弥達。


 人の流れに従い乗り場から移動すると、多くの人達が行き交う通りに辿り着いた。

 天井には湖の情景が映し出されている。けれども、刀弥の記憶が正しければ屋根に透明な部分はどこにもなかったはずだ。


「ってことは、映像か?」


 そんなことを呟きながら、二人は通りを歩いていた。


 湖を通して降り注ぐ蒼の光が通りを明るく照らしている。

 通りの人々は大半が上を見上げて歩き、時折小さな子供が地面に映る魚の影を追いかけたりしていた。


 通りには左右にいくつもの部屋があった。ドアの種類はスライド式の自動ドアらしい。

 時折、ドアの上に看板が掲げられているところはお店のようだ。ドアが横にスライドし、そこから人が出入(ではい)りしているのをたびたび見掛けた。

 無論、絵や写真を取り扱う店もあり、そこでまたまたリアが買い物をしたのは言うまでもない。


「昨日の奴とかと合わせると、かなり使ったんじゃないか?」


 呆れ顔の刀弥が買い物直後のリアにそう訊ねた。


「あははは……実は刀弥の言う通り、予定以上にお金使っちゃいました」


 乾いた笑いを出しながらリアが答え、舌を出す。


「お前な……」

「で、でも、この気持ち、いつか刀弥にだってわかる日が来るよ!!」

「……できたら分かりたくないな」


 苦し紛れに言い放ったリアのその言葉。

 その言葉に対して刀弥は彼女に聞こえないように小さな声で感想を漏らすのだった。


 そんなこんなで通りを歩いていると、二人は広い空間に辿り着いた。

 あちこちに置かれたテーブルと観葉植物。天井だけでなく壁にまで映しだされた湖中(こちゅう)の風景。そして数々の飲食店。

 どうやらこの広場は休憩所も兼ねて飲食店街らしい。部屋を改造したお店や露店、屋台、様々な店が立ち並んでいる。


「そういえばそろそろ昼頃だな」

「じゃあ、折角だし……ここで食べていこうか」


 その意見に刀弥が反対する理由はない。迷わず彼は頷く。

 そうして二人はまず席を確保すると、それぞれ適当な食べ物を買いに周辺を散策する事にしたのだった。


 それから少しして、二人が席に帰ってくる。

 二人共いろいろと買ったようで、それぞれ両手いっぱいに昼食となる食べ物が抱えられていた。


 それをテーブルに並べ早速、二人は昼食を食べ始める。

 二人が確保した場所は壁に近く、それ故に自然と二人の視線はそちらの方に向けられた。

 壁には湖の生き物たちの泳ぐ姿が映し出されていたからだ。


「まるで水族館みたいだな」

「水族館?」


 ポツリとこぼした刀弥の感想にリアが反応を示す。


「ん? ああ、俺の世界にある水に関わる生き物を鑑賞できる娯楽施設のことだ」

「へ~。刀弥の世界じゃ、そんなものまであるんだ」


 刀弥の説明を聞いて感心するリア。


「ちなみにどんな生き物がいるの?」

「ん? 基本は魚だけど、哺乳類もそれなりにはいるな」


 そうして二人は刀弥の世界の話で盛り上がっていく。

 基本的にリアが尋ね、それに刀弥が己の記憶を頼りに答えるという形式だ。

 時折、壁の映像に生き物が現れると二人は話を中断してそれを眺め、いなくなるとまた話を再開させるという形を何度も繰り返す。

 その度にリアがさも自分の知識のようにその生き物を紹介するが、実際はテーブルに貼られている紹介内容を読んでいるだけだ。

 もちろん、オーシャルにしっかり収めることも忘れてはいない。

 そうやって二人は楽しい昼食時間を過ごしたのだった。


 昼食を終えると、二人は来た道とは違う通りで乗り場へと向かうことにした。


「この後はどこに向かうんだっけ?」


 その途中、通りを歩きながら刀弥がリアに次の目的地を訊ねる。


「フォーネスっていうリアフォーネの首都のほうに行こうかなって思ってる。遺跡研究の中心で、いくつかの調査結果や資料を一般公開しているところがあるんだって」

「なるほどな。今日は寝て明日巡るって感じか。それが終わったらどうするんだ?」


 その問いにリアは少し悩むような顔を見せた。


「実を言うと、それで行きたいところは全部済む感じかな。その後どうするかは、まだ決めてないの」

「そうなのか?」


 驚く刀弥にリアがコクリと頷く。


「刀弥は行きたいところある? もちろん適当な世界のイメージでいいから。もし、そういう世界があったらそこに行こ」

「随分と適当な選び方だな」


 彼女の提案してきた選び方を聞いて思わず刀弥は苦笑してしまった。


「特に行きたい場所がないなら適当でもいいと思うけどな~」

「まあ、そうかもしれないけど……」


 それにしても適当な世界のイメージで選べは意外だった。それだけいろいろな世界があるのだろうかと刀弥はついついそんなことを考えてしまう。


「まあ、無理に急ぐことはないしね。なんならもう少しこの世界に留まってもいいし」


 それを聞いて、そうだなと刀弥は納得した。


 無理して出発する理由などどこにもない。行きたいときに行けばいいだけだ。

 旅をすることに義務感みたいなものを感じる必要など全くない。自由気ままに望むときに望む場所へ行く。それが旅なのだから。


「まあ、その辺は宿屋なり馬車なりの落ち着いたところでゆっくり考えるか……それにしてもこの遺跡はなんでこんな湖の底に建てたんだろうな」


 それを可能とした技術も凄いが、その理由も刀弥としては気になるところだった。

 わざわざ湖の底なんかにこんな物を作ったのだから、ここでなければいけない何らかの理由があったはずだ。


「そうだね。なんだろ?」


 彼の疑問にリアも同意し考え込む。

 想像しても意味のないことではあるのだが、やはり刀弥としては色々と想像してしまう。


「湖の調査用の施設?」

「湖の生き物の研究用施設とかもありそうだけど」


 そうやって二人は自分たちが思ったことを次々と口に出しながら(あゆみ)を進めていく。


 やがて、二人は乗り場のところまで戻ってきた。

 二人が戻ってきた時には丁度、乗り物が出発する時間だったようだ。もう時期出発する旨の案内が二人の耳元にまで届く。


 それを聞いて二人は急いで乗り物に乗り込んだ。

 そうして乗り物は出発。一旦、水の中へと沈むと湖の傍にある乗り場へと向けて己を浮上させていくのだった。

ということでまたまた、観光の話です。

といっても、それも今回まで次回は少しバトルありの予定です。

今のままなら一話ラストになるとは思うのですが、果たしてどうなることやら……(ぉぃ

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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