表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の世界  作者: 蒼風
二章「己を信じること」
30/240

二章三話「襲撃」(6)

 後一回で終わらせるつもりだったんですが、思ったよりも話が伸びそうなので分割することにしました。

 今度こそ次の話で二章三話を終わらせます。

「疲れた~」


 部屋に入った途端、そう言ってアレンがベッドに倒れ込んだ。


 刀弥とアレンの部屋は標準的な部屋で壁は白色、天井は黒鳶色に葡萄色の床という色合いだ。

 窓の外ではお祭り騒ぎの様子が未だ続いている。

 人々の中で歓迎されている人達がいるが、恐らく自分達以外のエアゲイルを退治していた者達だろう。皆元気に騒いでいる。


 あんな後なのに元気だなと、少し刀弥は感心してしまった。


「温泉には入らないのか?」

「今はいい。明日起きたときに入ることにする」


 刀弥の問い掛けにも顔も上げずに億劫そうに答えると、そのまま彼は寝入ってしまった。

 どうやら本当に疲れていたようだ。


 それを見て刀弥はもう一つのベッドに座ると、今日の出来事を思い返す。


 確かに、今日の戦闘は刀弥もかなり疲れた。

 ただその一方で、言い知れぬ充実感があったのも事実だ。

 特に大きなほうとの戦いでは、今までと違う世界が見えた。


――あの力を自由に引き出せるようになれば、もっと強くなれるはずだ。


 自然と刀弥はそんな予感を感じた。

 そのためには、今以上に己を磨かなければいけないだろう。


――まずは明日だな。


 明日はシェナとの対遠距離の修行の最終日。

 教えてくれた彼女のためにも、これまで培ったものや今日の戦闘で得たもの全てをぶつけていくつもりだ。

 シェナのほうもかなり本気でやるつもりのようだし、気を抜けない。


 そのためにも早めに寝たほうがいいだろう。だから、刀弥はその前に温泉に入ることにした。


 宿屋の人の話だと、泊まりの客は自分たちを除いていないそうだ。それならばゆったりと温泉に浸かれるだろう。


 部屋に備えられていた浴衣のような衣服――宿屋の人によるとカターヤというらしい――を手に取ると、刀弥はアレンを起こさないよう極力音を抑えながら静かに部屋から出ていくのであった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 温泉は露天風呂だった。と言ってもここは洞窟の中なので空を見上げることはできない。

 ただ、それでも建物の中では味わえぬ開放感を味わうことはできた。


 縁は岩で囲み、床は岩を加工したような大小のタイルが一面に敷き詰められている。温泉は月白色に染まった濁り湯。


 入ってみると湯は熱いが、十分浸かれる温度だった。

 そのまま肩まで浸かって縁に背を預けると、刀弥は思いっきり伸びをする。それから彼は自分の左足をさすった。


 左足の怪我はリアの魔術のおかげで傷自体は塞がっている。けれども、ダメージ自体をなくならないので痛みは残ったままだ。

 といっても動く分には問題ない。明日になれば痛みは完全に引いているだろう。


 そんな考え事をしていると、誰かが浴室に入ってきたようだ。足音が聴こえてくる。


 恐らくアレンだろう。どうやら結局、目を覚まして風呂に入ることにしたようだ。


「なんだ。結局、入ることにしたのか?」


 そう言って振り返る刀弥。



 すると、そこには何故かリアが立っていた。



 時間が静止したかのような静寂が辺りを漂う。

 幸い、リアは胸の辺りから足元まで隠れるくらい長いタオル巻いていた。おかげで彼女の裸体を見てしまうことはない。


 そのことにほっとしながらも、刀弥は己の疑問を口に出してみる。


「……何でリアがここに?」


 問われた側のリアは事情を把握しているらしく、溜息を吐きながらも刀弥にその理由を説明してくれた。


「ここの温泉、混浴だよ? 看板の隅のほうに書いてあったんだけど……」

「……そうなのか?」


 全く気が付かなかった。記憶を掘り返してみるが隅の方までは思い出せない。


「やっぱり、気付いてなかったんだ」

「……悪い」


 知っていれば確認をとるなどで回避できた事態だけに、悔やまれる。


「まあ、わざとじゃないのはわかったから許してあげる」


 そう言いながら温泉に入ったリアは、そのまま刀弥の左隣に並んだ。気のせいか頬が若干赤い。


 このまま彼女を見ているのもマズイかと思い、刀弥は視線を外して天井を眺めることにした。


 そのまま気まずい沈黙が続く。


「そ、そういえば刀弥。左足は大丈夫?」

「え? あ、ああ……少し痛みはあるけど、十分動ける範囲だ」


 突然、話しかけられ戸惑いながらも刀弥はリアの問いに答えた。


「本当に?」


 心配そうな声でそう問い掛けながら、リアは己の手を刀弥の左足へと伸ばす。

 彼女の柔らかい手が自分の左足に触れた途端、刀弥の鼓動は大きく跳ねる。


「痛くない?」

「じ、十分我慢できる範囲だ」


 刀弥の左足に触れながらリアがそう訊ねてきた。それに刀弥はドギマギしながらも答える。


 実際、左足が伝えてくる痛みはその程度のもので彼女が心配するほどの事ではないのだ。


「なら、いいんだけど……刀弥ってときたま無茶するから、ちょっと不安になっちゃうんだよね」


 目を細めリアは憂いの表情を作る。


「……悪いな」

「刀弥、謝ってばっかりだね」

「…………」


 もはや、謝ることもできず黙るしかない。

 そんな刀弥の様子に思わずリアは失笑するのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 謝ることができず黙るしかない刀弥が可笑しくて、ついリアは失笑してしまった。

 そんなリアの反応を見て、刀弥の顔が拗ねたような顔つきに変わる。


――あ、こういう可愛いところもあるんだ。


 新たな一面の発見にリアは内心喜んだ。


 真面目で冷静かと思えば、時折熱くなって無茶をする。

 それがリアの目の前の少年に対する評価だった。


 無限世界とは繋がっていない閉鎖世界(クローズワールド)の住人。

 代々剣術を教えていた家の人間だけあって、それなりに戦う術を身につけてはいたが、実戦経験は皆無。


 それでも彼は今日まで何とかやってきた。

 足りないものを戦いの中で見つけ出し、可能であれば戦いの中で編み出す

 剣士としての才能もあるのだろう。特に分析力は眼を見張るものがあった。

 慢心はなく、実戦経験が少ないことを自覚しているおかげか戦闘時に気を抜くこともない。


 明るいと性格とはいえないが、それでも優しい部分があるのは確かだ。でなければ一人の少女のために危険な戦いに行こうとはしないだろう。


 己の悩みを内に抱え込む悪い部分もあるが、それは時間が解決してくれるはずだ。

 まだお互いを完全に信頼し合うには、まだ時間が短すぎるというのは彼女も理解している。

 未熟な部分もあるが、それは自分も同じだ。だからこそお互いで補い合うことができればいいなとリアは考えていた。


 ただ、一番の不安はやはり無茶をすることだ。

 これまでの戦いは彼の成長もあってかどうにかできているが、それがこの先も続く保証はない。


 リア自身一人旅のときは出来る限り無茶をしないようにしてきた。

 可能ならしっかり準備を整え、危険だと判断すれば逃げたり一度引いて態勢を立て直してから再度挑戦する。そんな堅実な方法をとってきたのだ。


 しかし刀弥の場合、その選択肢を選ばず己を高めることで事態を解決しようとしているところがあった。まるで強い敵を求め、その中で強くなろうとする戦闘狂達のように……


 もう一度、リアは刀弥の左足を見る。

 宿屋への帰りの最中に聞いた話によると、刀弥の負傷は大型のエアゲイルとの戦闘で得たという話だ。


 シェナの証言だとかなり手強かったらしい。

 そんな相手と刀弥は戦ったのだ。左足の怪我だけで済んだのは幸いだといえるだろう。


「前から思ってたんだけど、刀弥って強い敵を求めてるってことはないよね?」

「どういう意味だ?」


 意味がわからず刀弥は首を傾げた。

 その反応にリアは溜息を一つ吐いて言葉を続ける。


「なんていうかな。刀弥って厳しい戦いの中に身を置くことで、強くなろうとしてるんじゃないかなって思うときがあるの。ロックスネークや今回の戦いとか……」

「……別にそんなつもりはないんだけどな」


 困ったような顔を浮かべて刀弥はそう否定する。


「強くなりたいという思いはあるけど、それも普通の範囲でっていう意味のつもりだし……」

「そうなんだ」


 ひとまずその返答にリアは安堵した。

 少なくても刀弥自身はそちら側へ落ちるつもりはないようだ。

 で、あるなら話は早い。


「刀弥」


 リアは両手で刀弥の頭を挟みこむようにして優しく掴むと、上を見ていた彼の視線を自分のほうへと向けさせた。


「リ、リア?」


 無理やりリアのほうを見ることになった刀弥は顔を赤くし慌ててしまっている。

 けれども、リアはそんなことにも目もくれず真剣な眼差しで彼を見据えていた。


「あのね刀弥。私これでも刀弥のこと心配してるんだよ?」

「あ、ああ。それはわかってる……」


 戸惑った声で刀弥がなんとかそう答える。そんな彼の反応を見て、リアはつい可愛いと思ってしまった。


 死んで欲しくない。そんな感情が彼女の中に渦巻く。

 だからこそ、リアはその言葉を彼に告げることにした。


「だったら、約束して絶対に死なないって」

「…………」


 その途端、刀弥の瞳が見開いた。


 彼の視線を感じながらリアは思考する。

 もはや、何を言ったところで刀弥が必要と判断すれば彼は無茶をするだろう。

 それが無意識なのかどうかはわからない。けれども、どちらであろうと彼が無茶をすることに変わりない。


 止めることは不可能。ならば、後は生きる可能性を上げるしかない。

 そのための約束だ。こんな約束でも胸に刻んでくれれば彼はしっかりとその約束を果たそうとしてくれるだろう。

 それでどの程度、生きる可能性を上げるのかはわからない。ひょっとしたらほとんど意味がないかもしれない。

 けれど、僅かでも可能性が上がるのであればする意味はあるとリアは考えていた。


「……わかった。約束する」


 一旦目を瞑った後、刀弥は静かに頷いた。


「うん。約束だよ」

「ああ」


 その言葉にリアは笑みを見せると、それ見て刀弥もまた笑みを返してくる。

 そうして二人は一緒に笑い出した。


「……で、そろそろ手を離して欲しいんだけど……さすがこれ以上はマジマジと見られるのも恥ずかしいだろ?」

「え? ……あ!?」


 刀弥に言われ、ここが温泉だということを思い出すと、リアは急いでその手を離した。


 すぐさま刀弥はあさっての方向へと視線を動かし、リアは刀弥のほうへ背を向ける。

 濁り湯と頭を抑えていたおかげで、刀弥が見れる範囲などたかが知れていたはずだ。だが、やはり見られたという事実は恥ずかしい。


「じゃあ俺、先に上がるから。おやすみ」


 やがて、気まずい空気に耐えられなくなったのか、そう告げて刀弥が温泉から立ち上がる音が聞こえた。

 温泉から上がり彼はそのまま男性の更衣室のほうに向かったようだ。


 ドアが閉まる音が聞こえると、思わずリアはほっと胸を撫で下ろしてしまう。

 そうしてしばらくして、彼女は恥ずかしさから立ち直ると急いで温泉から上がりカターヤに着替える。


 そしてリアはシェナの眠る部屋へと戻ると、そのままベッドに横になり安らかな眠りの中へと落ちていくのであった。

 すいません。今回で終わらせるつもりだったんですが結構ページ数が伸びたので分割して出すことにしました。

 次こそ二章編を終わらせてみせます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手もらえたらやっぱり嬉しいです。
ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ