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無限の世界  作者: 蒼風
二章「己を信じること」
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二章三話「襲撃」(5)

 傍にあった地面が爆ぜるように砂煙を巻き起こした。

 だが、刀弥が視線を動かすことはない。よそ見をすればその途端に死んでしまうような気がしたからだ。


 彼の視線の先には巨大なエアゲイルの姿がある。左右のハサミは刀弥を狙うべく攻撃を放ちながら常に彼を追いかけている。


 ハサミの射線から逃れるため、刀弥は縮地で右へ左へと動き回りながら相手に接近しようとしていた。


 相手の射撃の威力は高く、まともに食らえばその瞬間終わりとなってしまう。

 防御はできない。一度でも防御に入れば相手の威力に足が止まり最悪、防戦一方になる可能性もあるためだ。


 故に、生きるためには避け続けるしかない。


 建物の影に隠れてやり過ごすという選択肢もない。

 先程、刀弥が建物の影に逃げ込んだ際、相手がその強力な射撃を次々と撃ち込んで建物を崩壊させてきたからだ。おかげで刀弥は危うく、その崩壊に巻き込まれそうになった。


 それにこんな危険なモンスターを放っておけば、他の人たちが危険に晒されてしまう可能性が高い。何としても、ここで叩いておくべきだと刀弥は考えたのだ。


 透明の弾丸が左肩をかすめる。

 その事実にヒヤッとしながらも、彼は集中力を絶やさない。

 近づけば近づくほど、それだけ相手の攻撃が自分に届くまでの時間が短くなる。故に気は抜けない。


 射線には乗らない。重なったとしても切り返しのときなどの一瞬だけだ。

 相手は当たらないことに苛立ったのか、射撃をばらまくように撃ってきた。

 ばらまくと言っても、シェナほど連射のある射撃ではない。そのため隙間を抜けるのは簡単だ。


 念のため射撃のタイミングで射線に乗らないように気を付けながら、彼はさらに相手へ接近する。


 僅かずつではあるが、距離を詰めていく刀弥。

 そして遂に刀弥は己の間合いまで近づいた。

 攻撃が止んだのを見計らって、刀弥は一気に縮地で相手の目前まで迫る。


 放つ一撃は己の体重を乗せた振り下ろし。狙う先は頭部。


 だが、ここで驚くべきことが起こった。

 何と巨大なエアゲイルが、六つの足を器用に使って後ろへと飛んだのだ。

 予想外の行動に刀弥は相手を追いきれず、彼の攻撃は巨大なエアゲイルの目を斬るだけに留められた。


 さらに相手は後ろへ飛んだと同時に彼に向けて左右両方のハサミから射撃を放つ。

 攻撃に集中していた刀弥は相手の射線を意識していなかった。

 攻撃は彼に直撃するコースで飛んでくる。


 咄嗟の判断で刀弥は縮地で後ろへと飛ぶ。

 だが、逃げ切れない。地面を蹴った左足が僅かばかり巻き込まれた。

 バランスを崩して刀弥は地面に倒れる。


「ぐっ!?」


 左足に激痛が走る。見ると、左足の靴やズボンがその威力に裂け、そこから血が流れているのが見えた。

 だが、じっとはしていられない。こんな状態、敵からすれば格好の的だ。

 悲鳴をあげる体を叱咤して、彼は飛ぶ。飛んだ直後、彼のいた場所に敵の射撃が着弾した。


 痛みを堪え立ち上がった刀弥は再び、相手へと近づこうとする。

 だが、左足が痛みで言うことを聞かない。必然的に左足で行う縮地の速度や移動距離が落ちる。


 これでは射線から逃げ続けるのは難しい。ならば……

 刀弥は覚悟を決めた。

 それまでの射線から逃げ続ける戦い方から、弾が来た瞬間だけ射線から離れることで相手の攻撃を回避する戦い方に彼は切り替えることを決心したのだ。


 無論、これはかなり難しい。刀弥がこれまで射撃に対処できたのは、当たらない場所に居続けたことと当たるであろう場所を事前に予測し対策をたてていたからに過ぎない。

 だが、今からする戦い方には相手の射撃のタイミングを見極める能力が必要になる。

 タイミングを間違えて回避が遅れれば、攻撃を避けきれず死亡。


 まさに刀弥は己の命を賭けて、この難題に挑まなければならないのだ。


――もっと集中を……


 心の中で呟くようにその思考を唱える。


 見つめるのは正面のみ。周囲は気にしない。他のエアゲイルの気配はないのだから気にする必要がないからだ。


 足を止め敵を見据える刀弥。

 相手の様子が変わったことに気が付いたのか、巨大なエアゲイルが動きを止め刀弥の出方を伺うように身構えた。


 睨み合いは一瞬。次の瞬間には刀弥が傷ついた足で歩みを進ませていた。


 直後、巨大なエアゲイルの射撃が放たれる。放ったのは右のハサミからの一発。

 射撃の直前、僅かに揺れていた相手の右のハサミが一瞬止まったのを刀弥は見逃さなかった。それ同時に彼は右足の縮地で左へと移動する。


 回避は成功。敵の攻撃が彼の右側を通過していく。

 間髪入れずに相手は左のハサミで攻撃を放つが、これも刀弥は右へと飛んで避けてしまう。


 再び、攻撃を放つ敵。今度は右、左の連続攻撃。右の攻撃は刀弥のやや右側。左の攻撃はそれより二歩分左。まるで左へと避ける刀弥を狙ったかのような射撃だ。

 だが、射線が感覚でわかる刀弥には通じない。彼は右へと縮地で移動して攻撃から逃れると、さらに前への縮地で一気に距離を縮めた。


 誤って左足で縮地の静止をしてしまい激痛に顔をしかめるが、その足が止まることはない。


 そうして刀弥は一歩一歩確実に相手に近付いていった。


 巨大なエアゲイルの透明な弾群がそれを阻もうと飛んでくるが、それらが彼に当たることはない。全て彼の傍らを過ぎていくだけだ。


 気が付けば足の痛みを忘れていた。それほどまでに刀弥は目前の戦いに集中していた。


 巨大なエアゲイルは攻撃の当たらぬ刀弥に怯えたのか、徐々に攻撃の頻度を上げていく。

 だが、当たらない。刀弥は攻撃を悠々攻撃の間を通り抜け、巨大なエアゲイルに迫っていく。



 その様はまるで風のようだった。



 風は遮られても僅かな隙間から抜け出してしまう。今の刀弥はまさにそれを体現していた。


 後退る巨大なエアゲイル。

 一方の刀弥はと言うと、左足を負傷しているにも関わらず、かなり体の調子がよかった。もしかしたら、怪我を負う前よりも遥かに調子がいいくらいだ。


 世界が今まで以上に広く感じる。

 それは極限の集中力がもたらした情報収集能力故の感覚だった。

 

 生と死の境界線上にいることにより、生きようとする彼の思いや本能がより一層の集中力を体から引き出そうとする。

 そうして引き出された高い集中力がより詳細な情報を拾い上げることで、彼はこれまで以上に詳細な世界を認識することができるようになった。


 普段では拾うことすら難しい僅かな動き、音、振動を今、彼は拾うことができる。それらの情報を元に彼はさらに相手を知っていく。

 結果、刀弥はさらに相手の動きを見切る能力が上昇した。


 先程よりも、早い段階で動き出す刀弥。おかげで攻撃を余裕をもって避けることができた。


 この変化に怯えた巨大なエアゲイルは本能的に逃げ出そうと、先の時と同じように後ろへと飛ぼうと足に力を込める。

 しかしその瞬間、巨大なエアゲイルの頭部に何かが刺さった。


 刺された痛みで巨大なエアゲイルはもだえ苦しむ。

 巨大なエアゲイルの頭部に刺さった物。それは刀弥の刀だった。相手が飛ぶことを僅かな動きから予知した刀弥が直前に己の刀を投げたのだ。


 刀弥は相手がもだえている間に、接近。浅く刺さっていた刀を引き抜くと、それを片手で持ち、腰を回して放つための力を引き絞る。


 風野流剣術『一突(いっとつ)


 強い踏み込みと腰のバネによる突きの力を持って、刀弥は再びその頭部に刀を突き刺した。


 硬い手応えが返ってくるが、ロックスネークの硬さと比べれば全然柔らかい。

 そうして刀は相手の脳天を刺し貫いた。


 巨大なエアゲイルは大きく身を仰け反らせ足掻こうとするが、最後はただゆっくりと力を失って倒れていく。

 しばらく眺めた後、相手が動かないことを確認すると刀弥はゆっくりと近づき頭部に刺さった己の刀を抜いて腰の鞘へと戻すのだった。


 刀が鞘に収まる音が鳴り響いた途端、彼は左足の激痛を思い出し膝をついてしまう。


「っ!? そういえば左足、怪我をしてたんだったな」


 戦いの最中、足の痛みを忘れていたせいでそのことがすっかり抜け落ちていた。


 とりあえず周囲を見渡し、耳を澄ましてみる。

 どうやら付近に他のエアゲイルの姿も足音もないようだ。


 その事実に刀弥は安堵の息を吐く。

 安全であるなら、ここで少し休んでもいいだろう。


 そのまま座り込んだ刀弥は少しの間休むことにした。

 戦いの音自体、小さくなっている。どうやら大半は倒し終えてしまったようだ。


 そんなことを考えていると、やがて誰かの走る音が聴こえてきた。

 音のほうへと目をやると、やってきたのはシェナだった。


「そっちは終わったのか?」


 刀弥が声を掛けると、シェナは驚いた表情で刀弥と巨大なエアゲイルの死体を交互に眺めた。


「これ、刀弥が?」

「ああ、どうにかって感じだけど」


 苦笑混じりの声で刀弥は答えるが、シェナは驚いたままだ。


 実のところ、シェナは刀弥に感心していた。

 武器や戦い方による相性があるとはいえ、あの攻撃を抜けて近づくのは中々大変だったはずだ。


 けれども、彼はそれをやり遂げた。

 やはり彼は自分と同じ、戦いに関しての才能があるのだとシェナは確信する。


「刀弥」

「何だ?」


 名前を呼ばれ反応する刀弥。


「刀弥は強くなりたいの?」


 突然の問いに刀弥は目をパチクリとさせるが、それから少し考え込むそぶりを見せる。

 そうしてしばらくした後、顔を上げた彼はこう答えた。


「そうだな。守りたい人を守れるようになるくらいには……」

「そう。なら、それを忘れないで。刀弥は自分の願いを叶えるだけの力を持っているから……」


 かつてアレンからプレゼントを受け取り、彼のためにも上手くなりたいと願った自分のように……


 そんな話をしていると、リアやアレンの姿が遠くのほうから見えてきた。


 リアは刀弥の左足の怪我に気が付いた途端、急いで駆け寄ってくるとキュアでその傷を治し始める。


「もう、また無茶して~」

「悪い」


 そうやって怒るリアに、刀弥が素直に謝った。


「他に怪我はない?」

「他は大丈夫だ。そういうリアこそ怪我はないのか?」

「見ての通り、大丈夫♪」


 そう言ってリアは笑みを浮かべて、無事な様子をアピールしてくる。

 一方、シェナとアレンのほうでも似たようなやり取りをしていた。


「アレン、お疲れ様」

「全く、本当疲れた」


 シェナとタッチを交わしながら、アレンが疲れた顔をする。


「疲れてるの?」

「ああ、相手が洞窟に行きそうだったからな。結構大変だったよ」


 そんな応答をしながら、アレンは座り込んでしまう。

 そんな彼を見てシェナは何を思ったのか、突然、アレンの後ろに回り込んだかと思うとそのまま彼女は肩たたきを始めてしまった。


「気持ちいい?」

「……あー、もうちょっと右だな」


 アレンは何か言おうとしたようだが、結局そのまま彼女の厚意に甘えることにしたようだ。


「わかった」


 アレンに指示したがって叩く場所を動かすシェナ。

 その後、誰かが知らせにいったのだろう、逃げ出していた町の人や観光客たちが戻ってきた。


 町長は刀弥達を始め町の人を助けたりエアゲイルたちを退治してくれた人達一人一人に感謝の言葉を言い回った。


 そして、町の無事と彼らの活躍を称えるためにその日、夜通しの祭りを開くことを決めてしまう。


 町中が騒ぎ始める中、疲れていた刀弥達はおとなしく宿屋へと戻ることにしたのだった。

 2章も次の最後の予定です。

 また、2章3話の見直しをしながら、3章のプロットを練る作業が始まりです。

 誤字や感想、評価がありましたら是非ともお願いします。


11/12

 瞬歩を縮地に変更

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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