終章三話「持ち受ける存在」(12)
これにて最終話です。
ここまでお付き合いくださいましてありがとうございました。
「とりあえずお前らが無事でよかった」
「ああ、いきなり別の場所に飛ばされた時は驚いたが、どうにか無事にここまで戻ってこれた」
「道中は道中で大変だったけどねー」
そんな話をラクロマの王都レイムナラットの街中で交わすと刀弥とリアとロアンとヴィアンとレリッサ。
二人はあれから人工ゲート装置を使いロクロマに一番近い場所へと降り立った。
その後はラクロマへと向かい辿り着いたのが昨日。到着早々ロアン達に連絡を取り今日、会う事となったのだ。
再会した直後の話題はこれまでの経緯。無論、ユリアと交わした約束のために『知らない場所に飛ばされ、一緒に飛ばされたと思われるレグナエル達がどうなったのかは知らない』という形で話している。
「それよりもロアン達の方も、あの状況で無事に脱出できるとはな」
「運が良かっただけだ。頭がいなくなって向こうも混乱してて俺らの相手をしているどころじゃなかったからな」
「その混乱に漬け込んで脱出しただけ」
確かに突発的な出来事で頭がいなくなったのだ。敵側も混乱してしまうだろう。そしてその頭であったレグナエルはもういない。
「今、レグイレムはどうなっているんだ?」
「俺達が帰還した後に行われた襲撃の時にはもう瓦解状態だったな」
「最初の苦戦が夢か幻のような弱さだったわ」
呆れたというような表情を浮かべながらため息を吐くレリッサ。
「たぶん、その間に多くがレグイレムから逃げ出したのでしょうね」
「まあ、あれだけの頭だったんだ。失えばその反動はでかいという事だな」
ヴィアンとロアンの意見にふむと相槌を刀弥とリアの二人。確かに二人の言う通り優秀なトップを失ったのだ。すぐに穴埋めできるわけがなく、建てなおすよりも早く瓦解が来てしまったという事なのだろう。
「って事はレグイレムは――」
「既に掃討戦に移行している状態だな。混乱が続いているおかげで拠点同士の連携が取れてないのはこちらにとっては救いだな」
「ただ、そのせいで拠点の一部独自に動き出しているという報告もあるから気は抜けないけど」
その言葉に刀弥の頭に『一難去ってまた一難』という言葉が浮かんでくる。
「まあ、心配しないで。新たな問題はある事にはあるけど、それもこっちでどうにかできる程度だし。だから、そっちは気にせず旅を続けといて」
「それじゃあ、お言葉に甘えてそうしますね」
気楽に言うレリッサに明るくリアがそう返事を返す。
実際、彼らも新たな問題が浮かんだと言っても深刻な程までとは考えていないのだろう。独自に動き出されたことで予定が狂ってしまった所はあるが所詮はその程度。実際に戦うとなれば勝てると踏んでいるのだ。
「それじゃあ、俺達はこれで……」
「お世話になりました」
そうして別れの挨拶を告げる刀弥とリア。
「おう、元気だな」
「じゃあね~、機会があったらまた会いましょう」
「旅の無事を祈っているわ」
二人の挨拶にロアン達も挨拶を返す。
そうして二人はロアン達と別れたのであった。
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その後、ロアン達と別れた刀弥とリアは支度を整えレイムナラットを出発。現在はその道中にいた。
「――という感じで話をまとめたが、それでいいよな?」
背後の王都を振り返り周囲に人がいないのを確認した後に刀弥は口を開く。だが、そこから紡がれた言葉はリアに向けられてのものではなかった。
『はい。こちらの話が出さなかったのであれば、こちらとしては何かを言うつもりはありません』
彼が声を向けた相手は自身の胸に掛かったペンダント。その通信の向こうにいるユリアだったのだ。
二人がユリアから受けた用件はルードが担っている『偵察、情報収集』の任を二人にもやってほしいというものだった。
と、言ってもユリアから特に細かな指示や要望を伝えることはほとんどない。二人が行きたいように行ってその内容を二人が首から下げているペンダントの通信機器――音声通信だけでなく映像や動画等もやり取りできる機能があるようだ――で時折報告してくれるだけでいいそうだ。
その程度の事だったらという事でユリアの申し出を引き受けることにした二人。
試しにという事で昨日、レイムナラットの映像と所感を送ってみた。試験というタイトルで映像と様子とそれぞれの所感を入れて送ってみたところ、『そのような感じでお願いします』という返事が返ってきたのだった。
「わかった。とりあえずは報告は以上だな」
『了解しました。それでは通信はこれで終わりにします。お二人共良い旅を』
その言葉を最後に音声が切れる。ユリア側が通信を切ったのだ。
通信が切れたのを確認した二人は意識を胸元の機器から周囲へと向ける。
現在、時間としては昼過ぎ頃で上空は澄み切った空が広がっている。
遠くを見れば親子だろうか。大小三匹の小さな獣の一団が草原を進んでるのが見えた。
「……いい天気だな」
「そうだね」
つい漏れでたそんな感想。それにリアが肯定を返してくる。
流れる雲の行先は自分達と同じ方向。そんな空を見上げながら二人は道を歩いていた。
周囲に人の姿は見えないが、道の整備状態や僅かに見える足跡からそれなりの人がこの道を通っていることは把握できる。今や自分達もその中の一人だ。
「とりあえず手近なゲートに向かっていろんな世界を巡るんだったか」
「うん。今は明確な目的地もないし、だったらいろんな所を見て回ったほうが楽しいかなっと思ってね」
二人が話しているのはこれから先の事。いろんな事があったせいで目的地も定めていない状態の出発である。だったら、いっその事一番近いゲートに向かって旅をするというルールでしばらくの間、いろんな場所を巡ってみないかと昨日リアが提案してきたのだ。
反対する理由もなかった刀弥はこれをすぐさま承諾。かくして二人の次の行き先は決定したのだった。
「今向かっているゲートはどこに繋がっているんだ?」
そういう訳で一番近いゲートの位置を確かめてそこへと向かう事にした二人。ただ、急に決まったためゲートの場所は把握しててもその先までは刀弥も把握していなかった。
そのため、知っているかもしれないリアに尋ねてみると――
「さあ?」
その当人は笑顔でそう返してきた。
「いや、さあって……」
「そりゃあ、昨日急に決まったんだもん。知っている訳ないじゃない」
笑いながらそう答えるリア。それは確かにその通りである。
ただ、刀弥の考えとしては旅慣れているリアならその辺りの事は既に把握しているのではという期待が僅かばかりあったのだ。
「まあ、そう……だな」
「それに調べようとも思わなかったし」
どもりながらも納得する刀弥。そこにリアがさらに追加の言葉を重ねる。
「……はい?」
「だって、その方が面白そうじゃない。わからないから驚けるんだし、だからこそワクワクするんだし」
その言葉に刀弥は一考。そうしてから彼女の言葉に同意する。
「まあ、だな」
「そういう訳で行き先がどういう所かは着いてからのお楽しみ。どんなところかな~」
そうして彼女はリズミカルに踊る感じでステップを踏んで刀弥を追い抜き前へと出た。
それを見つめながら刀弥は少し意識を過去へと向ける。
唐突に訪れる事になった異世界。最初は当然驚き戸惑った。
けれども、それもある程度経ってしまえばかつてとは違う日常だ。元いた世界とは違う生活であるが、ここでは当たり前の生活。
世界が変わる毎に変化する光景も、人の営みも、遭遇する出来事も、全てが日々に埋もれてしまうくらい当然の日常だ。
そんな日常を楽しみ健やかに過ごしている自分がいる。
果たして自分はこの世界に来たことを幸福と思っているのだろうか、それとも不幸と思っているのだろうか。
ふと、そんな疑問が刀弥の頭の中に浮かび上がる。
ここに来たことでもう会えないかもしれない別れはあった。しかし、それとは別に良かったと思える出会いもあった。
良かった面も悪かった面のいずれもが存在している。それらを比べながら結論を出そうとし――
「刀弥~。早くおいでよ~」
そこへリアの呼び声が飛んできた。
それで思考を中断し意識を今に戻した刀弥が声の方を見る。
リアは随分先の方で手を振っていた。どうやらかなりテンションが上った夢中になり過ぎたらしい。
その事に密かに笑いながら刀弥は先の事について一つの結論を出す。
今はまだその答えを出す必要はない。
何故なら、そんな答えこれから時間とともに変わるからだ。
ここに来てよかったと喜ぶ時もあるだろう。ここにこなければよかったと苦しむ時もだろう。ひょっとしたら考えたくも思い出したくもないという時もあるかもしれない。
しかし、そういう感じで答えは常に変化していくのだ。そして、最期の瞬間、その時の感想が本当の答えとなる。自身にとっては……
だったら、無理にひねり出す必要はない。自然と出てくる想いのままにその時その時に答えを出していこう。
そう刀弥は結論した。
遠くリアが刀弥を急かすように手を振る速度を上げている。この調子だと刀弥のもとに戻ってきてもおかしくない。
そんな彼女の様子に苦笑する刀弥。
それから彼はリアに追いつくために走りだすのであった。
風が海を超えた。
光が大地に降り注いだ。
光が夜を打ち破った。
そして人が世界を巡り歩いた。
三話終了
終章終了
さて、これで無限の世界は終了です。
本当にここまで付き合ってくださった皆様。ありがとうございます。
感想などは活動報告の方にでも書くつもりです。