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無限の世界  作者: 蒼風
二章「己を信じること」
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二章二話「不安と信じる答え」(6)

「……それで、刀弥は最近様子がおかしかったんだ」


 その日の練り歩いた後の夜、見張りの時間帯。

 刀弥の打ち明けた心情を聞いて、リアがそう答えた。


 シェナとアレンは後半の見張りのため既に眠りについている。そのタイミングを見計らって刀弥はリアに打ち明けたのだ。

 銃に対して劣っているのではないかという不安、アレンの誓い、シェナの意志。思ったこと聞いたことを全て彼女に話した。


「悪いな。黙ってて」


 そうして刀弥は謝る。

 今まで彼女に何の相談もしなかったことに申し訳ない思いがあったからだ。


「まあ、他の人に悩みを打ち明けるなんて中々勇気がいるもんね」


 そんな彼に対して、リアは下から覗き込むようにして顔を近づけてくる。


「でも、話してくれてありがとう」


 そして嬉しそうな顔を刀弥に見せた。距離が近かったこともあって、その顔は刀弥の視界いっぱいに広がっている。


 顔が赤くなるのを自覚しながら、刀弥は気付かれない程度にリアから少し離れた。


「で、刀弥の悩みだけど、私はもっと自信を持ってもいいと思うよ。確かに今の刀弥は銃とかに対応できてないのかもしれないけど、それを言ったら私だって旅の最初のほうは似たようなものだったし……」

「そうなのか?」


 意外という顔を刀弥が浮かべる。刀弥の予想ではその辺りの弱点とかはリアが学院に通っている間に改善していると思っていたからだ。


「そりゃそうだよ。最初から完璧な人なんていないよ。自分で気付いたり戦いの途中で気が付いたり……もちろん、運が悪ければそれが理由で死んじゃうことだってあるよ。そういう意味じゃ、私は運が良かったのかもしれないけど」


 そのときのことを思い出しているのか、一瞬目を瞑るリア。


「確かにそういう部分は早く修正しないといけないとは思う。でも、すぐに結果が出るものじゃないし、焦らなくてもいいと思うよ」


 そうして彼女は刀弥に諭すような口調で語りかけた。


 彼女の言葉の意味は刀弥にもわかっている。しかし、悠長に待っていられない理由が刀弥にはあった。


 これが自分一人の問題であれば、刀弥ももう少し楽観的に考えられただろう。だが、今刀弥は一人ではない。リアという共に旅をするパートナーがいるのだ。


 もしそんな事態に陥れば、被害を受けるのは自分ではなく彼女かもしれない。彼はそのことを恐れているのだ。

 そのため、意を決した刀弥はそのことを彼女に告げようとする。


「だが――」

「第一、そういった欠点をフォローしあうのが仲間でしょ?」


 だがしかし、リアの放ったその言葉に、刀弥は開いた口を閉じざるを得なかった。


「改善に時間が掛かるならその間、その部分を私が埋めてあげる。私は魔術師、刀弥は剣士。私たち相性いいんだよ?」


 そんなことを言いながら、リアはウインクしてくる。


「私たちは二人なんだから、一人だけで頑張る必要なんてないんだよ。必要なら頼ってもいいんだから……」

「……そうだな」


 僅かな沈黙の後、呟くような小さな声で刀弥はそう漏らした。


 彼女の言う通りだ。自分はなんて愚かなんだろう。

 彼女が言おうとしていること。それは刀弥が言おうとしていたこととは逆の意味を持つものだった。


 刀弥は仲間故に迷惑を掛けないようにと考えていた。だけど本当の仲間なら互いに頼り、信頼しあってもいいはずだとリアは言っているのだ。


「悪い。リアの言うとおりだな。何かリアに迷惑を掛けてしまうじゃないかと思っていろいろ焦ってた」

「そうそう、遠慮しなくていいんだから」


 表情を緩める刀弥にリアは満足気に頷く。


「まあ、今はシェナさんやアレンさんもいるし、思い切ってシェナの力を借りるのもいいんじゃないかな?」


 そのアイデアに刀弥は少し考え込む様子を見せた。


「……駄目もとで頼んでみるか」

「うん、そうそう。その調子」


 そうして彼女は刀弥を励ますのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



「シェナ、頼みがある」


 見張りの交代の時間になりアレンとシェナを起こしたところで、刀弥がシェナに頭を下げてそう話を切り出した。

 アレンは突然のことにびっくりし、シェナはただ無表情にそれを眺めている。


「……何?」

「遠距離に対抗するための修行に、手を貸してくれないか? シェナの見地からの意見が欲しいんだ」


 頭を上げた刀弥は頼みごとの内容を説明する。その表情は真剣そのものだ。

 確かに遠距離攻撃の専門家とも言える銃使いから意見を聞くことができれば、遠距離戦に対抗するための術が見つけやすくなるかもしれない。そうでなくても戦い方や思考パターンを知ることができれば、その経験は別の形で役に立つこともあるだろう。


「……いいわ」

「本当か!?」


 彼女の返事に刀弥は喜びと驚きの混じった声をあげる。


「ええ」

「やったね。刀弥」


 上手くシェナの協力を得ることができたことを、リアは自分のことのように喜んでくれた。


 これで大丈夫とは言えないが、それでも多少は前進したと言ってもいいだろう。


「まあ、とりあえず良かったな。刀弥。それはともかく見張り交代の時間だ。その修行のためにも、今はしっかり休んだほうがいいんじゃないか?」

「そうだな。それじゃあ、アレン、シェナ。おやすみ」

「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「二人共おやすみ」


 就寝の挨拶を述べた刀弥とリアは横になる。

 そうしてから瞳を閉じると、うつらうつらと眠りの底へと落ちていくのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



「発射のタイミングを掴むのが遅い。もっと相手の全体をよく観察して」


 耳に届いたシェナの警告。直後、透明の弾丸が刀弥の頭部にヒットした。

 その攻撃を受け刀弥はバランスを崩し仰向けに倒れてしまう。


「っ!?」


 頭部の痛みに思わず刀弥は声を出しそうになったが、どうにか堪える。


「……もう一度だ」


 やがて、痛みが引くと彼はそれだけを告げて立ち上がった。


 既にシェナはいつでも始められる状態だ。

 そうして二人は再び相対を始めるのだった。


 時間は朝、刀弥とシェナは昨晩の話の通り、遠距離に対抗するための修行をやっていた。

 基本的にシェナは止まったまま銃を撃ち、刀弥がそれを避けながらシェナに近づこうとする構図だ。


 そんな二人の様子をリアとアレンはその傍で見学していた。


「アレンさんはどう思います?」

「そもそも、あれだけ動き回れる刀弥が俺には凄いんだがな……」


 彼の視線の先、刀弥は前へと進みながら左へと走っている。アレンの目から見たら、その速度は十分速いと言えるだろう。

 しかも、彼はただ出鱈目に走っているのではない。彼の青い瞳は真っ直ぐシェナの動きを捉えていた。


 彼女の両手の拳銃。それが刀弥を追うべく左へと動いている。刀弥はその銃口の射線上にのらないように動いているのだ。

 射線に重なることがなければ絶対に当たることはない。単純な理屈だ。


 射線にのらない以上、撃ったところで当たらないのはシェナも承知の上だ。けれども、その上で彼女は引き金を引き続ける。


 理由はこの狭い洞窟だ。例え射線から逃げ続けたとしても、いずれは壁に追い込まれてしまう。つまり、相手を追い詰めることが出来るのだ。

 また、当たるタイミングでしか撃たないのと違って、攻撃が近づいてくるのを相手は視認できるので精神的に追い詰める効果も期待ができる。


 そうしてシェナの目論見通り、刀弥が壁際に追い詰められた。銃弾の線は徐々に彼に迫っていく。


 では、刀弥がこの状況から脱するにはどうすればいいのか?

 答えは決まっている。相手の連射の間を通り抜けるしかない。

 しかし、弾と弾との間隔が狭い上に、弾の速度が速いため飛び込めば当たってしまう。と、なると弾をどうにかして対処する必要がでてくる。


 そこで刀弥は刀で弾く術を選んだ。

 けれども、今の刀弥では弾が撃たれてから反応するのは不可能。そうなると弾が撃たれるタイミングを予測して事前に体を動かすしかない。


 刀弥の両目は、シェナの引き金に集中していた。引き金を引くリズムから刀を振るタイミングを測っているのだ。


 そうして刀弥は動き出す、と同時に彼は刀を振り始めた。


 だが、刀弥が読んだタイミングよりも早いタイミングで引き金が引かれ、銃弾が放たれる。


 銃弾は刀弥の刀が触れるよりも先に刀弥の右肩に着弾。刀弥の身が後ろへと吹き飛ばされた。


「相手の攻撃のリズムに頼りすぎると、今みたいにずらされる可能性もあるわ。気を付けて」

「ぐっ……」


 シェナの指摘に対して刀弥は言葉を返す余裕もない。ただ黙って立ち上がるだけだ。


「やっぱり痛そうですね」

「まあ、非殺傷用の性質へ弾を変えたとはいえ、ダメージは確実にあるからな」


 そう、シェナの銃弾が刀弥の身を貫かないのはアレンがシェナの拳銃にそういう設定をしたためだ。

 どうやら昨日の見張りの時間の内に設定を変更したらしい。アレン曰く、術式回路を交換するだけだから分解する必要はないとのことだ。


 とはいえ、あれだけの速度で飛んでくる銃弾をその身に受ければ、かなりの痛みとダメージを食らうことになるはずだ。


 刀弥が弾を受けたのはこれで三三回目。修行を開始してから、かなりの時間が経過している。おかげで彼の体のあちこちに、擦り傷や怪我ができている。


「そろそろ時間だし、さすがに止めたほうがいいな」

「そうですね」


 アレンの意見にリアは頷くと、彼女は立ち上がり本日の修行を終了を伝えにいく。


 シェナは素直に、刀弥は不承不承に修行の終了を了承すると、刀弥はリアに言われるまま腰を降ろして一休みに入り、他の三人は朝食の準備を始めるのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



「はい。刀弥。あ~ん」


 刀弥の分の朝食をスプーンですくい、リアが刀弥の前に差し出す。


「いや、リア。別にそこまでしてくれなくても……」


 嘆息混じりの声で刀弥はそれを遠慮しようとした。


 体を動かそうとすれば、痛みは走る。けれど、動けないというほどではない。そのため、リアがこんなことをする必要は全くと言っていいほどないのだ。


 だが、リアはやめる気はないようだ。先ほどの刀弥の声など聞こえていなかったかのように、スプーンを差し出したまま笑みを向けてくる。


 仕方なしに刀弥は口を開いてそれを受け入れた。

 今日の朝食は、豆と何かの卵を焼いて切り刻んだものを混ぜたご飯のようなものだった。豆の苦味と卵の甘みが口の中に広がってくる。


 飲み込んだのを見計らって、リアが新たな分を差し出してくる。それも刀弥は食べる。


 二人の様子をアレンは笑みを浮かべて、シェナはどこか羨ましそうに見つめていた。

 彼らは何も言ってこない。そのことが尚更、刀弥には気恥ずかしかった。


「何も言わないんだな」

「何だ? 何か言って欲しかったのか?」


 ポツリと漏らした刀弥の言葉をアレンが拾う。


「い、いや、そういう訳じゃないが……」


 慌てた様子で刀弥はアレンから視線を逸らした。

 ちなみに、この間もリアの手による食事は続いている。刀弥は会話の隙間にそれを口にしているのだ。


「まあ、俺も記憶にあるからな……同情のほうが強いんだ……」


 溜息をするアレン。それを聴いて、刀弥の視線は自然とシェナのほうへと向かった。


「……何?」


 刀弥の視線に気が付いたシェナが、首を傾けてくる。


「いや、気にするな。それにしても今日は全然駄目だったな」


 早朝の修行の内容を思い返しながら、刀弥は気落ちする。


 結論から言えば、一度足りとも己の間合いまでシェナに近づくことはできなかった。銃弾の雨をくぐり抜けることができず、銃弾を受けて倒れるというパターンを繰り返していたのだ。


「まあ、最初だから仕方ないんじゃないか?」

「そうだね」


 すかさずアレンとリアがフォローした。


「少なくても、銃口からの弾の軌道の予測は完璧だった」


 シェナの口からは、そんな評価が語れる。


「だけど、相手の攻撃の軌道が真っ直ぐとは限らない」


 けれども次の瞬間、シェナがそんな警告をしてきた。

 シェナの忠告に刀弥も頷く。


 攻撃の軌道は魔具、魔術によっては直進軌道とは限らない。その場合、銃口や攻撃の向きから軌道を読むことはできなくなる。

 そうなると後は、相手の視線などから相手の狙いを推測する必要がでてくる訳だが……


「だけど、その辺りはもはや経験の領域じゃないか?」

「そうかもしれない」


 アレンの意見にシェナは同意を示した。


 確かに彼の言う通り、その辺の判断をしようとしたらそれを識別するための情報が必要になってくる。単純な知識だけでは見抜くのが難しい以上、残るのは経験だ。


「結局、最後にものを言うのは積み重ねってことだな」

「だね」

「そうね」

「全くだな」


 刀弥のその一言に一同は迷いなく賛同した。


「なら、毎日しっかり頑張らないとね」

「そうだな」


 リアの激励に刀弥はそんな応答を返す。


 やがて、朝食が終わり後片付けとなった。


 さすがにこの段階まで来ると、刀弥も十分動けるぐらいまで回復しており後片付けを手伝う。

 そうして出発の準備が整うと、四人は次の目的地へ早く辿り着くべく、急ぎ出立するのであった。




           二話終了

 ようやく二章二話が終了しました。

 書きたかった内容は上手く表現できたか不安ではありますが、それでも出せる力は出したと思ってます。

 次の三話の簡潔なプロットをさっさと書いて三話の物語をできるだけ早く書き始めたいと思っています。

 ただ、いくつか文章が気になってたりするのでその前に二章系は文章の見直しや修正も少し検討してます。

 どうかご了承ください。

08/18

 文章表現の修正

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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