終章三話「持ち受ける存在」(10)
刀弥の刀に胸を貫かれたゴーレム。
貫かれたゴーレムはそれでも戦い続けようとしているのか、ゆっくりと腕を刀弥へと伸ばそうとするが、やがて力尽きたのか腕はダラリと垂れ下がり動かなくなってしまったのであった。
ゴーレムが停止したのを確認してリアと女の子もゴーレムに近寄ってくる。
「反応ロスト。機能停止を確認しました。この機体はこれ以上は動きません」
ゴーレムの眺めながらそう告げる女の子。
そんな彼女を見て刀弥は戦闘中だったために聞けなかったある事について聞くことにしたのだった。
「そういえば名前を聞いていなかったな。よかったら聞かせてもらってもいいか?」
この刀弥の問いに女の子は即座に答えた。
「ユリアと呼称されてますので、どうぞそうお呼びください」
「了解。俺は風野刀弥だ」
「私はリア・リンスレット。よろしくね。ユリアちゃん」
彼女の名前を聞いた後、それぞれ自己紹介を始める二人。
そうしてから話は本題へと切り替わった。
「それでだ。さっき交わした約束についてなんだが……」
「無論、交わした以上は果たすつもりです。私は人間と違って騙すような真似はしないので」
その言葉に刀弥とリアの二人は互いに顔を見合わせる。彼女の言った言葉が引っ掛かったからだ。
「……えーと、つまりあなたは……」
「私はこの世界を管理するために生み出されたゴーレムです」
淡々と事実を告げるユリアと名乗った少女――もといゴーレム。その事実を受け入れるの刀弥とリアは少しばかりの時を要した。
「……なるほどな。まあ、人型のゴーレムが誕生するのは別のおかしな話じゃないよな」
「本当、世界って広いね~」
そんな所感が思わず漏れでてしまう。
それから少しばかりの時間が経った後、刀弥はふと気になった事を尋ねてみる事にしたのだった。
「ところで気になったんだが、生み出されたと言っていたがその生み出した当の本人たちはどうしたんだ? この世界、人の気配がなさそうだったんだが……」
その疑問にリアがそういえばという表情を浮かべる。
生み出されたという事は生み出した人物がかつていたという事だ――それがいつなのかはわからないが――。
けれども、今は人の気配がない。つまり、過去から今までになんらかの理由でいなくなったという事だ。
この質問は刀弥自身にとっては興味本位の何気ない質問であった。だが、この問いにユリアがなかなか返事を返さない。
最初こそ辛抱強く待っていた刀弥だったが、やがて疑問を持ち始めそうして、ふと先の約束の事が頭に浮かんだ。
「あー。悪い。もしかしてこの質問、さっきの約束を破ることになるのか? だったら引っ込めるが」
先の問いに詮索についての件はなかったが、この場所の喧伝してほしくないという事は刀弥達にもあまり知ってほしくないという意味合いも含まれている可能性は高い。
刀弥の確認の問いにユリアはしばしの間、熟考する。その時だ。
「別に話してもいいんじゃない? むしろ、そうした方が向こうだって事の重要性を理解して積極的に協力してくれるようになるんじゃないかな?」
三人のいずれでもない声が彼らの耳に届いた。
聞き覚えのある声に驚いた刀弥とリアは声の聞こえた方を振り返る。すると――
「やあ、久し振りだね」
そこにはルード・ネリマオットの姿があった。
彼の背後にはここで戦ったゴーレムの姿がある。
その事に驚く二人だが、ユリアだけは反応が違った。
「ようやくのご帰還ですか。ルード」
彼女だけは怒った口調でルードを睨みつけていた。
「怒らないでよ。ユリア」
「いいえ、さすがにそういきません。帰還要請から一体どれだけの時間が経過していると思ってるのですか」
謝るルードに起こり続けるユリア。どうやら二人は知り合いのようだ。
むしろ、ルードのゴーレム使いの特性から考えると――
「もしかして、ルードって――」
「ご想像の通り、彼は私と同じ者達の手によって創られたゴーレムです」
リアの予想をユリアは淡々と肯定する。
「あははは。まあ、そういう事。改めて自己紹介しようか。侵攻指揮用ゴーレム『ルード・ネリマオット』。それが僕の本当の役割って訳」
「要するにこの世界に攻め込む敵を排除するため、敵拠点に侵攻する役割を担うのがルードという訳です。最も、現在は外世界の偵察、情報収集任務のために外へ遣わしていますが……」
そうして語られるのは本当の彼の役割だ。どうやら技術情報を盗んでいたのはそのための一環だったらしい。だがしかし――
「噂じゃ、よく状況を引っかき回すしいというのがあるが、それ任務と関係ないよな?」
「だよね?」
「…………」
二人の言葉にユリアのルードに向ける視線が細まっていく。
そう。ルードの噂の中に『状況を引っかき回す』というのがあるのだが、どう考えてもそれと本来の任務とが結びつかないのだ。つまり、そっち方面は完全に趣味。頻度から考えるとかなり道草をしていた事が予想される。
「ルード。どうやらあなたは本来の任務を放り出して遊び呆けていたようですね」
「た、たんまだよ!! ユリア。べ、別に遊んでいたわけじゃなくてそういう風に干渉することで各世界の勢力やその関係を調べたり調整しようと思ってだね」
傍から見ていると真面目なユリアに遊び人のルードが怒られているという構図である。
「とてもゴーレムのやり取りとは思えないな」
「だね~」
そんな光景に思わず感想がこぼれ出る刀弥とそれを肯定するリア。
正直の話。今回の事がなければ感情豊かなルードがゴーレムなどと夢にも思わなかっただろう。むしろ、そういうゴーレムがいるという事自体が驚きだ。
二人の眼前では未だにルードとユリアのやり取りが続いていた。
先程まで殺伐とした殺し合いをしていた場とは思えない雰囲気である。
「――と、そうだった。それでさっきの話の続きなんだけど……」
と、刀弥達の視線に気が付いたルードが話を変えてきた。
「ユリア。彼らに僕達の事情について説明しない?」
「……私達により積極的に協力してもらうためですか……」
彼の提案に少し考えこむユリア。時折、その視線は刀弥達の方へと向けられている。
そうして少しばかり時間が過ぎた頃……
「…………そうですね。ルード、あなたの提案を了承します」
ユリアがルードの提案に対してそう返事を返したのだった。
「そうこなくっちゃ」
その返事にルードは満面の笑みを浮かべると、刀弥達の方へと向き直る。
「来て。あの部屋で見せたいものがあるから」
そう言ってルードが指差すのはユリアが守ろうとしていた部屋。どうやらそこに見せたいものがあるようだ。
彼の指差しに従いその部屋へと向かう刀弥とリア。ユリアとルードは一足早く部屋に入り部屋の中央にある長方形型の物体の所で待っていた。
そこへと向かう二人。辿り着くとそれを合図にユリアが長方形型の物体に触れた。
すると、それと同時に空中にいくつものディスプレイが出現する。どうやらあの物体は端末だったらしい。
「それじゃあ、話そうか。この世界に何が起こり、今どうなっているのか」
どこかもったいぶった仕草を見せながらそう話だすルード。
そうして彼は刀弥とリアにこの世界についての話を話し始めたのだった。