終章二話「立ちはだかる存在」(3)
一方、先に休憩を終え包囲を突破したレグナエル側はというと……
今まさに目的地と定めていた建物の中へと入るところだった。
入り口を堅牢に守っていた扉をレグナエルの魔術で強引にこじ開け二人が中に入ると、そこにはここまでの道のりとは比ではない程の数のゴーレム達が待ち受けていた。
その事実を確認してレグナエルは笑みを浮かべる。
「どうやら当たりのようだ。突破するぞ」
「承知致しました」
彼の言葉にレナスが応じ、彼女は前へと飛び込んでいく。現在、彼女が握っているのは銃剣と砲だ。
最初に砲を撃ち穴の道を作ると、そこに二人が身を飛び込ませる。後は周囲に銃剣や黒球をばら撒いてその迎撃を牽制とすると、それから砲を再び放ち道を作った。
後はその繰り返しだ。牽制と迎撃で襲い来るゴーレムを巧みに制御し、再び撃てるようになった砲を撃って道を作る。
奥へ行けば行くほど増えていくゴーレムの数。それは襲い来る数にも現れている。
捌ききれず一体のゴーレムの射撃がレナスに向かって飛んできた。
それを守りの壁によって防ぐレグナエル。それから彼は炎の砲撃で反撃に出る。
炎の砲撃に飲み込まれ次々と破壊されていくゴーレム。先程の流れなら二人はそれでできた道を利用して先へと進もうとするだろう。
それを予測しゴーレム達は先んじようとそちらへと各自の武器を向ける。が、レグナエル達は前には進まなかった。
二人は進むことなくレグナエルが身を伏せ始める。それに呼応するように砲を構えるレナス。
直後、レナスが砲撃を放った。しかも、ただ撃つだけじゃなく強引に身を回してだ。
当然、放たれた砲撃は周囲を駆け巡る事となり、その結果二人の周囲にいたゴーレムのほとんどが砲撃に飲み込まれる事となった。
「いくぞ」
この隙に二人は前進。一気に奥を目指して進んでいく。
やがて、二人は道の先に大きな下り坂があるのを見つけた。
見下ろしてみるが先は見えない。どうやらかなり深いようだ。
「レグナエル様。どうしますか?」
下り坂を見下ろしながらレナスが尋ねてくる。
道は他にもあり、そのため下り坂の先に目的のものがあるとは限らない。時間的にも労力的にも外れの道を選ぶわけにはいかないのだ。
彼女の問いに少しばかりの思案の後レグナエルはこう答える。
「降りるぞ」
理由はこの下り坂の先からゴーレムの足音がいくつも聞こえてきたからだ。
待機場所があるのか製造工場があるのかはわからないが、いずれにせよ重要度の高い施設や部屋もその近くにあるはずだ。
だが、それは危険とも隣合わせでもあった。なにせ、傍には大戦力がいつでも急行状態で待機している場所が存在するのだ。
足りなくなればすぐに補充される戦力。普通に想像すれば足がすくむような状況である。
しかし、レグナエル達はためらう事なく下り坂を降りていった。その先にいるのは当然ゴーレムの集団だ。
開幕はレグナエルの炎の砲撃で始まった。それで相手が動き止めた瞬間を見逃さずレナスが砲を振り回す。
この二連撃で視界内のゴーレムを一掃する二人。けれども、次の瞬間には新たなゴーレム達の足音が遠くの方から聞こえ始めていた。
「レグナエル様」
「無論、先に潰す」
その言葉でレナスが先行。ゴーレム達の姿を認めると同時に砲撃を放つと直後に飛んできたゴーレム達の反撃をその身のこなしで対処した。
が、しかし全ての攻撃を避けきることはさすがに難しい。結果、いくつかの攻撃をかすめ、さらには砲を破損させてしまうという状態に陥ってしまった。
使えなくなった砲をレナスは放棄し手近にあった銃を拾い周囲へとばら撒く。
適当に放っているだけのように見えてしっかりと制御された銃撃。それらはゴーレム達の装甲を貫き彼らを制御する中枢を見事貫き破壊する。
制御を失い崩れ落ちていくゴーレム達。そんなゴーレム達の体が障害物となって他のゴーレム達の行動を妨げる。
とはいえ、それで生まれるのは僅かな空白の時間だ。だが、それのおかげでレグナエルの魔術式の構築が完了する。
放ったのはまた炎の砲撃。それで道を作り出して二人は進む。
道の行き先にあるのはゴーレム達がでてくる出入口。つまり、その先にゴーレム達が待機している場所があるのだ。
レナスが銃を捨て砲を拾い砲撃。そうやって出入口に溜った障害物を排除すると二人はそこから中へと侵入した。
中に入るとはそこは整備工場だった。
いくつものゴーレムが直立姿勢で立っており、中には巨大な箱のようなものもいくつか見える。
奥には別の出入口があった。恐らく生産工場と通じている通路だろう。
直立しているゴーレムは動き出す様子がない。
それをチャンスだと捉えたレグナエルとレナスはすぐさま攻撃を開始した。
炎の砲撃、砲、射撃、黒球、斬撃。持ちうる攻撃手段を全て使って周囲を破壊していく二人。
ゴーレム達は次々と装甲を穿たれて倒れ、時に爆発を起こす。
無論、被害はゴーレムだけではない。室内に存在する機器もまたその攻撃の被害者であった。
斬られ燃やされ時に砕ける。そうやって目に映る物に例外なく二人は攻撃を加えていき、最終的に周囲は炎と瓦礫へと変貌したのであった。
けれども、二人の攻撃はそこで終わらない。もう一つの出入口を通ってその先へと向かう。
通路の先は予想通りゴーレムの生産工場だった。今度はその室内一帯に二人は攻撃をまき散らす。
結果、ゴーレムの生産工場は先程の室内と同様の結末を辿ることとなった。
工場の破壊を確認した二人は急いできた道を戻り部屋を後にする。
後は最奥を目指すだけだ。
そうして二人がそちらへと視線を向けようとした時である。
「――止まりなさい。これ以上の蛮行を許すわけにはいきません」
唐突に幼子の声が通路に響き渡った。
その声に反応してレグナエル達は声の聞こえた方――通路の最奥へと視線の移動を加速させる。
予想通りそこには一人の幼き少女が立っていた。
長い金髪に真っ白なワンピース。そこから伸びた白い手足を見ていると綺麗で可愛らしい人形にも見えてしまう。
けれども、幼女が放つその雰囲気は年齢相応のものではなかった。
色で例えるなら無色。熱も感じず変化も感じずまるで生き物ではないかのようだ。
だが、二人はその感覚が正解だと知っていた。特にレグナエルはその姿を見た瞬間確信する。今目の前にいる幼女こそがこの世界を管理するゴーレムであると……
「失礼した。けれども、我々の事情も理解して欲しい。我々はある実験の事故でここへとやってきしまっただけなのだ」
そうして話を切り出すレグナエル。
正直に言えば今すぐにでも彼女を確保したいところではあるが、向こうはゴーレム。どんな手段を持っているか全くわからない。
故にここは当初の予定通り帰還を優先することにした。まずは目の前の幼女の姿をしたゴーレムを丸め込みこの世界から脱出する。
「我々の願いはとても単純だ。この世界からの脱出。それだけである」
レグナエルが切り出した内容は当然、多くが嘘だ。とはいえ嘘ばかりでは即答が必要な時に即答ができなくなってしまう。
なので、内容にはある程度の真実もちゃんと混ざっていた。
けれども――
「残念ですが、それは認められません」
そんな彼らのもとに幼女の拒絶の返事が返ってきた。その直後、奥の扉が僅かに開きそこから一体のゴーレムが姿を現す。
「……レグナエル様」
「――ああ、あれは相当やばいな」
新たに現れたゴーレム。その姿を見て危機感を強めるレグナエルとレナス。つまり、それだけ危険な強さだという事である。
一方、ゴーレムはというと登場からしばらくの間、幼女の傍をただ黙って浮いていたが――
「やって」
幼女のその命令によってようやく動き出したのであった。