終章一話「流れ着いた者達」(2)
一線が敵を両断する。
縦に断たれた割れたそれ。その正体はゴーレムである。
今、彼女達の周囲を何体ものゴーレムが取り囲んでいるのだ。
ゴーレム達が狙っているのはここに現れ最奥へと進む侵入者。レグナエルとレナスだ。
ゴーレム達は重火器や近接用の武装を装備し、その物量をもって侵入者に襲いかかってきた。
そんなゴーレム達をレグナエルとレナスは次々と撃破していく。
レナスは銃剣と撃破したゴーレムから手に入れた砲を振り回し、レグナエルは自身の魔術である黒い球体による攻撃。
とはいえ、さすがにゴーレム達の数が多すぎる。このまま戦い続ければ疲弊し倒れるのはレグナエル達であるのは一目瞭然だ。
「……まさか、こういう形でここに来ることになるとは」
「――いかが致しますか?」
苦笑共とも言える顔を浮かべているレグナエル。そんな彼にレナスは問い掛ける。
「こちらはたったの二人だ。さすがに全員の相手をする訳にいかない」
「では?」
その言葉と同時にゴーレムを二体、撃ち貫くレナス。
その彼女の問い掛けにレグナエルはこう応えた。
「ここからの脱出を優先する。我々がやってきたと思われるゲートは動いていなかった。だが、この世界の管理状況と戦力から考えるに故障の可能性は考えにくい――と、なると意図的に閉鎖された可能性が高いという事になる」
「以前、レグナエル様が申していたゴーレムの仕業という事ですか」
その時の会話を思い出しながら飛んできた射撃を躱し当たりそうなのを銃剣の刃で弾くレナス。
そうして攻撃を捌いた彼女は射撃を放ったゴーレムに向かって奪った砲の放った。
砲の一撃で大きな穴を開けられたゴーレムはそれで爆発四散。一方、レナスは既に二体目のゴーレムを撃破していた。
「そうなりますと、ここを脱出するにはそのゴーレムに接触する必要がでてくると思いますが」
「そうなるだろうな。恐らくこの世界の最奥にいるだろう」
その言葉に答えながらレグナエルは飛んできた攻撃を絶対の守りで防ぐと複数のゴーレムをまとめて黒い球体に飲み込み機能停止に陥らせる。
そうして彼は視線を一瞬、ある一点、正確にはある建物へと向ける。
「恐らくあれがそうだろう」
そう思うのはゴーレムの現れた道を逆算しての事だ。ゴーレム達は森を突き破らず道に沿ってやってきた。
出現箇所は複数だが、それ故に大方のやってきた方向が逆算できる。その方向にあるのがその建物なのだ。
「では、向かいましょうか」
「ああ、ここでこれの相手ばかりをしている訳にもいかないからな」
その言葉を言い終えると同時。レグナエルの眼前から炎の砲撃が放たれた。
その砲撃によって幾体ものゴーレムが破壊されていく。
そうしてできたのは炎柵によって隔てられた破壊の道。その道へレナスとレグナエルは飛び込んだ。
その動きを見て何体かのゴーレム達がそこへと飛び込もうとするが、それをさせまいとレナスが砲と銃剣で飛び込もうとした、あるいは飛び込んできたゴーレム達を次々に撃破していく。
一方、レグナエルはそんなレナスの後に続き後ろから追いかけてこようとするゴーレムの黒い球体で排除していた。
そうして少しの間、破壊の跡を突き進む二人。けれども、その進行も突如、現れた影によって止まる事となった。
影の正体は巨大なゴーレム。その大きさは身長だけでも三倍程はある。
新たに現れたゴーレムはその大きな右手を横薙ぎに振り抜く。
右へも左へも避けられない攻撃。けれども、先頭のレナスに焦りの表情は見られなかった。その理由は彼女の左側にレグナエルが並んだからだ。
「――無駄だ」
その一言が巨大ゴーレムの攻撃の結果だった。巨大ゴーレムの振り抜きはレグナエルの守りによって完全に防がれてしまったのだ。
止まった巨大ゴーレムの動き。その隙を逃さずレナスが砲を叩き込む。
狙ったのは頭部と胴の隙間の首元。そこに砲は直撃し巨大ゴーレムは首と体が分かれ崩れ落ちる事となった。
そんな巨大ゴーレムの最後を見送る事なく二人は先へと進んでいく。
背後は巨大ゴーレムのおかげで多少時間が稼げるだろう。と、なれば今は力を前へと集中させる時間帯だという事だ。
レナスは砲と銃撃、レグナエルは黒球と炎の砲撃をもって道を切り開いていく
静止は死と同義だ。なにせ左右から一斉にゴーレムに襲われる事になるのだ。物量で襲われ続ければレグナエルの守りでもいずれは突破されてしまう事になるだろう。
故に止まらないのではなく止まれないのだ。レグナエルはここで死ぬつもりは毛頭ない。なんとしても生きて戻り、再びこの場所へと侵攻するつもりなのである。
目的地まではまだ長い。当然、前方からは二人の侵攻を妨害するためにゴーレム達が次々と姿を見せている。
それを蹴散らしながら二人は目的地を目指す。
と、レナスの砲がゴーレムの攻撃によって大破した。
すぐさま砲を捨て道中に落ちていた重火器――ガトリング――を拾いばら撒くレナス。それで新たな道と領域が作られる。
そこに身を飛び込ませるレナスとレグナエル。直後、前方のゴーレム達が一斉に攻撃を放ってきた。
飛んでくる射撃の弾丸。それらをレナスはかいくぐり、レグナエルは防ぎなら進んでいく。
そうしてレナスはゴーレム達の先頭に辿り着くとゴーレム達に向かってガトリングを振り回したのだった。
連射速度と数を重視しているだけに命中精度は高くない兵器であるはずなのに、放たれた弾丸はそのほとんどが何かしらの標的を撃ち抜き、やがて機能停止に陥らせる。
弾が尽きれば別の重火器を拾うだけだ。再び砲。放たれた砲の閃光がゴーレム達を飲み込む。
レグナエルも何もしていない訳ではない。レナスが集中砲火に晒されないよう彼は黒球で彼女を囲もうとしているゴーレム達を適度に攻撃していた。
と、レグナエルを守っていた遮断の壁が一瞬揺らぐ。
時間としてみれば僅かな時間だが、それでも消えた事には違いない。
その間に弾丸一発壁のあった場所を通過しレグナエルの頬に傷を作る。
その出来事に一瞬、眉を寄せるレナス。けれども、彼女はそのままゴーレム達の掃討を続けていく。
一方、レグナエルは特に驚いた様子もなく戦闘を続けていた。
そうしてあらかた周辺を片付け終えた二人はさらに奥へ進んでいく。
「……レグナエル様」
その時になってようやくレナスは先程の守りについての話題をレグナエルに切り出したのだった。
「やはり、これを張り続けるというのはなかなかに厳しいな」
守りが乱れた理由は単純だ。
精神的疲労。それによって一瞬意識が空白となり魔具の起動が僅かばかり停止したのだ。
防御力が高いと言ってもそれは張っている間だけの話である。消えてしまえば残るのは無防備な体だけだ。
「いかが致しますか?」
「……どこかでやり過ごして体を休めたいところだだが……相手の領域内ではな」
まず間違いなく周囲一帯に監視の目があり、相手に己位置が把握されていると見ていいだろう。
とはいえ、このままこの数を相手し続けるのはいささか苦しい。
どうしたものかと交戦を続けながら考えていた、その時だ。
突如、別の箇所から戦闘音らしい音が聞こえてきた。どうやら自分達以外にもここに来てしまった不幸者がいたらしい。
「レグナエル様」
「これで少しは負担が減るな」
見ればここにいたゴーレムのうち何体かが音の方へと向かい始めている。
自分達を狙う戦力が減ったことに内心喜ぶレグナエルとレナス。
そうして二人はそのまま目的地へと向かって進撃を再開したのであった。