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無限の世界  作者: 蒼風
二章「己を信じること」
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二章二話「不安と信じる答え」(4)

 薄暗い明かりの下、宿屋の周囲を刀弥は走っていた。


 今日は『縮地』の修行。ただ今回は以前とは少し違う。縮地の移動距離がかなり短い上にその距離は長かったり短かったりと不規則、おまけに縮地終了直後に方向転換やステップなどを挟み再び縮地を行うといった動作を何度も繰り返している。そのため、彼の動きは長さの違うジグザグ軌道を描いていた。


 これは銃弾などの遠距離からの攻撃をくぐり抜けるために、刀弥が考えた移動手法だ。

 最短距離を縮地で一気に詰めているだけでは、移動先や軌道を読まれ狙われる可能性が高い。

 そのため、それを避けるために短距離の縮地を方向転換しながら繰り返すことで相手の狙いをつけづらくして、相手との距離を詰めていこうと考えたのだ。


 縮地の移動距離に変化をつけたり、縮地終了直後に時折ステップを混ざるのも同様の理由だ。刀弥にとって相手が狙いづらいほうがいいに決まっているのだから、出来る限りのことは全てしておくべきだろう。


 しかし、刀弥の不安は消えない。

 相手が狙いづらい状況を作ることはできたが、それも完璧ではないからだ。


 相手の実力によってはそれでも狙いをつけて撃ってくることも考えられるし、狙うことを諦めて数任せに攻撃を放ってくる可能性も十分あり得る。

 そうなったときの対策がまだ不十分なのだ。


 この間のトカゲの火球のように遅い弾なら反応して避けられるだろうが、シェナの銃のような速い弾の場合、今の刀弥では反応して避けることなど到底できるはずもない。そういう意味では現状、当たる軌道で弾が放たれた時点で刀弥は詰むのだ。


――やはり、無理なのか……


 そんな思いが口から出そうになる。何とか唇を噛み締めて声が出るのは防いだが、それでその思いが消えるわけではない。


 天を仰ぐ刀弥。と、そこで彼は宿屋のある部屋から灯りが漏れていることに気が付いた。


――確かあの部屋は……


 アレンとシェナが泊まっている部屋だということを記憶から掘り起こす。

 それと共に昨日、魔具の製作作業に専念するためにアレンが部屋に篭もるという話をシェナがしていたことも彼は思い出した。


 夕食もシェナが部屋に持っていって二人で食べてたようだ。運ぶシェナの姿を行きと帰りの両方を見ているので間違いない。そのおかげで、刀弥たちのほうも久々に二人っきりの時間を過ごすことになった。


 その部屋の明かりが、今も点いているということは十中八九徹夜をしていたのだろう。どうやら製作にかなり熱中しているようだ。


――今日は出発する日だって言うのに……


 一晩休んだあとの今日は、食料などの補給を終えればすぐに出発する予定だ。

 寝ずに作業していたとなると、かなり疲れも眠気も残っているだろう。


 溜息を一つ吐くと、刀弥は修行を終了して宿屋の中へと戻っていくのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



「刀弥だ」


 ノックと共に、自分の名前を告げる刀弥。やがて、ドアが少し開き、そこからアレンが顔を出した。


「なんだ?」


 背後を気にしながら尋ねるアレン。その仕草からシェナはまだ寝ていることがわかった。


「これだ」


 刀弥が差し出したのは湯気の出たカップだった。


「コーヒーだ。昨日の夕食のときに知ったんだが、丁度店の人も起きてたから頼んできた。眠気覚ましに丁度いいだろう」


 両手に持っていたカップの内、左手に持っていたほうを刀弥はアレンに差し出す。


「入ってくれ」


 両手の塞がった刀弥の代わりに、アレンがドアをゆっくりと開け刀弥を招き入れた。

 それに促され刀弥は部屋へと入る。


 部屋に足を踏み入れて最初に刀弥が目にしたのは、ベッドの上で安らかに眠るシェナの寝顔だった。

 頬が緩み、まぶたも綺麗なカーブになっている。どうやらいい夢を見ているらしい。ときたま、寝言でアレンの名前を呼んでいるのは気のせいだということにしておく。


 部屋を見渡してみると、部屋の大部分を製作作業用の魔具で埋め尽くしているという状況だった。


「よくこんな状況で、シェナは寝れたな」


 感心した顔を浮かべて、刀弥は寝ている彼女を見つめる。


「それは俺も不思議に思うんだが、どうやら気にせず眠れるらしい」


 欠伸を一つしながらアレンが答えた。そんな彼に刀弥は左手のカップを手渡す。

 受け取ったアレンは、早速それに口をつけた。


「……苦い」

「それがコーヒーだしな」


 コーヒーを飲みながら、刀弥が苦笑いを浮かべ返事を返す。


「まあ、確かにこの苦さなら目も覚ますだろうな」


 そうしてコーヒーを飲み終えた二人はカップを置くと、刀弥が床に転がっている魔具へと視線を向ける。


「で、どうなんだ?」

「とりあえず製作は完了。後はテストと調整を繰り返すだけだ」


 体全体を伸ばしながら、アレンは徹夜の成果を語った。その顔には一段落ついたことへの満足感がある。


「ってことは、次の戦闘からはこれを使うのか?」

「まあ、相手によるな。ぎりぎりの戦いでどう転ぶかわからない武器なんて刀弥たちだって御免だろ?」

「確かに……」


 素直に同意する刀弥。アレンの言う通り、そんな戦いで未知数の武器を使われるのは刀弥としてもたまったものではない。できれば使わないでくれというのが彼の本音だ。


「だから、楽そうな相手かテストができそうなスペースを見つけない限りは使うつもりはないから、安心してくれ」

「そうか」


 とりあえず、そのことに刀弥は安堵する。

 そうして二人が話しているうちに窓の外も明るくなっていき、やがてシェナが目を覚ました。


「シェナ。起きたか」

「おはよう。シェナ」


 彼女の起床に気が付いたアレンと刀弥がそう挨拶をする。


「おはよう。アレン、刀弥…………刀弥?」


 挨拶を返してから数秒後、ようやくシェナは何故、刀弥が部屋の中にいるのかという疑問を得たようだ。虚ろな瞳のまま首を傾ける。


「ああ、悪い。邪魔してる」


 彼女の疑問の声に刀弥がそう返事をする。が、シェナは聴いていないのか彼女は左右を見回し、やがてアレンが作業していた魔具へとその視線を止める。


「終わったの?」

「ああ、終わった」


 その言葉を聞いて途端にシェナが微笑んだ。そして、フラフラと立ち上がりアレンの傍まで近寄ると彼女はアレンに抱きついて慰労の言葉をかけた。


「お疲れ様。アレン」

「あ、ああ……」

 戸惑ったアレンは、チラリと刀弥のいる場所へと目を動かす。


 一部始終を見ていた刀弥は呆然とそれを見ていたが、アレンの視線と合うと、彼はあーと発しながら視線を外す。そして……


「それじゃあ、俺はそろそろ戻る。リアの様子を見に行ったほうがいいだろうしな」


 そう言って彼は、アレンとシェナを置いて自分の部屋へと戻っていくのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 部屋に戻ってみると、丁度リアが目を覚ましたところだった。


「おはよう。刀弥」

「おはよう。リア」


 ベッドから出る途中で刀弥が部屋に戻ってきたことに気が付き、リアが朝の挨拶をしてくる。


「シェナやアレンも起きているから、急いで荷物をまとめないとな」

「ひょっとしてアレンさんたちのほう、見に行ってたの?」


 既に二人の起床を知っている刀弥にリアが目を丸くした。


「外で修行をしていたら、部屋の明かりが点いていたからな」

「え!? そんな状況で部屋に行ったの!?」


 刀弥のその言葉に突然、隣の部屋に聞こえるのではないかというぐらい大きな声で、リアが驚愕した。


「な、なんだ? 一体どうしたんだ?」


 そこまで驚く理由がわからない刀弥は彼女の驚愕に戸惑ってしまう。


「だ、だって――」

「何をそんなに慌ててるのかわからないが、俺は徹夜で製作作業をしていたアレンにコーヒーを持っていっただけだ」


 慌てて何か言おうとするリアを落ち着ける意味もあって、刀弥は先に自分の訪れた理由を告げることにした。するとそれを聞いて、それまで慌てていたリアがピタリと動きを止めた。


「製作作業? 徹夜?」

「昨日、シェナが言ってただろ? アレンがこの間、作業していたあの魔具。あれの続きをするために篭もるって」


 刀弥の言ったキーワードに首を捻るリア。

 そんな彼女に対して刀弥は補足を入れることで、彼女の忘れている内容を思い出させようとした。


「……あー、そういえば言ってたね。あはは……」


 それを聞いてリアは思い出したようだ。苦笑を浮かべて刀弥に返答を返す。


「全く、一体何と――」


 勘違いしたんだと言うとした刀弥。だがふと、ある可能性を思いつき固まると、次の瞬間、彼は顔を赤くしてリアのほうを見た。


「……気付いちゃった?」


 彼の反応にリアもつられたようで、彼女もまた若干頬を赤く染めていた。


「……ああ」


 リアを直視できず、刀弥は目を伏せてしまう。それはリアも同じだったようで彼女もまた視線を逸らしていた。


 気まずい沈黙が、二人を包み込む。

 何とかこの状況を脱さなければと刀弥は考えるが、焦っているせいか妙案が思いつかない。


 その間に時間が進んでいく……


――時間?


 何かを忘れているような気がして、刀弥はそのことに思考を巡らす。

 そうして彼はここに来たときにリアに告げた言葉を思い出した。


「……っとそうだ!! アレンたちはもうとっくに起きてるんだった。早く行かないと」

「そ、そうだった。急がなきゃ」


 思い出した刀弥がそのことを口にするとリアもそれに相槌を打ち、二人は大慌てで出発の準備をする。


 おかげで先ほどのやり取りについて、二人は綺麗さっぱり忘れることができたのであった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 二人が待ち合わせの場所に行ってみると、そこには刀弥の予想通りアレンとシェナが待っていた。

 二人と合流すると、四人は宿屋から出ていく。


 朝食は周辺の食堂で済ませると、彼らは食料などの買い出しを始めた。

 そうして必要な物を揃えて準備が整うと、四人は町から出ていくのであった。


 道中は特にモンスターに襲われることもなく、出会ったものといえば途中で行商人とすれ違ったくらいだ。

 昼食後もそれは変わることはなく、時間と距離だけが刻々と進んでいく……


 やがて、夕食の時間が近づいてくると、四人は野営の準備を始めた。

 本日の刀弥とリアの夕食は、焼き魚と茹でた芋を細く切って特製ソースに漬けたもの。アレンとシェナは、何かよくわからない食材がまぶされたパスタだった。


「その料理は何て言うだ?」

「これ? アジェスのパスタだ?」

「アジェス?」

「ん~。野に咲く花の実なんだが……とりあえず、味がすっぱいことで有名なんだ」


 自分の世界に梅干しのパスタがあったという記憶があるが、味はそれに近いのだろうか。

 ともかく、なるほどと刀弥は頷くと、彼らの食べている様子を見ながら自分も食事を続けることにした。


 そんな食事を続けているときだった。


「あ、シェナ。拳銃、少し預けてくれないか?」


 ふと、アレンがシェナに向かってそんなことを言い出した。


「どうかしたのか?」

「いや、シェナの拳銃の定期点検をしようと思って」


 刀弥の疑問に、アレンがその理由を述べる。


 それを聞いて刀弥は納得した。と、同時に自分は武器の手入れ等を全く何もしていないことに気が付く。

 しかし、手入れをしようにも道具がない以上、どうしようもない。結局、次の町で買い足そうという結論に落ち着くのであった。


「……わかった」


 一方のシェナは、アレンの理由を聞いて首を縦に振ると腰から二丁の拳銃を引き抜き、それをアレンに差し出す。


「確かに。じゃあ、見張りついでにやっておくから今日は先に寝ておいてくれ」

「じゃあ、今日は前半を俺とアレンが、後半はリアとシェナに別れるか」

「それがいいかな」

「わかった」


 こうして見張りの順番が決まり、夕食が終わったところで四人は就床に入るのだった

 思いの長くなり急遽、これで出すことに……

08/18

 文章表現の修正

11/12

 瞬歩を縮地に変更

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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