九章二話「森林戦」(5)
これにて二話は終わりです。
次の三話は敵の拠点の中の話となります。
刀弥達の作戦は至ってシンプルだった。ファーブアルの対応の早さから相手がこちらを見ていること、何らかの連絡手段ですぐに連絡を送っている事は間違いなかったのでまずはそれを絞り出しそこから相手の位置を逆算するという方法をとったのだ。
連絡手段は戦闘音に紛れて聞こえてきた鳴き声だと言うのはすぐにわかった。後の位置を特定するのは戦闘音のせいで方角を絞るのが大変だったが、ヴィアンが持ちだした装置やリアの魔術のおかげで方角を絞り込むのに成功し大体の位置がわかった。
進行方向先で待ち伏せている敵の位置を探ったのはリアの魔術だ。敵の立ち回りが移動先への牽制とそれを利用した方向制御の雰囲気があったので移動先に何かがあるのは予測されていた。そのため、リアの魔術で探ったのだ。なお、カルリィの居場所を特定するのにこの魔術を利用しなかったのは単純にそれまで含めると探索すべき範囲が一気に広がるからだ。さすがにその範囲だとリアの力では一度の魔術で探る事はできない。必然、労力と時間が掛かる事になってしまう。
なので、絞れる宛のあるカルリィの方は魔術での探索に含めなかった。
こうなれば後の話は簡単である。
潜んでいる伏兵達はリアの広範囲の魔術で一気に殲滅しそれから残った敵を襲撃部隊での面々が処理していく。
結果、彼らの策は成功を収め自由を得た獣達はその生存本能から戦場から離れていったのであった。
さて、カルリィを倒した刀弥は急ぎ足でリア達の乗る乗り物の元へと戻っていった。
彼が乗り物から降りたのは当然ながら煙幕を撒いた直後、煙に紛れ密やかにカルリィの元へと忍び寄ったのだ。後は一歩で行ける間合いまで近づいたら一気に接近。そうしてカルリィを倒したのである。
「おつかれ。刀弥」
「ああ」
ドアを開いて刀弥を迎えるリア。それに返事を返しながら乗り物の中に戻った刀弥はふと、空を見上げた。先程敵達に爆撃を仕掛けた銀色の乗り物の乗り物が気になったのだ。
と、その時、その件の乗り物が一台。刀弥達の乗り物の傍まで飛んでくるとゆっくりと減速。静止すると今度は高度を下げていきそのまま着地したのだった。
それを見て乗り物から降りるロアン。ヴィアンとレリッサは中に残ったままだ。
刀弥もリアはと言うと三人の反応に従って乗り物の中に待機している。要するに何かがあればすぐに出発できる体勢だ。
銀色の乗り物を操縦していた人物は機体と同じ銀色のヘルメットと軽鎧を着ていた。着地と同時にパイロットは機体から飛び降りる。
そうして両者歩み寄っていき適度な距離まで近づくと互いに静止。多少の沈黙の後にロアンが先に口火を切ったのだった。
「助かった。恩に着る」
「いや、元々味方なのだから、礼を言われるような事ではない」
そう言いながらヘルメットをとるパイロット。
それを見て一同は息を呑んだ。パイロットが女性だったからだ。
栗色の長い髪を後ろ側で紐で結んだポニーテール。強気な気性を表している鋭い瞳の色もまたそれと同じだ。
「見たところ。あなた達も私達と同じ目的だと見たが違いないか?」
「ああ、作戦継続組だ」
その返答にパイロットは満足気な表情を浮かべる。
「やはりか。では、一緒に向かおう。空の敵は私達に任せてくれ」
「ああ、それは心強い」
こうして襲撃部隊に新たな味方が組み込まれることとなったのだった。
彼らを仲間に加えた一同は再び進撃を開始する。
その後も敵の妨害は幾度も押し寄せてきた。
飛空船による地上攻撃。巨大なゴーレムや改造獣、果ては新兵器の投入。最早、手段を選んでいるとは思えない程の大量さだ。
それでも刀弥達はそれらをどうにか凌いで進撃を続けた。
飛空船を銀色の機体群が落としていき、巨大ゴーレムや新兵器を砲撃で破壊し改造獣を撃ち抜いて彼らは進む。
無論、無傷で済むはずがなかった。負傷は当たり前。ほとんどの人が重、軽どちらかを負っているし中には戦える状態ですらないものまでいた。
他にも味方の何人かが囮となったり、敵の足止め役にならざるを得ない状況も一度ではない。
そうして疲弊しながら進む事幾ばくか。
ついでに彼らの眼前に目標の岩場が見えてきた。あの岩場にある洞窟の奥にレグイレムの拠点となっている遺跡があるのだ。
「見えたぞ」
その光景を目にして知らせを告げるロアン。それでそこにいた面々は疲労の顔から真剣な顔へと切り替わった。何故ならここから先こそが本来彼らが戦うべき戦場だからだ。
今までのは言ってしまえば本番前の前哨戦。ならば当然、本番はこれまで以上の激戦になるのは言うまでもない。
準備に余念がない者。祈りの言葉を口にする者、ただ見つめるだけの者。それぞれがそれぞれの方法で己の集中力を高めていく。
それは刀弥やリアも同様だった。刀弥は刀を抜き差しして刃の滑り具合を確かめリアは魔術を精確な地点へと放つために岩場との距離を測り始める。
知らず知らずのうちに口数が減っていき静かになっていく一同。だが、それも最後の護り手達たる敵部隊が現れた事で元に戻った。
「あれが連中の最後の守護者って所か」
「残りの距離を考えるとそうに違いないでしょうね」
「それじゃあ、さっさと倒して中に入らないと」
ロアン、ヴィアン、レリッサが口々にそう言って意識を目の前に傾けていく。だが……
「いや、お前らはそのまま進んでくれ」
そんな彼らを新たに加わった仲間の指揮官が止めた。
「そうだな。ここは私達が相手をしよう。あなた達はそのまま中へと侵入し作戦を完遂してくれ」
それに新たに仲間になった方の指揮官も同意する。
少しばかり思案するロアン。ただ、実のところどうするかはほぼ決まっていた。
状況を考えるならこれ以上を時間を掛ける訳にはいかない。時間が掛かれば掛かるほど自分達が不利になっていくからだ。
最大要因としては自分達の疲労。これは軽減はできてもなくすは事はできない。加えて装備の摩耗や残弾の心配もある。
故に彼らの提案は自分達の状況を考えるとベストな案ではあった。
ただ、不安があるとすれば戦力分散による戦力の低下であった。とはいえ、既に疲労や負傷によって脱落者は出ている。分散しようが時間を掛けようが戦力は減っていくのだ。なら、デメリットをあまり気にする必要はない。
「わかった。頼んだぞ」
そう応じてロアンはヴィアンに視線で合図を送る。その直後、彼らの乗った乗り物が加速した。それに呼応するように彼の仲間の乗り物もその速度を上げていく。
待ち構える敵部隊の大半は歩兵。砲を備えた乗り物も何台か見えるがそれ程、数は見えない。
ある程度、進んだ所でロアンと彼の率いる仲間達の乗り物は速度を落とし後ろへと下がる。代わりに新たに加わった仲間達の乗り物と飛行する銀色の機体の部隊が前に出た。
先に仕掛けたのはこちら側。一斉に放たれた砲撃が敵部隊の中央部分に着弾する。
連鎖的に響く爆発音。その音に紛れるように銀色の機体群が低空飛行を繰り出し今度は爆撃を開始する。
無論、最後の護り手とあって向こうも精鋭だ。すぐさま混乱から立ち直り迎撃を開始した。
迎撃で放たれた攻撃を受けて何機かの機体が破損しその機動を乱す。一機に至ってもう飛び続ける事も難しい有り様だ。
けれども、彼らのお陰で守り手の壁が崩れ道が開けた。そこへロアン達は突っ込んでいく。
射撃で敵の壁を削ろうとするロアンの部隊。けれども、相手の陣形の再構築速度のほうが早く徐々に乱れた壁が元に戻っていく。
このままでは元の陣形に戻ろうかというその時だ。その戻ろうとしていた陣形の壁に炎の砲撃が撃ち込まれた。
これによって敵の陣形は再び崩壊。さらには炎の砲撃による焼け跡のせいで陣形の再構築がしづらくなるという事態が発生した。
燃え盛る炎の残滓のせいで陣形を立て直せない敵部隊。そこをロアン達は突っ切って行く。
ロアン達の突撃に気付き急ぎ攻撃を放つ敵達だが、もう遅い。そのままロアン達は敵陣の中央を横断したのであった。
二話終了




