九章一話「集う者達」(1)
新章突入です。
どうぞよろしくお願いします。
陰の落ちた大地があった。
空に光はなくそれ故に世界は黒に染まっている。
そんな黒い大地の上を飛び抜ける複数の影があった。
影は僅かばかり自然のものではない光を漏らしており漆黒の空を這うように低空で飛んでいた。
かなり低く飛んでおりもし地上に人がいれば通り抜ける際に生まれる突風に巻き込まれる事となっていただろう。ただ、それは今が夜であった事と影が人の多そうな場所を意図的に避けていたことで回避されていた。
影の正体は飛空船だ。数隻の飛空船が群れをなして飛んでいる。飛空船が通り抜ける度に吹き荒ぶ風。その風で木々は激しく己を揺らすのであった。
そんな飛空船の一隻、その甲板の上に三人の人間の姿がある。
一人は少年。青い瞳と短い黒髪に黒い上着、黒いズボン。上着の下の白いシャツ以外は黒尽くめの服装しており、腰には刀が垂れ下がっている。
もう一人は少女。赤銅色の長い髪に瑠璃色の瞳。服装は赤の上着、白のシャツ、赤の基調としたチェックのスカートという服装でその両手には碧色の宝石のついた金色の杖が握られていた。
少年の名前は風野刀弥。少女の名前はリア・リンスレット。共に様々な世界を巡っている旅人である。
そしてそんな二人の目の前にいる三人目。セミロングの青い髪に黒い瞳の二人よりも年上の女性。服装は己が所属する軍の制服を纏っている。
女性の名前はヴィアン・リリンス。ラクロマという世界で軍人をやっている女性だ。
三人は現在、甲板上で話し合っていた。話の内容はヴィアンの世界、ラクロマで起こったレグイレムの襲撃に関した詳細だ。
今まで刀弥とリアは王都、王城の襲撃に紛れて別の場所が襲われたという事は知らされていたが具体的にはどういう場所だったのかという事までは知らされていなかった。
その事に関して言えば刀弥達に不満はない。自分達は部外者だ。当然、国を守るために教えられる事と教えられない事があるという事は理解できる。
けれども、今回ラクロマ側はその隠していた部分を刀弥達に教える事にした。理由を上げればこの先、そういった部分に刀弥達が触れる可能性が高かった事とレグイレム側の目的を正確に把握してもらう必要があると判断されたためだ。
遥か昔に世界が全てゲートで繋がり文明を築いていたという話に刀弥もリアも最初は信じきれなかったが、それでも話を聞いていくうちにどうにか己を納得させていく。
奪われた文明の設備についてはラクロマ側もどのような機能があるものなのかわからないという話も聞いた。ただ、それがあった遺跡については遺跡の構造や部屋の配置などから関所のような役割をもった施設だという予想がなされているらしい。
「でも、どうしてこんな周囲に何もない所にそんな建物があったのかはわからないらしいわ」
肩をすくめてそう言うヴィアン。話す内容は伝聞形が多数。察するに彼女もこの作戦の少し前に事の詳細を聞いたのだろう。
「ただ、今回の強奪から考えてレグイレムはその設備が何なのかを知っているのは確かね。でなければ奪う理由がわからないもの」
その言葉に刀弥もリアも頷く。
「そういった点などを含んで考えると……まず間違いなくレグイレムはかの時代の遺跡を確保しているわね」
「確かにその可能性は高そうだよね」
ヴィアンの推測に同意するリア。その推測は刀弥も同意だ。
ほとんどの人間が存在すらも気付けない程に痕跡が消えてしまった文明。その存在に気付き信じようとするなら実際に実物を確認するしかない。ならば、レグイレムは実物を確認した事があるのだ。
「そうなると今回、連中の行く先にはその遺跡がありそうだな」
「上もその可能性を考えているみたい」
刀弥の意見に肯定を返すヴィアン。
動作をしない設備を動作できるようにするには、知識とそのための道具や装置が必要になってくる。と、なれば直せる場所はその遺跡しか考えられない。
「問題はレグイレムの目的ね。盗まれた設備がどんな機能を持っているのかわからないせいで彼らの目的も不明なのよね」
「結局、そこが不安要素なのか」
正直言えば相手の目的がわからないのはなかなかに面倒なのである。襲撃を掛けた際の相手の対応が読みにくいからだ。
目的がわかっていればそこから相手の最優先事項や価値の低いものを予想しそこから対応を組み立てる事ができるが、今回は相手の目的がわからないため、対応を事前に組み立てる事ができない。なかなかに面倒な事態である。
「……とりあえずそこの部分の話は置いておきましょう。とりあえずはその文明の話を続きね」
ヴィアン自身言っても仕方のない事だと理解しているのだろう。二人に話を戻すことを提案する。
その事に二人は反論の意見はない。共に頷きを返す事で同意としたのだった。
「……それでラクロマが見つけた遺跡の話だけど……無論、遺跡内ではいろんなものが見つかったわ。具体的に話す事は禁じられているけど、大半のものが現在のラクロマの技術では再現出来ないものばかりらしいわね」
「へ~」
興味津々にヴィアンの話に聞き入るリア。やはり、その辺の部分は興味があるらしい。瞳を大きく開いて食い入るように見つめていた。
「大方、レグイレムも最終目的はその文明の技術と力を求めているとは思うのだけど……」
確かにその部分は間違いないだろう。高いレベルの技術はそのまま強大な力へと変換する事が可能である。そして力は多くの事態を解決できる汎用性の高い手段の一つである。レグイレムのような所が求めるのも当然だ。
「本当、なんで盗んだんだろうね」
「けど、レグイレムはその盗みのために王都、王城襲撃を囮とした。つまり、それだけの価値はあるという事だ……少なくても連中にとってわ」
あれだけの事をしたのだ。少なくても相応のリターンは得られる予定なのは間違いないはずである。
「……盗んだものが実は強力な兵器?」
「報告じゃ。武器の可能性はかなり低いって話よ」
つまり、リアの想像は外れだったという事だ。
ならば、と新たな可能性を思案するリア。そんな彼女の様子を刀弥は後ろから眺めていたがふと、彼は頭上――暗い夜空を見上げた。
僅かに見える星々。光は弱く点のような光がいくつも瞬いているのが見える。
そんな空の中。そこに刀弥は星とは違う人工の光を見つけた。
光は徐々に大きくなっていき、それと共に光源の輪郭も見えるようになってくる。
光の正体は飛空船。数は三で色は闇に潜む黒色。光の正体は機関が飛翔のために放つものでそれ以外に光を灯しているものはない。
闇に潜み不意を突いて襲う。明らかに敵がする事だ。
その直後、一筋の光が放たれた。
光は付近を飛んでいた味方の飛空船を貫く。
爆発、炎上、降下。一瞬にして巻き起こった情景。そうして一隻が下の森の中に不時着す頃……
ようやく船内に警報がこだました。
「急いで中に入りましょう」
ヴィアンがそう言って歩き出し、その後に刀弥もリアも付いて行く。
警報が響いているのは刀弥達のいる飛空船だけではない。他の飛空船でも響いていた。
さらに近づいてくる黒の飛空船。既に彼らは刀弥達にとっては敵だ。故に武器を向ける事になんのためらいも迷いもない。
飛空船に積まれている武器が可能な限り黒の飛空船群に向けられる。その攻撃をかい潜りながら刀弥側の飛空船群へと突っ込んでいく黒の飛空船群。
こうして唐突な形で空の戦いが幕を開けたのであった。




