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無限の世界  作者: 蒼風
八章「王都襲撃」
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八章三話「救援」(15)

「……ほう。放棄ですか」


 レグイレムによるラクロマの王都レイムナラットへの襲撃から四日後――ラクロマの時間で――。

 ここ、アイゼイルのベルゼクト王国で活動しているレビル・レネゲートの元に本部から連絡が来た。

 内容はここの放棄。全てを引き払って本部へ帰還せよという内容だ。


「大掛かりな作戦が始まるという事ですかね」


 内容には他の拠点にも同様の通告が為されている事が書かれていた。どうやら全ての戦力を本部へ集約させるつもりのようだ。


「まあ、ここでの目的は達しているので別に問題はないですけど……」


 実際、大方の兵器の試験は済み、そのデータの送信も終わった。引き払っても特に問題はない。

 とりあえずの放棄の手順を頭に思い描くレビル。ただ、その思案の中にベルゼクト王国の事など何一つ入っていない。

 彼にしてみればベルゼクト王国など試験を行うための手段でしかなく自分達がいなくなった後、この国がどうなろうが知ったことではないのだ。


「乗り物を調達する必要がありますね」


 それに関して調達で済ますか、本部から送ってもらうか。そんな事を思案しながら歩き出すレビル。



 それからしばらくしてベルゼクト王国はクーデターを受け崩壊。歴史からその姿を消したのだった。最も、その事をレビルは知ることはなかったのだが。



      ――――――――――――****―――――――――――



「……予想通りの結果だったよ。つまり、彼らの目的はそういう事なんだろうね」


 どこまでも続く草原。その中に伸びる道。その道をルードは歩いていた。

 彼の周囲には人はおろか獣の姿さえない。

 けれども、ルードはそこに誰かがいるかのように一人、見えない相手と会話をしていた。


「怒らないでよ。まさか、彼らが知っているとは思ってなかったんだから」


 見えぬ相手に怒られたのかルードの顔はたじろぎ気味だ。ただ声色に焦りの色がない事から慣れた事なのが伺える。


「……わかってる。それが僕らに与えられた根本の役割だからね」


 そう告げて空を見上げるルード。空は蒼穹に澄み渡っていた。

 雲の存在しない蒼のグラデーション。唯一存在するのは太陽のみだ。その太陽はと言うと地上へ陽気な暖かさを送り続けている。

 その恩赦を受けているルード。暖かいが暑いという程ではない空気。加えて時折吹く風も冷たいというよりもぬるく気持ちいいという感じだ。

 昼寝には丁度いい環境。けれども、ルードはその誘惑を振り払った。天を見上げている彼の視線は空を越え世界を越えある場所へと向けられている。


「何百年ぶりかな」


 思わず呟いた相手にも聞こえない独り言。

 こうしてルード・ネリマオットの行動は人知れず決まったのであった。



      ――――――――――――****―――――――――――



「――以上がかの遺跡での被害です」

「全くしてやられたな」


 秘書の報告を聞いてそんな感想を漏らすベリドア。彼が聞いているのはラクロマが極秘にしていた遺跡の守備を担っていた部隊の被害報告だ。

 彼らが遺跡の襲撃に気付いたのはレグイレムによる王都及び王城襲撃が終わり、その後始末をしている最中だった。

 定期的に届く遺跡の守備隊の連絡に不審な点がある。そういう連絡がベリドアの元に届けられたのだ。

 その瞬間、ベリドアはレグイレムの本命が遺跡の方であったと感づき急いで人員を遺跡へと向かわせた。

 結果、送られた人員は壊滅した守備部隊を発見。さらにその後の調査で運び出すことができなかった遺跡設備の一つが消失しているのが判明した。


「連中の目的はその遺跡設備か。それがどんなものかはわからないのか?」

「残念ながら我々の長年に渡る調査でも詳細はわかりませんでした」


 ベリドアの問いに残念そうな表情を返す秘書。それを聞いてベリドアは小さくうなる。

 遺跡設備がどういうものかわからなければレグイレムが最終的に何を目的としているのかわからないからだ。目的がわかればいくつかの動きも推測できるし対応もしやすくなる。

 とはいえ、全くできないという訳でもない。


「レグイレムの動きは?」

「はい。多くが現場を破棄。それぞれが資材、人員を率いて移動を開始しています。移動に使用したゲート、その後の方角等の情報を集計すれば目的地の推測は可能だと思われます」


 恐らくそこにレグイレムの本部があるのだろう。レグイレムは勢力を結集させ何らかの行動を起こそうとしているのだ。それが何であるかはわからないが、どうにも悪い予感しか感じない。

 やはり、早急に対応を打つべきだ。そう考えてベリドアは思案を始める事にした。


「とりあえず国王に連絡を。早急にレグイレムが集結しつつある地点に襲撃を掛けるべきだと進言する」

「了解致しました」


 ベリアドの命に敬礼で応じる秘書。そうしてから秘書は部屋を後にした。

 残ったベリアドは襲撃を掛ける部隊の編成について考え始める。

 今回の襲撃で軍もかなりの被害を受けており、死傷者の数も少なくない。何より問題なのはラクロマの王都が賊に襲撃されたという事実だ。

 これによって人々の軍に対する信頼が揺らぎ、治安が悪化する恐れがある。特に直接被害を受けた王都は尚更だ。

 治安の維持と回復、そして万が一のための防衛戦力は必須。故にそれほど多くの戦力を送ることはできない。

 また、大戦力を送れない訳はもうひとつあった。目的地との間にはいくつもの世界と国がある。大多数の兵力を送るとなるとそれらを刺激せぬために事前に了解をとらなければならないのだ。

 交渉の難易度は戦力が多くなればなるほど難しくなる。つまり、どっちにしても送れる戦力には限りがあったのだった。

 そうなると重要なのは送る人員だ。人数が限られているのであれば質の高い人員で部隊を組めば戦力も高まる。


「……とりあえずは彼らか。後は……」


 そうして部隊の編成を構想し始めるベリアド。その構想は夜遅くまで続いた。



      ――――――――――――****―――――――――――



 それから七日後……

 刀弥達は飛空船の中にいた。船内にはロアン達を始めいくつかの部隊の姿がある。全員、レグイレムへの襲撃に参加する部隊だ。この他にも後二隻飛空船が傍を飛行している。

 今回、ラクロマは飛空船三隻相当になる戦力をレグイレムの襲撃に投入する事に決めた。これ以外にも道中の各世界からも戦力が提供されるという話だ。どうやらどの世界もレグイレムに手痛い目に合わせられていたらしい。

 そんな話を刀弥が聞かされたのは昨日の事。教えてくれたロアン曰く交渉がそういう形で纏まったという話だ。


 六日前、つまりレグイレムによるラクロマ襲撃の翌日。刀弥達はロアン達から現在の状況と王都襲撃と同時に別の地点の基地が襲撃されたという話を聞かされた。加えてレグイレムの集結地点に襲撃を掛ける話も。

 参加の是非を聞かれた二人はすぐに頷いた。ドラインの件は改造ドラインが倒された事で片付いたがもうここまで来ると乗り掛かった船だ。最後まで付き合う。そう思い参加する事に決めたのだ。


「ん~、空が綺麗だね~」


 飛空船の窓から空を見上げそんな感想を呟くリア。確かに見上げる空は青一色に染まっており壮大で綺麗だ。飛空船は白い雲の海を泳いでおり、時折飛空船に触れた雲がその形に沿って掻き分けられていくのがなんとも面白い。


「そうだな」

「そのレグイレムの集合地点の場所までどのくらい掛かるんだっけ?」

「ロアンの話だと基準時間で十日ぐらいって話だ」


 飛空船に乗ってそれだけ掛かるのだからかなり遠いのだろう。


「あ~~、それだけ時間があるとすぐに暇になりそうだね」


 刀弥の答えに憂鬱そうな表情を浮かばせるリア。


「どうにかなるだろう」

「そうかな~?」

「……それよりレグイレムの方だろ。考えるべきは」


 目的を達成したレグイレムが次に起こしたのが拠点の破棄と人員の移動の時点で何か大掛かりな事を始める気満々なのは確定だ。問題は何を始めようとしているのかがわからないという点である。


「全く……何を始めようとしているんだか」


 ため息を一つ吐いて刀弥はそんな愚痴をこぼす。


「まあまあ、どうせなるようにしかならないんだから、深く考えない方がいいと思うよ」


 そんな彼に返事を返すリア。と、その時だ。

 雲の海の中から数席の飛行船が浮上してきた。数は全部で九隻。三隻毎に違うマークが入っている事から恐らくこの世界の国々が提供してきた戦力だろう。

 こういう感じで戦力が増えていくのかとそんな感想を心の中だけで呟く刀弥。無意識にだが体にも緊張感が走りだす。

 これから始まるのはかなり大掛かりな戦闘だ。当然、かなり激しい戦いとなるのは間違いない。

 その事を予感し気を引き締め直す刀弥。

 こうして刀弥とリアの二人は新たな戦いへと身を投じていく事になったのであった。

 



           三話終了

八章終了

これで八章は終了となります。

どうもありがとうございました。

次回からは10章となります。どうぞお楽しみにお待ちください。


15/2/22

 少しだけ一部文章を修正致しました。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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