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無限の世界  作者: 蒼風
八章「王都襲撃」
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八章三話「救援」(11)

 もう一体の円柱ゴーレムの背後からの追突を受けて加速する円柱ゴーレム。元々これはレガルトが刀弥を倒すために行っていた布石であった。

 レガルトの狙いは至ってシンプルである。自分が妨害しながら気を引き背後から加速させた円柱ゴーレムで仕留める。

 そもそも円柱ゴーレムは一体で一人を殺すのにお釣りが来るほどの威力を持っているのだ。ならば、どちらか一体が刀弥に届けばよく無理に二体を届かせる必要はない。

 故にレガルトは片方を加速のために用いることにしたのだ。唯一の誤算はその妨害が思うようにいかず負傷を負う事となってしまった事であるが、刀弥とレガルトの距離はまだ開いている。おまけに先程の最後の斬波を食らって彼の身は大きく飛ばされる事となった――恐らく攻撃を受ける際にそうなるようにしたのだろう――。

 この距離なら近づかれるよりも先に円柱ゴーレムの攻撃の方が間に合う。そう判断してほくそ笑むレガルト。

 これに対し刀弥がとれる対応方法は二つあった。一つは自身の速度を上げる事。もう一つは背後から迫る攻撃に対処してしまう事である。

 速度は既にやれる事はやっている状態でこれ以上上げる事は難しい。と、なると残る方法は円柱ゴーレムを対処することだけだ。

 一番のベストは円柱ゴーレムを破壊することだが、相手の威力を考えると真正面から破壊するのはかなり厳しいだろう。かと、いってちまちまとやっていたらもう一体の方が追い付いてきてしまう。

 破壊する事は難しい。そうなるととれる手段は――

 僅かな思考。そうして刀弥はある一つの手段を思いつきそれを実行する事を決心した。

 まず彼は前方のレガルト、そして後方から急接近してくる円柱ゴーレムの速度と距離を測り始める。

 そうやって手に入れた情報を元に計算。必要なイメージを導き出すとすぐさまそれを行動に移す事にした。

僅かに走る軌道を右へと変更していく刀弥。当然、それを追い掛ける円柱ゴーレムもそちらへと向きを変えていく事となった。

 現在、円柱ゴーレムの位置は刀弥の背後やや左方向を刀弥に向かって飛翔している。その軌道は線として見たなら垂直に近いやや右斜めの線だ。刀弥が右へと軌道を変更したという事は円柱ゴーレムの軌道はやや右へと傾いていくという事である。レガルトとしては自身から離れる軌道となって嬉しい事だろう。

 とはいえ、刀弥の身のこなしを考えればただぶつけようとするだけでは避けられるのが目に見えている。むしろ、そうやって避けた後に一気に勝負をつけに来るとレガルトは踏んでいた。

 それをさせぬため、彼は刀弥の周囲に斬波をばら撒く。

 右、上、左、正面。その流れで斬波を連打するレガルト。拳、足、膝、肘と放てる部位ならどこからでも放っておりそれ故に時間単位で繰り出される数は多い。

 最早、群れと言えなくない規模となったそれらの攻撃。それらほとんどの軌道は刀弥の回避先に放たれている。

 避ければ斬波の群れのまっただ中に身を晒す事になり、しかし、避けなければ円柱ゴーレムの突進をまともに受けてしまう構図。

 この状況においてレガルトは刀弥が回避を選ぶと考えていた。

 円柱ゴーレムの突進はその威力に故に防御も迎撃も難しいが斬波の方なら話が別だ。そのため、刀弥はダメージを軽減するために斬波の方へと逃げるだろうとレガルトは予測する。

 無論、その時の場合の手は考えていた。

 刀弥が斬波の防御、迎撃に入ればさらに斬波のラッシュを放ち完全に防御一辺倒にする。

 時間さえ稼げれれば後は円柱ゴーレムが確実に刀弥を始末する。そういう流れがレガルトの頭の中にはあった。

 そうこうしているうちに円柱ゴーレムと刀弥の距離が縮まってくる。

 刀弥に時間はもうあまり残されていない。円柱ゴーレムを避けるか受けるか。

 待ち構えるレガルトの視界の向こう。遂に刀弥が動いた。

 彼が選んだ選択。それは円柱ゴーレムを無視することだった。彼は円柱ゴーレムの方を見ることなくレガルトの方に身構える。

 刀を片手で持ち、その剣先を相手に向けたまま握った腕をくの字に折り曲げて引き絞り反対の左手を相手を捉える照準としてL時に開かせた姿勢。それは間違いなく突きを放つ姿勢であった。

 だが、ある程度詰めたとはいえ両者の距離は一歩二歩で届く距離ではない。加えて言えば円柱ゴーレムだって迫っている。適当な事をやれる状況ではない。

 けれども、刀弥は真剣だった。彼は前を見据えたままやや左後方から距離を詰めてくる円柱ゴーレムとの距離を測り続ける。これは刀弥の作戦上、絶対に必要な要素であった。

 距離を間違えれば待っているのは円柱ゴーレムに潰される未来だ。それを避けるためにも失敗は許されない。

 残り三歩分。刀弥が腰を落としを重心を下へと落としていく。

 姿勢は前のめりに近くその体重を前足である右足が支えている状態だ。姿勢が低くなっているためレガルトが視界の高い位置で見える。

 残り二歩分。刀弥が大きく息を吸った。深呼吸するように静かにけれども深く……

 目は細められ意識は気配を探る分以外は目標一点へと注ぐ。雑念はいらない。勝利を欲する激情すら邪魔でしかない。必要なのは全てが見渡せる澄んだ意識と正確に体を動かすための集中力。

残り一歩分。もう何もする事はない。後はただ時が来るのを待つだけである。



 そして……左背後より円柱ゴーレムが刀弥の身を押し潰そうと迫ったその時――――刀弥は確かにその一歩を踏み出した。



 瞬間、刀弥の身が消える。今まで見ていたのがまるで幻かのような消失だ。


「な!?」


 その光景に驚くレガルト。

 円柱ゴーレムはそれまで刀弥がいた場所を掠め、そのまま通り過ぎていく。

 円柱ゴーレムが通過したことによって生じた風。その風がレガルトの元まで届いた時――刀弥はレガルトの眼前にまで迫っていた。

 彼は行動の出掛かりを消し動き出しと同時に気配を急速に断つ事によって周囲の認識から己を消失させたのだ。周囲にはあたかも急に消えた風に見えただろう。しかし、刀弥から見ればただ攻撃を避けただけなのである。

 そうやって攻撃を回避した刀弥。後は通過の際の衝撃波に乗ってレガルトの眼前まで一気に接近したのだ。

 一方のレガルトの方はというと刀弥が唐突に目前に現れた事により驚愕よりも先に体が対応に動いていた。

 下ろしていた左腕をアンダースローで振るうレガルト。それで刀弥の突きを受け流しその勢いのまま上空へと投げ飛ばそうとしているのだ。

 刀弥は現在、左足で接地しており、その身は前へと進もうとしている途中である。刀を構えた右腕は突き出している最中でもしこのまま突き出されたならば、刀弥の全速度を乗せた強力な一撃がレガルトを貫く事になっていただろう。

 けれども、その攻撃はもうレガルトに届くことはない。彼に待っているのは円柱ゴーレムに叩き潰される未来。それだけである。

 左腕が刀に触れようとした。後は触れた感触から力の向きや力の強さを知りそれらを元に攻撃を流していくだけである。

 だが次の瞬間、レガルトは目を見張る事となった。なんと、それまで突きを放つ刀弥の動きが突然停止したかと思うと踏み出した右足を軸にして逆時計周りにターンを始めたのだ。

 レガルトの左脇を背中越しに通過していく刀弥。そのまま彼は回りながらレガルトの背面へと回り込むと回転の勢いそのままに刀を水平に振るった。

 レガルトは虚を突かれた上に死角に回りこまれたために攻撃に反応しきれない。そのまま彼は胴を断たれる事となったのだった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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