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無限の世界  作者: 蒼風
八章「王都襲撃」
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八章三話「救援」(10)

 時間は少し巻き戻って場所は王都へと変わる……

 真上から落ちてきた円柱のゴーレムを刀弥は跳躍で躱す。

 ギリギリのところで目標に逃げられた円柱ゴーレムは追うこともできず、そのまま地面に激突。衝撃波をまき散らして地面に巨大なクレーターを生み出したのだった。

 けれども、刀弥は足を止めない。彼の視線を向けている先ではもう一体の円柱ゴーレムがこちらに向かって飛んできているからだ。

 近くにあった建物に飛び込む。ドアのとれた限界の向こうには見えた階段。刀弥はそこを登っていった。

 背後、風切音が近づいてきている。この後、何が起こるのかは自明の理だ。そのため、刀弥は二階に駆け上がると同時に手近な窓を見つけるとそこから外へと飛び出した。

 直後、円柱のゴーレムが刀弥のいた建物に飛び込んでくる。

 円柱のゴーレムは壁や柱を突き破って直進。自重を支えていたそれらがなくなった事によって建物は己を支えきれなくなり、しばらくの均衡の後に崩壊した。

 建物から脱出した刀弥は着地と同時に既に走りだしている。目的地は遠くに見えるレガルトだ。

 それを阻止せんと背後とそして右通路から飛んでくる二体の円柱ゴーレム。それを刀弥は緩急つけたステップでくぐり抜けると飛ぶように地面を強く踏み込んだ。

 ただ一歩で距離を稼いだ刀弥は背後で進路を変える二体の円柱ゴーレムに気を付けながらもレガルトへの警戒も忘れない。

 円柱のゴーレムが派手でそれを戦いの主軸として戦っているため無意識にレガルト自身への警戒が疎かになってしまうが、彼自身の戦闘能力もかなり高い。

 彼が刀弥に見せたのは投技ただ一つ。だが、その後の円柱のゴーレムからの追撃を考えると彼の戦い方はある程度推測がつく。

 彼の体術はゴーレムとの連携を前提としたものだ。投技や蹴り、掌打等を使って相手を浮かせたり四肢を打つ事で相手の固め回避や防御を不能にする。

 倒す必要はない。それをするのは円柱のゴーレムの役割である。彼はただ自分の身を守ったりそれを補助すればいい。

 そして、この状況で彼がする事と言えば――


「やっぱり、来たか」


 刀弥の視線の先でレガルトが蹴りの斬波を放ってくる。右足を右から左へと振り抜いた横幅の広い打撃。

 初手で斬波を使わなかったのはレガルト自身を弱いと思わせるためだろう。その油断を隙として利用する事でより確実に相手を倒す。実に合理的で抜け目のない敵である。

 この斬波もその狙いは簡単だ。背後からは二体のゴーレムが既に飛翔している音が聞こえる。飛翔先は斬波の左右外側、即ち斬波の回避先である。

 避けることを見越して本命のゴーレムを回避先に放つ。シンプルであるが効果的な攻撃手法である。攻撃の威力が並を防御を打ち砕けるほどのものであるなら尚更だ。

 とりあえず左右に逃げるという選択肢はなくなった。後、あるとすれば斬波を撃ち落とす事だけだが……


「……そうなるよな」


 それを見越していたレガルトはさらに追加の蹴りの斬波を見舞ってきた。捌き切れない数ではないが確実に足が止まってしまうだろう。そして止まってしまえば後は円柱ゴーレム達がその軌道を変えてとどめを刺しにくる。

 どれを選んでも詰んだ状況。けれども、刀弥はその状況であえて回避という選択肢を選んだ。だが、彼が向かう方向は左右ではない。

 彼が回避先に選んだのは上だった。斬波の足場を生み出しをそれで階段上に上へと上がったのだ。

 敵の斬波を飛び越す刀弥。それから彼は地面に対して垂直な足場を形成し、それを強く蹴って一気にレガルトの目前へと着地する。

 すぐさま刀を振りかぶる刀弥。対し相手は次に来る一撃のために身構え――けれども、その身構えを急遽解いた。刀弥の攻撃が想定したものと違っていたためだ。

 刀弥が行った攻撃は肘打ち。刀の攻撃と見せかけてさらに近づきその構えた肘先をぶつけてきたのだ。

 予想外の攻撃に対応しきれなかったレガルト。しかし、それでもどうにか腕を使って攻撃を防御する。

 重い肘打ち。その威力に抗しきれずたたらを踏んでしまうレガルト。直後、そこへ追撃の一刀が走ってきた。

 肘先を起点に片手で振られた刀。速度はないが、それでも連撃としては十分に繋がっている。

 その一刀を急ぎ屈む事でやり過ごすレガルト。そうして彼は刀弥の懐に入り込み掌打でその身を吹き飛ばそうとした。

 円柱のゴーレムは現在、移動中。それぞれが左右回り込む軌道で側面に回ろうとしている。レガルトは刀弥を吹き飛ばすことで円柱ゴーレムの攻撃軌道を自身を巻き込まない軌道にしようとしたのだ。

 入り込んだ速度と自身の体重を乗せた両手の掌打。けれども、レガルトは怪訝になる何故なら目の前にいる刀弥にその攻撃が届かなかったからだ。いつの間にか彼の身は後ろへと下がっていたのだ。

 刀を振るうのに合わせて後ろ足で一歩分後退していた刀弥。既に刀は刃先を相手に向け弓に張られた矢のように後ろに引かれている。後は解き放つだけだ。

 そうして放たれたのは一閃の一突き。腰を使って上半身を回し右手を突き出し左手を後ろへと振るう。

 前へと出てない分、威力はないがその分は相手の攻撃のための前進を利用すればいい。

相手の反撃にレガルトは横への回避を試みるが攻撃で前に出ていた分、回避しきれない。結果、レガルトは左肩に傷を負ってしまった。

 左肩に刀が刺さり刺さり口から血が刃を伝って滴り落ちる。傷を与えられ一瞬怒りの表情を露わにするレガルト。しかし、その感情は己の自制心によって一気に抑え込まれる事となった。

 ともかくこの状況から脱するためにレガルトは後ろへと跳躍する。

 一気に開く両者の距離。それは同時にレガルトが円柱ゴーレムの攻撃に巻き込まれる事がなくなった事を意味している。

 主を巻き込まないならば円柱ゴーレムも攻撃を自重する必要はない。すぐさま二体の円柱ゴーレムは刀弥に向け突撃を開始した。

 背後から急速に速度を上げてきた円柱ゴーレムの存在に当然刀弥も気が付いている。

 威力や追尾性を考えれば無視という選択を選べない以上、早急に手を打たなければならない。

 刀弥は駆ける。行く先はレガルトの方向だ。牽制も兼ねて斬波を一振り彼に向けて放つ。

 この攻撃にレガルトは同じく斬波で迎撃。二つの斬波はぶつかり合い互いに消滅してしまった。

 しかし、刀弥はその間に地面を強く踏み込み瞬間的に加速。一気に距離を稼ぐと再び斬波を放つ。

 このまま再び斬波で迎撃すれば先程と同じ事になると予想したレガルトは迎撃ではなく回避を選ぶ。右へと飛ぶ事で斬波の軌道上から逃れようとしたのだ。その際に彼は刀弥に反撃するための構えを作っておく。

 刀弥の斬波は捉えるべき目標を逃しただその傍らを通り過ぎていくだけ……のはずだった。

 だが、その斬波が突如、レガルトが逃れた方向へと曲線を描く。まるでレガルトを追尾するかのようなタイミングでだ。


「な!?」


 さすがにこの事態にレガルトも驚いた。急遽、彼は攻撃のため準備していた構えを迎撃のために使う。

 迎撃は成功。しかし、そのせいでレガルトは攻撃の手札を使用してしまった。再び放つためにはまた構え直さないといけない。

 一方、刀弥は相手が斬波の対処にもたついている隙に再び急加速してさらに接近していた。最早レガルトまで残り六歩ばかりの距離である。

 けれども、背後から迫る円柱ゴーレムもかなり近づいてきている。刀弥がレガルトに肉薄するかそれともそれよりも先に円柱ゴーレムが追いつくか。正直、かなり微妙なところである。

 しかし、それは逆に言えば僅かな遅延も短縮も勝負を決める重要要素になり得る事を意味していた。

 故に両者は可能な限りのあらゆる手段を持って互いの目的を達しようとする。

 レガルトが斬波を放ち刀弥の進行を阻もうとすれば、刀弥はその隙間を速度を落とすことなく潜り抜けていく。その最中、ガラスの破片を拾った彼は攻撃が止んだと同時にそれを横投げで投じた。

 ガラスの破片はレガルトを横から追い越し後、ブーメランの如くUターンして戻ってくる。

 背後からくる攻撃にレガルトは視線を一瞬向け脅威度を分析。ダメージは負うものの損傷は軽微と判断してそのまま突き進むことにした。

 その予想通りガラスの破片はレガルトの背中に刺さる。

 走る痛み。その痛みにレガルトは一瞬、顔をしかめるが走る足は止めない。斬波を牽制として放ちそのまま背を向け全力疾走の体勢に入ろうとした。

 しかしその瞬間、レガルトの左足を何かが貫く。

 力を失い前へと倒れていくレガルトの体。そこへ向かって刀弥は全力で走っていく。

 レガルトを貫いたもの。それは刀弥の斬波だった。小さな突きの斬波がガラスとは反対方向から回りこんで近づいてきていたのだ。

 足を負傷し走れなくなったレガルトと接近中の刀弥。このままでいけば円柱ゴーレムが刀弥を押しつぶすよりも先に刀弥の刀がレガルトの体を捉える事になる。

 それが容易に想像できたのだろう。レガルトの表情にようやくり焦りの色が浮かび始めた。彼は残った右足を地面に蹴りつけ僅かでも距離を稼ごうとするが、そこへ刀弥の斬りの斬波が進行方向先に放たれる。

 移動先を読まれたレガルトは回避する事もできない。そのまま斬波はレガルトの右腕を根本から断ち切ったのであった。

 だがその時、刀弥の背後で衝突音が響き渡る。

 大質量同士がぶつかりあったかのような重くけれども、激しい音。

 その音が気になり確認のために背後へと振り返る刀弥。

 するとそこには片方の追突を受けて加速する円柱ゴーレムの姿が映ったのだった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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