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無限の世界  作者: 蒼風
八章「王都襲撃」
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八章三話「救援」(8)

 いくつもの攻撃が飛び交う。

 全方位から迫り来る攻撃を避け時折弾き逸らしながら隙あらば反撃の突きの斬波を放つロレット。けれども、それらの攻撃は全てルードを覆う全方位の力場によって遮られてしまった。

 彼を守るように取り囲むゴーレム達が生み出す守りの壁だ。

 いくつもの攻撃が力場の壁にぶつかる度に弾かれるような音をたてて力を失っていく。壁は実体を持つものではないため摩耗もしない。ただ力の続く限り外からの攻撃を遮り続ける。

 けれども、攻撃が通らないのはロレットとしても予想内であった。そもそも、先の反撃の目的牽制。相手がこちらの攻撃を意識してくれさえすればそれで十分である。

 そんな応酬をしながらロレットはルードの周囲を動き回っていた。

 ルードは守りの壁を展開して以降動いていない。一見するとゴーレムの守りの壁に相当な自信があるようの選択だと考えることもできる。しかし、実のところ動かないのではなく動けないのだという事をロレットはしっかりと見抜いていた。

 壁を展開した事でかなりの防御力を得たルードであるが、代わりに移動体積が巨大になっている。

 無理もない。何せ壁の中に自身と八体のゴーレムを収める必要があるのだ。最終的に壁の体積も相当な広さになってしまう。

 そして、それだけの体積が味方のゴーレムにぶつからずに動き回るにはそれだけの広さのある通路が必要になってくる。つまり、壁を張ったまま動くにはゴーレム達に避けてもらう必要があるのだ。当然、それは移動先を予告しているも同然である。

 また、これだけ大きくなってしまうと障害物等とぶつかりやすくなるし動き回れる範囲も狭くなってしまう。

 こうなってくると動くことで得られるメリットは小さい。むしろ、攻撃に回っているゴーレムに余計な動きを敷いている分、デメリットの方が大きいくらいだ。

 ならば、動かずじっとしていた方がいい。そうすればゴーレム達は道を開ける必要はないしルードも移動に注意を払う必要もなくなる。

 ゴーレム達の攻撃がより複雑な連携や陣を敷くようになってきた。ルードがその都度細かい指示を出しているからだ。

 これまでは移動のために周囲に気を配らなければならなかったが、動かなくなった今それをする必要がない。ならば、その分の意識をゴーレム達の指示やそのための思考に割くことができる。

 誘導し相手が移動のために跳躍したのを見て待たせていたゴーレム達に一斉射撃を指示。放たれた一斉射撃は人一人分の隙間を作ることなく固まりながらロレットへと迫っていく。普通なら避けることも防ぎきる事も難しいはずのこの攻撃をしかし、ロレットは槍の一振りで全て迎撃してしまった。

 生じた斬波。槍の斬撃と放射された斬波は今まさにロレットへと殺到しようとしていた銃弾をことごとく迎撃。銃弾は潰されるか逸らされ全てがその役割を全うできずに終わってしまった。

 そこへ新たな一斉射撃。射撃の主は一斉射撃を行ったゴーレム達のさらに奥にいたゴーレム達だった。そもそもルードは最初の一斉射撃が対処されるのは予想内だったのだ。そのため、それを見越してもう一隊一斉射撃を控えさせていた。

 再びロレットに襲い来る銃弾の群れ。槍は振るった直後のためすぐには振るえない。防御が使えない状況。だが、そんな状況下にあってもロレットの顔に焦りの色はなかった。

 直後、彼の体が大きく動く。

 まだ、跳躍は終わっていない。にも関わらず動けた理由。それは振るい終わった槍にあった。

 よく見るとロレットの槍を握っている両手が真ん中からいつの間にかかなり|石突きよりになっていたのだ。そのため、振るい終わった槍の先が地面と接触。それによってロレットの体は大きく動くこととなったのだった。

 こうなったのはロレットが攻撃の最中に握りを甘くしたいたためだ。握りが甘くなっていたため槍は遠心力で外へと滑っていき最終的に手がこの位置となった。

 実のところ、ロアンは最初の一斉射撃の時に背後にもう別の一斉射撃の集団がいる事に気が付いていたのだ。撃ってくるタイミングなど容易に想像できる。後は想像通りになるよう力加減等を調整するだけであった。

 結果、二撃目の一斉射撃は空を切り、跳躍から戻ったロレットはすぐさま反撃の突きの斬波を連打。一斉射撃を行った二つのゴーレム部隊はその突きの嵐に飲み込まれる事となったのだった。


「へぇ」


 感心した声を漏らすルード。そんな彼の元にゴーレム達を残骸へと変えた突きの嵐が殺到する。

 けれども、突きの嵐は守りの壁によって容易く防がれてしまった。いくつもの衝突音が響きその際に衝撃波が生まれるが、それらすらも壁は防いでしまう。

 絶対的に強固な壁。その中にいるルードはどこか楽しげな表情でロレットを見上げていた。


「どうするの? さっきから一度も攻撃が届いてないんだけど……このままじゃあ、やられちゃうよ」


 彼の言う通りである。攻撃を受けない以上、長期戦になればルードの方が断然有利だ。この攻撃の雨を捌き続けられるロレットの実力は驚嘆すべきだが、それも限界があるし何よりもいつまでも捌き続けられる保証もない。

 このままでは最終的に負けるのはロレット。そう考えるのは当然だ。

 しかし、彼の言葉にロレットはやれやれとばかりに大きく息を吐いた。


「?」


 その仕草に疑問を浮かべるルード。と、そこへロレットが言葉を投げ掛ける。


「貴様はどうも相手を見下す癖があるようだな」

「……そりゃあ、大抵相手が弱いからね~」


 言っているそれは相手を舐めたような内容だが、ルードの能力を考えればそれも仕方ないだろう。

 ロレットがルードの勝つにはそうなる前に司令であり元でもあるルードを倒すしかないのだが、肝心のルードが鉄壁の守りの中にいるせいでそれが難しい状況に陥っているのだ。

 おまけに攻撃の方も圧倒的な物量のおかげでただ放つだけでいずれは相手が力尽きるという恐ろしさ。

 負けない守りの上に時間さえあれば勝てる攻撃。この二つがある以上、ルードの余裕は当然とも言えた。

 しかし、ロレットは攻撃の方はともかく守りの方は突破できないとは思っていない。それはいくつかの攻撃を防いだ壁の反応を見て確信していた。


「その油断がお前の身を滅ぼす」


 それだけ告げてロレットは再度疾走を開始する。それに反応して動き出すゴーレム達。

 再び降り注ぐ攻撃の雨。けれども、それらがロレットに届くよりも早くロレットはルードを守る壁の元に辿り着いた。

 衝撃。速度を乗せたロレットの槍が壁とかちあったのだ。衝撃の反動で槍を伝って腕にやってくる。

 しかし、壁が揺らいだ様子はない。揺れる事もなければ薄まる事もない力場の壁。けれども、ロレッロは怯むことも悔しがる様子も見せることもなく跳躍。直後、彼を狙って放たれたゴーレム達の攻撃群が彼がいた場所に殺到した。

 対象がいなくなった事で攻撃は仲間の張った力場の壁に着弾する。いくつも音と閃光が花のように咲き乱れるが当然ながら数があるだけの攻撃で壁が傷つく事はなかった。

 ロレットはその間に壁を足場に回り込む。それを追い掛ける射撃の数々。時折、それに混じって近接攻撃を仕掛けるゴーレムもいるが、それらは瞬く間に彼の槍の餌食と化していく。

 そうして先程とは正反対側に回り込んだロレット。回り込んだ彼は周囲へ斬撃の斬波の連打を見舞う。

 正面、背面上、右側面、左側面。次々と断たれていくゴーレム達。が、それも次の瞬間にはすぐに補充されてしまう。

 けれども、それを上回ろうとするかのようにロレットの連打がさらに速度を上げた。

出現途中のゴーレムを斬り裂いていった斬波の嵐はやがて、周囲以外の離れた場所へも飛んでいく。

 徐々に数を減らしていくゴーレム達。だが、それは一時の事でしかないのはルードはもちろんロレットにだってわかっていた。

 攻撃を止めればたった少しの時間でゴーレム達は部屋中一杯にまた出現する。そして、これだけの連打を速度を上げてやり続けたとなれば、ロレットとて体が限界を迎える。限界がくれば待っているのはゴーレム達の反撃による死だ。言ってしまえばロレットがやっているのは一時の安寧を手に入れるためだけに一生を犠牲にしているという事であった。

 しかし、ロレットは連打を続ける。ある程度数が減ったのを確認すると彼は攻撃を狙いやすい場所へと移動していく。

 そうして数を減らしていくゴーレム達。やがて、ゴーレム達はルードの守っている八体を除いて一時の間、部屋からその数を消したのであった。


「お~。やるね~……でも、全部消してそれからどうするつもりなの?」


 拍手を送りながらそんな疑問を口にするルード。彼の言う通りであった。

 全てを消したといってもそれはほんの短い間だ。現に今、この瞬間新たなゴーレム達が次々と姿を現そうとしている。

 新たなゴーレムが完全に出現するまでもう僅かな時間しかない。けれども、ロレットにとってはその時間こそが必要なのであった。

 既に彼はゴーレム達を消し去った瞬間から新たな構えを撮っている。その構えは槍を片手で握りその腕を大きく引くという姿勢だ。

 相手から見れば槍を握っている手を真後ろに回した姿勢。水平気味となった槍が見えることだろう。

 反対の手は前に突き出し銃のサイトのようにルードの姿を捉えている。

 そうして力を溜めるロレット。やがて、最初のゴーレムが出現を終えロレットを攻撃しようという瞬間――



 彼は大地を強く蹴りルードを守る壁へと向かって飛翔していった。



 その速度はまさに雷としか言い様がない。

 一瞬の時間をもってロレットは壁の前へと到達。それと同時に振り抜かれた槍が壁へと着弾する。

 爆発のような轟音が響いた。その直後に大気が爆ぜ床が吹き飛んでいく。

 生じた衝撃。それを受けて窓ガラスが風船のように膨らみ、そして破裂した。

 内側からの力を受け外へと飛び散る窓の破片。それは夜の空に浮かぶ星々のように煌めき雨となって地面へと落ちていく。

 それと共に謁見の間から飛び出た一筋の光。それは真っ直ぐ飛んでいき、そしてロアンやゲイウス達が交戦する通路へと衝突したのであった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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