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無限の世界  作者: 蒼風
八章「王都襲撃」
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八章三話「救援」(6)

 リアが二撃目に放ったのは雷の鉄槌だった。

 鉄槌は今まさに晴れようとしていた土煙をかき分け、そうして大地を穿つ。

 当然、それに飲まれたグランボ達は感電死した。けれども、全員がやられた訳ではない。何体かは範囲から逃れカルリィの指示によってリアのいる建物を目指して進み始めている。

 やがて、彼らはその建物に辿り着くと壁にしがみつき建物を登り始めた。

 それを確認したリアは跳躍。風の魔術の力も借りて隣の建物へと飛び移ると今度は自分のいた建物に向けて風の砲撃を放った。

 風の砲撃は建物を貫通。さらにリアが薙ぎ払うように魔術式を組んだことで砲撃は右から左へとその力を振るい、結果、建物は己を支える建物を失い崩壊。登っていたグランボ達を巻き込んで崩れ落ちていった。

 それを確かめることなくリアはカルリィの位置を確認する。けれども、どこを探しても彼女の姿は見当たらない。

 そこでリアは急ぎ周囲を探る魔術を行使することにした。

 辺りを一帯を探ること少し、建物の死角を利用して下から近づきてくるカルリィの姿をリアは見つける。

 直線上には建物があるので彼女は風の矢群を曲線軌道で撃つ。

 カルリィの頭上から降り注ぐ不可視の矢。それをカルリィは身捌(みさば)きとターン、そして鞭を使って対応した。

 体を僅かに傾け迫る矢をギリギリの所で回避し続ける。前方への跳躍と一緒に身を回す事で当たるはずだった矢を背中側へと抜けさせる。どうしても避けられなさそうなものは鞭で破壊するか逸らす。

 それらを駆使することで速度を緩めることなく矢の雨を突破したカルリィ。そして彼女はリアのいる建物に辿り着くと壁を足場にして疾走。屋上に辿り着くと同時に鞭を振るいリアに襲い掛かった。

 一方のリアもカルリィに近づかれる事態は想定済みである。そのため、カルリィが屋上へと飛び出す少し前には魔術式の構築を始めており、彼女が飛び出し鞭を振るった時には既にその魔術は発動を始めていた。

 いくつもの火球が生まれる。生まれ落ちた火球はカルリィが飛び出た一帯へと殺到。地面に着弾すると爆発を起こして辺りを風吹き荒れる地帯へと変えていく。

 生まれた爆風が鞭を煽りその飛翔を消していく。

 リアに届かないと悟ったカルリィは即座に鞭を回収。その間にリアは建物から飛び降りていた。

 風の魔術で落下速度を軽減。ゆっくりと路地へと降り立つとすぐに新たな魔術式を構築し頭上へと目掛けて再び火球を撃ち放つ。

 火球は屋上の高さへと到達すると爆発。爆炎をまき散らして追撃を妨げる障害となった。

 その様子をリアは下から見上げている。と、そんな彼女の背後に何かが迫ってきた。

 風切音に気が付いて反射的に振り返るリア。それと同時にそれがリアの杖に巻きつく。

 それの正体は鞭だった。繋がっている先を追っていくとそこにはカルリィの姿。どうやら待ちぶせ攻撃を警戒して回り込みルートで追ってきたらしい。

 鞭はしっかりと絡まっていてリアの力では力尽くで引き剥がすのは難しい。

 即座の判断でリアが行ったのは魔術式の構築だった。けれども、それを見てカルリィは笑みをこぼす。

 その時だ。リアの背後から突如としてグランボが一体姿を現した。崩落から逃れた後、カルリィとは別の場所で身を潜め、それからここまで回りこんできたのだ。

 姿を現したグランボは跳躍しリアに飛び掛かろうとする。

 対するリアに魔術式の構築の最中だ。それに意識を回していたせいで反応が遅れ、新たな動きをする事もできない。現在の構築をリセットして新たに魔術式の構築を始めたところで間に合わないだろう。

 迫るグランボの爪。それはリアの顔へと迫っていき――



 突如としてリアの足元から出現した氷の鎖によって止められてしまった。



「な!?」


 驚愕したのはカルリィ。気が付けば氷の鎖は鞭にも絡みついている。


 実のところ、リアはグランボが一体生きていたことは周囲を探る魔術を行使した時に気が付いていた。もっと言えば崩落で何体か生き残るだろうことは想定済みだったのだ。

 一旦、死んだと思い込んでいるものを敢えてすぐに見せるわけがない。リアなら間違いなく伏兵として活用する。そして襲わせるなら必中のタイミングだ。

 故に鞭が杖に巻き付いた時、リアはここでグランボを襲わせてくると思った。出てくるとしたら確実な死角となるカルリィとは反対の方向だろう。

 だからこそ、氷の鎖を前後へと飛ばした。

 その狙いは的中し現在へと至る。


 巻きつかれた箇所から凍りついていく鞭。最早、振りほどいても鞭は使い物にならないだろう。さらに言えば鞭に絡まなかった氷の鎖がこの間にもカルリィへと迫っている。

 時間がない。短い思案の末、カルリィは鞭を放棄することを決断した。持ち手から手を離すとバックステップで跳躍。一気に距離を取る。

 小さくなっていくリアの姿。その中でカルリィはリアが新たな魔術式の構築に入っている事に気が付いた。

 リアが魔術式の構築を終えたのはその時だ。彼女が選択した魔術は風の砲撃。強大な嵐のような風が彼女の眼前へと迫っていく。

 場所が路地なので左右に避けられるスペースはない。だが、壁は人によっては足場にすることができる。カルリィはそれができる人間だったようだ。壁に足をつけて上へとジャンプ。それが結果的に彼女の負傷度を左右した。

 風の砲撃を掠めるように受けて飛ばされるカルリィ。ただ、かすめただけで済んだ分ダメージが低く勝ったのかすぐに体勢の立て直しを図る。

 華麗に着地。そうしてから彼女はリアの方を一瞥する。

 現状、手駒は全滅。武器も失い体は軽度とはいえ負傷した状態だ。さすがに武器を持ちまだ戦える相手とぶつかり合うには心もとない。それは他の兵と戦う場合でも同様だ。


「仕方ないわね」


 悔しさと残念さの混じった声で呟くカルリィ。それで諦めがついた。

 踵を返すリアから逃げ出す。仕切り直すのではない。この戦場そのものから離れるつもりなのだ。

 最後は逃げることになってしまったが、それまでに多くの兵達を葬っている。仲間達からは誂われたり嫌味を言われる事になるかもしれないがとりあえず仕事は果たしたと言えるだろう。後はレガルト達に任せてしまえばいい。

 一方、リアはというと状況が不利になった途端、退却を始めた敵に最初は驚いていたが、それも時間の経過とともに薄れていった。代わりに胸に広がっていったのは安堵感。どうにか敵を撃退できたのだ。

 それを実感しようやく構えを解くリア。その途端、彼女は地面にへたり込んでしまった。

 安堵の息を吐く。緊張と力が体の中から抜けていき、それと同時に気だるさが全身に広がっていく。

 目を開けているのも億劫な気持ちになる中、それでもリアはどうにかその魅惑的な誘惑を振り払った。

 戦いはこれで終わりではないからだ。こうしている間にも誰かが、恐らく刀弥もまた戦っているだろう。

 いかないと。そう思い立ち上がるリア。体が熱を帯び思考も若干靄が掛かったかのように定まらないが、それでも助けにいかないといけないという思いが体を動かしていく。

 そうして歩き始めた彼女が見つめるのは刀弥の向かった先だ。

 響き渡る破壊音と倒壊音。どうやら刀弥の方もかなり激しい戦いを繰り広げているらしい。

 一瞬浮かんだ不安。その不安が彼女を急き立てるが、体がそれに付いて行くことができない。どうにか止まらず歩き続けるのが精一杯だった。

 再び響く倒壊音。それと共に遠くの方にあった建物が崩れていく。急かす気持ちをどうにか落ちつけながらリアは確実に進んでいく。

 こうして彼女は己が戦った戦場を後にしたのであった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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