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無限の世界  作者: 蒼風
八章「王都襲撃」
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八章三話「救援」(2)

 一方、刀弥の方はと言うと音の震源地に辿り着いていた。

 目の前にあるのは巨大なクレーター。底自体は小さいのだが威力が凄まじかったのかかなり深い。加えてクレーター周辺の大地にもヒビが入っていた。

 問題はクレータの中心にあるものである。

 それは平らだった。潰れ引き伸ばされたそれは既に動き出す気配もない。

 それは赤い液体を漏らしていた。液体はそれの各所から漏れだしておりそれの下に小さな水たまりを作り出している。

 そして……それの上には円柱が浮いていた。フワフワと時計回りに己の身を回転させているそれはただその上で漂う。下部には付着した赤い血液……

 反射的に刀弥は身構えていた。周囲の気配を探ってみると案の定、背後から一人人間が近づいてくる気配を感知した。


「あんたは敵か?」


 半身だけ振り返って刀弥は尋ねる。


「正解~。死神(デスサイズ)第三部隊隊長、レガルト・ビザンだ。そう言うあんたは報告にあった奴だな」


 その問いにあっさりと答える気配の主レガルト。それから彼は刀弥を観察し始める。


「ふむふむ。いい構えだ。隙がないしすぐに動ける……そこそこ楽しめそうだな」


 上から下、下から上へと幾度も繰り返し流れるレガルトの視線。やがて、十分堪能したのかレガルトの観察の構えを解き、続いて戦闘の構えに入った。

 その動きで刀弥は背後で浮遊を続けている円柱の物体へと視線を向ける。けれども、円柱は動いていない。

 彼を襲ったのはもう一つの円柱だった。建物の中に隠しており、レガルトは最初からこれで刀弥の不意を突こうとしていたのだ。

 近くの建物が崩れた音に反応して刀弥は垂直方向へと飛ぶ。地を強く踏抜きその反動を持っての急速回避。結果、崩れた建物から現れた円柱の攻撃は刀弥には届かず空振(からぶ)るという形で終わった。

 回避した刀弥は着地と同時に全速力でダッシュ。レガルトとの距離を一気に縮めようとする。

 対してレガルトは迎撃を選択。円柱のゴーレム二体に指示を送り、彼の接近を妨害しようとした。

 四方八方から絶え間なく襲い掛かってくる二体の凶器。それを刀弥は伏せやステップ、跳躍等を交えることで回避しながらレガルトへと向かって突き進んでいく。

 レガルトまでの距離はおおよそ八歩分。と、そこへ背後から円柱のゴーレムが飛んできた。

 刀弥は右へと飛んで回避。だが、今度はその方向からもう一体が襲い掛かってくる。

 現在、刀弥は回避の跳躍中で避けられる姿勢になっていない。避けるためには着地し跳躍のための姿勢をとらなければならないが、円柱のゴーレムの速度と位置を考えると時間はかなりギリギリである。

 間に合うか。内心焦りながら刀弥は全感覚を足へと向ける。

 右からは徐々に大きくなっていく円柱のゴーレム。回避できなければこの突撃をまともに受ける事となってしまう。

 早く早くと念じながら円柱のゴーレムを睨みつける刀弥。と、ようやく足裏に地面の感触を感じ取った。

 即座に刀弥は膝を曲げ跳躍の姿勢に入る。足を脱力させて即座に姿勢を低くさせると後はタイミングを合わせて足に力を入れ始める。

 脱力により力を入れた際の硬直を得ることなく体は跳躍姿勢に入り、その後の力の溜めによって跳躍に必要な力は溜った。後は飛ぶだけだ。

 飛ぶ方向は後方。仰け反るように頭を後ろに引くと刀弥は溜めた足の力を解き放った。

 彼の体は大地の反動を受けて後ろへと飛んでいく。

 眼前を過ぎていく二つの円柱はそれぞれ互いにぶつかる事なく軌道を交差。幾ばくか進んだ後に旋回を開始した。

 戻ってきて再び襲い掛かってくる円柱に対し刀弥右足で左へと跳躍――と見せかけて直後、左足で右へと切り返したフェイント移動で正面からの円柱を回避。続く左からの突撃はスライディングで潜る事で対処した。

 スライディングから復帰した刀弥はすぐさま疾走。一気に残りの距離を縮めるとレガルトに向けて刀を振り抜いた。

 迫る刃にレガルトは顔色一つ変えない。その事に刀弥は不審を感じたが既に振った刀を止めることはできない。そのまま刀の刃はレガルトの体に迫りその体を斬り裂く――はずだった。

 直後、刀弥は奇妙な感覚を得た。彼が得たのは頭上からの引力と衣服が上へとめくれ上がろうとする力。

 何故、そんな感覚が……

 頭に浮かんだのはそんな疑問。だが、それは一瞬のうちに掻き消えた。今、彼の目の前では大地と空が反転していたからだ。視界の中央には上下逆になっているレガルトの姿。

 宙にいる。得た答えはそれだけで十分だった。既に脳内で警告が鳴り響いている。告げてくる生存本能に従い刀弥は左手を振るう。

 足場の斬波。この場合、横殴りなので壁といった方がいいのかもしれない。何にしてもそれを発生させ叩く事で刀弥は横へと僅かに移動した。

 直後、レガルトの背の向こうから円柱が接近してくる。円柱は刀弥の横を通過。どうにか直撃だけは避けれたが、通過した際の衝撃波で彼の身は吹き飛ばされ地面を転がる事となる。


「っ!?」


 声にならないうめき声を漏らしながらもどうにか起き上がろうとする刀弥。

 円柱のゴーレムは二体。一体目が外れた以上、二体目が追撃を掛けてくるのは目に見えているからだ。起き上がった刀弥は急いで辺りを見回す。

 いた。二体目も真っ直ぐ加速をつけてこちらへと迫ってきている。速度から見てかなり離れた距離から加速していたのだろう。

 急いで攻撃線上から逃れようとする刀弥。しかし、そんな刀弥に合わせて円柱のゴーレムもその方向を変える。

 異様な追尾性能。あれだけの速度を出していながらス~と向きと移動方向を変えていくのは違和感を感じざるを得ない。とはいえ、慣性を完全に無視できるとは思えない。方向転換にも限界があるはずだ。そう予想し刀弥は必至に走り続ける。

 その予想は正しかった。円柱のゴーレムは刀弥を追尾しきれずその横を通過。刀弥はとりあえず一時の生存を確保したのだった。

 振り切った刀弥は速度を維持したままゆっくりと進行方向をレガルトへと変更。そのまま彼の元へと接近を試みたのであった。

 先程の自身の状態。あれは投げ飛ばされたのだと刀弥は確信している。恐らく刀弥の斬撃の振り抜きを利用したのだろう。

 投げられた事にも気付かないほどの体術の技術。どうやらかなりの使い手のようだ。

 幸いな点を上げるとすればあの投げ飛ばし自体には威力がないという点だ。地面に落とさずただ浮かせるだけ。故に投げ飛ばされるだけならダメージはない。

 ただ、厄介なのは円柱ゴーレムの存在だ。あれが浮いた相手に対して突撃を敢行してくる。恐らく、それを狙って浮かせているのだろう。

 人は空を飛べない。一部の技で空戦はできるがそれ程器用には動き回れない。特に浮かされた直後は体勢が整っておらず無防備にも近い状態だ。

 先程は本能的な危機感からかなり早い段階で行動を開始していたおかげでどうにか避けられたが、あれがなければ刀弥は一撃目で潰されていただろう。なかなかに考えられた戦法だ。


「ほう、正直今ので仕留めたと思ったんだがな……」


 刀弥が今のを捌ききった事に驚いているらしい。感心の色が含まれた声色でレガルトがそんな事を告げてきた。

 そんな彼の言葉を無視して構えを取る刀弥。

 と、その時、遠方の方で建物が倒壊する音が響いてきた。続いて響くのは獣達の鳴き声。


「お、カルリィの方もおっ始めたみたいだな」


 漏れでたレガルトの呟きと聞き覚えのある獣の鳴き声。sれで刀弥は先程の獣がレグイレムの意図のよるものだと理解した。それと同時に心の中に不安が込み上げてくる。

 鳴き声がしたのはここに来るまで通ってきた通りの方。つまり、そのカルリィと戦っているのはリアの可能性が高い。

 一旦、レガルトを振りきってリアと合流するか。相手への警戒を維持したまま思案を始める刀弥。

 相手の実力を考えると速攻で終わらせるのは難しい。下手すれば逆にそこを突かれてやられる可能性だって有り得る。

 だが、相手の口ぶりから察するとそのカルリィもまたレガルトと同格の実力を備えていると考えるべき。リアの方も苦戦するに違いないだろう。


「仲間が心配か? なら、そんな心配をさせないようにしてやるよ」


 そんな彼の内心を見透かし微笑するレガルト。

 そうして彼は円柱のゴーレムを飛ばし刀弥に攻撃を仕掛けてきたのであった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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