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無限の世界  作者: 蒼風
八章「王都襲撃」
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八章二話「開幕」(7)

 現在、リーゼンオルグ城は激しい戦闘の真っ最中であった。

 城内に響き渡る破壊音と接触音。そして……絶叫。それらは全て戦いによって起こっているものだ。

 レグイレムはデータベース室を目指しながら兵や近衛達と戦闘をしており基本的には現れた敵に第五第六部隊が対応するという形をとっている。

 今回の作戦はレグイレムにとっては時間勝負である。この戦力で城や王都の全戦力を相手にできるわけがない以上――なお、ルードのゴーレムはルード自身が気分屋なので計る際に数にカウントしていない――、王都で時間を稼いでいる間に事を済ますのがベストだ。そのためにも足を止める訳にはいかない。

 現れる兵達はすぐに倒し壁のように立ち塞がる場合には第五第六が先行して突入しこじ開ける。

 必要であれば部隊員の何人かを置いていき足止めをしてもらう。

 そうやってリーゼンオルグ城内を侵攻していくレグイレム。

 一方……ルードはというと彼は謁見の間に来ていた。

 広大な空間。天井は高く、豪華絢爛なシャンデリアがとても小さなものに見えてしまっている。左右の壁には大きな窓がいくつも並んでおり、床には赤い絨毯がまるで道のように入口から奥へと続いていた。

 絨毯の先にあるのは凝った装飾の施された椅子だ。椅子はこの豪華で壮大な空間の中にあっても色あせる事なく己の存在感を放っており、周りに視線が言っても最後にはそこへと視線が戻ってしまう。

 現在椅子、王座にはこの城の主の姿はない。恐らく謁見の間の奥の王族用住居に護衛をつけて避難しているのだろう。

 そしてその代わりという事なのだろう。王座の真横、護衛の兵が立つべきところに三〇台そこらの男が槍をたてて待ち構えていた。

 長い銀髪の髪と真紅の瞳。二つの要素は彫像のような美しさと獣の獰猛さを兼ね備えており見る者を惹きつけつつも同時に畏怖も抱かせる。動きやすさを意識してか着ているのは大柄な鎧ではなく左肩から右腰に辺りまでを覆う軽鎧だ。

 手に持つのは銀の槍。デザインの構造はシンプルであるが、それでも柄や柄といった部分には丹念な装飾が施されていて、それ故に技術のある職人の手によって作られたことが伺えた。


「一応、尋ねる。何用だ」


 静かな、そして胸に刺さるかのように鋭い男の問い。普通の者なら怯んでもおかしくなかっただろう。しかし、ルードは怯まなかった。


「ちょっと、遊びに来たんだよ、君とね」


 しれっとまるで昔なじみの知り合いに告げるような声色で問いに答えるルード。


「……ほう」


 その返答に男がそう呟く。その直後――



 謁見の間は圧倒的な殺気に飲み込まれた。

 


 チリチリと肌を焼くような感覚。大気が振るえる感触が肌を通して伝わってきて外から聞こえていた戦いの音は一瞬の間、あるはずのない静寂の音へと変貌する。

 その変化を間近で感じているのは他でもないルード自身であるがその表情は相変わらず楽しげなままだ。


「いいねいいね~。この感じ久々だよ~」

「これで怯まないとはな。ルード・ネリマオット」



 そんなルードの態度に男は呆れ混じりに言葉を投げ掛ける。


「あははは。だってこれから楽しい時間が始まるんだよ~。ワクワクが(まさ)って怯むことさえ忘れてしまうよ。『極の槍兵』ロレット・サーヴェント」

「……噂通りの人物の道楽者という事か」


 やれやれと言った表情を浮かべ溜息を付くロレット・サーヴェント。そうしてから彼はたてていた槍を持ち上げ身構えを始めた。


「ならば、これ以上の語らいは不要だ。この国の護り手として全力で貴様らを排除する」

「それじゃあ、楽しませてもらおうかな」


 そう言った直後、彼の周囲に出現するゴーレムの群々。その数は本来、広大な広さのある謁見の間が埋もれてしまうのではないかと思ってしまうくらいだ。


「とりあえず最初はこのくらいでいってあげるよ」

「その油断。後悔するがいい」


 そうして強者による常識外れの戦いが幕を開けた。

 最初に仕掛けたのは意外にもロレットだった。彼は一気にルードの傍まで近づくと構えていた槍をルードの心臓目掛けて突き込む。

 接近、突きまでの時間は一瞬といっても過言ではない。もちろん、ゴーレム達はこのロレットの動きに反応できなかった。ロレットの放たれた槍は狙い違わずルードの胸へと伸びていき――そうしてその体を貫いた。

 だが、ロレットは訝しむ。彼が貫いのがルードではなかったからだ。槍が貫いているのは貧相ともいえる体の形状をしたゴーレム。要するに別人だ。

 しかし、ロレットは確かに確認している。槍を突き込む直前、確かに目の前にルードの姿があったのを……

 けれども、疑問を解決している暇はない。周囲全方位にいるゴーレム達が一斉にロレットの方へと向き直ったからだ。疑問を後回しにしてロレットは彼らへの対応を始める。

 接近戦を仕掛けてくるゴーレム達には槍を振るって薙ぎ倒し、遠距離から射撃や砲撃を放ってくるゴーレム達に対しては突きの斬波で相殺、撃墜を繰り返すロレット。無論、回避や防御、フェイントも織り交ぜてだ。

 そうしていく中でロレットは再びルードの姿を見つけた。僅かな隙を見つけて槍を引いて構えを作ると直後にその構えを解き放つ。

 放れたれたのは砲と見ることもできる集団を穿つ突きの斬波だった。その力によってゴーレム達は次々と潰され塗りつぶされた集団の色の中に一瞬空白が生み出される。

 そんな空白の道へロレットは自らを飛び込ませた。再び空白を塗りつぶそうと迫るゴーレム達を撃墜しながら彼は己の成果を確かめる。

 斬波の先にいたルードの姿はいなくなっていた。普通に考えれば彼の斬波にルードは飲み込まれたのだと考える事ができるだろう。

 だが、ロレットは斬波がルードを飲み込んだ直後、その姿がゴーレムへと変わっていくのをその目でしっかりと見ていた。つまり、あのルードは偽物だったのだ。


「……小細工だな」


 誰に言うでもなくそう呟くロレット。そうしてから彼は周囲のゴーレム達を槍の一閃で吹き飛ばすとその一瞬の隙に己の意識を内へと向ける。

 意識が行き着くのは知覚の情報。視覚、聴覚、触覚、嗅覚など己が得られるあらゆる情報の海へと潜りその情報を繊細に探っていく。

 そこから得られるのは全方位の情報だ。視覚からだけではなく聴覚が得る反響音、触覚が得る空気の流れ、嗅覚が得る素材特有の匂い、肌が感じる熱の気配。それら全ての情報が室内にいるゴーレム達の位置を知らせてくれる。無論、ルードの位置も。


「――そこだ!!」


 その言葉と同時に槍を突き斬波を飛ばすロレット。斬波の先にはルードの姿はない。けれども、ロレットはその場所にルードがいる事を確信していた。

 そして、その証拠というように一体のゴーレムが斬波の進路上に割り込み特攻。己が身を挺して斬波を消滅させた。


「あーあ、バレちゃったか」


 斬波が消滅した直後、そんなルードの声が響いたかと思うと何もない空間に色がつき始める。色は次第に形を帯び始めやがてその形はルードの姿となった。


「種が割れた以上、姿を隠しても無駄だ」


 もちろん、ロレットもそれを黙って見ていたわけではない。背後へと回り込むように移動すると体を回転させてそのまま槍の横薙ぎでルードを両断しようとする。


「みたいだね」


 対してルードはゴーレムの数任せの突撃でそれを迎撃。五体が断ち切られ六体目でようやく槍が止まった。

 それを確認して急ぎバックステップで後退するロレット。その直後に彼の居た場所にゴーレム達の射撃が殺到する。


「休んでいる暇はないよ」


 射撃はその後もロレットを追い掛け移動。ロレットが逃げている間にルードは失った分のゴーレムは出現させていく。

 やがて、謁見の間の隅に追い詰められるロレット。


「なんだ。もう終わりか」


 そんな彼を見てルードはつまらなさそうにそんな事を口にするがロレットは返事をしない。

 これでさらに覚めたのかルードはロレットに背を向けると合図。直後、ゴーレム達が一斉にロレットに向けて攻撃を開始した。

 数任せの一斉射撃と一斉突撃。さすがにこの物量を止められる者は存在しないだろう。


「バイバイ」


 最後になる相手を見ないまま名残惜しそうに相手へ別れの言葉を告げるルード。けれども――


「理解できんな。何故、別れの言葉を口にするのだ?」


 次の瞬間、攻撃を始めていたゴーレム達全機が一斉に上下に断ち切られた。

 よく見るとゴーレム達だけでなく光弾や実弾、砲撃までもが割れ迎撃されている。

 そんな光景を振り返り目を丸くして見つめるルード。そうしてしばらく眺めた後、彼は口の端を歪め笑みを作った。


「へー。やるじゃん」

「貴様は気を抜き過ぎだがな」


 言葉の直後に一閃。いつの間にかまた背後をとっていたロレットが再び攻撃を仕掛ける。


「おおー。危ない危ない」


 それをゴーレムが伸ばしたワイヤーのようなものに引かれる事で回避したルード。そうしてから彼は再びゴーレム達に先程の一斉攻撃を仕掛けさせるが、結果はやはり先ほどと同じ形となった。


「あの一瞬で周囲に斬りの斬波を飛ばせるのか。一体、何回転ぐらいしてるんだか……」

「我々をなめないでもらおうか」


 ルードの軽口に睨みつけるような視線を飛ばして応じるロレット。そうしてから彼は窓の外を指差した。


「ん?」


 そんな動作に釣られて窓の外を見るルード。すると、そこにはこちらへと向けて降下してくる一隻の飛空船の姿があった。




           二話終了

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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