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無限の世界  作者: 蒼風
八章「王都襲撃」
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八章二話「開幕」(1)

では、これより二話の始まりです。

どうぞお楽しみください。

 その日、王都レイムナラットはいつもとなんら変わることのない時間を過ごしていた。

 何か特別なイベントがある訳でもなければ凶悪な事件などが起こることもない。強いて言えば昨日と比べると外から来た観光客と住民とのトラブルが少し多いというあった程度でそれを除けばいつも通り平穏な時間が夕方まで流れていた。

 そうして空が赤く染まる頃……それはレイムナラットから少し離れたその場所で始まる。



 切っ掛けは軍の索敵装置が識別不能な飛行体を検知したことだった。

 すぐさま付近を巡回していた飛空船を確認に向かわせた所、その正体は飛空船だった。

 軍のものでも一般向けのものでもない見慣れない船体デザイン。既にヴィアン達からもたらされた情報によりレグイレムも計画については軍も担当していた人間も知っている。故にすぐさま彼等はこれがレグイレムの船であると確信し迎撃部隊を向かわせた。

 迎撃のために発進した軍の飛空船は三隻。識別不能の飛空船は軍の飛空船が近づいてくるとすぐに逃走を開始。軍の飛空船はそれを追いかけ朱の空で四隻の競争が始まった。

 けれども、実のところその船は囮。ドラインを積んだ飛空船は船体に迷彩を掛け航行可能な限界高度を低速で飛行していた。低速なのは高速では迷彩の表示処理が追いつかないからだ。完全に周囲と同化するためには速度を抑えなければならない。

 この飛空船はレグイレムが開発した隠密行動用の輸送用飛空船だった。迷彩機能に対検知兵装と敵地等に集団や大型の兵器やゴーレムを送り込むために必要となる機能を積んでおり、襲撃や潜入などいった場合レグイレムはこの飛空船を用いている。

 ただ、完全に存在の痕跡を消せるわけではない。僅かではあるが反応がでてしまうので注意深く監視されていたら気付かれる可能性があるのだ。

 そのため、今回は囮を用いて相手の注意をそれに向けさせる事にした。現在、囮の飛空船は追ってくる飛空船から逃れつつ回りこんで王都へと向かう――と見せかけて軍の飛空船を王都から引き離す軌道をとっている。軍の飛空船がその事に気付くのは作戦開始時の予定。既に王都からだいぶ離された彼等はすぐに王都へと戻ることは叶わない。

 そうして軍にも気付かれる事なく王都上空へとやってきたレグイレムの飛空船は迷彩や対検知兵装を解除。余った出力を主機関に回すと船首を下へと向け王都へと向けて急降下を開始した。

 突然、検知に掛かった未知の飛空船に驚いた軍側だったが、それでもすぐに平静を取り戻す。そうして彼ら迎撃を開始。王都を守る砲の砲口が全て上空へと向くと次の瞬間それらは一斉に火を吹いた。

 飛んでくる王都側の迎撃をレグイレムの飛空船は潜り抜けていく。その機動は早く制御も精確だ。今も船体一隻分の隙間しかなかった安全地帯に己を滑りこませている。

 やがて、地表が目前まで迫ってきた。それに合わせてレグイレムの飛空船は船首を持ち上げ、それに合わせて下部のハッチを開けていく。

 そうして船首が上方向へと向き僅かな上昇を開始した時、その開いたハッチから巨大なものが滑り落ちた。

 滑り落ちたそれは重力に引かれ王都へと着地。轟音と砂煙を巻き起こす。

 幸い、落ちた場所は王都の広場だった。飛空船がこちらへと向かって急降下するのを見てそこにいた人達は我先にと逃げ出した後である。

 落下物に驚く人々。彼等は恐る恐るといった様子で砂煙へと近づいていく。

 そんな彼等の所にこの地区を担当していた兵達が駆けつけてきた。彼等は砂煙へと近づこうとしている人々を見て慌てて引き離そうとする。

 無理やり引き離され人々は立腹するが、その直後突然砂煙の中から影が姿を現し動き出した事でそんな感情は消し飛んだ。全員、全速力でその場から離脱する。

 後に残ったのは兵達。彼等は魔具の銃や剣、防御武装を構えながら落下物へと向き直っていた。

 そうして砂煙が晴れていく。それは同時に影がその姿を現す事を意味していた。

 砂煙の中から最初に見えたのは巨大な口。それに続いて長い胴体が姿を見せる。全長は長くぱっと見た感じには生物だ。けれども、ところどころにまるで鎧のように取り付けられた人工物がそれを否定する。

 生物のようでありながら生物でないもの。すぐさま兵達はこれが上から通達された生物兵器だと気が付いた。急いで彼等はこの事を通信用の魔具で報告する。

 と、ドラインが再び体をのそりと動かし始めた。その動きに反応して兵達は身構える。

 周辺を伺いながらゆっくりと進み始めるドライン。兵達はドラインから距離を取りながら取り囲む配置に着いていく。

 広場から通りへと入っていくドラインとそれを追い掛ける兵達。時間が経過する間に次々と新たな兵達がやってくる。

 彼等はまだ手を出さない。相手がまだ暴れてないからだ。市民達はまだ近隣で避難の最中。もし今暴れられたら彼等に被害がいく可能性は高い。加えて戦うにしてもまだ戦力が整っていない。

 ドラインの様子を伺いながら配置や作戦の段取りを決めていく兵達。と、その時だ。

 ドラインが体から何かを噴出し始めているのに兵の一人が気が付いた。

 噴出しているのは緑色の靄。風が吹いていないので靄はドラインを中心に広がり兵達の元まで辿り着こうとしている。

 この事を本部へと報告する兵。すると本部からは靄から離れるよう指示が返ってきた。その指示に従い兵達は靄から距離を取る。

 しかし、そうするとドラインからも離れる事となってしまう。距離が開けばそれだけ監視がしにくくなる。けれども、本部からの話では靄はウイルスの可能性が高いとのことだ。どういう効果かわからない以上、迂闊に触れるのは危険だ。

 離れなければいけないが離れたくない。そんなジレンマに苛立ちながらも徐々にドラインから離れていく兵達。と、そこに風が吹いた。

 風は靄を煽り靄はそれを受けて大きく移動する。その先にあるのは一人の兵の姿。

 靄に飲み込まれた兵。その途端、兵の様子がおかしくなった。

 突然、苦しみ声にならない叫び声を上げたかと思うと全身から血を吹き出したのだ。

 目からは涙のように流れ落ち口からは湧き水のように溢れだす。血は腕や首、背中の各所からも傷口を作って滴り落ちており結果、その足元に赤い池を作っていた。

 そんな兵の末路を見て他の兵達はさらに靄から距離を取る。最早、ドラインの監視など二の次である。全員、命惜しさに靄から十分な距離を作っていた。

 そうしている間も靄の範囲は広がっていく。風で偏りができてしまう時もあったが基本的にはドラインを中心に広がっている感じである。このままでは王都全都に広がるのも時間の問題だ。

 そこへ軍の飛空船がやってきた。

 飛空船はドラインへと向けて砲撃を開始。さらに地上からは移動砲車がドラインへ攻撃を仕掛ける。

 空と地上、二方向から攻撃を受けて怯むドライン。それを見て兵達も銃を構えドラインへと向けて射撃を撃とうとした――その時だった

 突如、横の裏路地から第三者の射撃が飛んできた。射撃音に気づき兵達は散開、物陰に隠れる。

 それと同時に飛空船、移動砲車にも攻撃の手がやってくる。


「敵襲!!」


 この状況で攻撃を妨害する者がいるとするならそれはドラインを投下した者達に他ならない。

 一人の兵の叫びと同時に敵達が姿を現した。

 兵にゴーレムに飛空船。それらが軍の兵や移動砲車、飛空船目掛けて各々(おのおの)の武器を放つ。

 傷つき倒れたり、あるいは装甲を歪ませる軍の部隊。最早、ドラインを狙っている状況ではない。仕方なしに飛空船や移動砲車の一部が新手に向けて砲口を向ける。

 そうして始まったのは混沌の戦闘だ。

 流れ弾や墜落した飛空船が家や家屋を壊し各地で起こる戦闘に人々が逃げ惑う。既に敵はあちこちで行動を開始している。もう安全地帯はどこにもない。

 そんな必死になって人々がうごめく傍ら、ドラインの靄は徐々にその範囲を広げている。

 靄から逃げ遅れた者は死と赤に飲み込まれ、それを見た人々はさらにパニック。もうどこに逃げればいいのかわからない。中にはやけになった一部が戦場を突っ切り兵の足を引っ張るという状況すら現れ始めていた。

 王都に予備兵力はもうない。既に全ての兵力が投入済みなのだ。近隣の基地に増援要請は送っているが到着までにまだ時間が掛かる。

 あちらこちらで火の手が上がり始めていた。炎は徐々に燃え広がり巨大な篝火となってドラインを照らす。

 篝火によって姿が鮮明になり、炎の揺らぎによって光と影が揺れ映るドライン。その醜怪(しゅうかい)な姿も相まってまるで災厄そのものが顕現したかのようだ。

 逃げ惑う人々もそんなイメージをドラインから得たようで皆、ドラインを見る時は怯えの表情を浮かべて見上げていた。

 被害の広がる王都。

 そんな中、王城はというと揉めに揉めた会議の末に王都へ増援の兵を出すことを決定する。

 それはつまり、事がレグイレムの意図通りの進んでいる事を意味しているのであった

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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