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無限の世界  作者: 蒼風
七章「明かされる全容」
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七章三話「潜入」(9)

「ここまで離れれば一安心ね」


 遠く小さく見える森を後ろに振り返って見ながらヴィアンがそう告げる。その言葉で刀弥とリアはほっと安堵の息を吐いた。

 現在、彼等がいるのは葡萄色の荒野のまっただ中。その中を乗り物に乗って移動している。


「それでこの後はどうするんだ?」


 とりあえず安全は確保した一同。と、なれば刀弥としては気になるのは次の行動だ。

 まずセブロンに帰るという選択肢はないだろうと予測している。あそこは支配者がレグイレムと繋がっている。入った途端、すぐに連絡が飛ぶはずだ。


「とりあえずこのまま離れることになる。無論、セブロンには寄らない」


 刀弥の問いに答えたのはロアン。やはり、セブロンには行かないようだ。

 実際、刀弥達はそれで構わなかった。森で見つかって逃げることも予想できたので宿屋に置いてきたものはなく宿賃も今日までの分は今日泊まるかもしれない分と一緒に払っているので問題ない。宿屋としてはお金の支払われた空きの部屋が二部屋あるだけだ。もったいないとは思うかもしれないが文句を言うことはないだろう。


「わかった。俺達も構わない」

「よし、ではいくぞ」


 それを合図に一同を乗せた乗り物が速度を上げる。


「……それで馬鹿。一体、何を見つけたんだ」


 流れが早くなる風景。そんな中、おもむろにロアンがレリッサに潜入の結果を尋ねてきた。


「あ、そうね。それについて報告しなきゃ」


 レリッサはというとロアンの指摘でようやくその事を思い出したようで慌てた動きで機器をスペーサーから取り出していた。いつの間にやら手に入れた情報をその機器にコピーしていたらしい。


「レグイレムの狙いは改造したドラインを用いた王都襲撃。ただそれは見せかけで本命は王城への侵入よ」


 どうやら情報を送っているらしい。ヴィアンやロアンもまた機器を取り出しており三人の機器が(せわ)しなく点滅や映像を表示消去を繰り返す。


「なるほど。確かにこれなら王城は兵を出さざるを得ないだろう」

「これは早く知らせたほうがいいわね」


 彼女の説明にそう相槌を打つロアンとヴィアン。そうしてからヴィアンが機器を操作していくつかの地図を表示させた。


「最短時間で本国へ迎えるようルートを考えておくわ」

「頼むぞ」

「じゃあ、後は刀弥達の事だね」


 そう言ってレリッサが刀弥達を見つめる。


「一応、聞いておくけどこれから二人はどうする?」

「……ここまでルードを追いかけてきたんだ。途中で諦めるつもりはない」

「当然、一緒に行かせてもらうよ。むしろ、降ろそうとしても無理やり追い掛けるんだから」


 レリッサの問いにそれぞれ応える二人。その返答にレリッサはやっぱりといった表情を浮かべた。


「だ、そうよ」

「ならば、決定だ。最短速度で本国へ帰還する。少々荒い行軍になるが我慢してもらうぞ」

「上等だ」


 その程度で問題ない。なにせ先程まで膨大な数の敵の攻撃に晒されていたのだ。荒れた道を進もうが環境が悪かろうが耐えきれるという自信が胸の内から沸き上がってきていた。

 彼の返事に促された訳ではないだろうが、その直後に乗り物の速度がさらに上る。

 進行方向の先に見えるのは地平線。それを目指して刀弥達の乗る乗り物は進んでいく。

 行く先は『一の世界』のラクロマ。そこには王都に混乱を起こそうとしているレグイレムと共にルードがいるはずだ。

 戦いが予見されている場所へと向かう。危険は承知の上だ。ルードの悪ふざけを止める。そのためにここまで追ってきたのだ。今更臆するのも馬鹿馬鹿しい。

 そう考えながら進む先を見つめる刀弥。乗り物は砂煙を上げて進み続けるのであった。

 

  

      ――――――――――――****―――――――――――



 それから数日後……


「へえ、あっちじゃそんな事があったんだ」


 とあるレグイレムの拠点。そこに輸送車を止めたルード達一同は出迎えた部隊員からイロンドの拠点で起こった出来事の報告を受けていた。

 部隊員からの報告を聞いて笑み浮かべて感想を漏らすルード。一方のオルドラはやれやれといった様子でため息を吐く。


「こちらの計画を知られたという事は我々も急がなくてはならないな」


 そう言ってから彼は機器を取り出し何やら操作を始めた。恐らくこれから先の日程の調整を考えているのだろう。


「……あれ? ……って事はこれから先は拠点に寄っても街の中をブラブラする事もできなくなるの?」

「当然だ。相手も最大速度で移動しているんだ。我々としてはそれよりも先にラクロマに到着して準備を整えたい」


 どうやらイロンドで暴れた部隊が計画開始までに戻ってくるのは想定に入っているようだ。と、なれば成否を握るのは計画開始の日時だ。相手の対応が整う前に計画が発動できれば十分狙い通りに事を運ぶことは可能なはずだ。

 しかし、遅れた場合はどうするのだろうと今更ながらそんな疑問が頭に浮かぶ。


「でも、計画開始が遅れたらどうするの? 中止?」

「その場合でも、計画は起こせと言われている」


 その疑問をあえて聞いてみるとルード。するとオルドラがその疑念の答えを返してきた。


「へ? 続行するの?」


 この返答にルードは意外という感想を得る。それはそうだろう。

 効果を上げられない計画を実行したところでこちらのリスクが増すだけだ。それならやらない方が損害は、まだ少ない。


「それが上からの指示だ。我々はそれに従う」


 ルードの疑問に淡々と答えるオルドラ。その返答に迷いや疑念の色はない。本気で粛々とこなすつもりらしい。


「……まあ、いいけど」


 そんな彼の返事を聞いて疑問などどうでもよくなったルード。実際、面白ければそれでいいので彼らがリスクを気にしないのであればルード自身はどうでも良かったというのが本音である。


「ともかくここから先は速度重視だ。外を回って気分を晴らしておきたいなら今のうちに済ませておけ」

「了解」


 そう言って輸送車から降りるルード。オルドラの性格を考えれば宣告通り以降は速度重視で進んでいくだろう。と、なればこれが最後の外回りの機会となる。

 あえて、以降も外回りして相手を困らせるという案もルードの中には少なからずあったが、それで本命が失敗してしまっては元も子もない。ならば、ここは大人しく従い、この最後の機会を楽しむのが無難だろう。

 そうしてルードは拠点から外へと繰り出した。

 現在、ルード達がいるのはイロンドからかなり離れた世界である。

 イロンドとは違い木々が生い茂った場所……というよりも巨大な木々の上に街が存在しており事実レグイレムの拠点はその巨大な木のとある枝の上に建てられていた。

 枝の端には落下防止のための柵が建てられておりルードはそこから眼下を見下ろす。

 眼下の枝はどうやら露店通りになっているようで大きな通りの左右には簡素な屋台がところ狭しと並んでいた。その間を多くの人々が行き交っている。

 そんな眼下の様子を見てつい飛び降りてしまうルード。もちろん、途中で鳥型のゴーレムを呼び出すのは忘れない。

 鳥型のゴーレムの上に着地し通りへと降りていく。最初、突然空から降りてきたルードに人々は驚くがそれでも突飛な行動を取る人物がいるのはよくある話、すぐに元の喧騒に戻っていった。それを横目に眺めながらルードは通りの流れにのる。

 屋台で売っているものは基本的に飲食だが、たまに自作の作品を並べている店もあった。その中の一店――一口サイズの小さな焼き菓子を袋詰めしたものを売っているお店――にルードは歩み寄る。


「らっしゃい」

「それ一袋お願いね」

「あいよ」


 景気のいい相槌を返しながら焼き菓子を袋詰めしていく店主。そうして袋詰めが終わるとルードはお金を支払い焼き菓子の入った袋を受け取った。


「毎度あり~」


 軽く頭を下げて見送る店主。それに手を振って応じた後、ルードは袋の中の焼き菓子を一つ口の中に放り込んだ。

 熱々の感触が下を転がり思わず冷やすための空気を口から取り入れる。

 はふはふと焼き菓子を冷まし噛み始めるルード。すると菓子の味が口の中全体に広がり始めた。

 その味に満足しながらルードは他の場所を目指し歩き始める。


 ルード・ネリマオットに善悪は存在しない。彼の敵味方の基準はただ一点。自分を邪魔するか否かである。

 ルード・ネリマオットは怖いものを知らない。それは彼が膨大な数のゴーレムを従えており数の暴力によっていかなる力をも飲み込んでしまう事ができるからである。

 ルード・ネリマオットは流離い人だ。彼は一つの場所に留まらず常にあちらこちら巡り興味あるものを探し続けている。

 ルード・ネリマオットは好奇心旺盛だ。一度(ひとたび)彼が興味を持てばそれが何であろうと彼は首を突っ込み始めるだろう。

 ルード・ネリマオットは多くの知識と経験の保有者だ。それは知るという目的のために長い時間、世界を巡り巡っているからである。


「さて、今度は何を知ることができるかな」


 王都の襲撃とそれによって巻き起こる出来事。人々の混乱する様も王城の闘争も面白そうではあるが、想定外(イレギュラー)が起こった時のレグイレム側の反応もまた好奇心を唆られる。


「さあ、どうか僕を楽しませてくれよ」


 ふと、漏れたそんな呟き。その呟きに反応して誰かが振り返った。

 しかし、そこにルードの姿はもうない。既に彼は通りを抜けレグイレムの拠点、己を楽しませてくれる場所を目指して戻り始めていたのであった。




           三話終了

七章終了


これで七章も終了です。

この後はまた一週間ほど空けた後に八章の方を初めて行きたいと思っております。

どうかご了承くださいませ。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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