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無限の世界  作者: 蒼風
七章「明かされる全容」
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七章三話「潜入」(4)

「――ターゲット、右折しました」

「第三ゴーレム隊をその追走させ、第三部隊を第七実験室方面へと回りこませろ。第一、第二ゴーレム隊と第四部隊には入口に現れた侵入者達の足止めを命じる。他はこのまま継続だ」

「了解しました」


 レグイレムの施設の司令室……。

 普段は施設の周囲の状況を監視し、施設内の実験の様子をゆったりと眺めるだけのその部屋は今まさに蜂の巣を突いたような慌ただしさに包まれていた。

 次々と入ってくる報告にこの施設の最高責任者は口早に次々と指示を下す。

 下しても下しても新たな変化の度に頭を悩ませ次の指示を告げる彼の姿にアルドルは少しばかり同情してしまった。

 侵入者の存在が発覚したのはちょっとした偶然のおかげである。最高責任者の機器は彼の手持ちの端末からでも操作ができるようになっているのだが、ある用事で端末を立ち上げた所、部屋から操作している者がいることが発覚したのだ。

 侵入者が何を調べているのかを観察した後に彼は警報を鳴らし対応を開始。そうして現在に至るのである。

 侵入者の排除の手順は順調だった。主導権を手に入れ相手を逃さぬように徐々に追い込んでいく。相手も必死に逃げるが地の利は当然レグイレム側にある。侵入者の排除は最早時間の問題だと思われたその時だ。新たな侵入者が現れた。

 タイミングから考えれば新たな侵入者は先の侵入者を助けに来たと考えるのが普通だ。そのため、レグイレムは彼等を合流させぬよう手を打つことにした。

 新たな侵入者の方は足止めに徹しその間に最初の侵入者を排除。そうしてそれが終わった後に新たな侵入者を排除するという流れだ。

 合流は絶対に阻止しなければならないため、部隊の層は合流される可能性のある通路が一番厚い。こうすれば相手が突破を嫌い別ルートに逃げてくれるからだ。


「ゴーレム二体、中破。ターゲットは左折しました」

「侵入者。第一ゴーレム隊を壊滅させました。第二ゴーレム隊と第四部隊は攻撃を放ちつつ後退中」


 状況としてはターゲットの方は予定通りに進んでいるが新たな侵入者の方で被害が想定以上に大きくなっていた。このままでは時間稼ぎの部隊は全滅し侵入者は悠々と施設内を突き進んでしまうだろう。しかし、新たな部隊を割こうとしたらターゲットの担当になっている部隊のいずれかを抜くしか方法がない。兵が減れば追い込むのにも時間が掛かる。

 時間を稼ぐか、それともこのまま行くか。それを最高責任者が考えていた時だ。


「ターゲットを第二演習場に誘導してください」

「なに?」


 突然、アルドルがそんな申し出をしてきた。


「まだ第二演習場には私の『あれ』が残っています。それで戦力を補おうかと思うのですが……」

「……あれか」


 少しばかり考え込んだ後に最高責任者は『あれ』について思い出す。確かにあれなら戦力として申し分ないだろう。


「よし、わかった。……第三、第二部隊、並びに第三から第五ゴーレム隊はターゲットを第二演習場に追い込んだ後に侵入者の迎撃に急行。ターゲットは第二演習場に残っている『あれ』で殲滅すると指示しろ」

「了解しました!!」


 そう指示したのちに最高責任者はアルドルの方を振り返る。


「確かに『あれ』は性能的には申し分ない。だが、本当に大丈夫なんだろうな?」


 念を押すように確認してくる最高責任者。どうやら万が一の事態が怖いらしい。

 最も無理もないとはアルドルも思う。順調に追い込んでおいて最後の最後、不安定要素のせいで逃してしまいましたではあまりにも情けない結末だ。責任を押し付けるためにも保証の言質が欲しいのだろう。


「もちろんですとも」


 その要求にアルドルは迷うことなく即答した。

 『あれ』もまたアルドルの自信作だ。相手の先の戦闘手段を鑑みても相性という点でも悪くない。故にアルドルは勝利を確信していた。

  


      ――――――――――――****―――――――――――



「また団体さんのお出ましね」


 行こうと思っていた通路の曲がり角から聞こえてくる多数の足音にレリッサは顔をしかめる。

 そんな彼女を刀弥が追い越した。追い越した彼はそのまま曲がり角から姿を現した先頭のゴーレムに刀で斬り掛かる。

 両断。上下に割れ倒れていくそれを彼は確かめない。すぐさま次の目標へと駆け抜ける。

速度を活かしての突き。胴体中央を貫いた後に刃を右へと振り抜き伏せる。直後、彼の頭上を風弾の群れがかすめていった。

 低くなった視界に映るのはいくつもの二本足。形状は全て同じでまるで林の中にいるみたいだ。

 目指すのは林の中央。一度の跳躍でそこへと辿り着くと彼は身を上げると同時に刀を右上へと振り上げる。

 それで一体を一閃。続く振り下ろしで二体目を両断し後は横薙ぎで周囲のゴーレムを切り裂いていく。

 無論、ゴーレム達も一方的にやられたままではない。味方に当たるのも構わず重火器を刀弥の方へと向ける。自壊と躊躇のない人工物らしい判断だ。

 だが、それをリアとレリッサが許すわけがない。

 リアが炎弾の雨を放ちレリッサが短剣を次々と投じていく。

 爆炎の衝撃や関節部に短剣が刺さり攻撃を妨害されるゴーレム達。それでも何体かは無事でそれらが刀弥目掛けて重火器を撃ち放つ。

 轟音の共に襲いかかる風弾の数々。さすがにこの数は捌き切れない。

 故に刀弥は回避を選択する。現在、彼のいる地点に向かって飛んでくる風弾に対し彼は右上の壁へと跳躍。壁に足を付けると勢い止まらぬうちにもう一段上――つまり天井――へと飛び上がろうとする。

 ただ、垂直な壁からの蹴り足では安定したジャンプを行うのは難しい。体を安定させるための重力の向きが足場の面と平行になっているからだ。このままでは己の重さで壁から滑り落ちてしまう。

 そのため刀弥は蹴り足と同時に足から斬波の足場を作った。壁と垂直となるように発生させられた斬波の足場。それで滑り落ちようとする己の蹴り足を支えると彼は天井へと飛ぶ。

 後は天井を刀の握ったままの右手で押して落下。一番手前のゴーレムを縦に一刀両断としたのだった。

 綺麗に両断されたゴーレムの残骸は内側から外へと崩れ落ちていく。

 それを視界に収めながらさらに残りのゴーレムを倒そうと体を進ませようしたその矢先――新たな足音が近づいてくるのが刀弥の耳に届いた。


「また、来たぞ!!」

「ああん!! こっちよ!!」


 何度目かわからない新手にいい加減苛立っていたレリッサが声を荒げて逃げ道を手引きする。

 それに大人しく付いて行きながら背後を振り返る刀弥。少しばかり気になることがあった。


「なあ、気のせいじゃないなら――」

「ええ!! 誘導されているって事くらいわかってるわよ!!」


 どうやら苛立ちの原因はわかっていてもそちらに行かざるを得ない状況も含んでいたようだ。刀弥の問いに今まで以上に荒れた声が返ってきた。

 おかげで少々声を掛けづらい雰囲気になってしまったのだが、そんな事を気にしている場合ではない。と、言うのも少し気になることがあるからだ。


「それと入口側からくる敵の圧力。途中からいきなり厚くならなかったか?」


 入口に行かせたくないというのはわからなくもない。けれども、急に数を増やしたからには何か理由があるはずだ。例えばそう、入口に接近される程拙くなる状況に陥っているなど……


「……入口ね……もしかしたら」


 一方、刀弥の言葉に何か引っかかった事があったらしい。レリッサがそう呟いているのが聞こえた。

 何か心当たりがあるのか?

 そう聞こうとした刀弥だったが、直後行き先から聞こえる足音で会話の中断を余儀なくされる。


「どうやら敵はこの部屋に入って欲しいようね」


 端末を見つめながらそう漏らすレリッサ。

 どこだと刀弥とリアがその端末を覗きこむ。端末の画面には拡大されたマップ情報が写されていた。画面中央あたりに自分達がいるのだろう。実際、周りを見回してみるとマップの構図と一致する形状であることがわかる。

 現在、刀弥達がいるのはT字路。横の左右の線に当たる通路は前も後ろも敵によって封鎖されており通ることが難しい状況だ。空いているのは左のみなのだが左は入口には通じない。その代わりに左はとある部屋へと続いているのだ。

 マップに映されているのは広大な空間。その中央には部屋名であろう文字が並んでいる。部屋名にはこう書かれていた。


『第二演習場』と……

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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