七章二話「探索」(7)
「……あったわ」
森の木陰から遠方を覗く魔具で伺っていたレリッサがそう告げてくる。
「見えるのは入口だけ。どうやら施設は地下にあるみたいね。魔具の銃を持った見張りが三人……監視装置もあるわね」
「そうか」
そう言って刀弥は森の奥を見つめる。
木々と茂みでよくは見えないがその奥には地図に載っていた施設への入口があるはずだ。
リア達の元へと戻った刀弥はすぐに――といってもレリッサには起きた時に――道の事を報告し、休憩後、三人顔を揃えたところで改めてルートの相談が交わされた。
レリッサによると道付近には巡回だけでなく監視装置があるので道近辺を沿っていくのは危険なのだそうだ。
これになるほどと頷く刀弥達。ただ、レリッサも道に沿っていくのまでは反対しなかった。
結果として三人は遠目ながらも道が見える距離を進むこととなり、そうして道を進んでからしばらく……。
レリッサが道の先に何かを発見しそれで先の会話へとあいなったのであった。
「それでどうするんだ?」
一旦顔を会わせて会議を始める三人。今、考えるべきは入り口にいる見張りと監視装置の対処だ。
入る所があそこしかない以上、あそこから中に入るのは決定事項だ。しかし、そうなると見張りと監視装置その二つの対処が必要となってくる。
監視装置の方は今までのように対処すればいいだけだが、問題は人のほうだ。当然、連絡されないように迅速に倒さなければならないが、倒せば倒せばで侵入したとバレてしまう。
理想的なのは三人揃ってあの場を一旦離れてくれる事なのだが、普通に考えてそんな事態意図的にでも起こすのは難しい。
彼の問いに思案の顔を見せるレリッサ。
「そうね~……眠らせましょうか」
それから彼女は笑みを漏らしてそう呟いた。
スペーサーから取り出すのは針のついた道具だ。
形状は長方形。大きさとしては拳よりもほんの少し大きい程度で長い辺側の真ん中辺りに注射器の針のような物がついている。針のついてない側の辺にはトリガーが付いており、どうやら拳を繰り出す要領で針を刺すようだ。
「手順はどうするんですか?」
「幸い見張りがいるのは監視装置の死角。たぶん、死角のフォローとのためでしょうね。だったら刀弥が一人を誘い出してその間に私が二人を眠らせる。残った一人も戻ってきたと同時に対処。これでいくわ」
背後、見張り達のいる入口を振り返りながら尋ねるリア。そんな彼女の問いにレリッサはそう答えた。
「わかった」
「誘い出す時、はっきりと見つからないでよ。あくまでも『怪しいものが見えたような気がする』程度でね」
それに軽く二度首を振って了解を返すと刀弥は立ち上がる。要は相手が訝しんで近づいてくれればいいのだ。
相手に姿を晒さずにそういう痕跡らしいものを残す。そのための手段の手段は既に思いついている。
右手を刀へと伸ばす。別に相手を斬るために抜くのではない。相手の気を引くために抜き放つのだ。
斬波。放たれた斬撃の力は森の中を疾走。枝を切り茂みを裂いて突き進んでいった。傍から見れば何かが走っていったかのように見える構図だ。
「ん? なんだ?」
当然というべきか見張りの一人がそんな構図に気が付いた。
「ちょっと、様子を見てくる。サボるなよ」
一言そう告げて彼は斬波の向かった先へと慎重に進んでいく。
それを見て刀弥にナイスの合図を送るレリッサ。そうしてから彼女は気配を殺しすぐさま残った二人の見張りの方へと向かっていった。
斬波の行く先を追い掛ける見張りだけでなく入口に立つ二人の見張りの背後へと回り込む軌道で近づいていくレリッサ。やがて彼女は背後に回り込む事に成功する。
後は相手に気付かないようにひっそりと近づき握っていた注射器を打ち込むだけだ。
狙うのは背後の首元。そこ目掛けて彼女は注射器を握った拳を振り上げる。
狙い通り注射器の針は見張りの首元に刺さった。それを確認するとすぐさまレリッサはトリガーを引く。
空気の抜けるような小さな音が一瞬漏れた。
その音にもう一人の見張りが気が付くのと注射を打たれた見張りが倒れたのは同時。その時には既にレリッサはもう一人の見張りの方へと駆けている。
もう一人の見張りが倒れていく相方を見つけた時、彼女の位置はその見張りの真後ろ。どうにか相手の視界に入らずに回り込む事に成功すると先程と同じ要領で彼女は注射を見舞う。
崩れ落ちるもう一人の見張り。対処を確信していた彼女はそれを見送らない既に監視装置の対処のために動いていた。
時間は先程の見張りが戻ってくるまで。と、なれば手間の掛かる手段は選んでられない。
故に選んだのは巡回型に用いたボウガンの矢による乗っ取り。既にボウガンは近づく前から取り出しており後は矢を放つだけ。もちろん矢の刺さった後が見つからないように入口の壁に近い部分を狙う事も忘れない。
矢が飛び狙い通りの部分に刺さった。急いで腰のポケットから端末を取り出し操作を開始する。
周囲に気を配りながら急ぎ焦らず端末を操作していくレリッサ。やがて、彼女の表情に安堵が一瞬生まれた。
けれども、次の瞬間には堅の色に戻り残った見張りが戻ってくる前に付近の森の中へと隠れる。
彼女が隠れたのと同時、刀弥に誘い出されていた見張りが戻ってきた。
レリッサは相手が寝ている味方に気が付く前に処理しようと見張りの背後へと急ぎまわる。
少し急ぎすぎたせいで草が擦れる音をたててしまったが、相手は気にした様子はない。
恐らく先程が空振りだったことで今度飲もまたただの気のせいだと判断したのだろう。
それをチャンスと捉えたレリッサ。直後、彼女は全力で駆け出した。
見張りとの距離は歩幅にして一六歩分。その距離をレリッサは一気に詰めていく。
視界にはようやく不審と思ったのだろう。見張りが振り返ろうとしている。が、既にレリッサは拳が届く距離まで近づいており見張りが振り返りきるよりも彼女の針を打ち込むほうが早かった。
「ふぅ」
周囲を見回し安全である事を確認したレリッサ。一段落して安堵したせいか思わずため息が漏れてしまう。
「お疲れさまです」
そこへ刀弥達が労いの言葉を投げかけてきた。
「急いで入りましょ。ここでゆっくりしている訳にもいかないし」
「だね」
意識を切り替え告げるレリッサの言葉にリアが相槌を打ちつつ入口をの方を見やる。
入口は輸送車などの大型のものを入れるための大型の入口と人の出入りのための小型の入口の二つが存在していた。そのため、入口だけという割には建物が大きい。
三人が侵入するのはもちろん小型の方。その扉を前にレリッサが二人に指示を出す。
「先頭は私は次にリアで最後に刀弥。後ろから何かあればお願いね」
「わかった」
安全重視の安定した陣形だ。その指示に二人はコクンと頷く。
そうしてその陣形をとって入口の中へと入っていく三人。
「確かに地下への道だ」
その言葉の通りの入口を入った先にあったのは下へと伸びる広い下り坂だった。
大型用の舗装された道とその端にある人が行き交うための歩道。それが転々を天井の明かりを浴びながら坂道となって下へと伸びてるのだ。
「……所々に監視装置があるわね。避けようもないしこれは迅速に処理していくしかないわね」
道の先を見つめ嘆息するレリッサ。確かに彼女の言う通り道のあちこちに様々な監視装置が存在していた。
「誰もこなければいいんだけどな」
「そればかりはもう運次第ね」
刀弥の希望的観測にレリッサは苦笑。そうして彼女は歩き出す。
「まあ、ここまで来たらもう進むしかないわ」
「見つかってもか」
「……それはさすがに考えものね」
そんな軽口を言いながら坂を降りていく三人。
こうして彼等は施設への侵入を果たしたのだった。
二話終了
これで2話は終了です。
来週からは3話となります。