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無限の世界  作者: 蒼風
七章「明かされる全容」
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七章一話「追跡の結果」(5)

 その後、刀弥達は情報収集を終えると夕食をとって宿屋へ帰還。それぞれの部屋に戻るとすぐにベッドに横たわった。

 なにせ今日はあちこち歩きまわったせいか体が疲れている。入った途端まぶたが重くなり意識が深い闇へと誘われいく。

 抵抗する理由もないので誘われるままに眠りの中へと落ちていく刀弥。そうして一旦外への感覚が閉じたのだった。

 音に気がついたのは偶然だ。時間の経過はわからない。ただ音によって意識が覚醒していったのは自覚している。

 音の正体はドアの開く音。当然ながら刀弥はしっかりと鍵を閉めたという記憶がある。よってドアが開くはずなどない。

 ドアの閉じる音。そうしてから床のきしむ音が複数室内に静かに木霊した。

 音はかなり小さい。この静寂が締める眠りの夜でなければまず聞こえないくらいの音だ。音が聞き取れたのは刀弥自身耳に意識を回していたからというのもあるだろう。

 床のきしむ音が近づいてきている。それを聞いて刀弥はすぐさま自分の体勢を思い出す。

 現在、刀弥はベッドの上をうつ伏せで横たわっていた。両手は上へと伸びており、刀は――疲れで外すのが面倒くさかったため――腰に刺したままだがまず腕を動かせば怪しまれてしまう。そんな体勢だ。

 足音がベッドの近くで止まった。金属がこすれる小さな音が耳に入る。

 そんな中で静かに感覚を鋭敏にさせていく刀弥。既に意識は完全に戦闘のそれに移行している。

 直後、背中越しに三つの殺気を感じ取った。それに合わせて刀弥は回転。足を器用に使って布団を蹴飛ばす。

 回転ざまに見た相手の姿。それは全身黒ずくめの男達だった。それぞれの手には片刃のダガーが握られている。

 突然、視界いっぱいに広がった布団に一瞬黒ずくめの男達は怯んだようだが、即座の判断でそれぞれが布団を切断。そのまま刀弥へと迫る。

 一方、刀弥は体を回した後上半身だけを起こした状態となっている。まだ立ち上がっておらずそのため戦える状態ではない。

 普通に起き上がっていたらその間に相手は刃を返してダガーを振り上げてくるだろう。だから刀弥は普通ではない起き上がり方をした。

 体を沈めてベッドのバネを使って全身を跳ね上げる。跳ね上がる瞬間、姿勢を制御すれば足が下頭が上へと移動し、結果屈んだ姿勢の直立体勢になることができた。

 後は右端の敵のダガーを捌き、再びベッドのバネを使って跳躍するだけ。

 バネの支援を受けて跳躍した刀弥の身は黒ずくめの男達の背後へと回る。

 しかし、刀弥は彼等に構わない。自分の方に三人が来ているということはリアの方にも何人か敵が来ている可能性が高いからだ。急いで彼女のいる隣部屋へと向かう。

 自分の部屋から出ると、それ同時に騒がしい音が隣部屋から響いてくる。

 やはりという思いを抱きながら刀弥は駆け出しそしてドアを蹴破った。

 速度と体重を乗せた体当たり気味の蹴り。それで蝶番(ちょうつがい)の部分が外れ、いきおいそのままにドアが倒れていく。

 そうして倒れたドアを踏みしめ入り込んだ刀弥が見たのは刀弥の部屋にいた連中と同じ三人の黒ずくめの男達が見知らぬ女によって阻まれているという構図だった。女の後ろではベッドから上半身だけ身を起こしたリアが呆然とした表情で女の背中を見つめている。

 黒ずくめの男達はドアを蹴破った音を聞いて刀弥の方を振り返っている。つまり、女のほうを見ていない。

 それをチャンスと見たのか女が動いた。

 右端の男に一気に近づくと右手に持っていた両刃の短剣で斬りつける。

 首筋に向かって跳ねるように振られた短剣。それが見事に黒ずくめの男の首筋を斬り裂いた。

 血を吹き出し倒れ伏す黒ずくめの男。それでようやく他の二人が女の方へと視線を向ける。

 だが、それは今度は刀弥にとってのチャンスとなる。

 一気に女とは反対端の男へと近づくと振り上げの抜刀を放った。

 腰から肩までを裂かれた男が仰け反り倒れる。今度は反対側の味方までが不意打ちでやられた事で残った黒ずくめの男は二人を警戒し、その両者が同時に見られる位置へと飛ぶ。

 だが、二人を警戒しすぎていた故に男はもう一人敵が残っていることを失念していた。

 唐突に現れた氷の鎖。それが残った黒ずくめの男を縛り上げ体を凍りつかせる。

 氷の鎖を放ったのはリア。見ると彼女はいつの間にやらベッドに立てかけていた杖を手にとっていた。

 そこへ刀弥を追いかけて先程の黒ずくめの男達がやってくる。

 黒ずくめの男達は室内の様子を見て一瞬、目を見開いたがすぐに元に戻るとダガーを身構え三人並んで突撃を敢行してきた。

 入り口から入れるのは一人分。それ故の突入方法だろう。なら、刀弥達としてはそれを活かす手はない。

 刀弥と女が駆け出したのは同時。両者は先頭の目前まで迫ると共にそれぞれの武器を振るう。

 ピタリと息のあったかのような同時攻撃。この攻撃に先頭の男は一瞬慌てたがすぐに冷静になるとすぐさま後ろへと下がりながら刀弥の刀の方へとダガーを振るった。

 刀と短剣。リーチの違う武器の同時攻撃に対し短い方は避け長い方を防ぐという判断をしのだ。

 金属音。刀弥の刀はダガーによって止められ、女の短剣は空を切る。

 攻撃を対処しきり反撃に移ろうとする男。だが、そこへ第三の攻撃が放たれた。

 攻撃の正体は短剣。いつに間にやら女の左手には同型の新たな短剣が握られていたのだ。その短剣を彼女は突き込む。

 黒ずくめの男のダガーは刀弥の刀とつばぜり合いの最中。防ぐ術はない。そのまま女の短剣は黒ずくめの男の胸に突き刺さった。

 精確に心臓を刺され膝から崩れ落ちていく黒ずくめの男。それを見て背後の男が左から回りこんでくる。

 女の左手の短剣は未だ崩れ落ちる男の胸に刺さったままだ。今から抜いたところで迎撃のためには一旦構え直す必要がある。

 守ることも下がって避ける事もできない。そう黒ずくめの男は思っただろう。実際、刀弥もそう思ってフォローに回ろうとしている最中だ。

 けれども、それは杞憂だった。女は握っていた左手の短剣をあっさりと手放すと右手の短剣をトス。それと同時に構え直しの姿勢に入るとあっさりと男のダガーを受け止めてみせた。

 驚愕に包まれる黒ずくめの男。無論、女の動きは防御だけでは終わらない。空いた右手が腰へと伸びベルト部分に留められたいくつもの短剣の中から一本を引き抜く。

 どうやら先程の左手もそこから取り出したようだ。腕の動作は落ちるような自然な動きで違和感を感じづらい。そのせいで腕の動作に気付きづらかった。刀弥がその動作に気付いたのも、その行動が丁度刀弥の視界の目に留まるところで行われていたからだ。で、なければ先程の左手の時と同様気付くこともなかっただろう。

 引き抜いた短剣で女は男の首筋を一閃。右手の短剣に気付くことのできなかった男は抵抗することなく死体へと早変わりした。

 これで残るはこの死体の背後にいる男だけだ。

 そうしてそちらへと視線を向けようとする刀弥。と、その時彼の目が床に転がるある物に気が付いた。

 それは球型の物体。死体の股の間をコロコロと転がり刀弥と女の元へと近づいてくる。


「!? 眼と耳を塞いで!!」


 見知らぬ女性の声。それが共闘している女のものだと気付いた時――



 室内は光と音に包まれた。



 もし女が警告を発していなければ刀弥は耳だけでなく目もやられていただろう。けれども、女性のおかげで目だけは左腕で遮ることに成功していた。

 光が止んだのを感じると同時に刀弥左腕を退かす。しかし、既に敵は刀弥と女の横を今まさに通過しようというところだった。

 そんな敵へリアが風の矢を三本を放つ。数を展開しなかったのは刀弥達を巻き込むことを恐れたためと氷の鎖を展開中のためだ。

 とはいえ、リア自身これで倒しきれなくても構わないと考えていた。避けるなり防ぐなりしてくれれば男の背後から追いかけようとしている刀弥達が追いつき対応してくれる。そう彼女は考えていたのだ。

 しかし、リアの予想は外れた。男は構わず風の矢に突っ込んだからだ。

 結果、三本の風の矢は黒ずくめの男の体を貫くこととなった。左腿、右脇腹、右肩。それぞれに穴が空きそこから血がこぼれ落ちる。

 一瞬浮かび上がる苦痛の顔。けれども、男はそのまま走りぬけ、そして氷の鎖に囚われた仲間の元まで来るとその首元にダガーを振るった。

 当然、仲間は絶命する。それを見届けると次に男は自身の胸にダガーを突き立てる。自殺を図ったのだ。

 驚愕する刀弥とリア。ただ、女だけは察していたのか表情を変えることはなかった。

 崩れ床へと倒れる男。

 こうして夜中の襲撃は幕を閉じたのであった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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