七章一話「追跡の結果」(4)
一方、刀弥達はと言うと……昼食を間に挟んだりしながら四箇所を周り現在五カ所目に向かうべく通りを歩いている最中であった。
現状二箇所で輸送車を見たという新たな目撃証言を手に入れている。
どちらもが輸送車がある建物の中に入っていくのを見たという証言で以降出て行く姿も見ていないらしい。
「……そういえばさ。この工作ってさ。具体的にはどんな方法を使ってるんだろう」
適当に買った飲み物を口にしながら進む二人。と、そんな時リアが疑問の声をあげた。
「たぶん、輸送車そのものがダミーだったんだろうな。どういうダミーなのかまではわからないが」
なにせ、魔具や魔術、ゴーレムといったなどといったものが存在する場所なのだ。精神干渉、外見だけのハリボテ、映像、どこまでできるかはわからないが、それ故に思いつく方法など全て思いつかないといっていいほど膨大に存在する。要するに絞り込めないなら考えるだけ無駄なのである。
「本当に……どれが当たりなんだろうね」
「そうだな~」
あまり情報が乏しいがそれでも考えてみる。
現在ある情報は大別するとして、いずれかの出口から出て行った情報となんらかの施設に入ったという情報に分けられる。
街内にいるとしたら何らかの用があるからだ。という事は考えるべき事としてはルード達が何のためにこの街を訪れたかに絞られる。
燃料や食事をするための中継場所としてならこのような工作は必要ない。事実、これまでのルード達は普通にそれらを行っていた。
そうなるとここには何らかの特別な事情が存在する事が考えられる。
追加の要件かはたまた目的地なのか。現状ではそこまではわからない。ただどうにかしてそこがわかれば絞込みようもあるだろう。
と、そんな事を考えていた時だ。
「なあ」
「うん。なんていうかあからさまだよね」
何度かの角を曲がった時、刀弥はそうリアに声を掛けた。彼の声にリアは即座に応える。
刀弥が声を掛けた理由は簡単だ。先程からガラの悪い男の集団がずっと後を追いかけていたのだ。
何度かまず誰も通らなそうな道をあえて何度か通ってみたのだが男達は全て付いて来ている。
派手な顔のせいで印象につきやすくおかげですぐに付けられている事に気が付いた。
「あれって本人達は尾行しているつもりなのかな?」
「どう考えても存在感ありすぎて無理だろう」
呆れた声でリアの応じる刀弥。と、前方からも新たな男達が現れた。どうやら今まで何のアクションもしていなかったのは仲間の到着を待っていたからのようだ。その証拠にそれを見た後ろの男達が一気に刀弥達との距離を詰める。
そうして二人の前後を塞いだ男達は笑みを浮かべながら刀弥達に話しかけてきた。
「おい、お前ら。なんか輸送車の事を調べまわっているそうだな」
「だからなんだ?」
この後に起こる展開は予想しながらもとりあえず定型的な返事を返す刀弥。無論、右手はそっと刀の柄に伸びた状態だ。
「それをやめてほしい人がいるみたいだぜ?」
刀弥達をビビらせるためなのか品のない声で凄みを利かせてくるが、それだけしか怖いところがないので逆に滑稽にしか映らない。
「おっと、逆らうなよ。見ての通り俺達の方が頭数が多いんだから」
内心嘆息する刀弥に気がついていないのか、調子に乗った男達が数という優位で脅してくる。
相手の実力は体つきこそ逞しいが足の運びや通常の姿勢を見るに技量の方は低い。数は多いが位置と手順さえ間違わなければ十分倒せる相手だ。
リアの方へと目配りする。彼女の方も同じ判断のようで彼の視線に気がつくと男達に気が付かれないよう僅かに首を縦に振った。
「とりあえずガキ。てめぇは動けなくなるまでボコボコにしてやる。女の方は安心しな。俺達が優しくしてやるからよ」
そんな彼等のやり取りを知らない男達はそんな事を言いながら包囲網を縮めてくる。
敵の数は前が七人で後ろが八人。後ろから話しかけてきた男が彼らの大将のようだ。不用心にも先頭に立って手下達を率いている。
ならば、そのチャンスを逃す手はない。そのため、刀弥は一気に先頭の男の元まで接近する事にした。
背中越しに左肩側を先頭の男へと向けた半身の姿勢。そこから男の方へと身を倒す。
重力に引かれた自然な落下で一気に姿勢が低くなり、そのせいで男達は一瞬刀弥の姿を見失った。
その隙を突いて刀弥は一気に接近を試みる。
既に体は落下最中に姿勢を回したことで正面を大将の方へと変更済み。後は付いた右足で地面を強く蹴りつけるだけだ。
蹴った。体中を風が駆け巡っていく。
その冷たさを一瞬の間に感じながら刀弥は大将の眼下へと辿り着く。
相手の意識は未だ前方に向けられたままだ。眼下に刀弥がいることを認識している様子はない。
故に刀弥は迷うことなく抜刀。それ同時に刀を滑らせて回し、刀の峰を大将の首部分に叩きつけた。
鈍い音。それと同時に大将が白目を剥いて倒れていく。
「兄貴!?」
大将が倒れた事でようやく事態の推移に気付いた手下達。けれども、依然として刀弥の接近に気づいた者達はいないようだ。
それを幸いに刀弥は隣の別の男へと接近。今度は右肘打ちで相手をノックダウンさせ続いて別の男に再び峰打ちを見舞った。
「!?」
ようやく刀弥の接近を認識した男達。急ぎ取り囲もうとするが、その直前風の矢群が彼等に殺到する。
「ぐっ……」
「げふ!?」
「がぁ!!」
矢尻部分が丸められた風の矢が男達に次々と当たりその衝撃で男達は気を失ってしまった。
これで背後の男達は全員戦闘不能となった。残るは前方にいた男達だけだ。
彼等はというと後方の男達を助けようと一旦は動き出したのだが、リアの魔術で全員が気を失ったのを見やると途端に怯み足を止めてしまっていた。恐らく助けに行くか逃げるかで迷ってしまったのだろう。
で、あるなら後は相手に逃げることを促すだけでいい。すぐさま刀弥は刃を振りぬき斬波によって斬撃を飛ばした。
飛ばされた斬撃は立ち止まった男の一人の頬を掠めていく。
「ひぃいいい!!」
堪らず叫び声を上げる男。そこへリアが再び風の矢群を展開する。
「うわあああ」
「に、逃げろ!!」
それで情勢は決した。敵わないと悟った男達は倒れた男達を助けようともせずに退散。かくして一帯には平和が戻ったのであった。
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「全く……」
逃げ去った男達を見送った後に刀を鞘へとしまう刀弥。その顔には呆れの表情が混じっている。
「逃げちゃったね」
そんな刀弥の様子に苦笑を浮かべるリア。
「あの様子じゃ、こっちがほしい情報なんて持ってなさそうだったな」
「だね~。どう見ても雇われたゴロツキって感じだったし」
恐らく金か何かに釣られて刀弥達を襲えと言われたのだろう。
しかし、だとしたら一体どういうつもりで依頼者は彼等をけしかけてきたのだろうか。その事について刀弥は少し考えてみる。
最初に思いつくのは妨害や威嚇だが、それならばそこらのゴロツキでは役不足だ。と、なると他の狙いがある可能性がある。けれども、一体それがなんなのかまでは見当がつかない。
「あ~~~。駄目だ~。何もわからん」
「それじゃあ、次が終わったらまた休憩しようか」
頭をかきながら苛立ちを吐き出す刀弥。そんな彼を見てリアがそんな提案をしてきた。
「……そうだな。そうするか」
昼食からかれこれ結構な時間が経っている。それはつまりそれだけ二人が情報を求めて歩いていたという事だ。だったら、また体を休めるのもいいかもしれない。
「じゃあ、決定!! そうと決まればここも早く終わらせなきゃね」
休憩が決定した瞬間、張り切りだすリア。
そんな彼女を見て『そういう奴、たまにいるよな』と刀弥は苦笑する。
と、そんな時だ。刀弥はふと誰かの視線を感じた。
感じた視線はくすぐったくなるような感触。興味や観察の色を含んだ視線だ。
即座に当たりを見回す刀弥。すると、その中に少し目の引く人物の存在があった。
その人物は女性。紫紺色のショートヘアが印象的で服装は白と褐色の混ざった軽鎧のような服装をしていた。
ふと、奥へと目を向ければ何人かの黒ずくめ達が気を失って倒れているのが見える。それがどうしたのかと聞かれれば答えに詰まってしまうのだが、何故か刀弥はそれが気になった。
「刀弥?」
と、そこでリアに声を掛けられる。
反射的に振り返った刀弥だが、慌ててもう一度女性の方を見ると既に女性の姿はない。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
観察されていた以外に特に不審な点はないのだ。恐らく、喧嘩かなにかと思って興味を持って観察していたのだろう。
「とりあえずここでの目的を済まそう。俺も早く休憩したいしな」
そう言って刀弥は歩き出す。
「あ、ちょっと~」
それを見て急ぎ足で追いかけてくるリア。
そんな二人を影から覗き微笑んでいる存在がいる事など、この時二人は知る由もなかったのだった。