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無限の世界  作者: 蒼風
七章「明かされる全容」
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七章一話「追跡の結果」(1)

 広がる葡萄色(えびいろ)の大地。

 大地にはところどころ鉄色(くろがねいろ)のオブジェのようなものが突き出しており、大きなものはそれによって巨大な日陰を作っていた。

 そんな大地の中をいくつもの道が線を結んでいる。

 道の素材は人工物。しっかり舗装されているらしく巨大な乗り物が道の上を走ってもひび割れることなくその巨体を受け止めていた。

 今、その道の上を二人の人物が歩いている。

 一人は黒ずくめの少年。髪に上着にズボン全てが黒で唯一中のシャツだけが白色だ。その腰には一振りの刀が下げられている。

 もう一人は少女。まっすぐ伸びた赤い髪が印象的で服装は赤の上着と白のシャツ、そして赤を基調としたチェック柄のスカートという構成だった。その両手には蒼色の宝石の付いた金色の杖が握られている。


「とりあえずこの方向だったな」


 道を歩く少年、風野刀弥は地図を眺めながら隣を歩く少女に尋ねる。


「うん。かなり大きな荷物を積んだすごく大きな乗り物がこの方向に向かっていったって」


 その問いに少女リア・リンスレットが答えた。


 現在、二人は黒鉄の世界『イロンド』に来ていた。理由をイスターシャでドラインという巨大な生物を連れて行ったルード達を追うためだ。

 目撃証言を追っているうちにルード達が――力づくで――隣世界へと移動した事を知った刀弥達は迷わずそれを追うことにした。

 この世界の特徴はそこいらじゅうに姿を見せている黒鉄色の物体。その正体は金属だ。

この世界は地面が層を作っており、その層の一部から金属が採れるのだ。地面から姿を表しているのは比較的地面に近い層の金属が様々な要因で地面に飛び出したものである。

そんなイロンドの光景を見渡しながら歩く二人。

ルード達が向かった方向はわかっている。

 ゲートのある街こそそのままドラインを連れて移動を始めたルード達だったが、その姿は途中で喪失した。

 近隣の町や村、通りがかった人達に聴きこみをしても見ていないと返ってくる返事。

 だが、その疑問は巨大な積み荷を積んだすごく大きな乗り物にルード達が乗っているのを見かけたという証言で氷解した。

 なんてことはない。運ぶ手段を切り替えただけの話である。

 ならば、後は簡単だ。尋ねる内容を変えるだけでいい。

 おかげで刀弥達は順調に追跡を続けることができていた。


「この道の先にあるのはセブロンっていう街って話だったな」

「うん」


 聞いた話ではセブロンという街は貿易で財を成した金持ちが作った街だそうだ。

この世界イロンドでは基本勢力が街単位となっており、それぞれが独自の法で街を統制している。

 また、歴史的な習慣なのかこの世界では街の発展、滅亡の回転が恐ろしく早い。

 理由は単純で街同士が潰し合うからだ。侵略、裏工作は当たり前。場合によってはその街への輸出を――他の街にも様々な方法で働きかけて――止めて間接的な兵糧攻めを行ったり下克上をけしかけたりもするという。

 そんな血なまぐさい世界にルード達はやってきた。通り道なら問題ないのだが、目的地がこの世界であるならばどう考えても嫌な予感しかしない。


「一体、あいつは何を考えてるんだか……」


 もっともすぐに『何も考えていないんじゃないか?』という答えが自分の頭の中に浮かんだのだが、それはあえて無視する。第一、ドラインを求めていたのは同行していた男の方だ。ルードではない。

 ドラインの用途を推測するとなれば基本的にその用途は『襲わせる』だ。あれだけ強力な生き物を制御下に置いているのだ。生物兵器として用いれば十分な戦果を上げるだろう。


「やはり、兵器としてどこかを襲わせるつもりか?」

「でも、それならわざわざドラインじゃなくてもよくない?」


 そんな刀弥の推測にリアが疑問を挟む。


「基本、どの世界にだってかなり凶暴な生物はいるよ? わざわざあの世界にまで取りに行く必要なんてないと思うけど」

「……そうなのか?」


 彼女の言葉に意外という驚きを浮かべる刀弥。少なくても彼の記憶の中では自分の世界にあんな巨大で質の悪い性質の生物がいるなど聞いたこともない。いたとしても架空の存在だけのはずだ。


「うん。凶悪性は劣るかもしれないけど、それでもかなり強い生物なら心当たりはあるかな。実際に見たことはないけど……」


 それに……とリアは言葉を続ける。


「生物を操る方法があるなら簡単な話。数を揃えて物量で押すって手もあるんじゃないかな。場合によってはボスを操ることで配下には魔具を使う必要もなくなる可能性もあるんだし……」


 要するに手間を掛けて別世界のドラインを狙った以上はドラインでなければならない理由があるはずだという事だ。


「まあ、確かにそうだな。でも、だったらドラインを選んだ理由ってのは何だ?」


 しかし、刀弥にその理由が思いつくはずもない。ドラインの事をよく知っている訳でもなければルード達の目的を知っているわけでもないのだから……


「何にしても情報不足でこれ以上は推測しようがないか」

「だね」


 刀弥の言葉に嘆息混じりにリアが同意する。

 と、背後から乗り物が二人を追い越していった。

 乗り物は輸送車で荷台はシートで覆い隠されていたが、端から剣先や銃口が大量に覗いている。

 そんな物騒な積み荷を認めて二人は思わずその輸送車を視線で追ってしまった。


「確かここ、いろんな世界に武器を出してるんだっけか」

「そんな事を言ってたね」


 腕を治したイスターシャや革命軍の件があったアイゼイルにも武器を輸出しているらしい。

 基本的にイロンドでは層から採れる鉄を用いていろんな物を作っている。

 主な生産物は武器、次いで乗り物だ。それらは多くの場合近隣の世界にも輸出され、それでイロンドの人々は外貨を得ている。

 生産される武器はその大半が魔具だ。コストパフォーマンスの良い武器が多くその種類も豊富らしい。ゲートを超える際に係員から聞いた話だ。

 ただイロンド特有の社会のせいかガラの悪い商人が多いらしい。密輸、詐欺果ては暗殺や強盗まで手を出している者もいるというから最早末期である。

 一部の世界や国からは嫌われており、そのせいでイロンドの人間というだけで入れない場所もあるという話だ。

 内も外も灰色どころかまっ黒。それがイロンドの様相だった。

 そんな場所だからかいろいろと怪しい連中がここに根城を置いているという話も聞く。ひょっとしたら彼等の目的地はここにある根城なのかもしれない。


「!! あれか」


 と、刀弥の瞳が何かを捉えた。

 目を凝らしてみると見えたのは街壁だ。どうやらあれがセブロンらしい。最も、見えたと言ってもまだかなり距離があるのだが……


「あ、本当だ」


 彼の言葉を聞いてリアもまた目を凝らし街を見つけた。

 壁が高いせいで街の全容は全く分からないが、それでも大きな街だということは壁の規模から伺える。


「あれだけデカイならルード達の情報もいろいろと手に入るかもしれないな」

「その前に休みた~い!!」


 刀弥の言葉に涙目の叫びを返すリア。

 実際、彼女のその気持ちはわからなくもなかった。なにせかれこれ半日近く歩いているのだ。昼食は適当な場所で座って済ませ時折休憩を入れ……そうやって今の場所まで来たのだ。


「結構歩いたんだから、今日は休んで情報収集は明日にしようよ」


 そんな彼女の提案に刀弥は一考する。

 正直、ルード達の情報をできるだけ早く多く集めたい気持ちはあるが刀弥自身休みたいのも事実だ。

 恐らく輸送車はこの街中を通って行ったと思われるから、出入口の見張りの人に尋ねれればどこから出たかは答えてくれるはずだ。

 ならば、そう焦る必要はなくここはリアの言う通り休むのも悪くないかもしれない。


「まあ、そうするか」

「やったー!! それじゃあ早く行こう」


 彼の返答を聞いて元気を取り戻したのか、声を張り上げてリアが走りだす。

 そんな彼女の様子をやれやれといった様子で眺める刀弥。

 そうして、やがて急かすリアの声が耳に届くと彼はそれに応えるに歩き出す。

 視線の先にあるのは街。そこを目指して二人は道を進む。

 そうして二人が街に辿り着いたのは空が赤く染まり始めた夕刻頃であったのだった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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