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無限の世界  作者: 蒼風
六章「波紋の心」
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六章三話「進撃する怒りの元凶」(11)

 やがて、大型ドラインの姿が見えなくなった。

 それを合図に見送っていた人々が帰り支度を始めていく。

 ある者は動けなくなった者を迎えに、ある者は武器の手入れを始め、ある者は街へと真っ直ぐ向かう。

 そんな中、刀弥だけが未だ大型ドライン――ルード達が去った方向を見つめていた。


 彼らがドラインを連れ去った理由。それが彼の頭から離れないでいるのだ。

 ルードのような人間が関わっている以上、ドラインがろくでもない事に使われるのは間違いない。問題はいつ、どこで、どういう目的で使うかだ。


「刀弥」


 そんな思考の最中、声が掛けられる。

 声から誰かはわかっている。リアだ。


「帰ろう。皆もう街へ戻り始めているよ」


 言われ周りを見てみれば既にほとんどの人々が街を目指して歩いている最中だった。


「そうだな」

 

 そんな光景を見て自分も街へと戻ることを決める刀弥。そうして二人は街へと帰るために歩き始めたのだった。


「ルード達の事。気になる?」

「ん? ……ああ、そりゃあな」


 仕方がなかったとはいえ彼等の目的の一端に手を貸すような真似をしてしまったのだ。どんな形で用いられるのか気にならないはずがない。


「リア。これから事なんだが」


 そういう理由でリアに次の行き先についての相談しようとする刀弥。すると――


「追いたいんでしょ? いいよ。私も気になるし」


 そんな刀弥の心を見透かしていたのかリアがそう返事を返してきた。


「助かる」

「気にしない。気にしない。まあ、行くとしても『それ』が終わってからだけどね」

「それ?」


 一瞬、何のことかわからなかった刀弥。とりあえず彼はリアが見ている方へと己の視線を向けてみると……


「あ」


 そこには腕から先がない左肩があった。それでようやく彼はここには腕を治しに来たということを思い出す。


「……すっかり忘れてたな」

「追うとしても絶対それが終わってからだよ」


 強い口調で主張するリア。それによって『それだけは頑として譲らない』という彼女の意思が伝わってくる。


「わかってるよ」


 そんな意思を受け止め素直に頷く刀弥。実際、何が起こるかわからない以上、万全の状態にした方が事態への対処が容易になるだろう。

 ルード達がすぐに動くとも思えない。多少の遅れなら問題ないはずだ。


「なんにしても、今日は戻ってぐっすり寝よう。さすがに疲れちゃったし」


 その言葉に刀弥は苦笑を浮かべる事で肯定を返す。

 彼女の言う通り、今回はかなり疲れた。なにせかなり動き回った上にほとんど精神を張り詰めていた状態だ。肉体的にも精神的にもかなりの負担である。

 実際、まぶたが重い。このままだと道中で倒れるかもしれない。


「……さすがにおぶわれるのは勘弁したいところだな」


 傍にいるリアにも聞こえないくらい小さな声でそう呟く刀弥。さすがにそれは恥ずかしい。なんとしても自力で帰ろうと気合を入れ直す。

 首を鳴らし肩を回す事で多少なりとも眠気の改善試みる刀弥。横を見るとリアも同じような事をしていた。

 互いに見合わせ苦笑する。と、そこへ――


「よお、お疲れさん」

「大変だったね~」


 ウィルバードの面々がやってきた。

 彼等もまた刀弥達と同じように疲れの色が色濃く浮かんでおり心なしか歩く姿もノロノロといった感じである。


「お疲れ様です。それと……」



 とりあえず彼等の労いの言葉に返事を返した刀弥。その後、マグルスの事について言葉を贈ろうとしたのだがいい言葉がすぐに思い浮かばず詰まってしまう。


「ああ、その先は言わんでいい」


 すると、そんな刀弥を見てメンバーの一人が続きを制してきた。


「あんん達の気持ちはちゃんと伝わっているし、それにそういうのは言い出したらキリがない。なにせ犠牲者は他にも大勢いるんだからな」


 そう言って前方――街へと戻る面々を見渡すメンバー。

 確かに彼の言う通り、今回の戦いではかなりの数の死者がでている。


「互いにお悔やみを言い合っていたらどっちも気分が下がる一方だ。ここは何も言わないのが正解だぜ」

「……そうですか」


 他の面々もウンウンと頷くのを見てそう返すしかない刀弥。

 当事者達がそう言う以上、それに従うしかない。

 とりあえずその話についてはそれ以上いうのはやめることにした刀弥。そうして彼は次にミレイの方を見た。

 彼女もまた疲労の様子を見せている。腕は伸びきり体は前かがみ。動いている足も持ちあげるというよりも前へと送っている感じになっておりまぶたもまた若干下りかけていた。ただ彼女の場合、その疲労は単に戦いによるものだけではないはずだ。

 彼女の視線は時折ある方向へと向けられている。その視線の先にあるのは乗り物によって引かれた大きな荷台だ。

 荷台に積まれているのは生者ではない者達。つまり死体である。当然、マグルスもその中に積まれているはずだ。


「大丈夫か?」


 そんな彼女に刀弥は声を掛けた。

 声を掛けられた事でようやくミレイは刀弥達の存在に気付いたのかピクリと肩が跳ね上げ刀弥の方へと振り返る。


「……平気よ」


 声ってきたのは聞き慣れたいつも通りの声色。とはいえ、若干沈んだ声色も混じっていた。完全ではないが、それなりには元に戻ったということなのだろう。自身の手でドラインにとどめを刺したというのも効いているのかもしれない。


「そう深いダメージは受けなかったから」

「そうか」


 その答えは本来聞きたかった内容の答えではなかったが、刀弥はその事を修正する気にはなれなかった。


「ねえ、さっきの連中、知り合い?」

「……随分と前にちょっとな」


 苦笑交じりに応えたかった刀弥だったが、若干『ちょっと』の辺りの発音が強くなってしまった。

 その事にミレイは何か思ったのかもしれないが――


「そう」


 それでも特に何かを尋ねる様子もなくただそれだけを返すミレイ。よく見てみると彼女の表情に少しばかり不満の色が現れていた。


「もしかして、ドラインを連れていかれたのが不満だったのか?」

「……」


 肯定を返さないのは彼女自身その返答が不謹慎だということを自覚しているからだろう。とはいえ、動機は違えど同じように不満を持っている者がいた事に少しばかり刀弥はほっとしてしまった。


「なに?」


 そんな表情の変化をミレイは目敏く見つけてしまったらしい。その顔がむっとしたものへと変わってしまう。


「いや、なんでもない」


 その変化が少しおかしくて内心で笑ってしまった刀弥だったが、それを表情には出さずそう答えた。

 リアの方を見ていると彼女も同じような感想を抱いていたのだろう。目を合わせた途端、ミレイには見えない角度で笑みを送ってくる。

 と、その時、他の人達の会話が耳に飛び込んできた。


「なあ、これから俺らはどうするんだ?」

「とりあえずマグルスの弔って、それから討伐チームをどうするかだな」

「新しいリーダーを立てて続行か、それとも解散させるか……か」

「んなの、考えるまでもないでしょ?」

「まあ、リーダー立てて続行だろうね」

「問題は誰を立てるかか」


 そんな風に自分達のこれからに関する話し合いをしている『ウィルバード』の面々。そんな彼等に刀弥は興味を抱いた。

 彼等の意識は完全に喪失から次への事に切り替わっている。刀弥の感覚では戦いが終わった今、喪失に対する感情が蘇ってもおかしくはないはずなのだが、会話に加わっている面々にはそんな様子は見受けられない。

 何故、彼等は喪失に対する感情よりも次への事を優先したのか。

 気になった刀弥は失礼だと思いながらもその事について尋ねてみる事にした。


「あの……その、どうしてそんな風に先の事を考えられるんですか?」

「? どういう意味だ?」


 刀弥に問いに疑問で返してくるウィルバードのメンバー。

 その疑問で刀弥は先の問いでは要点が伝わりきれていないのだと理解し反省する。


「その、戦いが終わって一段落ついた今、マグルスさんの死を思い出していろいろと思うのが普通だと思っていたんですが、もうその次の話に切り替わっている皆さんを見てどうして引きずる事なく次の話ができるのかと不思議に思いまして……」


 正直、この説明で伝わるかどうかはわからない。なにせ刀弥自身も自分の思いを言葉にできているか自信がないのだ。

 それでも既に口にした後である。最早なかった事にする事はできない。

 そんな彼の問いに『ウィルーバード』の面々はフムフムといった様子で考える仕草を見せていた。

 一歩、二歩、三歩、僅かながら訪れる沈黙の時間。その間、刀弥は相手の返事をただ黙ってじっと待っている。

 今、彼の中の感覚ではこの僅かな時間がとても長い時間のように感じられた。

 自身が緊張しているのか心待ちにしているのか。どちらが正解なのかは本人ですらわからない。ただ、はっきりしているのはその返答が自身にとってととも大事な事であるという事だった。

 そんな彼の心中を知ってから知らずメンバーの一人がう~んと軽く悩んだ後、こう応える。


「なんていうかな。ここで『ウィルバード』が駄目になっちまうとその原因がマグルスが死んでしまったからって事になるだろ? そしてらさ、その事が悪い事のようになっちまう訳だ。そしたらそれを気にする奴が出てくるし、マグルスだって浮かばれんだろう」


 聞こえていたのだろう。彼の言葉を合図に『気にする奴』は視線を彼から大きく外した。


「だったら、先に進むしかねえ。あいつの行為が悪いことになっちまうのは俺達としても不本意だ。だからこそ、俺達はあいつのためにもあいつの死を乗り越えて先を見ていかなきゃいけないんだ」


 その言葉に刀弥はなるほどとばかりに頷く。

 彼はその言葉に込められた思いをその意志をしっかりと感じ取ったのだ。


「さあ、話は終わりだ。俺達だってもうクタクタなんだ。後はゆっくり休ませてくれ」

「ありがとうございました」


 刀弥がそうお礼を言うと彼等は手を振り歩くペースを上げ始める。


「私達も少しペースをあげようか」

「そうだな」


 疲れているのは刀弥達も同じだ。そのため、刀弥もリアも彼等に習って速度を上げることにした。

 そうしてしばらくすると彼等は街へと辿り着く。だが、これで街に平和が戻ったわけではない。何故なら街にいた彼等以外の人間は避難しており、そんな彼等を呼び戻す必要があるからだ。当然、大移動であるので時間が掛かるし、それ以外にもしなければならないことはたくさんある。

 そういうわけで街に戻ってからもしばらくの間は騒がしさは続き、結局夜本来の静けさを取り戻したのは日の出もうじき見えようかというぐらいのタイミングになってからであった。当然だが、部外者である刀弥やリアは街に帰る着くなり床についたのは言うまでもない。

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